寡黙な死骸みだらな弔い (中公文庫 お 51-2)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • / ISBN・EAN: 9784122041783

感想・レビュー・書評

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  • 綺麗で透明な毒を持つ物語です。
    本来、毒とは浄化するべきものなのかもしれません。危険な毒は人々に死を与えることもありますから。それでも真っ白で純粋なものだけが尊ばれ大切にされる世界の中で、毒は滅びることなく人々の心の中でひっそりと息づいているのです。
    運命の鎖で繋がれたような短編集でした。
    それぞれの物語の中に一粒の毒の種が埋め込まれ、その種が芽を出し花を咲かせ、また種を落とす……そうやって毒の連鎖が連なっていきました。
    小川洋子さんの作品には、硝子の欠片のような冷たくて美しい毒が、静寂な文脈の間に潜んでいます。この毒はいつの間にか、物語の中から弦を伸ばし読者の心に甘い蜜を垂らしていきます。そうして魅惑的な毒の虜になってしまったら最後、小川洋子さんの紡ぐ物語から離れることが出来なくなるのです。

  • ひとつの単語でおわらせない。細分化して、美しい文章にして、うっとりする。残酷なこと残忍な事を美しく表現するから妙にぞくぞくする。

  • みんな静かに狂って、私も少しずつ狂っていった。

    乗り物酔いなのか、文字酔いなのか、奇妙さからの目眩なのか、頭がぐるぐるぐるぐるして、もうなんだかわからなかったけど、頁を捲るたびに私の中で何かが擦り減っていって、同時に何かが膨れていった。すごいな、と思う。言葉でこんなに冷たい気持ちにさせられるなんて。ぐちゃぐちゃにしてぽいっと突き放された感じ。でも、全然嫌じゃない。

  • S図書館 1998年
    11作の連作短編集

    《感想》
    小川氏独特の世界観で、全体的に怖い話なのだが、人物や物などが伏線のように繋がっていることで、深みができ、とても面白かった

    また、この小説の内容なのか、登場人物が書いている小説なのかの線引きが曖昧で、その点もよかった

    主な登場人物はまともでない行動が多い
    ある人は、死んだ息子のために買ったケーキを、カビがはえてもそのままにして、捨てろの言葉に怒り、夫に投げつける
    ある人は、自分の欲求が満たされないと、殺すことも厭わない
    このような質感、匂い等が漂い、残酷で後味が悪い
    それなのに美しさをはらんでいる
    とても魅力的だった

    小川作品の表現が秀逸すぎて、他の作品では物足りなくなってきている
    これは知らないうちに、小川作品の題材に多くある「取り込まれて」しまったのか笑
    連続して読まない方がいいかも
    (しかしまとめて借りてしまった…)

  • タイトルがまず美しくて不穏で大好き。小川さんの物語を眠る前に読んでいるとなんだか素敵な夜を過ごしている気分になれる。

  • 連作短編集なのですが、
    タイトルからも想像されるように、
    全体を通して常に不穏な空気が漂っています。
    でも、単に忌まわしいばかりでなく、
    そこに悲哀のようなものも感じられます。
    生きるということは、
    つらく悲しいことの方が
    圧倒的に多いということを知っているから、
    境遇は違っても
    それぞれのお話に共感できるのでしょうね。




    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • 【歪んだ一本道を逆立ちしながら戻る】

    新年明けて1冊目は小川洋子さんの本にしようと決めていた。

    小川さんの作品は真冬、日陰で凍りついたままでいつまでも溶けない水溜まりのようだ。踏みつけて綺麗に割ることも出来ない。泥だらけで美しくもない、だけど気になってしまう。靴先を入れたくなる。見逃せない。そして、気づくと消えてしまう。

    2019年はまた、本を読める1年にする。小川洋子さんの作品もたくさん読んでいきたい。

  • 全ての話がつながっているオムニバス形式の短編小説。
    短編小説は次の小説に行くまで、ちょっとめんどくさいなーとなりがちだが全てつながっているので、次はどんな繋がりがあるんだろう?とワクワクしながら読めた。

    私は眠の精が一番好きだった。穏やかで、優しくてとっても切ない物語だった。

    やはり小川洋子の文学は婉曲表現が多くてとっても楽しい。感情を描写で表すのが上手い。私では到底思い付かない表現が沢山あって常に新たな発見だ。

  • 「トマトと満月」が一番好きだった
    と言ってもほとんどが繋がっているので何とも言えませんが

    個人的には小説家の女の人が興味深かったです
    連れ子と2年過ごし、老婆のアパート?で暮らし
    「キリンの首が長いのが理不尽」という話は、本当はどっちが言ったのか
    不思議に絡み合う面白い本だった

  • 短編集が一つ一つどこかのお話と繋がっているので、伏線が散りばめられていて読んでいてとても面白いけど、読み終わったあとはただひたすらに気持ち悪さが残る1冊です。

