落下傘学長奮闘記: 大学法人化の現場から (中公新書ラクレ 310)
- 中央公論新社 (2009年3月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121503107
感想・レビュー・書評
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2010 3/31読了。研究室にあった。
タイトルは「落下傘学長奮闘記」であるが、中身は副題の「大学法人化の現場から」をメインタイトルにすべきもの(もっとも、覚えやすさと購買意欲を考えればこの構成が正しい気もする)。
国大法人化後しか知らない一研究者志望には法人化前後の変化、法人化の良かった面と様々な問題点が具体的に感じられる良書だと思った。
特に附属病院の問題は知らないことが多く参考になる(そういえば筑波大の学長も元附属病院長であったなあ・・・)。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
(〜20090607読了)
・競争原理主義、市場中心主義をそのまま大学が受け入れたら、長い目で見た場合、学問は衰退し、わが国の将来は危機に陥るであろう。P5
・経済財政諮問会議などからは、遠山プランは全く実施されていないという声が聞こえてくるが、それは事実と違う。国立大学関係者は、遠山プランに真剣に取り組み、相当レベルの目標は達成していると、その渦中にあった一人として信じている。P41
・この通速報にしたがって国立大学を法人化すると、学長の任命権、目標設定は文部大臣の専決事項となり、学問の自由、大学の自由性などは保持できなくなる恐れがある。P46
・法人化後、学長は、実質的に大学の将来を決定する重要なポジションになった。学内政治、学部の規模に左右されやすい投票という方法ではなく、法人法ににしたがい、外部委員会を府くる選考委員会が責任をもって選ぶ方法にすべきであろう。P67
・法人化は、国立大学の歴史が経験した事がないような大改革であった。国立大学は文科省の一地方組織ではなく、独立した組織として、学長と役員会が最終責任を負って運営する企業型組織となった。P95
・参考「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」山田真哉、「社会的共通資本」宇沢弘文。P122
・国立大学法人化は、教育改革といううたい文句であったが、実の所は行政改革であり、財政改革であった。なぜ、教育にお金を出さなければならないのか。国立大学を廃止し、私立にしてもよいのではないか。突き詰めて考えると分からなくなる。P125
・文化的で豊かな生活、魅力ある社会を持続させる為に必要なのは、「社会的共通資本であるという。そえrは、資本主義経済においても、私的に管理運営される私的資本とは異なり、社会全体の共通の資産として、社会的に管理運営されるべきものである。社会的共通資本には大きく自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の3つのカテゴリに分けることができる。制度資本の中でも社会にとって最も重要なのは教育と医療であり、市場的基準を無批判に適用して競争的原理を導入」する事を宇沢弘文は戒めている。P124
・本屋で「上司は思いつきでものを言う」という本をみつけ読んだが、分かったのは「編集者は思いつきでタイトルをつける」ということだけだった。P127
・法人化前、国立大学は、何をしている所なのか、外から見えなかったし、見せる必要を感じた人もいなかった。これから大学が社会と共に生きていく為には、個性化と並んで、「見える化」も大事である。P158
・「教育に軸足を置く」など、考えてみれば、教育機関として当たり前のことではあるが、教員の中には、教育よりも「研究に軸足を置く」人が少なくないし、「研究大学」と思っている人もいた。P161
・学生憲章P167
?本をたくさん読み、学んでいく上での土壌を作ろう。
?文学と芸術を愛し、人間と自然への理解を深めよう。
?専門職業人として、高度な専門知識を身に付けよう。
?自分の考えを論理的な文章にまとめ、発表できるようにしよう。
?国際語である英語をマスターし、十分に意思疎通できる実力をつけよう。
?IT技術により、正しい情報の受信と発信が出来るようにしよう。
?長い人生を生きるための体力をつけ、健康を守ろう。
・学生の質を維持するためには、どうしても2倍以上の入学倍率を維持する必要があるが、私立大学では既に40%の大学で定員割れをしている(2006年)。P169
・問題は工学部の学生の英語力が低い事。工学部の教員にいわせると、工学教育にとって一番大事なのは数学と物理であり、英語は入学してからでも十分身につけられるというが、グローバル化した今、企業の第一線では英語なしに何も進まないはず。P189
・私は、禁煙宣言は憲法第九条のようなものだと思っている。たとえ、かくれ軍隊である自衛隊がいたとしても憲法第九条があるから抑制がかかっているのだ。P206
・教育と研究は、経営と対立するもの(VS)でもなければ、どちらか(OR)でもない。経営の基盤の上に教育と研究が成り立つのであり、両社を両立(AND)させなければならない、と述べた。さらに、経営とは、「限られた資源を効率的に用い、中長期的に成果を上げる事」であることを追加した。P236
・学長になって最初に驚いたのは、事務局の人たち、特に文科省から派遣されてくる局長と部長が学内で圧倒的な力を持っているということ。P244
・「役人学三則」末弘厳太郎。およそ役人たらんとするものは、万事につきなるべき広くかつ浅き理解を得る事に努むべく、特殊の事柄に特別の興味をいだきてこれに注意を集中するがごときことなきを要す。P258
・学問を発展させるためには、「選択と集中」が必要な局面があることは十分に理解しているが、それだけが、教育と研究のための政策であるかのような大合唱には、異を唱えざるを得ない。P308
・参考「DNA二重らせん」ワトソン、クリック、「沈黙の春」レイチェル・カーソン、「知的好奇心」朝永振一朗、「博士の愛した数式」小川洋子、「論理と情緒」藤原正彦、「科学と文学」寺田寅彦、「武士道」新渡戸稲造、「青春とは」サムエル・ウルマン、「不都合な真実」アル・ゴア、「作家を希望する人への忠告」開高健、「洪庵のたいまつ」司馬遼太郎、「空気の研究」山本七平、「夢をつかむ イチロー262のメッセージ」、「成人の日に」谷川俊太郎。P316
・どんな組織でも管理運営の責任者はストレスから免れることはできない。とすればストレスと上手につきあう方法を考えなければならない。P326
・リーダーシップとは与えられるものではなく、獲得するもの。P344 -
岐阜大の学長を7年間務められた黒木先生の仕事をまとめた本。大学運営の難しさを垣間見る。
地方国立大の話ではあるが、私立大にも当てはまる点が多い。
レベルは違えど、透明性の確保、教職連携などは今後の課題になるだろう。
また、省庁、特に財務省への働きかけがとても重要ということが再認識される。
運営費交付金1%削減が大きな問題になっている。
大学においてもこれまで無駄なところも多かっただろうから、それを改善する必要はある。
しかし、恒常的な予算自体はしっかり確保しておいてもらわないと、現場はどんどん疲弊していくことになるだろう。