- Amazon.co.jp ・本 (604ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582765526
感想・レビュー・書評
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「絶滅」した江戸時代の日常を、来日していた西洋人の(概ね客観的と考えられる)記録を通して描き出す。懐古趣味、過去の礼賛、西洋主観、日本の美化etcが著者の意図ではない事は繰り返し語られ、それは本当と思うが、やはり欧化前の日本を偲ぶテーマである以上、膨大な(西洋人が伝える)過去の美点を聞き続けていると終いにゲップが出る。
ただこれ程多彩な視点から西洋人による日本の観察を集めた本は貴重で、その風景風俗人間の描写もきめ細かく、読んでいるうちに、まるで150年前の日本にタイムスリップしたかの様な気分にさせられる。その世界にどっぷり浸かって、先祖の暮らしを眺めて楽しむのが正解。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読み進めるうち、
昔の日本人は、なんて可愛くて、愉しくて、素敵なんだろうと思うと同時に、
自分がその時代の日本人でないことが、とても残念で切なく思えてくる本です。
この本は、文明開化の頃に来日した外国人の言葉を、好悪の区別なく集めたものです。
作中で作者は、昔の日本人を妖精のようだと言いますが、好奇心旺盛で、前向きで忘れっぽく、情け深くておせっかい(笑)、本当に真夏の夜の夢の妖精達を思い出し、こんな時代に生まれてみたかったと、妖精の国の子孫として溜め息ついてしまう良作です。
こうした本は、作者が読ませたい方向に誘導するものが非常に多いのですが、この本は、その誘導しようという所が少なく、とても気持ちが良い本に仕上がっています。
一度廃版になった時はショックでしたが、同じ思いの方が多かったようで再販。
版を重ねています。
この作者の方の別作品では、この作品よりも読者を誘導する傾向がありましたので、これは編集者との素晴らしいバランスで仕上げられたものだと感じます。
ぜひ一読されてみてください。 -
海部さんの推薦。
貧乏だけど、貧困はない。
そこのところだけ読む。
どうも懐古趣味・・・ってこともないけど、
好きなジャンルではないなあ。 -
日本が西洋化し近代化する過程で失った明治末年以前の文明の姿が描かれています。
主に幕末から明治にかけて日本を訪れた外国人の記録からの引用をもとに書かれているのですが、その量と質に圧倒されました。
最近流行りの日本礼賛本のようなナルシシズムでもなく、
学校で習ったような自虐史観でもない、
当時の庶民の暮らしや風土が事細かに描写されていて、
目から鱗の連続でした。
確かに当時の日本人の心性というのは、今の我々にも受け継がれている気もするのですが、
読み進めるうちに、「やっぱりこれは滅びてるな」という諦念に行き着きます。
このように考えている自分の思考の枠組み自体が、西洋(キリスト教)文明の影響を大きく受けていることに気づくと同時に、
その影響下に世界中が置かれる現代において、心苦しい思いをしているであろうイスラム世界の人々に思いを馳せてしまうのでした。 -
書のタイトルが素晴らしい。江戸時代までの日本の文明は一旦消滅した!それ以降は美しい日本が失われたと、明治期の外国人が、そして日本人が感じていた。江戸末期の日本が世界でも稀にみる美しい国だと思われていたことが、今では不思議なほど。逆に明治の指導者はその事を日本が小馬鹿にされていると嫌っていた!親和と礼節、陽気、質素ながら豊かさを感じさせる清潔さ、辛い労働をものともしない掛け声。世界一の大都市江戸が田園に囲まれた美しい街、長崎は世界の美港を上回る夢のような美しい場所だったり、当時の西洋人が日本に驚き、憧れたことは当然だろう。この他、男女混浴・道路での女性の行水は再三繰り返されている話だが「美しい妖精の国」との評価にはこれも入っていたのかも。文明国との評価の一方で、開けっ広げな裸に戸惑う外国人の姿が可笑しい!女性が強く地位が高いとの観察! 子供の楽園、花見、宗教信仰心が薄い江戸日本人など、私たち面白い豊富な見聞録が実に楽しいのである。日本人の原点を考えるきっかけになる。同じ東洋でありながら日本と中国の印象の大きい違いも面白いところ。中国が清の腐敗期にあったことを考えると公平ではないとは思うが。
