ベルリン1919

  • 理論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (663ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784652077719

感想・レビュー・書評

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  • 全3部作の児童向け作品だが、中身は大人顔負けの充実度。
    第一次世界大戦終わりごろのドイツを舞台に、政府軍と対立する独立社会党と支持者の労働者たち。
    その対立に巻き込まれながらも自分たちの生活を粛々と遂行しようとする
    子供たち。
    それぞれの立場における戦時の苦悩と葛藤が細やかに描かれています。

  • あくまで児童文学なのでその点はご了承を。
    ナチスに比べると注目されることの少ないドイツ革命を題材にした物語。
    政治活動家の家族の運命を少年視点で描くため、政治情勢の説明としては物足りない点が多いかもしれない。
    だが戦いに敗れた人々が、10年100年後の再起を誓う希望の光さすラストには心を打たれた。
    もちろん彼らの未来にはあの独裁者が待っているのだが。

  • 1918年の11月、プロイセンの首都ベルリンの貧民街べディング地区のアッカー通りに住む13歳の少年ヘレ(ヘルムート)は戦争を始めた裕福な人々以外の全ての人と同じ様にもう3年もお腹をすかせていた。
    第一次世界大戦が始まって4年、戦争の目的が自分達の平和や尊厳とは全く関りなく、騙されていたことに気づき、空腹と戦争に耐えられなくなった人々はスパルタクス団を結成する。
    第一次世界大戦で右腕を失い除隊した父ルディも帰ってきて、キールで反乱を起こした水兵の蜂起をきっかけにドイツ革命が起こる。皇帝を退位に追い込み、勝利したかに見えたが、社会民主党が手柄を掻っ攫い、やがて権力と金と武器でスパルタクス団を排除しはじめ、ベルリンは市街戦へとなだれ込んでいく。

    パンと平和を求める人々の日常が悲惨でありながらもまるでそこにいるように情景がありありと伝わってきて、スパイや訪問者に心臓を震わせ、食べ物を調達できたときは無上の喜びを感じ、病気になって行く子供達に胸を痛め、革命に身を投じる母や父、友人達の安否や死に胸を痛める。

    四センチくらいの分厚さにちょっと躊躇したけれど、読み始めるとすごく引き込まれて夢中でほとんど一気に読んでしまった。
    ナチス時代や第二次世界大戦の本は何冊も読んだけれど、その前のドイツというと、教科書でもベルサイユ条約の莫大な賠償金によって追い詰められた所にナチス台頭、くらいしか習わないので良く知らなかった。日本が旧憲法を作る手本にしたワイマール憲法がどういう過程で出てきたのかもちょこっとわかって愕然とした。

    スパルクス団がうまく行っていたらどんな未来だったろうと考えずにはいられない。そしてうまく行かせるには何が必要だったのか。
    それを考えることは戦争を防ぐにはどうしたらいいのかの答えのひとつになると思う。共産主義はソ連や東側諸国が失敗し、70年代の学生が失敗したように、絵空事で不自由そうで結局独裁者を生み出すだけの思想に感じていたけれど、物語の中のリープネヒトとルクセンブルク、スパルクス団の行動や言葉に触れて、その本質や目指していたものが少し理解できた気がした。
    ただ、人は変わっていくし、すぐに影響されるし、誰か一人の意思で時代は動いては行かない、そのはがゆさをゲープハルト一家を通して共有した気がした。

    この物語が面白いのは、少年の日常と共に、子供のわりにあらゆる重要な場所に出没し、一家が関っていくからかもしれない。それが多少不自然でも、ヘレの視点で語られることによって分かりやすく、必要以上に暗くならず、希望を感じる物語だった。ただ、この先降りかかる災厄を思うと一家の運命がとても気にかかる。

    児童書だということを読んでから知ったけど、読みやすさはなるほど児童書だなと思うけど、この忘れ去られた激動期の流れを知る本としては大人にも充分読み応えのある文章だと思う。

  • ベルリンにすむ普通の人々の物語。これからどんどん辛い時代がくる、ということを知っているだけにずっとハラハラしながら読む。ヤングアダルト向けにしては内容が濃い。