    書いてある言葉の一言一言に重みがあると感じました。

  • 2021年8冊目

    死にまつわる短編集。全体的に陰鬱な雰囲気だが「殺す」、「泣く」という行為はとてもエネルギッシュで自分よりもずっと生き生きしてます。

    ・洋菓子屋の午後
    「私は無惨な死に方をした子供の記事を集めるようになった。家に帰ると私はそれらの記事を声に出して読んだ。

    哀しみがどんな風に訪れて、涙がどんなふうにこぼれるか、私はよく知っていた。」

    ・果汁
    本作で一番さわやか。キウイは生の比喩。

    ・老婆J

    最後の一文に鳥肌。

    ・眠りの精

    寂しい女。老婆Jの関連。

    ・白衣

    不倫相手をめった刺しなんて昼ドラ的題材は微妙ですがこれも小川流に仕上げている。
    「ポケットから舌がでてきた。言い訳ばかりする舌だ。」

    ・心臓の仮縫い

    鞄に捕らわれた職人。飼ってたハムスターの描写がよかった。
    「ハムスターが死にました。三年と八ヶ月、一緒に暮らしました。私は彼を専用のポシェットへ入れました。歩き疲れてハンバーガーショップへ入りました。ハンバーガーもフライドポテトも、半分以上残してしまいました。ごみ箱へ残飯を捨てる時、一緒にハムスターを捨てました。今頃私のハムスターは、ケチャップにまみれているでしょう。」

    ・拷問博物館へようこそ

    ・ギプスを売る人

    ・ベンガル虎の臨終

    「裸で抱き合う彼らの姿には動揺しないのに、学会の名前くらいで嫉妬するなんてばかげていると、よく分かっていた。しかしどうすることもできなかった。いつでも嫉妬は、思いも寄らないすき間からぬっと姿をあらわし、私を苦しめるのだ。」

    ・トマトと満月

    ・毒草
    「彼の触れてくれたところから、どんどん過去に戻っている。皺も消えているし、震えもしない、なぜだろう。これなら鉛筆が持てる。また油絵が描ける。彼のペニスを愛撫することもできる。」

    「私の死骸だ。こんな窮屈な暗い場所で、毒草を食べて、誰にも看取られずに私は死んでいたのだ。冷蔵庫の前にしゃがみ、私は声を上げて泣いた。死んだ自分のために泣いた。」

  • 死の香りのする連作短編集。
    連作だということを最初は知らないで読み始め、2作目3作目と続く中で見覚えのある単語を目にしてやっと気がついた。
    人々の欲望や狂気までもがあまりにも静謐に描かれていてふとした瞬間に泣きそうになる。明らかに狂っていて現実とは遠いようなのに、どこかこの世界と繋がっている。まるで水彩画のように静かで儚い。
    小川洋子の硬質な文章が好きだ。
    人間の奥底の感情までも描いているはずなのに、恐ろしく冷たく無慈悲に物語は進行していく。それがより一層儚くて、苦しいほど美しくて。

  • 死とそれに付随する何かについての11の短編は、それぞれが密やかに繋がっている。
    2つ目の話を読んだときにそれに気がつき、次を読むときからはより注意深く読むようになった。そのつながり方は、昔、上野動物園で見たマレーグマくらいに控えめで謙虚なため、そっと読まないと見失ってしまいそうだからだ。

    それぞれの話に出てくる死は、とても美しい。
    死を美しいと感じるなんて、現実的じゃないとわたしは思う。タイトルに「死体」ではなく「死骸」という言葉を使ったのは、読んでいる人に肉体という物質を感じさせないためなのかもしれない。
    肉は腐敗し周りを穢していくが、
    骨は白く乾いてゆくように。

    『果汁』というタイトルの話は、村上春樹の『ノルウェイの森』を彷彿とさせた。
    「こんなこと、あなたに頼むべき筋合いじゃないって、よく分かってるのよ」
    筋合いという単語。
    駅まで来ても電車に乗ろうとせず、ただずんずんと歩く彼女。斜め後ろからその姿を見つめる僕。
    ストレートの髪とその間から見える耳。

    この本で度々流される涙は、わたしたちが日常に流すそれとはまるで違う物質のようだ。
    激しい憤りも、胸が張り裂けるような慟哭も、息をつくことさえ出来ない嗚咽も伴わない。
    ただたださらさらと流れる透明な液体。
    そういう哀しみがどんなふうに訪れて、涙がどんなふうにこぼれるか、まだ私は知らないのかもしれない。

  • 永遠に続かない弔いの一瞬だからこそ、
    儚くて狂気的なほど美しい。
    傷つけられたはずなのに、ゆっくりじっくり少しずつ彼を傷つけたいという願望。
    自分の手の中にあるものが壊れていく様に感じる喜び。
    それは矛盾しているけど、絶対に叶うことのない永遠を求めているのかもしれない。
    少しずつ、微妙に、曖昧に繋がる連作短編。
    現実感のない狂った世界と生活感の溢れる日常が入り乱れる不安定さがより儚さを感じさせた。

