逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 211
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  • Amazon.co.jp ・本 (604ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582765526

感想・レビュー・書評

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  • 冒頭の章で、本書の資料として外交人の手記を用いることを通して、いわゆる左翼的知識人を批判しつつ、文化人類学の神髄とポストオリエンタリズムを説くあたり冴えている。

    いわゆる「厚い」記述が続く。

    第7章 自由と身分が面白い。抑圧されていた庶民のイメージが変わる。
    第9章 女性の位相も考察が良い。この時代の女性の人間関係のダイナミズムを浮かび上がらせつつ、現代が短期的な地位の平板さに落ち込んでしまっていることに思いがいたった。
    第10章 子どもの楽園は驚かされた。男が赤ん坊を抱いていた!とは。 
    第14章 心の垣根での本書のまとめ方は見事。

    著者は時代は変わるということを前提としている。
    しかし、私にとってはこの本で披露されている文明がたとえ滅び、昔噺に過ぎなくなってしまったとしても、現実にあったことなのだ、という事実は希望に感じる。あるべき社会をイメージすることほど、難しいことはないからだ。

  • 今の常識が過去の常識ではない。ここ数十年の話に過ぎないことも昔からのことに思っていることが多い。
    そういうことを痛感させられる。

  • 古き良き日本と言ったりする。江戸時代の庶民の暮らしや「三丁目の夕日」。みんなが夢を持っていた的な。でも本当にそうだろうかと思い購読。江戸末期から戦後までの日本を訪れた外国人の記録を中心に、その頃の日本と日本人がどう見られていたかを膨大な文献から分析・まとめたもの。この時期に日本を訪れる外国人は観光客などではなく研究者や軍人、政府関係者であり日本に対する知識水準は高かったと思われる。礼儀や従順さ、幸せな笑顔、清貧など、「三丁目」的な評価の一方で、男女問わず人前で行水することを全く恥じない様子や武士による切り捨て御免、乞食や娼婦の多さ、出稼ぎ労働者に対する劣悪な労働環境など、東京オリンピック間近でも影の部分は少なくない。こういう面もあったのかと忘れずにいたい。

  • 江戸時代の日本を訪日した外国人の視点で文化、文明を紐解いていく。
    失われたものは何であったのか?そして残されたものは何であるのか?
    あらためて考えさせる一冊。

  • 幕末期から明治期に日本を訪れた外国人の訪問記を通して,近代日本の文明と全く違った様相を持つ,江戸期の日本の文明が,どのようなもので,どうやってそれを失っていったかを描いている.
    筆者の引用による文明開花以前の日本は,人間,社会,それを取り巻く自然,どれをとっても,なにかしらのびのびとした自由が感じられる.こういうことは実際に住んでいる人にはわからなくて,異邦人の目を通してのみ感知されることなのだろう.それが,こうやって提示されてみると,ある種の喪失感にとらわれざるを得ない.仕方ないとはいえね.

    さて,ここからはこの本にあまり関係ないこと.
    昨年から,読書量が激減している.読み始めても最後まで気持ちが続かない.そういう意味ではこの本は久しぶりに読みきった本である.そうはいっても正月に読み始めて,ずいぶんの中断のあとようやくといったところ.

    毎年,ある程度のレベルの本を仕事に直接関係するものは除いても70冊程度読んできたのが,ことしはこのペースだと20冊くらいか.くだらない時間潰しの映画ばかり見ている.
    原因は何か.体力の衰え,視力の衰え,気力の衰え.それにともなって読みたい本が激減.本屋に行っても読みたい本がない.昔は定年になったら読書三昧だと思っていたが,こうなってくると,かなり難しい.手元にある本も少しずつ整理するのが良いかも.

