- Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396635855
感想・レビュー・書評
-
「ひと匙のはばたき」「かなしい食べもの」「ミックスミックスピザ」
「ポタージュスープの海を越えて」「シュークリームタワーで待ち合わせ」「大きな鍋の歌」
6話収録の短編集。
柔らかな色味の装丁と優しいタイトル、彩瀬さんらしい抽象的で繊細な文章は食べものがテーマになっていても、そこにはひりひりとした感情や哀しみ、苦しみが混在している。
他人から見れば些細な事に思えても、当人にとっては泣きたいくらい、死にたいくらい辛い時がある。
それでも人は食べる事で生きていく。
巷に溢れる料理小説とは一味も二味も異なる喪失と再生の物語。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
6つの話、家族や友人、人間関係が題材となっていて、食べものが背中を押してくれる温まる話だった。
価値観や考え方の違いも、その立場にならないとわからないことかもしれないけれど、わかろうとする姿勢や気持ちがあったり、ふとしたきっかけでわかったりすることがあるのだと思う。
-
妙に惹かれるタイトルの本。全6篇の短篇集で、すべて食べ物が絡んだお話になっている。
温かみも感じるのだけど、要素としては切なさや悲しさ、虚しさのようなものが強い印象。それなのに人が生きる力強さも感じるのは、やはり食べ物がメインテーマになっているからなのだろうかと考えながら読んだ。
気持ちの浮き沈みは食欲と直結することが多いし、食べることと性的なこともつながっていると聞いたことがある。
「ミックスミックスピザ」では不倫相手とラブホテルで安っぽいピザを食べる描写が出てくるし、「シュークリームタワーで待ち合わせ」では死にそうに落ち込んだ友人のために主人公があらゆる料理を作る描写が登場する。
上記のように一筋縄ではいかない「食べること」の物語ばかりで、そういうところが彩瀬まるさんだなぁとしみじみ思った。
個人的な話をすると、10代の時から「食べること」に対して色んな思いをしてきたから食がテーマになった作品には不可思議に惹かれてしまうところがある。
美味しい食べ物がたくさん出てくる温かい作品もいいと思うし、この小説のように負の要素がありながらも力強い作品もとてもいい。
ちなみに「まだ温かい鍋を抱いておやすみ」という作品は収録されていないので、これはこの短篇集自体のタイトル。読み終えて、このタイトルの意味をしばし考えた。やはり力強く、だから生きていける、という風に感じた。 -
1話1話、悩みを抱えていたり、上手くいっていない人が主人公の話。
完璧な人はいないから、何かに欠けていたり、人には言えない悩みや思いを必ず持っていて、それを自分で上手く埋めて、取り繕って社会では生きて行かなければいけない。
悩んだり、立ち止まっても思い出の料理で自分を癒してあげられる。そうすることで、また前に進めるなと最後には思えて、背中をそっと押してもらえた気がした。 -
今後も彩瀬まるに注目!
好きな作家 -
食事をきっかけに過去のトラウマにまつわる話が描かれる。女性をチャーミングに描写しているものが多いなか、珍しく男性2人がメインのストーリー『大きな鍋の歌』もいい味わいだった。
-
ちょっとした日常の短編集
最後はちゃんと上を向いていられる感じかな -
食べて寝る。
それは生きることにつながる。
どんなことが起こっても
とりあえず何か口にする。
休みをとる。
そのことの大切さをひしひしと感じる本でした。
「食べるってすごい
すごくてこわいね
生きたくなっちゃう」
(シュークリームタワーで待ち合わせ)
夜子さんが作るお料理がとにかく美味しそうで
妄想してしまう。
また食事を通して語られる
親子、夫婦間の描写が興味深かった。
「家庭の食卓って
忖度の積み重ねでできているよね。」
(ポタージュスープの海を越えて)
とか、なかなか面白い。
-
★4.0
全6編が収録された短編集。全てに共通しているのは、食べることは生きること。打ちのめされるほど辛いことがあったとしても、温かい食事を取れば元気になれる気がする。折しもコロナ禍の今、先行きに不安を感じるなら、まずは温かいスープを飲んでみてほしい。そんな風に思える、生きることに寄り添った優しい作品。中でも、「シュークリームタワーで待ち合わせ」「大きな鍋の歌」がお気に入り。特に前者の、“食べる=生きちゃうのが怖い”という感覚が、斬新だけど不思議と分かる気がした。今日も私は食べて生きる、美味しいは正義!