昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122053304

感想・レビュー・書評

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  • 再読。

    日本が日米開戦に向かっていた昭和16年、現実の世界とほぼ同時進行で一つの演習が行われていた。
    総力戦研究所に集められたエリート軍人、官僚、民間人チームが「模擬内閣」を作って行った演習では、日本の敗戦という結末が見えていた・・・・。

    現実世界の説明部分では、東条首相指名に至るいきさつについても詳しく書かれていたが、そこから見える東条英機というひとの印象は、わたしが今まで持っていた印象とはだいぶ違ったものだった。

  • 最近ブラウザーゲームの”艦隊これくしょん~艦これ~”にはまったおかげで(笑)
    もう一度読み返したくなったのだが本棚のどこにあるかも分からない状態だったので
    買い直して再読。
    この本を読む度に「当時の(極々一部とは言え)エリート達には日米戦の結末が分かっていたんだ、
    日本人全てが狂っていたわけではなかったんだ」と言う奇妙な?安心感を覚えます。
    当然の如くそれが分かっていながら何故・・・?と言う疑問にも突き当たりますが・・・。

    この本はとにかくタイトルが秀逸「昭和16年夏の敗戦」
    巻末の特別対談は何人もの方が指摘しておられるように蛇足ですね(笑)

  • 感想未記入、引用省略。

  • 戦争を知らない若い方に読んでほしいのはもちろんだが、組織の問題に焦点が当たっているため、会社の組織計画に携わっている方に強くおすすやしたい。間違っていると分かっていながら、組織全体がその間違った結論に行き着くまでのプロセスが書かれており、非常に参考になると思う。


    本書は昭和16年に設立された対米、英の総力戦(軍事、経済、思想等のあらゆる面の総合的な戦力の比較)を研究する、総力戦研究所に関する実話である。
    昭和16年12月の開戦前に、総力戦研究所の模擬内閣(総力戦研究所の学生である将来有望な者で組織されたシミュレーション用の内閣)において、「日本必敗」の結論が出されながら、なぜ戦争が開始されたのかが、日本政府の組織の問題を浮き彫りにして書かれている。
    綿密な取材の下に書かれており、戦争開始までの流れを具体的に想像できる良書である。

  •  昭和16年日米開戦の年、日本政府が官僚・軍人・民間の若手エリート育成のために創設した「総力戦研究所」という、学校のようなシンクタンクのような組織。そこでの研究では、仮想内閣ロールプレイによる戦争シミュレーションの結果、開戦前の昭和16年夏の時点で、「もし開戦したら日本必敗」という結論に達していた。にも関わらず現実では、政府はその結果を一顧だにせず無謀な戦争に突入していってしまったという実話をもとに、日本人の意思決定プロセスや組織体質の問題点を指摘した、小説のようなドキュメンタリー本。

    ■今の時代にどう活かすか
     敗戦までの経緯をほぼ正しく予想していた総力戦研究所とは対照的に、現実の政府・軍部は、
    (1)戦争したら負けると思っていても会議で本音を言えない「空気を読まざるを得ない雰囲気」
    (2)一度獲得した権益(中国進出)と更なる拡大欲求を途中で捨てることができない「サンクコストへの未練・呪縛」
    (3)組織間で対立しており、お互い協力せず、石油備蓄量などの情報開示すらしようとしない「セクショナリズム(縄張り・派閥主義)」
    などの日本人の悪い組織体質から、冷静な判断ができず開戦に突き進んでいく。

     軍部の要請を拒めなかった現実の日本政府の老人達よりも、「総力戦研究所」の方が正確な判断が出来たのは、以下のような点からだろう。
    (1)全員30代の若いメンバーであったこと、実業務でなく所属組織のしがらみも無かったことから、「柔軟な発想」が出来た
    (2)官・軍・民の出身組織の異なるエリート達がお互い刺激し合い、「総合的に何が日本国のために最善か」を考えることが出来た
    (3)各メンバーの所属官庁から正確なデータを持ち出すことができ、「数値に基づいた冷静な状況判断」が出来た

