スカイ・クロラ (中公文庫 も 25-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122044289

感想・レビュー・書評

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  • 死を内包した物語。

    飛行機は、そもそも死を内包した乗り物である。
    それが戦闘機とくれば、死はますますあからさまになる。
    その飛行機乗りとして子どもを乗せる。
    それがスカイ・クロラの物語の世界である。

    空のシーンとした静けさを感じさせるような文章。
    淡々とかすな息遣いで語られる物語。

    主人公の僕“カンナミ”は草薙水素という女性の上司のもとに赴任する。
    ともに大人になるのを拒否したキルドレ。
    出会いから、恋愛めいた空気がかすかにたちこめる。
    しかし、それは、実は。
    僕は優秀なパイロット。
    注意深く、手順を踏まえて、敵を撃つ。

    物語は飛行シーンと地上シーンとで
    異なる空気感を醸す。
    飛行シーンは精密なマシーンのようにマニアックで静謐な孤独。
    地上シーンは人との関わりの中での孤独。

    キルドレは孤独。
    コクピットも孤独。
    群衆も孤独。

    「理解しようとするほど、遠くなる。
    どうしてかっていうと、理解されることが、僕らは嫌なんだ」

    「死にたいと思ったことがある?」
    「だから、しょっちゅう」

    「電話のベルが鳴ったり、止んだりするみたいなものなんだ」

    「鳴りっぱなしじゃ煩いし、鳴らなかったら、
     電話がどこにあるのか、みんな忘れてしまう」

    そして、キルドレのもう一つの志向は死。

    物語はラストへ静かに加速する。
    フルスロットルで上昇する飛行機のように。

    森博嗣の小説は理科系ミステリーという
    新境地を拓いた。

    理科系の段階的思考を果てしなく積み重ねて。
    あるいは仮説の構築をいくつも繰り返して。
    それらは頭脳の中で。
    そして、熱の少ない、静かな文章を紡ぐ。
    ラストまで一気に。

    静けさ。科学の果てのリリカル。
    それは宇宙飛行士が地球上に戻って見る
    宗教的境地にも似ている。

    このスカイ・クロラは
    空を飛ぶ物語。
    その文章はリリカルで地表を離れて浮遊している。

    カンナミは空を飛んで
    敵を撃ち落とし
    仲間とかすかに触れ合い
    草薙という上司と対峙する。
    永遠は一瞬。
    永遠に大人にならないこと。
    永遠は死。
    大人にならない子どもは
    だから、空を飛ぶ。

  • 虚構のようなフィクションでありながら、
    現実のノンフィクションなんじゃないか、
    とも思えてしまいます。区別がつかない。

    背景もわからず無為に日常を送る。
    意味なんか考えずに皆、無感情に。
    これってすごい怖いことなんじゃ…

    人は生まれて死んでいくという大筋は変えられないとしても、その間をできるだけ有意義にしたいとあがく。そう願う。そうしたいと思う。
    そんな気も起こさず、願うこともせず、決められた相手に、淡々と決められた行動をするしかない、永遠に生き続ける子供、空を這うもの。

    ———キルドレ

    操縦し、索敵し、照準し、追跡し、回避し、撃墜し、被弾し、墜落し、帰還し、飛翔し、飛散し、繰返し、忘却し、終始し、起伏し、唯心し、喪神し、霞みし、迷いし、憂いし、儚い死、短い詩。

  • 森博嗣さんの死生観が見られるのだと感じました。
    あくまでも私の感じたことです。
    まだまだ謎だらけです。

  • 2021/12/01 00:17
    うーん…喜嶋先生の話と同じように、一文一文が簡潔なので、どんどん読み進められる。そして、こちらはもう、最後は詩のようで。
    結局最後まで「子供」と言われているキンドレとはなんなのかよくわからなかったが、おそらく、戦死でなければ死んでも死んでも生き返ってくるのだろう。
    ナ・バ・テアという続編があるそうだから、それも読んでみたいなと思った。
    この作家にも、乙川さんのような、読んでて「ああ、良いなこの言い回し」と思える一文がある。次も出会えるかな。

  • 映画の原作ということでちょっと気をひかれたので、買ってみました。出張のお伴、2冊目。
    (1冊目は「神様からひと言」荻原浩、3,4,5冊目は「グミ・チョコ・パイン」大槻ケンヂです)

    内容はまぁ、それほどわるくもないし、話のひっぱりかたもそれほど嫌味じゃない。飽きずに読めました。
    でもなー、カタカナ語を「伸ばさない」表記が、非常にイライラします。「カウンタ」「シャッタ」というような書き方ですね。IT関係の人の好きな表記法ですが、日常語までこれをやられると違和感があります。こういう人たちがお酒を飲む場所は「バ」なんでしょうか。(「バー」ではなく・・・)
    そうそう、意地悪を言うようですが、一生懸命そうやって書いているわりに、「ラダー」(飛行機の方向舵)は「ラダー」なのでした。ふふん。それもちゃんと「ラダ」にしないとおかしいんじゃないの!?
    というわけで、内容よりも表記法にいらだったので、星3つにします・・・。映画を先に見ればよかったのかなぁ。

  • 読んだという記憶はあったけれど、驚くほど何もおぼえていなかった。読んだ事実が欲しいそういう読み方をしてしまっていたのかもしれない。あるいは自分の中の何かが以前と変わったのかもしれない。ただ今回はとても記憶に残る良い小説だったなと感じた。けれども、もしかしたらこの感想だけが後の記憶に残るのかもしれない。

  • 自分を高いところから見下ろしているような,そんな俯瞰的な視点で思考をする主人公。静かな物語と強い言葉。

  • 『スカイ・クロラ』再読3回目
    JKになってお小遣いアップした記念(?)で大人買いしたシリーズ。
    つぅ…とした感じで起伏があまりないストーリーが相変わらず心地よかった。
    確たる自己を持っていないのに周囲に合わせない主人公に魅力を感じてしまい読むにつれこんな人になりたいと毎度思う。

    2017.7.26(3回目)

  • 映画があったなー、くらいしか知らなかったのですがふとしたきっかけで読もうと思いました。
    なんですかこの世界観は。詳細に説明されるわけではないけれど、徐々に明らかになっていく状況と、真実と、一緒にほぐされていく物語。死ぬってなんだろう、と考えさせられる一冊です。

  • クールを通り越して空虚な少年少女がすがすがしく格好良かった。途切れ途切れで改行で空白の多い文章も良い。こういうのが鼻につく人もいるのも分かるけど、この軽さは無理やり引き伸ばしたからではないと思う。

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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