本当にあった? 恐怖のお話・怪

  • PHP研究所
4.00
  • (1)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 28
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (173ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569787411

作品紹介・あらすじ

児童文学界で活躍中の著名作家10名による短篇アンソロジー。「悪夢」や「呪い」など、自身が体験した恐怖の出来事を物語にした一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本当にあった、怖い話をお教えしましょう。これから紹介する話は作者が実際に見たり、聞いたりした話だと言うのです。背筋がゾッとなるような話から、鳥肌が立つような気味の悪い話……。貴方の好きなお話はあるかしら?

    ***

    本当にあった?恐怖の話シリーズの全三巻の内の二巻目。『怪』と銘打っているので怪談本かと思って手に取ったが、内容は広義での怖い話なので、怪談を読みたい人からすると、やや方向性が違う話もあるため要注意。怪談めいた話もあるが、人間が怖い話もあったり、日常に潜む危険を書き出した話もある。児童書で様々な作品を手掛けている作者が名を連ねており、何人か読んだ事がある作者の名前もあった。それぞれの話が読みやすく、サクサク読めた。 お気に入りの話は「戻らずの森」「まぶたがおちるのよ」「小指姫の小指」。「戻らずの森」は語り手が田舎で体験した恐怖体験。夏休みに祖父母の家に泊まりにきた語り手。一つ上の従兄と一緒に虫取りに出かけることに。従兄が見つけた昆虫がたくさんいる場所に案内してくれることになった。しかし、その場所は入ってはいけないとされる『戻らずの森』という名の森の奥だった。
    田舎で言い伝えられている禁足地である森の中で繰り広げられた絶望的な体験。昆虫がたくさんいる場所にたどり着いたはいいが、何故か帰れない。その名の通りこの森は一度入ったら戻れない森だったのだ。何度も何度も同じところをぐるぐる回り続ける情景に読みながら胸がどきどきした。深い森の中なので同じところを回っている気になっているのかと思ったが、行くときに目印にしていたお地蔵さんが繰り返し、繰り返し現れ全然前に進んでいないことを知って、語り手と同じように絶望してしまった。
    またそのお地蔵さんが不気味で(しかし、お地蔵さんにしたことを考えると自業自得)お地蔵さんといえど、聖なるもの。触らぬ神に祟りなしだなぁと思った。人間の格好をしたお地蔵さまに従兄は結果として攫われたような形になり、語り手はこの話は絶対誰にもするなと約束させられる。この辺りは古典的な怪談の要素があって面白かった。オチもなかなか怖く、更に絶望的な気分になった。

    「まぶたがおちるのよ」はこれは怪談のような話。霊感のある作者が大学生の時に体験した奇妙な体験をつづった物語だ。大学生のころは自分に霊感があるとは思っていなかった作者。ある日、1人暮らしを始める友人の物件探しに付き合い、内見をしていると三軒目の物件でまぶたが半分ぐらいずり落ちる。眠たくもないのにうとうとと微睡んでいる時のようなまぶたの様子に戸惑っていると、友人はこの物件が気に入ったのか契約を早々に住ませてしまった。その時はよくわからない現象に首をかしげていただけだったのだが、後日一緒に遊びに行った後輩から、衝撃的な事実を告げられた。 こちらは物件ホラーではあるのだが、住んでいる人間に何か怖いことが起こったり、作者自身が酷い目にあったりするわけではないので、ガチガチに怖い物件ホラーを好む人には物足りないかも。しかし、住んでいる友人の裏で知らない間に後輩と作者の間で交わされる事実にぞーっ。怖いというよりはひたすら不気味さを楽しむような話だった。ここに出てくる後輩はどうやら作者よりも霊感があり、しっかり幽霊の存在を感じ取れる様子。その後輩が推測ではあるがあのアパートができるよりずっと前に何があったのかをこっそり教えてくれた。もしそうだったとしたら、今の状況では瑕疵物件ではないだろうが、歴史的な事情を知ったら十分に心理的瑕疵物件だ。後輩が裏から手を回し対策をしてくれたおかげで、友人は曰くありの物件で怖い思いをすることなく平和に一人暮らしを謳歌できたようだが、もし事実を知る機会が来てしまったらひっくり返るほどびっくりするに違いない。知らぬが仏とはまさにこのこと。

