半暮刻

著者 :
  • 双葉社
4.04
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本棚登録 : 1339
感想 : 114
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575246810

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった!
    実際にあった過労死や広告代理店の中抜き問題を匂わせていて、なかなか読み応えがある作品。

  • まさに月村作品の真骨頂。ラストが少し好みではないが、全く違う出自の主人公ふたりの交錯とその後が丹念に描かれていて、心情描写が秀逸。直木賞でも本屋大賞でもいいので受賞させてあげて、万人に月村作品に触れてほしい素晴らしい傑作。二部はどうみても電通の体質をこれでもかと喝破していて日本のタブーの一端も垣間見せてくれる。

  • 児童養護施設で育ち、孤独な青年・翔太が素行の悪い先輩に紹介されたのは会員制バー『カタラ』。<マニュアル>を駆使して女性たちを落とし、金銭的に身動きの取れなくなった所で風俗へ堕とすのが仕事だ。
    有名大学の学生で実家も裕福な海斗とはまるで対照的ながら2人は意気投合し、次々とのし上がって行く。

    自分の罪を自覚し、罰を受ける翔太。その意識と犯罪者のレッテルから苦しみもがき続ける。
    一方の海斗は『カタラ』での罪などまるで無かった事として一流企業で優秀なビジネスマンとして過ごしている。

    同じ悪行を犯し、罪を受け入れた翔太のその後に当然と思う自分と憐憫を感じる自分がいる。もう許してあげたいと思うのと反対側では女性として嫌悪感を抱くのだ。少なくとも人間に対しての感情を。

    海斗は、途中から人間として見られなくなっていった。<マニュアル>を理解し、周囲の人々の動向言動から「この場で最高最適な人物」を演じ、高みを目指し続ける。自分以外は道具にしか見えていない。
    終わらないミッションをクリアする為だけに生きているAIのようだ。海斗の章は寒気と薄気味悪さが終始付き纏う。ただ。ラストで唯一人間らしき感情が見えたのは印象的だった。

    白でも黒でもないグレイ。半暮と表した月村さんの絶妙なことば選びに長い長い溜息をついた作品でした。

  • 日本で起こった色々な事件を下地としたお話。主人公二人は対照的な生い立ち(でもモデルのように格好良い)。施設育ちで中卒の前半主人公の翔太。キャリア官僚を父に持ち、優秀なG大の学生海斗(後半主人公)。二人は女の子にお金を使わせ、破産に追い込み、風俗へ送り込むカタラというグループでコンビを組み、町で女の子を誘っていた。しかし、カタラは警察の手が入り、翔太だけが有罪となる。
    後半はカタラ後の世界。海斗はカタラのことで訴えられることもなく、上手く逃げおおせ、優秀な学生としてアドルーラーという広告代理店に採用された。
    胸糞悪い話ばかりで、読んでいてムカムカします。でも、この先どうなるの?っていう危うさを常に孕んでいて、とにかく先を読んでしまう。救いは翔太の生き方と、本の力を上手く取り入れられて話が進むこと。こんな風に本が力となれたら理想だよね。
    大人になる前にこの本と宮部みゆきの「火車」を読了するだけで、危険から回避できる注意深さが得られるかも。
    重い話や社会的な話が好みなら★5です。私はもっと楽しくなれる話が好きなので…。
    日本社会の暗黒面や風俗の話が出てくるので、小学生には早いと思います。高校位からが無難。あ、でも大学一年位までに読んだ方が良い本です!特に進学で都会に出てきた地方出身女性。

  • 年末も年末、2023年12月30日に読了。

    前半も良かったけど、後半がすごかった。

    電通と思しき大手広告代理店アドルーラーに勤めるもう1人の主人公・海斗が、公金を自社の上層部や政治家に還流させるスキームを作り、そこに半グレやヤクザが入り込み、他方、高橋まつりさんをモデルにしているだろう部下を追い詰めて自殺させる…。

    電通の東京五輪談合事件もだし、きっと大阪万博の背後では、実際にこんなふうに公金を際限なくかすめ取ってる人たちがいるんだろうと思う。
    海斗が大学のイベントサークルの後輩らに、芸能人等の接待のために、お持ち帰り用の女を用意させるとか、最近話題の松本人志の事案も想起させるし、いろんなことがタイムリーすぎる。

    海斗の上司が、次にアドルーラーが狙うのは憲法改正時の国民投票だと言ってて、オエッてなった。
    前々から、憲法改正の国民投票について、直前以外はCM規制がなく、金に物言わせて政府与党の好きなように世論を作れるからヤバいと言われてるよね。

