両手にトカレフ

  • ポプラ社
4.03
  • (233)
  • (313)
  • (160)
  • (21)
  • (2)
本棚登録 : 3239
感想 : 301
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591173992

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み

  • 記念すべき2022年読了100冊目。やった〜。

    以前からずーっと読みたいと思っていた本。
    たまたま知人が貸してくれることになり、たまたま100冊目のタイミングで読み終わることができて嬉しい。

    軽々しく「面白かった」で片付けてはならない、あらゆる社会問題に光を当てた一冊でした。

    根強く階級社会が残るイギリスで、不安定な母親を持ち経済的に困窮している中学生ミア。
    100年前の日本を生きた1人の少女、金子文子。
    ミアは、自分と重なる部分が多い文子の自叙伝に夢中になる。
    作品では、文子とミアの世界が交互に描かれていく。

    短期間イギリスに住んでいたことがあるが、その深刻さは全く伝わってこなかった。
    でもこれがリアルなんだろう。
    きっと華やかなイギリスの裏に、日本以上に逼迫した日々を生きる人たちがいるんだろう。

    第9章の「子どもであるという牢獄」というタイトルは胸に刺さるものがあった。
    子どもだという理由で守られることがたくさんあるのと同時に、逃げられない、避けられないことも多すぎる。

    あまり明るみになることはないが、日本でも子どもの貧困は7人に1人に上ると言われている。精神的な病に罹る人が多く、自殺大国と言われる日本にも、きっと私たちが知らないだけでミアのように苦しんでいる子どもは多くいるのだろう。ヤングケアラーという言葉も近年よく耳にするようになった。

    自分たちのことを親切で礼儀正しい国民性と信じてやまない日本人は多くいるが、本当にそうだろうか?
    実際に困っている人がいた時、手を差し伸べられる人はどれだけいるだろう。作中に登場する、ゾーイのような人はどれだけいるだろう。
    正直、私自身も自信がない。
    そして多くの原因は、精神的・時間的なゆとりのなさだと思えて仕方がない。
    今の日本は、児童相談所などの施設に従事している人や、親以外の大人たちが子供を救う手立ても、余裕も殆どない。
    子供を救うためにも、大人の働く環境や、社会全体の経済状況を改善してほしいと心から願ってやまない。
    周りを気遣えるゆとりが欲しいです、切実に。

    金子文子の自叙伝は、いつか手に取りたいと思った。

  • ヤングケアラー
    ネグレクト
    貧困
    性被害
    PDSD

    子どもになんの責任もない
    親が、大人が悪いに決まっている
    そして、社会が間違っている
    そんな社会の間違いを正せない大人が悪い

    一番のしわ寄せは弱者へ
    女性そして子ども
    イギリスのミウ、明治大正に生きた金子文子
    同じ青い空でみなは繋がっている
    全部YES
    言えるそんな社会はいつ?

  • リアルな言葉の銃弾で、見事に撃ち抜かれる!

    「空(ソラ)」を「空(カラ)」としか感じられないような
    そんな世の中を這いつくばる人へ届くと信じたい、
    希望の世界がここにあります。

    悲しみに暮れ、苦悩し、
    絶望で光を失ったその眼に、
    どんな時も昇りくる太陽が光を放つ。

    頭上にある空の、続いていくその先の世界を、
    自らの意志で、心の眼で見開いていけるように。

    うなだれた人たちが
    ふと顔を上げられるようなきっかけを紡ぎ出していきたい。
    自分には何もできないと諦めたくない。

    その目に映したい
    その耳に届けたい
    その声に耳を傾けたい
    その手を握りたい
    生きてくために必要なものをたらふく味わせたい。

    全てが塞ぎ込みそうでも
    五感のどこかで
    この世界に広がっている可能性を
    感じ取ってほしい。

    この世界に生まれたすべての人たちに
    自分が自分らしく生きていく居場所がありますように。

    どんな国でも、どんな時代でも
    人は希望を見出せる。
    そこに空がある限り。
    そう信じさせてくれる作品です。

    ブレイディみかこさんの
    底から突き上げてくるようなパワーを
    ひしひしと感じながら一気読みでした!

