閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152092762

感想・レビュー・書評

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  • 個人情報保護とか言って仲間内での住所録作成すらも気を使う嫌な世の中であるが、一方ではGoogleやFacebookなどPC・携帯アプリが我々の通話記録・WEBアクセス先・オンライン購入記録等を公然と収集していることについてはさして大きな問題とならないのはどういうことだろう。

    詳細は別として誰もが有る意味では知っているこれらネット企業のデータ収集活動がもたらすのものとして著者が掲げる問題は大きく言うと二つだ。

    一つは、検索エンジンは我々のWEB検索・アクセス記録を分析することで、個人の嗜好等をキーにして検索結果の最適化(Personalisation)を実施している。即ち、同じ言葉で検索しても私とあなたでは嗜好が異なると同様に検索結果が異なるというのだ。こうした最適化を実施しているのはGoogleだけではなく、オンライン広告業界は勿論のことFacebook、Amazonも利用している。つまりFacebookに記事を投稿しても友人の誰もがその投稿を見られる訳ではない。更にはニュース・サイトにも最適化の利用は拡大している。ニュース記事さえもニュース自体の社会的重要度に応じてというよりも、個人的嗜好や果ては人気順によって知らず知らずのうちに取捨選択表示されてしまうことになる。既存メディアへの信頼が揺らいでいるの事実であるにしろ、そこへの批判は行える。が、批判の対象にすら成り得ないアルゴリズムによって社会的に重要なニュースがネット空間から排除されてしまうのは行き過ぎと言えよう。こうした「最適化」を著者はフィルター・バブルと称している。

    もう一つの問題はそうして収集されたデータの使用目的が不明確なことと反論が出来ないことだ。勿論、一義的にはタ―ゲティング広告というものに利用されているのは判るのだが、裏ではそうしたデータが売買されて思わぬところへ波及することもある。各種データを分析すれば個人を特定するのは極めて容易であるし、それが行動ターゲティングに利用されているという。例えば、Facebookの友達の中に軍人が何人か居ればその人間も軍隊への親近感が高いことから、米国陸軍の入隊勧誘に成果を挙げているという。また信販業界でも同じで、やはり友人に「自己破産」または「支払い遅延」等の事故を起こしている人間が居ると、「類は類を呼ぶ」理論ではないが、その人間もまたそうした事故を起こす可能性が高いと判断されてしまい、結果的にクレジットカードの作成が拒否されてしまうが、その理由はデータを買ったクレジット会社から開示されることはないだろうと。

    インターネットにより世界が広がった点は認めざるを得ないものの、その陰で余りにも簡単に個人情報へのアクセスとほぼ無制限とも思える利用方法を持つことが事実上許されているネット企業に対して、我々自身が適切なチェック機能を持つことができるような制度が必要となるのだろうし、法的に何らかの制限を設ける事も必要なのだろう。単純に企業の倫理観を期待するだけでは解決不可能なのだろうと思うと何ともやりきれない。

    より多くの人に本書を読んで貰いたいが時間の無い人はせめて週刊ダイヤモンドに丁度似たような記事が出ている(下記URL参照)のでそれだけでも参考にどうぞ。

    http://diamond.jp/articles/-/16579

  • 著者は、利用者自身がコントロールできないパーソナライズによって情報がフィルタリングされ、手に入る情報が偏っていくことの危うさを指摘する。
    「フィルターバブルに包まれている」と表現するその状態は、本来、自由であり、開かれているはずのインターネットの姿を歪んだものにしてしまうという。

    こういうことは今まであまり意識してこなかった。むしろ(Amazonのレコメンドのように)便利だとしか思っていなかったパーソナライズ、フィルタリングというものに対して、別の見方ができるようになったのが収穫かな。

    ところで、本に書かれていた「行動ターゲティング広告」ですが、通販サイトのプライバシーポリシーをたどって(たいてい下の方に小さくリンクが貼ってある)、「行動ターゲティング広告」を見てみたら、Cokieによるトレースなどがまぁたくさん出てくる出てくる。
    とりあえず片っ端から「オプトアウト(無効にする)」してみたけど、これはホンの一部だということですね。(^^;

