ハーモニー (ハヤカワ文庫 JA イ 7-2)

著者 :
  • 早川書房
4.26
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本棚登録 : 8075
感想 : 1004
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310196

感想・レビュー・書評

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  • 21世紀後半、大災禍を生きのびた人類は社会の構成員一人一人の生命こそ社会にとって最も大切だということに気づく。人は成人すると体内から分子レベルで監視され、細胞の異常が見つかればすぐに修正され、街のデザインは精神衛生上良いもの、過激な映像はカットされ清潔かつ健全な「思いやり」のセカイとなっていた。
    一見幸福感に満ちたかのような社会に3人の少女…ミァハ、トアン、キアンは聡明で純粋な目で見せかけの優しい社会とその欺瞞に気づき、自分は自分だけのものだという思いから社会に衝撃を与えようと、ある企てをするが…

    ミステリーのような展開のため、普段あまりSFを読んでいなくても、ついつい先が気になり夢中になって読んでしまったが、十代の頃に読んでみたらきっと今以上に強い印象を受けたと思う。病気にならない、苦しみもいじめもない、死なない社会…死ねない社会…あらかじめ設計された「健全な世界」で生きて行くことが幸せなのか、心を持つ人間の生について、考えさせられる作品である。

  • これぞSF!考え込まれた設定と世界観。世界観にマッチした中2チックで特徴的な文章の使い回し!僕にとってすべてが斬新でした!他人の構想した世界に難なく入っていけるのがSFの醍醐味ですよね。特にその世界観が綿密に作り込まれていればいるほど良い!そういった意味では本作は非常に魅力的な作品だと思います。

    過度に発展された健康管理システムのためにあらゆる情報が開示される世界。それに対する年頃の羞恥心と管理されることに伴う不自由感から世界のシステムを嫌悪する主人公。
    突如発生する管理されている以上起こり得ない集団自殺事件。

    一見ありそうな設定だがとにかく世界観が美しすぎるため既視感も持たず読むことができました。ただラストの締めかたが個人的に物足りなかったです。少しあっさりしすぎかな。しかしコンパクトなページ数に収まっていることから全体で見れば綺麗にまとまってるのだと思います。もっとたくさんの作品を読んでみたいと思いましたが、この作者様が若くして亡くなっているということが非常に残念です。ご冥福をお祈りいたします。出版された本も少ないながらこの完成度には驚きです。SF好きなら是非読んでほしい一冊です!

  • 3.8くらい。
    途中まではすごく面白かったのになんだかオチが残念だった。題材や世界観、登場人物はすごくすき。queen、という呼び名もかっこいい。
    でもさいごが……せめてもうちょっとひっぱってもよかったのでは。

    • とうかさん
      すごくわかる…!
      途中までおもしろかったのに最後にむかうにつれ、あれあれって思う。
      世界はすごく魅力的なのにね…
      すごくわかる…!
      途中までおもしろかったのに最後にむかうにつれ、あれあれって思う。
      世界はすごく魅力的なのにね…
      2013/07/20
    • 睡さん
      やっぱり……!?なんだかせっかく面白い舞台なのにね、勿体ないよね!!
      やっぱり……!?なんだかせっかく面白い舞台なのにね、勿体ないよね!!
      2013/09/24
  • 生命が支配における最後の領域なんだということをこれだけのボリュームをもって展開できるのは、さすがだと思う。
    小説としても文体としても、前作の『虐殺器官』からはずいぶんうまくなったと感じた。
    ただ、後半を読む限り、思考実験の域を出られなかったという印象をぬぐえないというのが正直なところ。

    伊藤に関してはどうしてもその後の本人の生き様が頭をよぎるので、文章だけを切り離して評価しにくいところがあって、それはある意味では伊藤らしいのかもしれないとも思うのだがずいぶんやりにくい。

    個人的な好みをいうのであれば、生命を感じずに終末を迎える人間の恐怖というものがぜんぜん描かれていないのが不満だし、最後の章は蛇足だ。

    ただ、それが死を目前にした状況によってなされていることだと思うと、胸に迫るものがあるのも確かだ。

    書き換えるかもしれないが、今感想として出せるのはこのくらい。

  • 面白く素晴らしくて、でも、どう表現してよいのか困ってしまう。
    読めば解るから!と済ませてしまいたい。
    とにかくじっくりと読んで欲しい。否、世界観故にじっくりと読まざるを得ないかも。
    何度も言うけど、もう読めないのが惜しくて悔しくて仕方ない。

  • 若くして亡くなった伊藤計劃氏の事実上の遺作。

    直接的な言及は無いが、作中の時間的には氏のデビュー作である「虐殺器官」の後の時代を描いているとみられ、事実上の続編とも言える。

    世界的な大混乱「大災禍(メイルストローム)」で人口は激減し、壊滅的な打撃を受けた世界から既存の政治形態を持つ「政府」の機能はほぼ崩壊。

    健康こそが、最大の価値であり、生命の維持が社会の共有資産(リソース)であることが常識となっている社内。
    WatchMeと呼ばれる生体管理システムを体内に組み込み、「生府」と呼ばれる健康管理機能が統治の単位となる。

