- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344040359
作品紹介・あらすじ
時は大正。舞台は日本で最も美しい監獄――。繊細な数学教師×天真爛漫な印刷工無実の罪で収監された凸凹バディの武器は、頭脳と胆力。監獄は人が作ったものに過ぎない。僕が、この問題を解いてみせる。数学教師の弓削は冤罪で捕まり、日本初の西洋式監獄である奈良監獄に収監されていた。ある日、殺人と放火の罪で無期懲役刑となった印刷工の羽嶋が収監される。羽嶋も自分と同じく冤罪だったことを知った弓削は、彼とともに脱獄をたくらむ。典獄からの嫌がらせ。看守の暴力で亡くなった友人。奈良監獄を作った先輩からの期待。嵐の夜、ついに脱獄を実行する――。人気BL作家が描く、究極の友情。
感想・レビュー・書評
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弓削は、数学教師として勤めていたときに女子高生の自殺を暴行し殺した罪で懲役20年となり奈良監獄に収監されていた。
罪状は、殺人罪である。
冤罪にも関わらず弁護士でさえ負けた裁判にそのあとまで真摯に向き合ってはくれないままだった。
ある日、殺人と放火の罪で無期懲役となった羽嶋に作業手順を教えているうちに彼も自分と同じく冤罪だったことを知る。
最初から番号ではなく名前を呼んでくる羽嶋に無駄口せずに距離を置こうとしていたのだが…
彼はあまりにも素直で純粋だった。
だが一度見たら忘れない記憶の持ち主でもあった。
やがて弓削に作業を教えてくれた相内から彼が恩赦で減刑になることを知り、彼と話をした際に出てからの夢が、誰かが成功(脱獄)するのを近くで見ることだと聞く。
典獄からの嫌がらせや看守の暴力で亡くなった友人や相内からの期待が膨らみ、弓削は羽嶋と脱獄しようと勝負にでる。
羽嶋から寄せられる無垢な信頼ほど、強いものはない。彼には躊躇いがいっさいないと感じたときに一緒に行動しようと思えたのだろう。
この2人の相性が良かったのかもしれないが、お互いに良い部分を最大限に活かしたからこそ…だと思った。
久しぶりに良い読書時間だった。
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奈良監獄に収監されている弓削と羽嶋。
お互い2人とも冤罪である事を知り、数学教師で数字の強さを持つ弓削と、瞬間記憶を持つ羽嶋が手を取り合い脱獄を計画する。
実際の旧奈良監獄が閉庁した後の見学会に参加した事があり、気になって手に取った本。
当時撮っていた写真を見ながら読み進めるととても楽しい。
真面目さ故に自分が大胆な事はできないと全てに諦めていた弓削だが、同じ囚人の山岸や相内に背中を押され、計画を練っていく、自分を信じてくれる羽嶋のために。
そして自分も羽嶋なら信じられる。
お互いの信用が大きな力になる。 -
京都帝大を卒業した数学大好きな主人公弓削は奈良の女学校で数学を教えていた。
そんなある日、教え子が亡くなり冤罪で監獄入りしてしまう。
舞台は、レンガ造りの美しい奈良監獄。
監獄に収監されて2年、これもまた冤罪で収監され終身刑をくらった羽嶋にであってから、じわじわと脱獄の思いがつのり、脱獄を企てる。
はたして主人公たちの脱獄は成功するのか。
という物語です。
まず、脱獄を小説で読むのは多分初めてじゃないかなと思うくらい、心当たりは正直ないので比較のしようがないなと思いつつも、脱獄ものってこういうものなの?と思ったのは本音です。良いとか悪いとかいうよりも、文章で読むとこんなもの?と思うくらいに。
ただ、読んでいてところどころ『ショーシャンクの空』の囚人の生活ってこういう感じだったよなと思ったり、いろいろな映画やアメリカドラマは思い浮かぶほどなので、大正を舞台にした脱獄小説と思えば、情景が浮かびやすいので良い作品なのかな?とは思いました。
