倫敦から来た男--【シムノン本格小説選】

  • 河出書房新社
3.22
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309205267

作品紹介・あらすじ

彼は毎晩"ガラス張りの檻"から海峡の彼方を見つめていた。男は海峡を渡ってやって来た。平穏な生活を襲った運命の亀裂。霧深い北フランスの港町を舞台に、さまざまな人生が交錯する。生と死、罪と罰、欲望と祈り、幸福と不幸…極限の心理の襞を繊細に描ききって人間の存在の本質に肉迫する、シムノン文学の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • うーむ やや退屈な

  • これがシムノンか。
    人生は不思議だ。人間はときに平穏とは真逆の方向にグイと舵を切ることがあるのかもしれない。説得力のある文体に感情を持って行かれましたね。

  • 港湾路線の転轍手として30年勤め続け、家も妻子もある中年男。
    男はふとした偶然から殺人を目撃し殺人に関係のある大金を手にする。

    予期せぬ重大事に直面すると、それが幸運なことであれ不幸なことであれ、人間は考えるのを止め衝動で動くようになる。
    そしてその衝動がおさまったとき、人間は・・・。

    ラストはカミュの『異邦人』と同じ雰囲気を感じました。

  • 主人公がだいたい陰鬱で、社交性が無くって、
    何かを背負っていて、あるいは背負うことになる、
    シムノン先生の所謂本格小説。

    暗くて落ち込むんだけれど、
    それでもなんだかたまにとっても読みたくなって手に取ってしまう。

    今回読んだ「倫敦から来た男」の主人公は
    港で転轍手として働く、中年(50歳くらい?)の男、マロワン。

    まずこの転轍手と言うお仕事が
    インターネットでも検索したりもしたけれど
    よくわからなかった。

    どうやら、港の小ぶりの灯台(?)みたいな
    「転轍操作室」と言うところで
    夜になにかを開けたり閉めたりしている様子。

    マロワンの懐具合は寂しい様だ。
    家族もみんな苦労をしているみたい。
    それがまた逆にマロワンを意固地にさせている雰囲気。

    ある夜、マロワンは転轍操作室から二人の男が喧嘩をし、
    殴られた男が海に落ちるのをみる。
    落ちていく男は小型のスーツケースをもって落ちた。
    人がいなくなってからこっそりスーツケースを海から
    拾い上げたマロワンは…

    大変なことが起こって、
    それも自分がどんどんそれをわざわざ起こしたような時、

    「あぁ、あの時こうしていれば…」と思い返す、

    また、それをしている、今そのときにも
    「いまやめれば、まだ間に合う!」と思いながら、

    その事の重大さも大小あるとしても、

    なぜか悪い方、駄目な方を
    波に乗るように、引きずり込まれるように
    してしまうこと、ある気がするなあ。

    男を海に突き落としたイギリス人の男、不運な軽業師。
    その男を追って、イギリスから来た
    話の分かる、情感のある刑事が、とっても格好良い。

    お金を盗まれた男の娘、
    被害者として、犯罪者の身内にはどんなに冷たくしても
    許されると思っているところが、
    なんだか色々考えて、逆の面で身につまされて、
    私も今までいけないところがあったかもしれない、
    と考え、少々、傷心。

  • 1934年発表作で、当時まだ30歳前後であった シムノンがドストエフスキーの強い影響下にあった時期の創作とされるが、その筆致が既に熟成していることに驚く。一介の市民に過ぎなかった男が、「魔が差す」瞬間を経て犯罪に手を染め、「罪と罰」を想起させる破綻/自戒へと至る。
    犯罪小説としての筋立てはシンプルで、展開もゆったりとしている。主人公の内面描写はあるものの最低限に抑え、次の行動に移るまでの一瞬の思考/判断を指し示すに過ぎない。計画性の無い男が予測の出来ない事態に対処できずに自滅するさまを、シムノンは冷酷に突き放して描き、読者の感情移入を拒む。
    本作が「極限の心理の襞を繊細に描ききって人間の存在の本質に肉迫する」までの傑作かどうかは、読み手の受け止め方次第だろう。ただ、人間のエゴイズムが如何に短絡且つ傲慢で、結局は脆弱な精神故に強烈な報いを受けるかを、乾いたリアリズムの手法でまとめ上げた秀作であることは間違いない。特に大金を盗まれた被害者の娘が、誰よりも惨い運命にある加害者の妻に対し、そのエゴを剥き出しにして当たり散らす醜態に、シムノンの極めて冷徹なメッセージが込められていると感じた。
    惚れ惚れとするほど美しい情景描写は、翻訳界の重鎮/長島良三によって見事に甦っている。

  • ふとした転機で判断を誤り、人生を狂わされる平凡な人物、というお得意の運命系に連なる一冊。

    破滅への道筋が教科書のように淡々と、確実に刻まれてゆくのがとても切ない。
    そしてこのようなことは、身近な日常にいつもゴロゴロしているな、と思う。

    あのときあの道を左へ曲がっていたら。
    あの落し物を拾わなければ。
    ほんの少し眠気が勝っていれば。

    小さな小さな選択の積み重ねはだいたいにおいて、どの時点からでもやっぱり取り返しがつかないのです。

  • ありきたりの日常が突然ひっくり返される。さすがに私たちはマロワンのような経験をすることにはならないだろう。でも足下が崩れそうな経験は残念ながら必ずあると言わざるを得ない。それが、もし、犯罪もしくは犯罪すれすれの事であったら? その時の自分の状況が非常に苦しいものであったら? 追体験し、考えさせられる事柄はとても深くて重い。

  • CL 2014.8.30-2014.9.1

  • イギリスとフランスの船が出入りする港の転轍操作室で夜勤する男が主人公、というところからまず面白かった。男は三十年、その操作室で淡々と働き、ただそこから「ロンドンから来た男」がやったことを見ていただけのはずなのに、読み進むうちに実は二人がとても似ていることがわかる。転轍機のように、まったく関係のない二人の人生が重なる様子が淡々と綴られているところが切ない。

  • 1月15日読了。図書館。

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著者プロフィール

1903年、ベルギー、リエージュ生まれ。中学中退後、転職を繰り返し、『リエージュ新聞』の記者となる。1921年に処女作“Au Pont des Arches” を発表。パリへ移住後、幾つものペンネームを使い分けながら数多くの小説を執筆。メグレ警視シリーズは絶大な人気を
誇り、長編だけでも70作以上書かれている。66年、アメリカ探偵作家クラブ巨匠賞を受賞。1989年死去。

「2024年 『ロニョン刑事とネズミ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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