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「逝きし世」とは、18世紀中葉に完成した江戸期の文明のことをいう。この文明は明治に入ってしばらく余命を保っていたが明治末期には完全に滅亡したらしい。幕末から明治初期の人々の<日本人離れ>した活躍などもこの文明の文脈で見なおしてみると腑に落ちるところも多いのではないか。
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大変な労作だなあ、と、ただただ感じ入った。
近代に入って失われた、過去の日本の「文明」のありようを明らかにしようとした本。
人々に漲っていた陽気さ、好奇心。
性的に放埓で、うそつきといった側面もありながらも、仕事に対しては忠実な人々。
これまでにも明治以前の時代を説明した歴史系の本は読んできたけれど、人々の持つ雰囲気までは分からなかった。
筆者は、近年のオリエンタリズム批判を意識して、自分が過去の日本をただ理想化しようとしてはいないと強調している。
そして、随所で一つのイメージに収斂しすぎないように、対立的な、あるいは別の見解に結びつくような資料も丁寧に取り上げていた。
「ありのままに」逝ってしまった世を見ることはできないことを自覚しつつ、当時の外国人たちに記録された美しさを確かにあったものとして捉えていく。
その「美しさ」には、やはり魅了されずにはいられなかった。
以前、森まゆみさんの『鴎外の坂』を読んだ。
そのとき、明治初期の東京の自然の美しさに目を瞠った。
そのときは、それは二人の森(鴎外、まゆみ)の筆力のなせる業かとおもったけれど、本書を読むと、やはり「確かにそこにあった美しさ」だったのだとも思わずにはいられない。 -
昭和を問うなら開国を問え。そのためには開国以前の文明を問え……。幕末から明治に日本を訪れた、異邦人による訪日記を読破。日本近代が失ったものの意味を根本から問い直した超大作。
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徴税も自然も性も死も、全ての存在を肯定し許容するのがあの時代の日本人なのだろう。それが生活を安定させ、安定が自然を愛する余裕を生み、自然に密着した生き方がまた肯定・許容に繋がっていく。
本や何かで聞くステロタイプな日本人観からちぐはぐさを感じていたが、そうではないのだということがわかった。
本書では敢えて触れていない「ダークサイド」にも踏み込んでみたい。 -
数々の雑誌で名著として紹介されていたためぜひともと思い読み始めた。
幕末から明治にかけての日本の姿を、日本に訪れた異国人が書き残した文献から当時の日本の姿が書かれている。
正直、読み始めは「誰がこんなことを書いている」という内容で退屈さを感じていたが、読み進めるうち、当時の日本の風景が頭の中に思い描かれ、「古き良き日本」という言葉が連想された。
自分の祖母、あるいは田舎の母親の姿も多少なりとも重なるところがあり、現代のわれわれの生活すべてと比較して、うらやましさを覚えた。
本書末に書かれている言葉が、非常に印象に残った。
「幕末に異邦人たちが目撃した徳川後期文明は、ひとつの完成の域に達した文明だった。
それはその成員の親和と幸福感、あたえられた生を無欲に楽しむ気楽さと諦念、自然環境と日月の運行を年中行事として生活化する仕組みにおいて、異邦人を賛嘆へとすぁそわずに葉いない文明であった。
しかしそれは滅びなければならぬ文明であった...」
すべてがすばらしいというわけではないにしても、当時の人の顔からにじみ出る幸福感というものは、多くの異国人が書き残していることであり、当時はその生活で幸せだったのであろう。
近代文明の進出により便利になった反面、幸福感も減少してしまったのであろうか・・・
もう戻れない時代ではあるものの、そんな時代に暮らしてみたかったと思わされた。