    「小指姫の小指」は人間怖さとオカルト的な怖さが融合した話。人気の男性アイドルに憧れる語り手とその友人。昔からの親友である二人は、アイドルになりたいという同じ夢を持つ二人でもあった。その思いはこの男性アイドルを好きになったことにより、一層大きくなっていく。しかし、語り手は一般家庭の娘、もう一人は大きな屋敷に住む金持ちの娘。環境面、金銭面でも劣る語り手は、友人と同じようにはなれないと内心で諦めていた。 この辺りで、徐々に二人の間に亀裂が生じ始めたが、友人が男性アイドルのコンサートに行ったことが知れ、決定的なものに。決別した二人は別々の道を歩き始めた。友人は努力をかさねアイドルの道を突き進み、その事実に嫉妬に狂った語り手は、友人を引きずり下ろすために呪いという手段に出てしまった。 人間の嫉妬心が呪いを作り上げていく様に恐怖した。しかし、確かにこれは嫉妬する。アイドルを目指すという同じ夢を持っており、同じ男性アイドルを好きになった2人。片や親の協力もあり夢が叶い、片やそれを眺めるしかない。2人は本当に仲のよい親友だったのだろうが、それぞれがそれぞれに抱えていた思いがあったのだろう。それにしても、夏休みに語り手に黙って男性アイドルのコンサートに出掛けたのはちょっとなーというのが正直な感想だった。しかもそのまま黙っていればいいのに、そのコンサートのプログラムを語り手にあげようとしたので余計に話が拗れたのでは。(友人はたぶんお土産として喜んでくれると思ったのだろうし、その気持ちは分かると言えば分かる)親友が黙ってコンサートに出かけたという事実はかなりショックだったに違いない。裏切られた!と感じたかも。語り手がお土産を喜ばず、怒ってしまった事に戸惑いつつも、誘ったら誘ったでお金がないってどうせ断るくせに、という友人の内心の呟きも、聞いていてもやっとする。2人とも小学生で、語り手が行くには親がお金を出すしかないので行けない確率は高いだろうが、一応聞いてみてもよかったのでは……。聞かないなら最後まで黙っていてほしかったかも。この友人の感覚が何となくずれている気がして、ついつい語り手の肩を持ちたくなってしまった。 嫉妬に狂い、身を焦がす語り手は呪いを友人に届け、その呪いを更に増大させていく。ラストの不穏な雰囲気にこれから友人の身に起こるであろう惨劇は、十分にアイドル生命を断てるだけの威力がありそうだ(それどころか生命そのものも断ちそうな勢い)。最後がどうなったのかハッキリ書かれていないのでどちらかは分からないが、私はきっとこの呪いが成就したに違いないと思う。 レビューサイトでレビューを見ると、評価が何故か低かったこちらのシリーズ。怪談にこだわって読むと確かに拍子抜けするかもしれない。 しかし、内容はどれも面白かった。一と三巻は所持していないので読むのはまだ先になるだろうが、是非次も読みたいと思える恐怖の短編集だった。

全1件中 1 - 1件を表示

著者プロフィール

山本悦子(やまもとえつこ)愛知県生まれ。『神隠しの教室』(童心社)で第55回野間児童文芸賞を受賞。主な作品に『先生、しゅくだいわすれました』『先生、感想文、書けません!』『がっこうかっぱのおひっこし』(共に童心社)『夜間中学へようこそ』(岩崎書店)『はっぴょう会への道』(PHP研究所)『神様のパッチワーク』(ポプラ社)など多数ある。日本児童文学者協会会員。

「2023年 『がっこうかっぱの生まれた日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山本悦子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×