この作品の微妙だなと思ったところは、囚人同士の関係性や脱獄への思いの盛り上がり方というか、回収しなくてよかったのか?と思うようなところなどちらほらと「人間が作ったんだから穴もありますよね、本作の監獄みたいに」という感じがあるのと、いろいろと軽いというか、薄いという感じがあり、もうちょっと踏み込んでも良いのではないかと思うところが私にはありました。
逆に、そこが味だと言われると、そうかもしれないと思えるところなので、これは私の好みの問題かもしれません。
しかし、そういうところもありつつも、脱獄に向けての派手さみたいなものは正直なかったですが、知能的だし、現実的だなと思いましたし、実際に脱獄を本当に上手くするのはこういうやり方かもしれないなと納得できるところは多かったと思います。
そんな本作からは、人間って、積もり積もるというのもあるかもしれませんど、思い込んだたら突然なところってあるようなぁと思いました。
ネタバレではないですが、そんな理由で脱獄を企てるのか?と思うかもしれません。
でも、行動ってある日突然、思い立ってやってしまうっていうことも私は多いと思うし、ある種の人間らしさというのが本作品には詰まっているように思いました。
あとは、この味付けに合うのかどうかかなと思います。
読みやすいし、情景は伝わりやすいです。軽い、味は薄目が良いという方、ブロマンスに抵抗がなければ、向くんじゃないかなと思いました。 -
脱獄バディもののエンターテイメントかなと思ったけれど、それだけではなく、主人公の内面の変化が、過去を見つめ自分を振り返りそして未来に進むまでを見守るような感じだった。とても読みやすくて一気に楽しく読んだ。
すべてが解決されるわけではないけれど、彼の気持ちが伝わってきたのか、とても清々しい気持ちで本を閉じた。
奈良監獄、行きたくなったんだけどホテルになるのね。小学生や中学生のとき行ったりしたのかな記憶にないのだけれど…行きたかったな。ホテルになったら行ってみたいな。 -
時は大正時代、裕福な家庭に育った寧子は、良妻賢母を育てる名門校の橘樹高等女学校の3年生だった。
寧子は、若い数学教師に心を高鳴らせるが、教師は指導以外には全生徒に対して距離を置いていた。
ある日寧子は何の理由も告げず、校庭の片隅にあった樹に縄をかけて自死してしまう。
数学教師の弓削朋久は寧子殺しの容疑で逮捕され、冤罪を主張するのだが懲役20年の判決が下り、奈良監獄に収監される。
弓削は1日でも早く娑婆に出る日を迎えようと、感情を抑えて刑期を務めることに留意する。
そこに殺人と放火の罪で無期懲役ながら、朗らかな元印刷工の羽嶋が収監されてくる。
実は羽嶋も冤罪で収監されたのだと知ってからは、徐々に気持ちが通じ合うようになる。
監獄内では友達を敢えて作らなかった弓削ではあるが、収監されて以来、高齢者の相内とは親しくしていた。
その相内は、奈良監獄は人が作ったものである限り、きっと脱獄は可能であると主張する。
そして何気に弓削に脱獄を果たして欲しい気持ちを伝える。
奈良監獄からの脱獄など不可能と弓削は考えるのだが、羽嶋の影響もあって脱獄の計画を練るようになってゆく。 -
軽いタッチで話が進む。監獄での生活が続き、脱獄するのは最終章近くになってから、さてそのあとどうする?最後は北海道に逃れ開拓団の一員となり生活が始まる。あまり緊張することもなくリラックスして読了出来た。
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今流行りのBL作家さんの一般文芸ということと脱獄というタイトルに惹かれて読んでみたけれど、大正という時代設定を感じさせるものが全くなくてびっくり。冤罪で終身刑という理不尽な境遇にありながらあの羽嶋の明るいキャラはあまりにもないと思った。結局羽嶋の暗号めいた数字についても弓削がどう解釈したのかも謎のままだったし、いろいろなことが投げられっぱなしでこの話は一体なんだったのだろうかと思ってしまった。脱獄とか謳いつつ内容はちょっと…、そういうの期待して読んだら残念ながら失望するかと…。