- Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121024657
作品紹介・あらすじ
310万人に及ぶ犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推算される。本書は「兵士の目線・立ち位置」から、特に敗色濃厚になった時期以降のアジア・太平洋戦争の実態を追う。異常に高率の餓死、30万人を超えた海没死、戦場での自殺・「処置」、特攻、劣悪化していく補充兵、靴に鮫皮まで使用した物資欠乏……。勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験をせざるを得なかった現実を描く。
感想・レビュー・書評
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先の大戦では310万人もの人が亡くなった。その9割以上が1944年以降に亡くなったそうだ。中でも餓死や自殺が大変多かったということに驚いた。
飢えだけでなく、覚醒剤中毒、虫歯、水虫などに苦しんだ様子も詳しく書かれていた。
近頃、日本軍は強かった、凄かったと礼賛する内容の話を聞いたりしたが、そんなことはなく、しっかりと負けを認め、総括することが大切だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ここ20年くらい前から日本近代史学界では「兵士の視点・体験」からの戦争史・軍事史研究が盛んだが、本書は1941~45年のアジア・太平洋戦争に焦点を絞った、そうした研究動向の現時点におけるコンパクトなダイジェストといえる。餓死、自殺、他殺、薬物中毒、精神疾患、感染症、私的制裁、略奪、人肉食といった極限状況における日本軍兵士の「死と病理」を生々しい記録・証言によって明らかにしている。単に兵士の悲惨な実情を示すのみならず、その構造的原因を経済・文化的背景を含めて分析することで、立体的な歴史像を構築している。注意するべきは、いわゆる「後知恵」的な批判・裁断は極力行わず、批判するにしても同時代人の軍人・軍関係者の直接の言葉をもって行っていることで、「当時の感覚」としても問題が意識化されていたことがわかるような叙述になっていることであろう。近年の根拠のない「日本軍礼賛」「日本人自画自賛」風潮への批判意識は明瞭だが、そうした先入観なく「事実」をありのままに知らしめるための工夫といえる。
なお個人的には、本書で示される日本軍の構造・特質がどうしても現在の日本企業と重なって仕方なかったことを付言しておく。過労死・過労自殺が恒常化している劣悪な職場環境や、「自己責任」の名の下で次々と弱者に抑圧が移譲される状況、作戦至上主義ならぬ成果至上主義による人間性の荒廃、問題を根本的に改めず精神主義的な対応に終始する国家の対応など、あまりにも相似している。改めて「戦前と戦後の連続性」を深刻に捉える必要を感じた。 -
アジア・太平洋戦争を対象に「凄惨な戦場の実相、兵士たちが直面した過酷な現実に少しでもせま」ることをコンセプトとしている。その他には「戦後歴史学を問い直す」「帝国陸海軍の軍事的特性との関連性を明らかにする」こともテーマにしている。第一章が主に兵士たちの死因を、第二章は兵士の心身の状態、第三章では戦争末期の無残な状況を招いた背景について、それぞれ主に扱っている。一、二章ではまさに兵士たちから見る戦争の実態を羅列し、三章はこれまでの記述をもとに戦争全体を見渡すスタンスに立つ。
もっとも印象的だった二点のうちの一つ目は、補給の軽視もあって深刻な食糧不足が数多くの餓死者や栄養失調による戦病死者を出す最大の要因となったことである。戦争末期においては兵士だけにとどまらず日本人のほとんどがろくに食うものも食えない状況で戦争の継続は不可能だったことは明らかだ。二点目は、国内の戦没者の大部分が1944年以降に亡くなっていたこと。この二点を併せれば、遅くとも「第四期」とされる1944年8月以降の「絶望的抗戦期」初期に敗北を受け容れていればと思わずにはいられない。そのほか、本書の記述からは政権や軍部だけではなく、昭和天皇も明らかに戦争指導者のひとりであったことや、国内の括りを外せば最大の被害者が中国であったという事実も見過ごせない。
兵士の立場に立って戦争の実態を顧みるという試みは、本書のタイトルやまえがきなどに謳われているとおり、その目的が果たされている。当時の悲惨な状況を追認することができると同時に、ある程度は本書が扱う戦争に関する書籍や映像などに触れたことのある読者ならば、そこまで目新しい情報というわけではないだろう。その点では、広い視野に立って敗戦の理由を探る第三章にある考察も基本的にはオーソドックスなものだとは思う。終盤に著者が示す失敗の根本原因については一理あるものの、それが解消されているはずの現在の日本において同様の失敗が起こりえないのだろうかと自問すると、それが的確な指摘なのかいまひとつ納得できずに終わった。