  • かなり分厚いので果たして無事に読み終えるのかと不安だったけど
    なんだかんだで最後まできっちり読めた。
    古き良き日本と言ってもいいのか悪いのか
    今の生活とは考えられない幕末~明治初期あたりまでの
    外国人が実際に日本に来て、その目で見た日本の姿が鮮明に描かれている。
    これをまとめるのはさぞかし大変だったろうと心から感服すると共に
    今の殺伐とした平成最後の世とはあまりにもかけ離れているような
    あぁでもこんな時代もあったのだなと沁みる。
    もちろんいい面も今では考えられないようなこともあったにせよ
    そこ百何十年前まではこの姿が、ごく当たり前だったのかと思い知らされる。
    色んな歴史の本を読んだけど
    教科書には決して載っていない、ありのままの暮らしや文化・環境が
    ものすごく新鮮だったし勉強になったなぁ

  • これでもかと日本礼賛がなされる。豊富な文献をあたり外国人の視点から客観的に記述しているようだが、あまりにも話が美しすぎて辟易した。

  • 秀作。
    150年前に日本の一つの文明が存在し、消滅しようとしていた。
    まだ自分が子供だった、50年ほど前にも僅かに残っていたと思う。
    お金にとらわれない、時間にとらわれない、笑って生きる。
    礼節はわきまえ、助け合う。
    自然が豊か。

  • 幕末から明治初期にかけて各国から訪れた外国人たちの記録がまとめられています。
    お偉い方ではなく、一般庶民の様子がこれでもかというくらい載っており興味津々で読めました。(ただ文章がかためで私には読みにくかったですが)
    それがまた外国人からの視点という、超第三者による記述ってとこがまた面白かったです。

    私はこんなにもこの時代の人たちが自由で陽気だとは思いもしなかった…まるでラテン系の人々の話を読んでいるようだったし、北欧社会の今の人々の満ち足りた暮らしを読んでいるようでもありました。
    なんて素敵な文明が日本にはあったのか!
    そしてそれはそうそう遠い過去でもない。だがしかしとても遠い過去。
    文明はいずれ滅びるものなのかと思います。そしてまったく同じ文明を創り上げるのも不可能だと思います。
    だけど現代の私たちがここから学びとれることはたくさんあるのでは…。

    貧乏人はいても貧困は存在しない。
    下層社会でも人々は満ち足りており、「貧しくても豊か」
    本能的に美意識に長けており、とても悠長で、自由でそして陽気
    子供にとっての楽園

    いろんなところから入りこんでいる「価値観」というものが良くも悪くも私たちの生活に大きな大きな影響を与えているのは確かで、でもこの本を読むことでその価値観をまずは一蹴することが大事なんだなと思いました。
    その長く続いた文明が一瞬にして姿を変えてしまった要因となる「今の価値観」というものがなんなのか、この本に載っておりました。

    子育てしてる人にもオススメだったりします。今の日本にはない子育て法。私はとても勉強になりました

  • いわた書店一万円選書で登場する本。
    600頁もの大作。
    数多くの外国人訪日記をもとに幕末から明治初期の日本をあぶり出している。
    日本人の簡素さや豊かさ、性、女性、子供、日本の風景や景色、宗教観など14章に渡って書かれている。
    著者は昭和を書きたいが為に幕末から明治初期を紐解いたということだが、そういう意味では文明としては大きく発展を遂げたものの精神性は昭和のそれと何ら変わらないことが良く分かる。

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著者プロフィール

1930年、京都市生まれ。
日本近代史家。2022年12月25日逝去。
主な著書『北一輝』(毎日出版文化賞、朝日新聞社)、『評伝宮崎滔天』(書肆心水)、『神風連とその時代』『なぜいま人類史か』『日本近世の起源』(以上、洋泉社)、『逝きし世の面影』(和辻哲郎文化賞、平凡社)、『新編・荒野に立つ虹』『近代をどう超えるか』『もうひとつのこの世―石牟礼道子の宇宙』『預言の哀しみ―石牟礼道子の宇宙Ⅱ』『死民と日常―私の水俣病闘争』『万象の訪れ―わが思索』『幻のえにし―渡辺京二発言集』『肩書のない人生―渡辺京二発言集2』『〈新装版〉黒船前夜―ロシア・アイヌ・日本の三国志』(大佛次郎賞) 『渡辺京二×武田修志・博幸往復書簡集1998~2022』(以上、弦書房)、『維新の夢』『民衆という幻像』(以上、ちくま学芸文庫)、『細部にやどる夢―私と西洋文学』(石風社)、『幻影の明治―名もなき人びとの肖像』(平凡社)、『バテレンの世紀』(読売文学賞、新潮社)、『原発とジャングル』(晶文社)、『夢ひらく彼方へ ファンタジーの周辺』上・下(亜紀書房)など。

「2024年 『小さきものの近代 〔第2巻〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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