    国連の中でもWHOに当たる組織が最大の権力を持ち、医学が全ての産業の中心となる。

    人々はWatchMeやそれに依存する生活設計の様々なシステムにより、病気や苦痛を味わうことが殆ど無くなった。

    酒はもちろん、刺激物であるカフェインを含む珈琲ですら飲むことを憚られるような世界となった。

    霧慧トァン、御冷ミァハ、零下堂キアンはそんな世界を疑問に思う女子高生だが、とある事件で3人は死にかけ、ミァハだけが姿を消す。

    それから何年か経ってトァンはWHOの螺旋監察官となり、世界の紛争地帯の調停に当たっていたが、世界を揺るがす大事件に巻き込まれていく。



    ここでいう「ハーモニー」とは、皆が健康を維持し、親密であることを当たり前とする社会価値観が奇妙な社会的ハーモニーを生み出しているところに由来している。
    誰もがWatchMeが実現する健康システムに依存し、犯罪や病気の不安の無い生活を送っている。


    人類の全ての生活を統治し、管理するWatchMeや生府という考え方という意味では丁度今放送中のアニメ「PSYCHO PASS」のシビュラシステムに近いかもしれない。
    WatchMeは健康管理を外注化し、シビュラシステムは人々の犯罪傾向を外注化した。

    本来、人が自分自身の価値基準と責任感でやるべき事を、外部のシステムに依存させてしまう事が当たり前になった世界の違和感とそれがもたらす「自己の意思がどこまで何を判断すべきなのか」と言う事のあやふやさをどちらもうまく昇華して物語にしていると思う。

    本作品では最後、全く予想もしない結末を迎える。
    少し悲しい、そして色々と考えさせられる結末だった。

    作者の伊藤計劃氏はこの作品を発表して、まもなく亡くなってしまう。「虐殺器官」もそうだったが、彼の作品には常に「生と死」をリアルに、真剣に向き合っている事が分かる。

    限りある生に対して、彼のありったけの想いがこの作品に注ぎ込まれている。読み終わった後少し涙が出てきた。



    余談だが、この本を電子書籍版で読んだが、最初
    画面にいきなりXMLタグのような表示が出てきたので、
    「epubがデコードに失敗したのか?」
    と思ったが、そうではなかった。

    読みながら
    「何だかあちこちにXMLの属性タグみたいなのが入って読みにくい文章だなあ」
    と、思っていたのだが、実はこの表記ですら、ちゃんと意味があることが最後まで読むと分かる。XMLやHTML等のマークアップ記述言語の知識が無いと分かりづらいけど、この記述に意味があることが分かったときの衝撃はすごかった。

    この才能が既にこの世に居ないことが本当に残念。

  • 意識は、人間にとって生存上有利だから備わっているだけのもの。そして、そこには多少のバグが存在する。
    ここまでは同意できるけど、宗教に対する認識が少し違う。宗教って、人がそのバグを認識した上でうまく付き合うために作り出した道具立てだと僕は思ってる。ここでは、「宗教は個を認識するための機能」だと。ちなみに仏教は全く逆のとらえ方。一切皆空。どうも確信に迫り切れてない書きっぷり。
    ハーモニーと涅槃は似た境地かもしれない。それを外注するか内製化するかという違いは、確実にあるけど。

    著者は34歳の時に、この物語を書き、肺ガンで亡くなった。僕はいま同じ34歳。感慨深いものがある。

  • 純白のディストピア。
    綿密に練り込まれていて重厚なはずなのにどこかふわふわとファンタジーっぽいのはなぜなんだろう……

  • 命はすべからくかけがえのない社会的リソースという意識に支配された世界のお話。そのおぞましさは、慈母のファシズムって言葉に集約される。

    問題を矮小化すると、宿題をやれと言われてやるのと、やろうと思ってやるときの違いというか、例え良いことで、結果が同じでも、選択の余地のない道徳世界は私もいやだなあ。同じ理由でこの話の結末も受け入れ難い。

    が、プロットはシンプルかつスマートで、ラストまでのテンションも申し分ない。
    緻密な世界観を立ち上がらせ、それをある種の諦念に支配されたメランコリックな文体と無機質なコーディングが装飾する、骨太なSFだったなー。

    虐殺器官とどっちが好きかと言われると悩むけど、不気味さとか世界の描き方は虐殺器官の方が好きで、登場人物のトァンとかミァハとか、ネーミングがどうなんだと思わないではないけど、ハーモニーの方が主人公は魅力的だった。
    思いやりに満ちたパステルカラーの社会の中で、真っ赤な制服に身を包んだクールな元女の子。死んじゃった親友のコピーでしかないのかと思いきや、なかなか自分がある感じで最後の方はかっこ良かった。

    最初戸惑ったのだけど、クエスチョンマークが使われないのが独特だった。問いかけ文は「…」で締められていて、問いかけというより呟きみたいで、反響しない言葉による孤独さが際立つ。

    個人的に、全書籍図書館のルビが「ボルヘス」と振ってあるのにグッときた。

  • 故・伊藤計劃の長編第2作。「大災禍《ザ・メイルストロム》」という核兵器による大争乱を経て人口が半減し、生き残った人類の大半はWatchMeという健康管理ソフトを体内に入れて、すべての病気を駆逐することに成功した、というユートピア=ディストピアもの。丁度放映中の「Psycho-Pass」と内容がシンクロして面白かった。「ハーモニー」では人類の身体が常時監視されているが、「Psycho-Pass」では精神状態が常時監視されて、「犯罪係数」が上昇すると刑罰の対象になるという世界である。やはり、虚淵玄(「魔法少女まどか☆マギカ」「Psycho-Pass」脚本家)は伊藤計劃の影響をモロに受けているに違いない。「屍者の帝国」も早く読まなくちゃ。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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