    【無断転載を禁じます】

  •  豊饒性のパラドックスに囚われているインターネットユーザーの多くは自分に合った情報を提供してくれるグーグル・FB・RSS・(twitter)etc.を重宝している。しかしそこから提供される情報は「選好」を強化するものが多く、自分とは真逆の考えをもつ情報はほとんど存在しない。優れたものや考えは異種の混合で生まれる。インターネットもそういった場で在り続けるべきであり、それを阻害する不可視の「フィルターバブル」を我々はコントロールしなくてはならない。以上がおおまかな概要。
     この本を読む数日前に「多くの人がソーシャルキャピタルについて話しているけれどそれを紐帯型と橋渡し型に区別していない」というツイートをしたのだが、それとほぼ同じ内容が本の冒頭に書かれていたのには驚愕した。そして本を読み終えたときに考えたのは、パーソナライズの危険性を説く本を自分はパーソナライズした結果手に入れてしまったのではないかということだ。少し間違えっていたら「これがステマか」と喚いていたかもしれない。
     L.レッシグが寄せているように、内容は10年以上前から一部では言われていたであるため人によってはまさしく「選好」の確認・強化に留まるかもしれない。しかし折しもグーグルがプライパシーポリシーを変更し利用者の好みをより正確に把握できるようになった今読んでおいて損はない一冊であることは確かである。

  • 何がきっかけでこの本を買ったか忘れてしまったのですが、帯を書いているのが東浩紀さんと津田大介さん、発行が早川書房(いずれもTwitterでフォローしている)なので、その界隈から流れてきた情報を見て、たぶん「これは読んでおかないと」と思ったのだと思います。

    表紙側のそでに、こんなことが書いてあります。

    "あなた好みの情報を自動的に取捨選択して見せてくれる、近年のネット社会のフィルタリング技術。その裏に潜む、民主主義さえゆるがしかねない意外な落とし穴とは――。
    「フィルターバブル」問題に警鐘を鳴らすニューヨークタイムズ・ベストセラー、待望の日本語版。"

    そして副題は「グーグル・パーソナライズ・民主主義」です。うわーこれはグーグル批判の本なんだろうなーと思っていたら、グーグルもフェイスブックも批判対象でした。

    [続き]
    http://wildhawkfield.blogspot.com/2012/03/blog-post_03.html

  • 皆様ご存知だと思いますが、随分前からGoogleの検索結果はひとによって表示されるリンクや順位が違っています。Googleアカウントでログインした状態でのサイトの閲覧履歴や、IPアドレスや基地局からわかる端末の地域情報により、結果が大幅に変わっています。FacebookやTwitterのタイムラインは「いいね!」とつけたユーザの投稿が優先的に表示されます。インターネットは気がつかないところでひそかにパーソナライズされているのです。これが本書でふれられている「フィルターバブル」。ちなみにこの本の原題はずばり“The Filter Bybble”。なぜ変な邦題にしたのか、早川書房のあいかわらずのセンスのなさが光ります。そんなところも好きッ!

    SNS上で右と左、ファミニストとミソジニスト、ヴィーガンとアンチがしょっちゅう喧嘩しているように見えるのも、パーソナライズ化によって自分の趣味嗜好や考え方とおなじものばかりが集まってくるため「自分の意見が多数派である」と思い込んで発言が先鋭化するため、という見方もあります。自由でオープンな場であり得たはずのインターネットが「フィルターバブル」によって、手斧が飛び交う修羅の国であるならまだマシ、単なる分断化を促進するだけのシステムになると目も当てられない。

    前に読んだ「テクニウム」も言及されており、「テクノロジーの問題はテクノロジーで解決できる」というその主義主張を単なる「技術原理主義だ」とばっさり切り捨て、本書は「やっぱり技術者や企業、国がちゃんとやらなきゃダメなんちゃうの」という結論。その是非は読んだ人それぞれが考えてください。この手の話はドストエフスキーの「地下室の手記」あたりから変わらない「肥大化する自意識vs社会や技術の進化」の話なので、19世紀の時点でそこを言語化したドストエフスキーはやっぱり神だな、とあらためて思いました。

  • 「フェイスブック 若き天才の野望」で検索したら、ヒットした本。
    読んでみよう!

    内容はすごく面白いのに、なかなか読み進まないうちに時間切れ ( T o T; ) 
    再度読むつもり!

