ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫 JA イ 7-7)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311667

感想・レビュー・書評

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  • 人間が完全に争いをやめるためには、意識がなくならなければならない。しかし、そうなれば楽しさや喜び、悲しみや苦しみや痛みも感じることはできなくなってしまう。それは果たして幸せと呼べるのか?
    意識が完全になくなってしまった世界を想像するだけで、夜も眠れなくなります。

  • 欧州でAI規制法案が可決されたのをきっかけに再読しました!欧州では今後、『ハーモニー』の世界で行われているような、公的機関によるソーシャルスコアリングが禁止になります。「え、なんでダメなの?」と感じた方は、ぜひ『ハーモニー』を読むことをオススメします!この手の話題になると、ジョージ・オーウェルの『1984年』に登場するビッグ・ブラザーが引き合いに出されますが、「良かれと思って人権侵害」プロジェクトが頻発する日本では、一見ユートピア系ディストピア小説の方がリアリティあるかも。

    物語は21世紀後半、〈大災禍〉の混乱を乗り越えて、人々の健康と幸福を重視する社会が舞台。体にはWatchMeと呼ばれるデバイスを入れ、生体データを常時監視することで病気を未然に防止し、健康で倫理的な人物であることを、ソーシャルスコアリングで可視化する社会。そんな社会に絶望した主人公の物語です。

    著者の伊藤計劃氏はこの頃、癌の末期で、ずっと病院で執筆されたのだとか。そんな状況で「WatchMeで病気にならない世界に嫌気が差して、死を選ぼうとする主人公の話」を書くって、本当に、一体どんな気持ちで…。

    主題は監視社会うんぬんとは違うところにあり、そこも非常に魅力的ですが、欧州のGDPR、AI規制法に興味津々の自分にはすごく響く一作だと改めて感じました!『ハーモニー』の世界観、おそらく多分にナチス・ドイツを参考にして組み立てていると思うので、そこまでこじつけな感想でもないと…思います(笑)



    ちなみに、この部分、超好き♪


    “進化は継ぎ接ぎだ。(中略)進化なんて前向きな語は間違ったイメージを人々に与えやすい。人間は、いやすべての生き物は膨大なその場しのぎの集合体なのだ。”(P.325)

  • 意識が無いとはどういうことか?
    意識が無くなるとはどういうことか?
    そういった意識が芽生えた。

    健康で清潔で平等で不自由な世界で若者の自殺率が高くなるという矛盾、皮肉。誰もが統一的に幸福な世界では、思春期は大きな壁なのかもしれない。何かを「諦める」ことが大人への入り口なら、型にはめられない規格外は排除されるのがディストピアの基本姿勢なのに、それすら無い。まさに真綿で首を絞められる、優しさに行き詰まる世界感。

  • 伊藤計劃さんの虐殺器官が好きでこの本を読んだ。
    この本は風邪や病気などの身体の異常が人類にとって障害であることは驚かなかったが、この作品では意思すらも人類にとって障害で克服する対象となっておりとても驚いた。人にとって意思が障害になり得るという考えは自分にとって初めて知る考えだったため、知ることができて良かった。

  • いよいよ読んでみた。
    んんんん、凄いSF小説を
    虐殺器官の時に負けず劣らずカッコいい世界だった。
    ”大災禍”と呼ばれる核も用いられた大混乱の後の世界が舞台。
    ”WatchMe”により病気を自動治療され、精神面では数多のカウンセリング等が行われるという、死ぬまで健康でい続けられる世界。
    聞くだけなら正に天国のような世界のように感じるが、体に悪いという理由でお酒タバコが一切禁止されていたり、精神的外傷を与える危険があるという理由で映画という文化が無くなっていたり、お互いの安心の担保のために自分の数多の個人情報が相手に自動表示されるようになっていたり…なんとも不気味で不快な要素がたっぷり。
    そんな、実質強制的に「健康的で健全」であるということを強いられる世界に嫌気がさした3人の少女の物語でした。
    ↓以下ネタバレとなります

    ミァハが出した答え(合理的な答えに悩むくらいなら、意志=自我がいらない)が衝撃的すぎて、ウッとなった。
    それに対する主人公トァンの返しがまた、グッときた。
    そして、ただのアホだと思っていたキアンが、実はすごく友達想いで、一歩引いて二人を見守っていたのがまたグッときた。
    ユートピア設定みたいなちゃんとディストピア小説でした。
    全然上手く感想が書けないけど最高だった。
    多分今までのSF小説で1番好き。

  • とにかく面白い!旧版を読んでいましたが、いま読んでも新しい。フーコーやドゥルーズの「管理社会」をSF的に突き詰めた作品だなと当時感じました。

  • 病気がほとんど消滅した世界で自死を選ぶ少女たち。
    そこから進んでいく物語。13年後の世界で起こる世界中を巻き込む未曾有の危機。生き残ってしまった少女たちは嫌悪する世界でどう生きてきたのか。多くは語らないけどとても面白いユートピア小説だった。SFの世界観がとてもよかった。

  • ディストピアSF。
    意志と統制の物語。
    チャットGPTとかってもはや人間の思考を制御してるよねって思った。

  • 舞台は誰も病気にかかることがなくなった未来の世界。人が健康になる。それ自体はとてもいいことである。誰も病気で苦しむことはない。しかし、メディケアによって完璧に管理された人間にはその社会に馴染めずに自殺する者もいる。本当の幸せとは何かを考えさせられる作品だった。

    SFだからはじめは世界観の理解や難しい言葉への対応が大変かもしれないが、人生で一度は読んで欲しい作品!

  • ミァハは内側に自分以外の何かが入ってくるのが嫌で仕方なかったんだな。やった事は惨いけど、同情してしまった。

    ポストヒューマンが台頭するのではなく、自分たち人間そのものが新しいモノに変わるのは、新しい展開だった。拡現なんてロボットそのものみたいな機能だし。

    意識や意志について、思考のない純度100%で自明な行動をする人間を想像すると怖くなった。

    というか、小説として面白すぎたー。
    文体のカラクリも最後に納得した。
    虐殺器官も絶対読む。

    印象に残った言葉
    ・人間は、いやすべての生き物はその場しのぎの
     集合体なのだ。

    ・あなたの望んだ世界は、実現してあげる。
     だけどそれをあなたには、与えない。

著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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