     今の時代でも、物事を決めるとき、ベテランだけだと狭い範囲内の議論しか出来ないのに対し、ゼロベースで考えることのできる柔軟な思考の若手や素人の方が良い結論が得られるということもある。
     あとがきに書かれた、この著作の最重要テーマは、「detailを積み重ねれば真実にたどり着く」ということ。我々は、現代日本の課題を扱う上でも、当時の政府の失敗を反面教師にして学ばなければならない。それこそが歴史という学問の最も大事な意義だと思う。

  • 二重の国家意思
    国務(政府)と、統帥(大本営)⇨軍部の独走

    軍部の独走と、東條英樹によって進められた戦争。 責任をそちらに集中させたが、国民全体に戦争回避の空気は無かった。 ⇨自分自身の戦争責任を拭う事。

  • 総力戦研究所は、状況を実証主義的な観点から分析し、模擬内閣を組閣してシミュレートした結果、戦争をすれば日本は必ず負けるという結論に達した。だが、その結論は政府上層部と軍部からは一瞥だにもされなかった。特徴的なのは、模擬内閣は日本国全体の状況を俯瞰的に見ていたのに対して、政府上層部と軍部は天皇のことしか考えていなかった事だ。彼らは日本国民の代表ではなく、ただ天皇の臣下であるのにすぎなかったのである。全体主義的な理念に対して実証主義的な論理が無力であるという主題は、M.ポランニーの『暗黙知の次元』と重なる。

    先の戦争については、日本人の意思決定や政治的資質の問題として語られるのが定番である。だが、そもそも経験科学的な知識や論理がどの程度政治プロセスに対して効力を発揮できるのか?という根本的な問いは余り建てられていない。結論はどうあれ、その根本的な問いから出発したポランニーは卓見だと思う。

    東条英機や統制側の軍部の人間たちのメンタリティは、中世であった。彼らは近代人ではなかった。大日本帝国憲法は、近代っぽい装いをした中世的統治機構だったのだ。中世的メンタリティの人々が近代の権化たるイギリスとアメリカに粉砕されるのは、仕方のないことであった。

    そうしてみると、山県有朋の死が、日本の中世の本当の終焉だったのかも知れない。山県以降の人間は、中世的機構の中で国家をコントロールすることができなくなっていたのだ。かれらが行ったのは中世の残務処理であり、その残務処理は何百万人もの日本人の死を引き起こしてしまったのである。

  • 大作かと思いきや文庫本一冊で収まっているので読みやすかった。ただ、原文の引用が割と多く、そこらへんはさらっと読み飛ばしてしまった。精読する元気がなかった。テンポはよくて読みやすい。あの戦争はなぜ起こったのかがテーマだが、今までほぼ東條ら幹部の責任と思っていたのが、実は東條は天皇の命で戦争回避にもっていきたかった事、政府と統帥部の二重権力状態で、結局政府が統帥部に押しきられた。東條はどうすることもできず、初めから戦争ありきの流れに流されるしかなかったということが新鮮だった。また、実際の結果をピタリと当てた総力戦研究所のメンバーはさすがだと思う。

  • 最後の対談にあった、“ディテールの積み重ねに真実がある”という言葉が印象深い。
    “何とかなるだろう”とか、“そういう空気ではない”と言ってごまかしても、真実は変わらない。

  • 国会で自民党の石破議員が薦めると言っていて興味を持った。太平洋戦争のシミュレーションが実際の経過と同じだったというのだが、模擬内閣の若手エリート達よりもむしろ出題側の追い込みの方が際だっていた。フィリピン近海でアメリカに挑発させたり、無理矢理対米開戦させたり、ソ連の参戦をほのめかしたり・・・。わかってたのか。 
    戦争が避けられなかった理由はいわゆる統帥権独立=国務と統帥に二元化された政治機構、となっているが、統帥部も必敗なら開戦しないわけで、厳しい戦いだけど何とかなると思ったいいかげんさこそが理由だと思う。日本人だからこの感じはなんとなくわかるけど。 
    本としてはどうも描き方が荒くて読みにくかった。若手エリートのひとり志村海軍少佐という人のセリフが印象深い。「勝つわけないだろ」「日本には大和魂があるが、アメリカにもヤンキー魂がある」

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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