    内容 :
    あなた好みの情報を自動的に取捨選択して見せてくれる、近年のネット社会のフィルタリング技術。
    その裏に潜む、民主主義さえゆるがしかねない意外な落とし穴とは−。
    「フィルターバブル」問題に警鐘を鳴らす。

    著者 :
    1980年生まれ。アメリカ最大のリベラル系市民政治団体の1つ、「ムーブオン」エグゼクティブ・ディレクターを経て、理事会長。

    2012/9/16 予約 9/29 借りる。10/15 読み始める。ぜんぜん読み終わらない・・・。 3/17 途中で返却。
    2013/03/22 再予約 4/16 借りる 5/15 読み始める

  • Internet
    社会

  • AMAZONのおすすめやFBの友達候補など、ネットは自分が興味を持っていることや自分の意見を補強する情報が増強されるようになった。

    Twitterなどをやっていると自分の意見はいつも多数派に見えてくる。それも道理で似たような考えの人をフォローするのが普通だからだ。

    ネットにはありとあらゆる情報が溢れている。情報の洪水の飲み込まれないように防波堤となるフィルターが置かれて、そのフィルターを通過できる一部の情報だけが選別されて届く。そのフィルターはひとりひとりに合わせてパーソナライズ化されている。
    つまり、我々がみるインターネットはひとりひとり違っている。

    著者はこれを「フィルターバブルに包まれている」と表現している。


    <blockquote>ヒトの場合、まず、データを大幅に圧縮する。ナシーム・ニコラス・タレブの言葉を借りれば「情報は簡潔になりたがっている」ので、目からはいる映像も耳からはいる音声も、その要点だけをとらえた概念へと圧縮するなど、毎秒毎秒、情報を簡素化するのだ。(P.105)</blockquote>
    <blockquote>我々はスキーマを取得すると、それを強化しがちである。我々は自分が知る見方を強化する。つまり、見たいと思うことを見るようになるのだ。これを心理学では確証バイアスと呼ぶ(P.107)</blockquote>
    セレディビティとは意図しないものにぶつかるプロセスだ。ヤン富田が言うところの「必然性のある偶然」だろう。
    自分という箱から出るにはこのセレディビティが欠かせない。検索結果は見たいもの、知っているものの延長上にしかないからだ。

    フィルターバブルでは情報がシューゲイザーのギターのようにフィードバック効果で増大していく。
    <blockquote>脳は、認知的不協和というものをなんとも非合理的なやり方で解消しようとする4もし自分がXをするよう人間でないのなら、なぜXをしたというのだろうか。だから、自分はXをする人間でなければならない」と考えるのだ。(P.156)</blockquote>
    自分の言動が元にフィルターがパーソナライズされ、元となった言動を強化する情報ばかりがはいってくる。そして、その情報で強化された言動を元にパーソナライズが強化され……といった具合だ。

    我々は自分の言動を売り渡すことで様々なWEB上のサービスを受けている。
    自ら"ビッグブラザー"に監査されるように仕向けているといってもいいだろう。

    欲しい情報、知っている情報の延長線上にある情報だけが提供されていては、メタモルフォーゼは起きないし、そこに成長も無い。
    三人寄れば文殊の知恵というではないか。
    ひとりの考えることには限界がある。違う考えや観点、言動といった刺激がなければ、耳に心地よい意見ばかりに囲まれ、視野も狭まるだろう。
    何より多様性に対する耐久性が失われ、心も狭くなるのではないか(もうなっている?)。


    <blockquote>最高の瞬間は多くが予測できない瞬間である(P.165)</blockquote>




    最後に話は逸れるが、インターネット草創期は、"自分のアイデンティティをあきらかにしなくてよいことがインターネットの大きな魅力だと言われた"というのも興味深い記述だった。フィルターバブルによって、よりパーソナライズ化されたWEBの世界では実名、匿名議論が活発になっている。
    観察するにネット草創期よりネットに通じているリテラシーの高いヒトほど実名論に賛同しているように思える。これが正しいとするとかなり興味深い事象だ。

