- Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334751975
作品紹介・あらすじ
故郷の酒蔵で見つけた一本の麦酒で人生が急変する男を描く「天来の美酒」。車で旅する夫婦と友人が大きな街で一人、また一人と消えていく「消えちゃった」。生涯、短篇小説を中心に執筆し続けた「短篇の職人」コッパードが練達の筆致で描いた珠玉の11篇。
感想・レビュー・書評
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イギリスの作家。
デビュー後に「作家講座」から「見どころはあるけれどまだ小説のレベルに達してないので、うちの講座で技術を磨きませんか」という手紙を受け取ったんだそうだ。プロの作家なのに”へたうま”というか、”自己流で味がある”という扱いなのか(笑)、まあたしかにそんな感じの、深刻なはずなのにすっとぼけたような印象の短編集。
夫婦とその友達男性が車で旅行中。
途中で奇妙な蜃気楼を見たし、車の計器は故障したし、里程標に出てるのははなんか変な案内。
大きな街に辿り着いたんだけど、男が消えて、次には妻が消えちゃった。
残った夫は警察署に駆け込んだんだけど今度は車が消えちゃった。
警察では夫を酔っぱらいかって思って留置所にいれたんだけど。
==怖い…はずなんだけどどこかとぼけた感じもあって。
/「消えちゃった」
ラッチワースはお屋敷と財産を相続したんだけど、やっかいなおばさんまで相続してしまった。
おばさんが賭博で擦ってしまうために大金を渡さなければいけないなんて!
相続した中で一番満足したのは酒蔵にあった9本の麦酒(エール)だった。美味いなんてもんじゃない。これこ極上の美酒!
ラッチワースは、最後の1本はいつかおばさんが死んだ時まで飲まないぞ、って決めた。
でもある時うっかり開けてしまって…。
==これまた深刻なはずなのになんかすっとぼけたような。
/「天来の美酒」
最近牛たちが流行り病に罹るようになった。
そこへ少し頭のイカれたロッキーが笛を吹き吹きやってきた。
ロッキーはなんかおまじないでその病気を治せるっていうから、差配人はまあやらせてみるかって思った。
すると本当に牛の病気が治ったんだ。
ロッキーは月に照らされて素敵な曲を吹きながら帰っていった。
差配人はロッキーのやり方で国中の牛を治してやって大金持ちに!
ロッキーは?いや、あいつは何ももらねなかったよ。でもこの世には笛を吹くだけの風はたくさん吹いているからね。
/「ロッキーと差配人」
最後にお墓に埋められた死人は、次の死人がくるまで前の死人たちにこき使われるっていう。
バーノヴァーに住むマーティンじいさんの大切な姪が死んだ。
大変だ、その前に死んだのはろくでなしのワルだ。しかももうお墓は一杯でこのあと誰も埋められない。かわいい姪っ子がずっとあいつらにこき使われるなんて!
==うん、まあ、良いのかな。ちょっと気の毒だけど。
/「マーティンじいさん」
ダンキー・フィットロウっていう醜男で怠け者がいたんだ。そろそろ結婚したかったんだけど、ダンキーが望むようなきれいな女、立派な女はだれも彼を相手になんかしないよ。
ところがダンキーからはお断りの駱駝顔の女が「私が彼と結婚してみせるわ!」と息巻いた。
==なんかこれも愛?
/「ダンキー・フィットロウ」
世界が終わりになると聞いて、暦博士はとっても困った。
そこで予言をした鬼のところに行ったら「例のクリスマス老人以外にわしを止められない」というから、暦博士はサンタクロースを探しに行ったんだ。
==クリスマス前の小噺みたいな感じ??(あとがきの解説によると、クリスマスイブの朗読として発表されたようです)
/「暦博士」
小さな王国の姫君は、ナーシッサスという美しい若者に恋をした。
でも詩人のナーシッサスは自己表現にしか興味がなくて。
ナーシッサスが病気で死んでしまうと、姫君は美しい廟を作って自分の魂を側で眠らせると誓った。
==美しい描写もあるんだが、すれ違いのような気も。
/「去りし王国の姫君」
幻覚とおしゃべりしながら歩き回ってる変わり者のソロモンは、友人のハーバーマスター夫妻に夕食に呼ばれた。
その時にソロモンは「精神と意思で何かを壊すことができる」って言っていた。
その晩ハーバーマスター夫妻の家をなにか恐ろしい”もの”が圧迫してきて…。
/「ソロモンの受難」
お人好しのレイヴン牧師が最後の審判の日にどうなったか、聞いてるかい?
