作品紹介・あらすじ
長い失踪の後、帰宅した祖父が語ったのは、ある一家の奇怪で悲惨な事件だった。一家の四人の兄妹は、医者である父親に殺された母親の体の一部を、父親自身の手でそれぞれの体に埋め込まれたという。四人のその後の驚きに満ちた人生とそれを語る人々のシュールで奇怪な物語。ポストモダン小説史に輝く傑作。
感想・レビュー・書評
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これは困ったなぁ。
背表紙に掲載されている紹介文を抜粋すると「ある一家の奇怪で悲惨な事件。一家の四人の兄妹は、医者である父親に殺された母親の体の一部を、父親自身の手でそれぞれの身体に埋め込まれた」となっている。
かなりショッキングな内容ではあるが、実は物語とは全く関係がないと断言してしまおう。
別にこんなにショッキングな内容でなくても、「幼いころに生き別れた四人の兄妹」でも事足りる。
乱暴に言ってしまえば、グロテスクで奇妙なエピソードが積み重なった長編の体を真似た短編集みたいなもの、ってところだろうか。
上のショッキングな内容は、そんなエピソードを一つの流れの中にくっつけておくための漆喰の役割を果たしているような印象。
ただ、短編集にしてしまうと、それぞれに設定をしなおして、お膳立てをしていく手間がかかるし、読者もその都度、頭を切り替える必要がある。
だから、悪口を書いているように思われるかも知れないけれど、実は「この形式っていいじゃん」と感心したりしている。
ショッキングな内容そのものも一つのエピソードといえるし、それぞれのエピソードは文字通り「挿話」としての役目……冗長にならず短く要点が凝縮されたピリっとまとまりのある……を果していると思う。
だから読んでいて面白いのだ。
どんどんと先に先に読み進められる。
で、ラスト……。
しょっぱなに「困った」と書いたのはこのラストをどう受け止めればいいのか、それに困ってしまっているのだ。
受け取り方によっては「これ、タブーじゃないか!」と激怒すること必至。
星なんて一つも献上したくもなくなるだろう。
でも、それまでの面白さ(そこにはかなりのグロテスクさと、流血と、痛みと、奇妙な味が多く含まれている)を鑑みると、許してあげたくもある。
そもそも「許してあげたくもある」と受けとっていいのかどうかも分からないのが、このラスト。
はてさて、このラスト……このラスト……どう受け止めればいいのだろうか。
ま、僕自身はかなりいい加減で頭の悪い読者なので、「とにかく面白かったんだからいいや」と星を五つ献上しちゃいます。
ただ、生真面目な読者がこれを読んだら、きつねにつままれたように感じるかも知れない。
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面白かった!最初はどうしても裏表紙にも書いてあるような「ある外科医が妻を殺害、バラバラにしたその死体の一部をを4人の子供たちの体内に埋め込んだ云々」という「あらすじ」の猟奇的な側面に惑わされるのだけれど、全体を読み終わるとその部分そんなに大事じゃないよね?という印象。もちろん物語の発端ではあるのですが。
主人公は幼い頃、死ぬ間際の祖父から聞いたその話(祖父自身は出奔した旅の途中で4人の一人ザカリーと出会い直接聞いた)を、大人になってからふと思い出し、そして偶然にも、仕事で取材に出かけた先々で、次々とそのマッケーンジーの名を持つ4人の子供たちのその後と思われる人物の話を聞かされる。4人は全員がそれぞれ凄惨な末路を遂げていたのですが・・・
作中で語られるのはほぼ、主人公自身の話ではなく、彼が誰かから聞かされた他人の物語、です。妻子を残して出奔した祖父が死ぬ間際に故郷に戻ってきて孫である主人公に聞かせたいくつもの旅の話と主題になるマッケンジーの話。自己喪失者研究所のドクター・ヤーデリが語る数人の患者たちの症例と過去、元新聞記者のJPが語って聞かせるいくつかの事件、元ボクサーのパウロから聞いた「アグハドス」という見世物をするデリオとセニョーラの物語(これはもっともインパクトがありました)、そして編集者のイザベラと元民俗主義者のギブが語る、作家となったザカリーの最期。
どれもとても興味深い物語なのだけれど、この沢山の物語のうちいくつかは、最初から虚実が危ぶまれていて、結末を暗示していたのだと後から気づかされます。そもそも主人公の祖父、妻子を残して故郷を飛び出し世界を旅していたはずの祖父が、実はすぐ傍の村でこっそり数十年暮らしていただけだという不穏な噂も幼い主人公の耳に入っている。未開のジャングルの部族に、全身に植物の種を植え付けられ土中に埋められたと語った自己喪失者研究所の患者(エイモス・マッケンジー)の遺体には傷一つなかったこと、同居人に殺害されたレイチェル・マッケンジーは一人暮らしで客観的には自殺でしかなかったことなど、作り話、妄想、多重人格、いろんな要因はありつつ、けれど現実に彼らは不審な死を遂げている。
ラストのオチは、ある意味想定内だったのだけれど、そしてきっと賛否両論あるのだろうなと思いますが、個人的にはこれこそが「小説の本質」ではないかと思いました。どんな物語も、本を閉じた瞬間にすべて「作家の作り話」に過ぎなくなります。作家の脳内の妄想を、実在しない人物の生涯を、私たちはただ聞かされていただけだったのだなと。恋人のように、友達のように共感していた人物も本を閉じればどこにもいなくなる。この小説はそこまでひっくるめて体験させてくれただけなのだと思います。
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医者である父親に殺された母親の体の一部を体内に埋め込まれた四人兄妹。彼らのその後の数奇な生涯とは……。