  • インターネットが世に登場したとき、「オープンな世界だ」としてその可能性の広がりを賛美する声が大きかったけれど、実は今、ものすごい勢いで「パーソナライゼーション」が進んでいる、と指摘する一冊。
    「パーソナライゼーション」というのは、グーグルで同じ言葉を検索しても人によって検索結果が違ってくるとか、もっとひらたく言うと、アマゾンの「お客様へのおすすめ商品。」 つまり、あちら側がアナタのためだけに、アナタに合った、アナタが興味を持っている情報を提供すること。一見、アナタは自分の知りたいことを知ることができて満足するように思えるのだけれど、実はアナタの周りにはもっと知らない世界があるということを、知らないまま終わるということでもある。
    インターネットの未来を真剣に考えてみないと。

  •  2009年から、グーグルは「パーソナライズ検索」を本格導入した。以後、我々がグーグル検索を使えば使うほど、グーグルはこちらの好みや思考スタイル、行動パターンを把握し、それに合わせた広告や検索結果を表示するようになった。A氏とB氏が同じ時刻に同じ言葉を検索しても、その検索結果は同じものにはならないのだ。

     このようなフィルタリング技術は、グーグルに限らず日進月歩である。その進歩にはよい面もあるが、危険も多い。我々のプライバシーが知らぬ間に侵害され、その結果得られた情報がネット関連企業の金儲けに使われる……という危険は、そのうち最もわかりやすいものである。
     しかし、危険はそれだけにとどまらない。もっとわかりにくい、しかし場合によっては民主主義さえ揺るがしかねない危険がある。

     本書は、フィルタリング技術の進歩がもたらす危険について論じたものである。
     原題は、“The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding from You”。「フィルターバブル」とは著者の造語で、「ネットのフィルタリング技術が泡のように我々を包み、世にある大量の情報と我々の間を隔てている」というほどの意味である。
     そのフィルターをすり抜けた情報だけが、私たちの目や耳に届く。そのことには「欲しいものがすぐに見つかって便利だ」というメリットがあるものの、反面さまざまなデメリットをもたらす。たとえば――。

    《(フィルターバブルの中では)興味がないものは目にはいらなくなる。大きな出来事やアイデアを見のがしていることに、無意識にさえ気づかなくなる。
    (中略)
     パーソナライズドフィルターには、普通、ズームアウト機能が用意されていないため、自分の位置を見失い、変化に富む巨大な大陸を小さな島だと勘違いしてしまいがちである。》

     このデメリットの事例は、我々の周囲にいくらでも見つかる。ネトウヨ諸君はネトウヨにとって心地よい情報だけで自らの周囲を囲み、都合の悪い情報は目に入らなくなる。その結果、ますますネトウヨ的性向が強まっていく……というふうに。
     もちろん他人事ではなく、私の周囲には私向けにパーソナライズされたフィルターバブルがあるわけだが。

     また、著者はフィルターバブルがもたらす大きなデメリットの一つとして、人々の創造性が損なわれることを挙げる。
     発明、創作、科学の新発見など、すべての創造的営為にはセレンディピティ(偶然の発見)が不可欠だが、フィルターバブルの中ではセレンディピティが起きにくくなる、というのだ。
     なぜなら、パーソナライズドフィルターはその人が好むことや馴染み深いことを選択する仕組みであり、好みや馴染みにそぐわないものは排除されてしまうから。したがって、「思わぬものとの出合い」が激減し、成長や革新のきっかけが得にくくなる、というのだ。

     フィルターバブルは本格的には始まったばかりであり、その悪影響もまだ社会を揺るがすほどには表面化していない。が、私は著者の危惧はかなり正鵠を射ていると思う。

     本書は、さまざまな角度からフィルターバブルの危険を訴え、それを克服する方途についても提言している。面白い本だが、全体にアメリカの先端的知識層に向けて書かれた内容であり、平均的日本人にはわかりにくい記述も少なくない。
     たとえば、次のような一節――。

    《サイバーブースターからサイバープラグマティストに転じたダグラス・ラシュコフは、こう語ってくれた。》

     私が無知なだけかもしれないが、「サイバーブースター」も「サイバープラグマティスト」も意味がわからず、「ダグラス・ラシュコフ」という人名も初めて聞いた。このへん、訳注を付してしかるべきだと思うのだが、本書には原注はあっても訳注は一つもない。なんとも不親切な作りである。

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