  • 軽い気持ちで読み始めて後悔した。これは、単なる娯楽小説じゃない。

    『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では出てこなかったティーンたちが主人公。帯に「ノンフィクションの形では書けなかった」とあるように、現実の話として受け止めるには、あまりにもシビアな内容。貧困、格差、ドラッグ、ネグレクト、ヤングケアラー...複雑な事情を抱えた少女が、大切な弟を守ろうと、ひとりでもがく姿に涙が止まらない。

    そんな少女が偶然手に取った本は、大正期の日本を生きた金子文子の自伝。生い立ちが少女のそれとよく似ていることで、少女はいつしか金子文子に自分を重ねるようになる。

    しかしそれも、母が「壊れて」しまうまでだった。

    いつの時代でも、どこの国でも、大人の身勝手でこどもたちが苦しんでいるのだと思うと本当にやり切れない。

    本書の登場人物のなかには、そんなこどもたちを救おうとする大人もいる。その中のひとりのように、「あなたはもう何もしなくていいの。見ないふりをせずに、何かをしなくてはいけないのは大人たちのほうだから」とこどもたちに声をかけてあげられる大人に、わたしもなりたい。

    p156
    僕は若い人はもっと解放されたほうがいいと思う。『しかたがない』と諦めず、別の世界はあると信じられれば、それは可能になるんだ。すべての本ではないが、いくつかの本はその助けになる。

    p260
    「あなたはもう何もしなくていいの。見ないふりをせずに、何かをしなくてはいけないのは大人たちのほうだから」

  • 「この母を私は選んでいない。母が連れてくる男たちだって私は選んでいない。子供には何も選べない。」ミアのこの言葉は本当にそうだなと思ってしまう。"親を選んで生まれてくる"、リアルの世界にこんな言葉はない。なぜミアはここまで苦しまなければならないのか、フミコはなぜこんなに悲しまなければならなかったのか。子供達の未来を真剣に考えたい、そこから世界は作られていくのだと、心底思わされる一冊。

  • 「ぼくはイエローで……」のブレイディみかこがフィクションにしなければ書けなかったとのことを聞いて思わず本屋へ。
    金子文子、すごい人だね。。。
    読んでて伊藤野枝のことを思い出しました。。
    よく考えたら同じ時代のアナキスト同士か。。。

    金子文子の本も読んでみるかな。

    それにしても今のティーンはギターを鳴らすんではなく、トラックを作ってラップを乗せるのね。。。
    Fのコードを押さえるので指を攣りそうになることも、チューニングが合ってるのか合ってないのかよくわからないまま、なんてことはなくスマホやPCのスキルで音楽作っちゃうんだ。。。
    貧困問題は、100年経っても、国が違っても変わらないのにテクノロジーは残酷だね。
    いや、唯一の希望なのか!!

  • Brightonの風景,再び.
    そして,限りない人間への愛情溢れる言葉に再会.
    夏休み,なにを読もうか考えている息子よ,これを読まずしてなにを読む?

  • ミアと文子、交互に描かれる2人のストーリーに引き込まれて一気読み。そして青空文庫の金子文子『何が私をそうさせたか 獄中手記』に移動

  • 救いだしたくても、出来ない子供たちもたくさんいるのだと思う。
    日本にも貧困、虐待など厳しい環境にいる子供たちはたくさんいると思う。
    ハッピーエンドで終わらない話の方が多いのだろうと思います。

  • ブレイディみかこ、初めて読んだ。
    弱者に寄り添う小説、と書くとなんだか綺麗事みたいだけど、実在した”金子文子”の不遇な幼少期の自伝を、母親が薬物中毒でネグレクトの環境で弟のチャーリーの世話をしているミアが読み進みながら物語は進んでいく。
    そのミアの生活が実にリアルで、胸が苦しくなる。
    こんな生活を強いられている子どもたちはどれくらいいるんだろう。
    ミアに場合はまだ、なにかと気にかけて面倒をみてくれていたゾーイが一緒に住んでくれそうな明るい兆しが見えて終わったけど、(ウィルというミアの言葉の才能を認めてくれる同級生もいるし)多くの場合は、こんなに上手くいかないんだろう。
    絶望し、絶望しながら大人になっていく子どもたち。
    胸が塞ぐわ。
    こういう子たちを支えるのは血縁ではないんだね。
    心ある大人が気を配るだけで、救われる子たちもいるということ。
    金子文子の題材しした著者の「女たちのテロル」も読んでみよう。

全301件中 91 - 100件を表示

著者プロフィール

ブレイディ みかこ:ライター、コラムニスト。1965年福岡市生まれ。音楽好きが高じて渡英、96年からブライトン在住。著書に『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』『ジンセイハ、オンガクデアル──LIFE IS MUSIC』『オンガクハ、セイジデアル──MUSIC IS POLITICS』(ちくま文庫)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫)、『他者の靴を履く』(文藝春秋)、『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』(岩波現代文庫)、『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『リスペクト――R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)など多数。

「2023年 『ワイルドサイドをほっつき歩け』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ブレイディみかこの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×