  • 数日かけて、先ほど読了。ベルリン三部作の第一作。
    あとがきにもあったけれど、ドイツのこの時代に焦点をあてたものはあまりないのだろうなと思う。わたしもワイマール憲法の年、というくらいにしか印象がなかった。ナチや冷戦に比べると本当に「忘れられた」扱いだけれど、この作品を読んで、激動の時期だったのだなと感じた。希望と絶望が入り乱れ、何が「過激」なのかがわからなくなる。すべてを血の量でははかれない、けれどやっぱり、流される血は少なくあってほしいと思う。決断するのが身を切られるようにつらくても、下していかねばならない。
    読んでいていちばんつらかったのは、実はマルタのこと。彼女の胸の内はヘレ視点では明かされないけれど、ある程度勝手に動けるヘレと違って、マルタは家に縛られる。もう少しその部分を読んでみたかったな。

  • ドイツでは児童書扱いだが、十分内容の濃いもの。その時代の動き、市民の生活の中から自然と見る事が出来る。

  • 第一次世界大戦末期、1918年11月。ドイツ帝国内キールで水兵が蜂起。ベルリンに迫る。
    敗戦の色濃い戦争を終わらせる為の蜂起はそのまま革命の炎となり、ホーエンツォレルン家による帝政は崩壊した。
    後に『ドイツ革命』と呼ばれ、成功したかに見えた革命は、しかし“敗北となった勝利”でもあった。
    戦争と貧困のない暮らしを求めて起きた革命にも関わらず、その歯車は狂い、ドイツの迷走が始まる。

    ベルリンの中でも最も貧しいヴェディンク地区の安アパートに住む13歳の少年ヘレと、その家族の目を通して語られるクラウス・コルドン「転換期三部作」第一作。原題は「赤い水兵または忘れられた冬」。


    児童書ですが、筆致はむしろ大人向けかと。日本人には馴染みが薄い20世紀前半のドイツの変貌、その後のナチス政権と惨禍へ至る、誰も気付く事がなかったであろう歩みの始まりが描かれています。

  • 転換期三部作の一作目。
    1918年の秋から翌19年冬までのベルリン。
    いわゆる十一月革命からスパルタクス団の乱の鎮圧までの時期を描く。

    主人公の両親はスパルタクス団員である。つまり敗者、歴史の陰に埋もれてしまった側からの目線でこの時期を描く。
    主人公の周りの人間もそれぞれに様々な立場にあり、この時期の政治的状況の複雑さがわかる。戦争末期の厭戦的な気分、革命への高揚感、そして挫折、反動といった大衆の空気を背景に、主人公一家もその周囲の人たちの人間関係も翻弄されていく。
    それぞれの人がそれぞれの立場で「平和」を願った結果が内戦だったというのは悲劇である。

    民衆の、一人ひとりの幸福を追求するパワーが炸裂した小説。
    第二作目も楽しみ。

  •  一人の男が放った銃弾から始まった第一次世界大戦も末期、ヴィルヘルム2世によって統治されていた帝政ドイツが水兵を皮切りにした革命によって追放され、名目上は労働者達のモノとなったドイツで、成功したけれど失敗した革命に翻弄され、同じ国民同士で争う1919年ドイツを、一人の少年とその家族の視点から描き出した傑作小説。
     大人向けであると同時に、歴史モノであるけれど読み易く、分かりやすく。
     どちらかと言えば中高生にももっともっと読まれるべきだと思うし、知られるべきだと思う。ボクも学生の頃に読んでいると今より感想はきっと違ったろうなあと実感。
     ここで示されるのは後にベルリンが、そしてドイツ(主に一般市民や国民)が辿る事になる茨の道の最初の一歩である。
     ナチ党が台頭する1933年、そして戦争が終わる1945年を書いた二作とあわせて三部作とされている。後の二冊も早めに読みたい。オススメオススメ。

  • ×そういえばシリーズもの

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著者プロフィール

著者 クラウス・コルドン(1943~)
ドイツのベルリン生まれ。旧東ドイツの東ベルリンで育つ。大学で経済学を学び、貿易商としてアフリカやアジア(特にインド)をよく訪れた。1972年、亡命を試みて失敗し、拘留される。73年に西ドイツ政府によって釈放され、その後、西ベルリンに移住。1977年、作家としてデビューし、児童書やYA作品を数多く手がける。本書でドイツ児童文学賞を受賞。代表作に『ベルリン1919 赤い水兵』『ベルリン1933 壁を背にして』『ベルリン1945 はじめての春』の〈ベルリン3部作〉などがある。

「2022年 『エーリッヒ・ケストナー こわれた時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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