教区のみんなとハイキングに行ってた時に、突然最後の呼び出しがかかって気がついたらみんなで楽園への道を歩いていたんだ。
教区の連中は、ろくでなしもいるし身持ちの悪い者もいる。だけど天使に「君の魂を担保に入れて、彼らが全く罪がなく善良であることを保証するか」と問われたレイヴン牧師は「保証します」って答えた。
するとレイヴン牧師が連れた連中は天国への橋を渡ったのだが…
==ラストは「ええーー」と言う感じ。キリスト教徒でないのでよくわからんのだが、これはちょっとお気の毒な気がする。これはどうすればよかったんだ。
/「レイヴン牧師」
あるお屋敷の奥方と、料理番の女性との仲はとても悪くなった。旦那様は料理人にクビを言い渡した。しかしこの料理人、クビを承服せずに台所に立て籠もっちゃって?!
==冒頭でこの旦那さんの人柄の良さと奥方の立派さと夫婦の幸福さを書いていたのにいきなり「ある朝目が覚めると、妻を嫌いなことに気がついたーしかも、ものすごく嫌いだし、おまえけに、二度と好きにはならなかった」などとさらっと書かれて、でも奥方の言う通り料理人にはクビを言い渡すし、この料理人も面倒くさいし(別におそろしくはなかったけど)。なんとも人間ってそんなもんなのか。
/「おそろしい料理人」
フェントン・フェバリーという男の生涯。農家に生まれたが興行芝居を見て家を出た。その後は人気俳優になったり、教会の広告塔になったり、でも主を信じる必要はないって約束したその言葉をそのまま持って生涯を終えた。
/「天国の鐘を鳴らせ」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
19世紀末英国に生まれ、20世紀前半に多数の短編小説を発表した
コッパードの代表的作品集。
ずっと前にタイトルと概要を知って読みたかった
「The Princess of Kingdom Gone」が収録されているので購入。
南條訳の邦題は「去りし王国の姫君」。
想いを通い合わせた美しい姫と詩人だったが、
彼は芸術と自分自身を最上に愛するナルシシストだった……(涙)。
人生の悲哀・ほろ苦さがほんのり香る佳作揃い。
不気味な、それでいて妙にあっさりした表題の「消えちゃった」が
不条理感たっぷりで面白かった。 -
幻想的な雰囲気と、そこかしこに漂う死の雰囲気と、独特の展開が良い感じの短篇集。
「消えちゃった」
文字通り、消えちゃうわけです。そのあとの作品でも時々出てくるが、突然時空間がブッ飛ばされるのが面白い。まるで夢を見ているよう。★★★★
「天来の美酒」
因果関係があるのかないのか。それはともかくソフィーは美人そうだし、麦酒は美味そう。★★★★
「ロッキーと差配人」
酒場で隣のおっさんから聞く与太話、って感じ。まあ普通。★★★
「マーティンじいさん」
自己暗示の力ってのはすごいもんで。それにしてもこの作者の短編は、実にコロっと人が死ぬw★★★★
「ダンキー・フィットロウ」
三年寝太郎のイギリス版か。いや、三年寝太郎の話、知らないんだけどね。★★★
「暦博士」
最後のオチが持つ意味を掴みかねているのだが・・・。それが分かればもう少し面白いのかも。★★★
「去りし王国の姫君」
美しい話。「詩人は死んだ」のくだりが唐突過ぎて笑った。★★★★
「ソロモンの受難」
意思の力で破壊する力を身に付けたのか、それともただの偶然か?この作品は好きだなあ。★★★★★
「レイヴン牧師」
こーゆー短編は多くのバリエーションがありそう。★★★
「おそろしい料理人」
恐ろしいっつーかウザいっつーか。思ったより旦那が毅然としてて安心した。★★★
「天国の鐘を鳴らせ」
自分に正直に生きるってのは・・・難しいんだなあ。★★★★★-
2011/11/19
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2011/11/20