ダークな想像力によって紡がれる、グロテスクで歪な物語が心地よい。こういうの大好物だよ。幾つもの語りを積み重ねることで虚実のあわいを曖昧にし、”物語”や”わたし”といったテーマを浮かび上がらせる構成も見事。『隠し部屋を査察して』の幾つかの短篇とリンクしてるのも嬉しいね。
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タイトルのセンスが良いと思った。パラダイスモーテル、良いですよね笑
一つ一つの話がとても面白くて、読めたけど、自分の理解力が無くて本質とか読めてない印象です。
メタメタな感じが面白かったのかな。
あと、個人的に人が人に話し伝える、みたいなシーンとかシチュエーションが好きなので、読んでてワクワクした。
茶の味という映画で浅野忠信が子供に話を聴かせるシーンとか思い出した。
結果、どういうことかわからなくても面白かったと思えるならそれはいい本なのではないでしょうか。
映画でいうとマルホランドドライブも意味わかってないのに最高に刺激的だった。
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よくもまあ嫌〜〜〜な話を思いつくな…
エリック・マコーマックの長編はいつもそうだ…
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こういう小説のことをどう書けばいいのだろう。
讀後すぐ書こうとするのが無謀かもしれないが・・・(読み手には整理する時間が要の小説なのです)
主人公はエズラという男性で、中年の彼は海の見えるパラダイス・モーテルの枝編み細工の椅子に座って少年時代のあることを回想しはじめる。
彼の祖父は突然家族を置き去りに失踪し、死期が近いことを察して自分の故郷、捨てた家族のもとにひそかに帰ってくる。
屋根裏部屋に横たわった死の数日前、老人は孫のエズラにこのような話をする。
失踪して、多種の職業に就いた祖父だったが、甲板員で雇われてパタゴニアに行った時のことだった。
その船で機関士として乗船していたザカリー・マッケンジーが語った話だがと祖父。
自分の小さな頃、住んでいた小さな町に南部訛りの医者一家が越してきた。
その一家は外科医と妻と4人の男女二人ずつの子供たちで、妻は美しく円満な家庭のようだった。
事件は、一家が越してきてから一月もしないうちに起こる。
それは想像を絶する事件だった。
外科医は自分の妻を殺害し、妻をバラバラにして、その妻の両手首と両足首を4人の子供たちの腹部に埋め込んだのだ。事件の発覚後、外科医は死刑になった。
その話を終えた機関士のザカリー・マッケンジーは、白いシャツをまくりあげた。ウエストラインのすぐ上に真横に走る長い傷跡が見えた。
パラダイス・モーテルで寛ぐエズラは、その子供たちのその後を知りたくなる。
ふつうは、この4人の子供の運命を辿っていく過程を書いていくものだが、いえ、書いてはいるのだが、そのエピソードたるやその冒頭の意表をつくショッキングさを凌ぐもので、
少年に蜥蜴を飮込ませシャーマンが釣り人のように糸を手繰って取り出すイシュトゥラム族の儀式の話や、
からだに植物が生えた話や、
串を身体に25本貫通させ、26本目で死んでしまったカーニヴァル藝人の話。
とにかくその筆致の滑りはすざまじく、まるでジェットコースターに乗っているように絶叫もののストーリーが続く。
その4人の子供たちのその後の運命は悲慘なものであったが、
この物語の最後は最初と同じくパラダイス・モーテルの枝編み細工の椅子である。
そして読者のわたしたちも、見たことも掛けたこともないその椅子の上で著者に騙され続けていたことを知るのであった。
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長い失踪の後、突然屋根裏部屋に帰宅した祖父が、孫に奇怪で悲惨な事件を語る。
四人の兄妹は、医者である父親に殺された母親の体の一部を、父親自身の手でそれぞれの体に埋め込まれたという話。
その後、大人になったエズラ(孫)は、四人の兄妹がそれからどうしたのかを探っていくと、皆奇妙な生き方や死に方をしていたことがわかり…という内容で、それぞれの死に様はとても印象に残るし文も読みやすく面白かった。
問題は最後。
ここで賛否両論わかれそうだなと思った。
こういう終わり方もありだとは思うけど、ちょっと肩透かしくらった感はあるかも。
途中が面白かっただけに余計にそう感じるのかもしれない。
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3.85/212
内容(「BOOK」データベースより)
『長い失踪の後、帰宅した祖父が語ったのは、ある一家の奇怪で悲惨な事件だった。一家の四人の兄妹は、医者である父親に殺された母親の体の一部を、父親自身の手でそれぞれの体に埋め込まれたという。四人のその後の驚きに満ちた人生とそれを語る人々のシュールで奇怪な物語。ポストモダン小説史に輝く傑作。』
冒頭
『パラダイス・モーテルのバルコニーの枝編み細工の椅子にすわって、彼はうつらうつらとうたたねしている。地面にうずくまるような羽目板の建物は、浜辺のかなたの北大西洋に面している。灰色の空のしたに灰色の海が広がっている。』
原書名:『The Paradise Motel』
著者:エリック・マコーマック (Eric McCormack)
訳者:増田 まもる
出版社 : 東京創元社
文庫 : 273ページ
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