終盤の記述から察するに、ときには歴史修正主義的な意味合いも含む昨今の「日本スゴイ」ブームが表すような風潮への危機感も、著者の動機だったのかもしれない。 -
文化を外国人にほめてもらう、海外での日本人の活躍ぶりを紹介するメディアが増えている中、このタイトルの本を読んでみようと思ったのは日本軍兵士の勇ましさエピソードに期待したから。筆者はそういう人こそ日本軍兵士の凄惨な現実を直視する必要があると思ってこの本を書いたそう。
この本はアジア・太平洋戦争で日本が敗戦濃厚となってからの兵士の健康・疫病問題や、軍が思想や指導のあり方で現場にどのような負荷をかけてきたかを多くのデータと手記を交えて説明したもの。
日本の戦没者の多くが敗戦濃厚となった1944.8-1945.8に集中しているそう。要因も餓死を中心にした病気によるものが多く、海没、自殺や傷病兵の殺害など、戦死でないものが多い。
兵士の平均体重も装備の質も軍紀もみるみる落ちていく様が示される。
それらの要因となった歴史的背景も思想や政府といった目線から解説してくれる。
学ぶことが多かったんだけど、下の階級の兵士が文献として日本軍の問題点を多く残していることに1番驚いた。下が問題を認識しているのに上は解決しようと動かないのは現代でもよくあること。
戦争がらみの本の中には固有名詞や専門用語が多く、読んでられないものが多い中、この本はめちゃくちゃ読みやすい。だいたいの章の最後に一言結論を書いてくれるのも頭の中がまとまっていい。おすすめ。 -
2019年新書大賞受賞作。
先の大戦を題材とした書籍は星の数ほどあるが、膨大な史料を分析して、兵士という目線で当時の日本軍の実相が描かれているのが本書の大きな特徴だ。新書らしくわかりやすくコンパクトにまとまっている。
一口に戦死といっても、餓死、海没死、発狂死、処置という名の傷病兵殺害、兵士による人肉食、肉攻、私的制裁、私闘など。
戦争ほど悲惨なものはない。改めて痛感。
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著者は、戦争を賛美する風潮に反発したことや、兵士たちの手記を読むことで、この悲惨な記憶を風化させてはならないと思ったことからこの本を書いたようである。
実際、悲惨の一言に尽きる。日本軍は近代化に失敗した軍隊で、虫歯や栄養失調で弱った身体にマラリヤなどの病気が蔓延し、戦死と言えないような死に方をした兵士も多かった。また、戦争末期にはまともな装備も与えられず訓練もろくに出来ていない老年や少年たちが招集されている。
通信機器が遅れていて有線にこだわった為、結局は徒歩の伝令や伝書鳩に頼ることになったとか、日本製の機械や自動車が未熟で、末期にはものすごい重さの荷物を背負って運ぶことになった為、効率が悪かったとか、日本軍あるあるが沢山書かれていて、兵隊はつらいなぁ、と感じた。
弱いものいじめが横行した為、自殺者や敵軍に走る兵士が出てきたなども、全体を見る人が足りなかったからか、と思った。
これでもか、と書かれた日本軍の有様を読むと、戦争は絶対にしてはいけないと痛感する。日本人として読む価値はある。
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「兵士の七〜八割に虫歯や歯槽膿漏」、「人員不足のため前線の野戦病院に歯科医が配属されることはなかった」これが、日中戦争〜太平洋戦争を戦った日本軍兵士の実態であった。この例一つを取ってみても、当時の日本はとても戦争などやれる状況にはなかったということである。
何より、その根本に兵士の命を第一に考えるという発想がない。それは、現在の行政府が国民の生活を第一に考えていないということにも脈々と繋がっている。 -
日本軍がアジア・太平洋戦争にて劣勢に立たされていく状況を、病気や体力などあらゆる面から解き明かしている。
当時の過酷な有様がデータでこれでもか、と示されており、切なくなる。いわゆる特攻隊として人命を犠牲にしてほど続けたい戦いだったのだろうか?
なぜ政府はそうまでして戦争を続けようとしていたのか、と考えると、日本という国が失われることが怖かったのだろうか?
もしそうだとしたら、日本という国を守ろうと戦った当時の人達に敬意を表すと同時に、もっと戦争時代の日本政府の思惑や国民心理を知りたくなった。 -
私の祖父はフィリピンへの輸送船で戦死した。あと3週間頑張れば戦争は終わったのに。でも、果たしてそうなのか。上手く島に着いても、酷い飢えと病気が待っていた。凄惨な状況、酷い装備、そしてただ精神論のみの挙句、部下を死に追いやる軍上層部。とりあえず日本人は、戦争に向いていない。そう強く感じた一冊です。