- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560095591
作品紹介・あらすじ
写本の製作と受容から見る中世世界
巻物から冊子体のいわゆる写本へ主流が移ったヨーロッパ中世の始まり、それはデジタル時代・活字印刷の誕生と並ぶメディアの革新、つまり口述から書記への転換の始まりでもあった。本書は、物としての写本の材料と作られ方、製作にかかわった注文主・詩人や知識人・修道士や職業書記らの実態から、手にした人が本をどう読んだか、本と書かれたテキストの双方がもった政治的役割まで、当時の社会における本と、本をめぐる文化・社会的状況を、さまざまな角度から解説する。
なかでも、一種の文芸マネージメントから生まれた傑作・マネッセ写本についての、成立背景を含めた製作過程や、その後の数奇な運命とドイツ史とのかかわりの情報は、これまで詳しく紹介されたことがなく、またミステリのようにおもしろい。
「人の心臓より尊い」と言われた羊皮紙の世界、書記が一日に書ける分量と与えられた物質的・精神的報酬、仕事に対する書記のプライドや不満が書き込まれた挿絵や奥付、写本の窃盗事件あれこれ……。
物としての写本とメディアとしての写本をめぐる一冊。
感想・レビュー・書評
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著者:クラウディア・ブリンカー・フォン・デア・ハイデ
訳者:一條麻美子
3,300円+税
出版年月日:2017/07/21
ISBN:9784560095591
4-6 288ページ
本が手書き一点物だった時代の書籍文化誌
材料の調達から作品の政治的意味までを語る
写本製作にあたり注文主が、作者が、書記が、各種職人が果たした役割や、できあがった写本がもった政治的意味、さらに傑作「マネッセ写本」を生み出した文芸マネージメントまで、写本をめぐる文化活動をわかりやすく解説する。
巻物から冊子体のいわゆる写本へ主流が移ったヨーロッパ中世の始まり、それはデジタル時代・活字印刷の誕生と並ぶメディアの革新、つまり口述から書記への転換の始まりでもあった。本書は、物としての写本の材料と作られ方、製作にかかわった注文主・詩人や知識人・修道士や職業書記らの実態から、手にした人が本をどう読んだか、本と書かれたテキストの双方がもった政治的役割まで、当時の社会における本と、本をめぐる文化・社会的状況を、さまざまな角度から解説する。
なかでも、一種の文芸マネージメントから生まれた傑作・マネッセ写本についての、成立背景を含めた製作過程や、その後の数奇な運命とドイツ史とのかかわりの情報は、これまで詳しく紹介されたことがなく、またミステリのようにおもしろい。
「人の心臓より尊い」と言われた羊皮紙の世界、書記が一日に書ける分量と与えられた物質的・精神的報酬、仕事に対する書記のプライドや不満が書き込まれた挿絵や奥付、写本の窃盗事件あれこれ……。
物としての写本とメディアとしての写本をめぐる一冊。
<
http://www.hakusuisha.co.jp/smp/book/b288150.html>
【目次】
序
第一章 本ができあがるまで
1 材料の調達
2 書く・描く
3 写本製作の場
4 書記
5 本の外見
6 写本の値段
7 保管とアーカイブ化
8 印刷術という革命
第二章 注文製作
1 文学の中心地
2 文学愛好家とパトロン
3 文学マネージメント──マネッセ写本
4 愛書家──ある十五世紀貴族の図書室
第三章 本と読者
1 聞く・読む
2 身体としての本
3 五感と読書
第四章 作者とテキスト
1 詩人──匿名・自己演出・歴史性
2 作品──伝承・言語・文学概念
訳者あとがき
参考文献
書名・人名リスト
注と典拠
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写本や文学作品の制作・受容のされ方を通じて中世の人々の文化活動だけでなく政治的な思惑も見えてくる、とても興味深い一冊。文学には疎いが、残された写本から当時を探る試みには謎解きミステリのような高揚感を覚える。中世のヨーロッパにおいて信仰と不可分だった本が次第に世俗の人々のためのものになり、本作りに携わる人々が自意識に目覚め、自己主張を始めていくというくだりは文学も音楽も同じということだろうか。近代以前の音楽が演奏される文脈と分かちがたいものだったように、文学も作られた時代や環境と切り離して考えることはできないのだと改めて認識することができた。
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活版印刷が生まれる前、本はすべてが一点物だった。写本ができるまでとできてからの動向を追い、ドイツを中心に、中世の貴族社会におけるメディアとしての写本文化を考える。
副題は「ヨーロッパ中世の文学とメディア」。本づくりが一大事業だった時代、それは宗教的・政治的にどんな力を持っていたのか。初期は大がかりな写本づくりは修道院の写字室で、書記担当の修道士たちによっておこなわれていたが、世俗の世界にも文官という役職が生まれるに従い、写本づくりも町の工房へと広がっていった。また、修道院が経済的な理由で世俗文学の写本や、ゲーム盤やカルタなどの作成を請け負うこともあったという。
本書の中心トピックは、やはりマネッセ写本という美本が生まれた背景を追う第2章だろうが、個人的に面白かったのは〈作者〉という概念の誕生過程に迫る最終章。注文主(パトロン)と詩人と書記の関係は、作品に署名してオリジナルを主張するのが当たり前の現在とは当然異なる。13世紀の神学者ボナヴェントゥラは、写本テキストの筆者を「書写する〈書記〉、つけ加えるが自分の考えは入れない〈編纂者〉、テキスト解説のために自分の考えを入れる〈注釈者〉、自分の考えが主で、それを補強するために他のテキストを引用する〈作者〉」という4つのカテゴリーに分けたという。
また、写本研究史上の反省も興味深かった。たくさんの異本を組み合わせれば「正しいオリジナルのテキスト」が抽出できるという思い込みは、中世ドイツにあたかも標準語があったかのような幻想から生まれている、というくだりなどはさまざまな歴史研究で肝に銘じなければならないと思う。図版も穴が空いた羊皮紙や、破損して糸で縫われたページなど見れるのが面白い。ヴェラムが本当に貴重なものだったことが窺える。羊皮紙の本、一度触ってみたいなぁ。 -
書誌学を学ぶ初心者として選んだ一冊。
物理的な「本」から精神的な「読書」まで、幅広い考察がわかりやすい訳で繰り広げられていて大変面白かったです。
本を読むのは得意ではないですが、本が「いつでも待っててくれる先生」だと思うと、今日も読んでみよかなと前向きになれると感じました。
大した感想は述べられませんが、物質的な本としての評価はとても高いです。紙のしっかりとした質感、表紙の暖かみ、ゆったりとしたレイアウト。
追い詰められることなく自分のペースで読めました。 -
<閲覧スタッフより>
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所在記号:022.23||フリ
資料番号:10238868
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参考文献一覧で和訳のあるものが分かりやすい。注でも、日本語書名とページ数のある項は和訳が出ているもの。これがとてもありがたい。簡単な解説付きの書名人名リストがまた、似た名前をちゃんと区別しながら読むのにたいそう便利。
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タイトルには「写本」とあるが、中世ヨーロッパの「文学」全体を扱っているといえる本。「写本」は中心的なテーマであるが、本書の内容はそれのみにとどまるものではない。
物としての「本」の作られていく過程を追う前半部分も興味深いが、後半部の作者とテクストの関係を考察している部分も面白い。