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変わった味わいの短編集。解説に、「一般的な小説にの型にはまっていない」と表現していますが、どの作品も途中まではとても興味をそそる出だし、設定なのですが、しめくくりには肩透かしをくう印象でした。
時折はっとする表現や描写かあり読んでいて楽しくなることもありますが、物語を通して作者が伝えたいことを掴みきれないのは読み手が未熟なのでしょうかね。
例えて言えば、不条理な夢のようなものを見ているような。
あと、特徴としては主人公が少し変わった人となっており、それを客観的に綴られており、今日の小説に多く見られる読者の共感者である主人公が主体的に語るものとは違いますね。
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原書名:Jove's Nectar / Gone Away
消えちゃった
天来の美酒
ロッキーと差配人
マーティンじいさん
ダンキー・フィットロウ
暦博士
去りし王国の姫君
ソロモンの受難
レイヴン牧師
おそろしい料理人
天国の鐘を鳴らせ
著者:A・E・コッパード(Coppard, Alfred Edgar, 1878-1957、イングランド、小説家)
訳者:南條竹則 (1958-、中央区、作家) -
以前はホラーと思っていたが、実は普通に文学。
普通に短編集。
かなりアクが強いので評価が難しい。
やはり『消えちゃった』が一番インパクトが強いね。
他は、ん???? -
読み終わって目次に戻ったら「こんなに読んでたのか?」と驚いた。翻弄される感じが楽しい。今回は短篇だし休憩本に…と思ったのがだめだった!次はちゃんと時間をとって、少なくとも一編は途切れずに読もう。そっちの方がずっと楽しめるはず…。
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とあるアンソロジーで、この作者の作品がよくわからない・・・のに気になったので、一冊読んでみました。
なんか不思議な味わい。で、やっぱりよくわからない。
「消えちゃった」「天来の美酒」「ロッキーと差配人」
「マーティンじいさん」「ダンキー・フィットロウ」「暦博士」「去りし王国の姫君」「ソロモン受難」「レイヴン牧師」「おそろしい料理人」「天国の鐘を鳴らせ」の11編。
ハートフルなのや深遠なのやニヤリなのもあったのに、
一番印象に残っているのは「おそろしい料理人」の超・図々しさとふてぶてしさ。あーあ。
「天来の美酒」の原題、”Jove's Nectar”は
宗教的な含みのある言い回しなんでしょうか?
ご存知の方がいらしたら教えてください。 -
表題作の「消えちゃった」は一種のホラーですね。彼らに何が起きたのか。そもそも彼らは何処に向かっていたのか。何処にいたのか。様々な想像を掻き立てられます。「おそろしい料理人」は決して恐ろしくないのですが、とにかく罵詈雑言が豊かで笑えます。スベタ、腹黒おやじなどはまあ普通ですが、家庭の各種汚物って……。地主が料理番の女を追い出すだけの話なんですけどね。最初の奥さんに嫌悪感を抱くようになったというエピソードはどこへいってしまったのか。作者はこの短編を通して何を訴えたかったのか。謎だらけです。
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「何が起きたんだ?」「因果関係はあるのか?」「どうなったんだ?」と、頭の中でわあわあ騒いで混乱している自分がいるなあと思いながら読み終えた。読者の受け皿を飛び越して(または踏み抜いて)いく展開には、反発しようと思えばとことん反発して嫌えるが、何とかついていこうと食らいつけば、だんだん鷹揚な気持ちが芽生えてくる。ぶっ飛んだ流れの中に時折入る美しさや微苦笑、心の飢えと渇きがまたこの1冊全体の雰囲気をアンバランスにしていて面白い。