  • 小川洋子さんの作品が好きで恐らくエッセイ以外は全部読んだが、ああこれだ、と1番すとんと落ちる一冊になった。
    連作短編集だと知らずに読んだが、連なり方がなんと表現していいかわからないがとても美しいと思いました。

    いくつかの単語や人物が一編一編に出てきて繋がりがわかりやすく、ワクワクするし更には物語に入り込みやすいと思う。
    一つ一つの表現が美しく情景を想像したくなる文章が本当に素敵です。美しさだけではなく、紙一重の顔をしかめてしまいそうなグロテスクな部分も含めて。

    中でも1番好きな表現が、"トマトと満月"中の『言葉の底にひんやりとしたさざ波が立っているような物語だった。それはひとときも休むことなく、さわさわと僕の胸を侵した。』という一節で、つい言葉の底ってなんだろうと想像してしまった。

    きっと何度も読み返す一冊になると思う。

  • ホラーよりもそこはかとない狂気の方がおそろしい

  • ページをめくるごとに、甘いような腐ったような香りが鼻をかすめる本。
    内容に合っていて忘れ難くて美しい、素敵なタイトルだと思います。

    短編集で、印象に残ったのは「心臓の仮縫い」です。
    「白衣」は分かりやすい話ですが、この雰囲気がとても好き。
    「洋菓子屋の午後」の描写がすごい…たぶん作家が見せたかった景色そのままを、わたしは見ていたと思う。

  • 冷蔵庫で亡くなった子供、身体の外に心臓がある女、拷問器具の博物館etc...の不思議な短編集。それぞれの話は少しずつリンクしてて、それがまた混乱させる。
    小川洋子さんの短編集としては今のところ一番好きかも。

  • うーん、好き。
    って、まず一言。

    小川洋子さんの小説は、現実と非現実を行き来しているような、不思議な気分にさせてくれるものが多いように思う。
    おかしな世界なのに、すぐそこにあるような。
    文章の透明度の高さも、好きであるかなり大きな一因。

    必ず何らかの“死”が絡み、様々なかたちの“弔い”が描かれた短編集。
    過去の死であったり、現在の死であったり。不慮の事故での死であったり、自然死であったり、殺人であったり。
    そしてこの短編集のおもしろいところは、時系列や順番は関係なく、どれかの物語がどれかの物語と不可思議に繋がっているところ。順番通りのものもあれば、忘れた頃にだいぶ前の物語と繋がったりもして、その繋がり方に感嘆。

    美しきシンガーに心臓を入れる鞄を依頼された鞄屋のお話「心臓の仮縫い」と、ライターが取材先のホテルに滞在中、犬を連れた不思議な中年女性に翻弄される「トマトと満月」がとくに印象に残った。
    でも、全部好き。
    そして、冒頭の感想に戻る。笑

    こういう文章を書いてみたい。とも思う。
    静謐で美しく、浮世離れした感じ。

  • 題名がいいな~と思って手に取りました。
    しりとりみたいな短編集です。

    「ベンガル虎の臨終」までのお話はどれも気に入りましたが、特に「洋菓子屋の午後」、「老婆J」、「白衣」、「心臓の仮縫い」の4話が好きです。
    これは最初にこういう感じにしようと思って考えられたのでしょうか。
    お話の並びも重要だと思いますが、ちょうどいい具合に並んでいておお、そう繋がるのか、というちょっとした驚きというか発見が楽しめます。

    いくつか線を引いたり、栞を挟んだりしてぱっとめくった時に目に留めたい表現がありました。
    今まで何冊か小川さんの本を読みましたが、その中でもこの本はお気に入りになりました。
    死を描くのが上手い…というか私にあっている?作家さんだと思います。

    • 円軌道の外さん

      A(仮)さん、はじめまして!
      関西出身で東京在住、
      読書は勿論、映画と音楽と猫には目がないプロボクサーです。
      遅くなりましたがフォ...

      A(仮)さん、はじめまして!
      関西出身で東京在住、
      読書は勿論、映画と音楽と猫には目がないプロボクサーです。
      遅くなりましたがフォローありがとうございました(^o^)

      僕も小川洋子さんの作品大好きで、
      A(仮)さんの言う
      『死を描くのが上手い』って分かります!

      どの作品にも死の匂いが漂ってるし、
      どこかエロチックで官能的で、
      そしてグロさを描いても、 
      決して知性や品性を損なわない美しい文体も
      クセになる中毒性を有してますよね。

      それにしても、 A(仮)さんのレビュー読ませてもらって
      その独特で鋭い観察眼と感性に惹きつけられました。
      またオススメありましたら
      教えていただけると嬉しいです(笑)

      ではでは、これからも末永くよろしくお願いします!

      あっ、コメントや花丸ポチいただければ
      必ずお返しに伺います。
      (仕事の都合によってかなり遅くなったりもしますが…汗)



      2015/04/13
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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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