    海斗は一旦破滅?するんだけど、もう1人の主人公・翔太とは異なり、本質的な気づきや反省はまったくなく、薄気味悪い。
    部下、ヤバいヤクザ、そして翔太という別々の立場の3人から、同じように邪悪だと指摘されても、本人は何も分かってない。
    海斗にはある意味、救いがない。
    なので、物語としては、変な終わり方ともいえる。

    最後、翔太が懸命に海斗に伝えようとするんだけど、会話だけでそれをやられると読者としてはちょっとしらけてしまう。
    著者の伝えたいことを台詞でダイレクトに伝えようとするのはあんまり好きじゃない。
    翔太と海斗の対比が弱くて、その2人を主人公にして、最後に対峙させることで読者に何かを見せようとした著者の目論見はうまく行ってない。

    でも面白い作品でした。
    現実を描いてるだけじゃん、という見方もできるかもしれないけど、それをこんなに緊迫感を持って読ませるのはすごいと思う。

    月村了衛って筆が早いよね。
    しかもこんなにテンションの高いものをコンスタントに出せるのは立派。

  • 「翔太の罪」「海斗の罰」
    二部構成の社会派ミステリー。

    毒親を持つ翔太は児童養護施設で育った元不良。
    かたや海斗は何不自由ない家庭で暮らし、有名私大に通う大学生。

    そんな二人が出逢い半グレが経営するバーで働き始める。

    バーを名乗りながらも、その実情は女性を借金まみれにして風俗に落とす事が目的の犯罪組織。

    犯罪が明るみになってからの二人の人生が対照的。
    堕ちて行く翔太と、要領の良さでずる賢く立ち回る海斗。
    二人の動向から目が離せなかった。

    良心の呵責に苛まれる翔太、邪悪な心を持つ海斗、彼等を通して人としての生き方が問われる。

  • これぞ読書!でしょう!!
    ページをめくる手が止まらない…と帯にあったから期待して読んだけど、裏切られなかった!
    こんな面白い本は久しぶり!!映像化しそう!って思いました。

    本を読めば、その時代が垣間見える…など私の好きな要素も詰まっているし、これを1冊読めば社会の闇にうんざりもするけれど、ハマることもないんじゃないかな?と思えるような。。

    2人の半グレに入った子供が、それぞれの日常を生きる中で掴んだものはかけ離れていて。
    どっちが本当に「学んだ」のか?を見られる結末は本当に心に沁みた。

    クズとは何なのか?を見事に描ききっていて、思わずこの作者の他の本を読みたくなった!
    クズは自覚がない。確かに。人を傷つける動機を正当化したら振り返ることがない…振り返れないのだと。

    広まって欲しい本に久しぶりに出会いました!

  • アドルーラーがどこの会社か容易に想像できた。
    事実は小説はより奇なり。
    実際にあるんだろうな、、、いや、あったね。
    ある意味ノンフィクション小説。
    海斗の回は終始胸糞悪くて、結末は想像できたけど罰が足りない!!!

    450ページ1日であっという間に読了。
    久しぶりに紙をめくる手が止まらない小説だった。

  • ノンフィクション!って思わされる物語。

    正直めちゃくちゃ面白く物語の中に吸い込まれました。
    リアルにあってもおかしくない社会の闇。

    二人の主人公が闇に堕ちていく姿、
    そこから這いあがろうと奮闘する姿などなんとも心が震わされました。

    闇の世界って恐ろしいとも思わされましたね。
    この小説は読む価値のある小説でした。

  • 面白かった!社会はミステリー?ここまでえぐく切り込んだ作品は初めて読んだ。話の起伏がめちゃくちゃ激しいかと言われると、個人的にはそこまで感じない。ただ、それでもページを捲る手が止まらなかった。最近少し読書が止まっていたが、この作品がまた読書習慣を復活させてくれそう。とりあえず、他の月村さんの作品を読み漁ろうと思う。

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著者プロフィール

1963年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒。2010年『機龍警察』で小説家デビュー。12年『機龍警察 自爆条項』で第33回日本SF大賞、13年『機龍警察 暗黒市場』で第34回吉川英治文学新人賞、15年『コルトM1851残月』で第17回大藪春彦賞、『土漠の花』で第68回日本推理作家協会賞、19年『欺す衆生』で第10回山田風太郎賞を受賞。近著に『暗鬼夜行』『奈落で踊れ』『白日』『非弁護人』『機龍警察 白骨街道』などがある。

「2021年 『ビタートラップ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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