自分の薬をつくる

著者 :
  • 晶文社
3.94
  • (56)
  • (58)
  • (35)
  • (11)
  • (3)
本棚登録 : 1104
感想 : 85
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794971845

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ほんわかとユニークな視点を提供する著者の、融通無碍な悩み相談ワークショップ。

    医者と患者を「演じる」、ホワイトボードで壁を作って他者に「見えないが聞こえる場で」相談する等、軽やかな工夫を散りばめ、一見すると適当な助言の中に、生き苦しい澱みを和らげる趣向が凝らされている。
    遊び心の境界を取り去って。

    ・薬は日課、日々のしおりづくり
    ・食べたものを出すように、自然とアウトプットする。好きなこと、興味のあること、気軽なことで
    ・興味、関心の減退はインプット過多でアウトプットの信号と捉える
    ・アウトプットが続かないときはできたアウトプットの推敲の信号と捉える。他者を入れる
    ・絶対に実行しないための企画書を書く
    ・妄想の中で実践する。夢を今すぐ実行する。ただし、環境を一切変えない
    ・「書けない」のではなく、「それは」書きたくない
    ・私たちのいちばんの薬は、声

    ・人生は解決すべき問題ではなく、味わうべき神秘なのだ(キルケゴール)

  • 自分で蓋をしている気持ちが、声 にして他の人に話す事で形になる。さっと形にして安心できる人に見せる。できる範囲で続ける。
    無理の無い、これらの営みが自分の薬になるのか。気付きをたくさんいただいた本。

  • 面白すぎる!ご飯食べてウンチするように、息吸って吐くように、インプットしたらアウトプットしなきゃ、体調悪くなっちゃうでしょ!って、目から鱗…!?とにかく、診断の会話が面白すぎて、笑いながら読みました。読むだけで元気になれます。

  • さらさらーと読んだんだけど、好きなことを思い出してアウトプットするように。敏感な人は自閉するように、とのこと。色々悩んだ末にたどり着いたことなんだろうなあ。

  • アウトプットしましょうよ、そしたら楽になれるかもよ、という話。


    一生反省禁止。反省しない。

    自分が気持ちいいと思う環境を作ることから始める。

    やりたくないことをしない。適当にやる。

    やりたいことをするんじゃなくて、やりたくないことを一切しない。
    やりたくないことをしない。その結果ストレスが一切たまらない。

    一曲でいいから、何も考えずに作るを試す。みんな考えすぎ。意思や意識とか思考とか使いすぎ。脳と肺酷使しすぎ。

  • 僕は大学生の頃、デイヴィット・ホックニーという画家の画集の中で見つけた彼の「自分に深刻になるな、作品に真剣になれ」という言葉に助けられました。

    症状:人との距離感が難しい
    理由:自他の境界が緩く、すぐ相手に共感してしまうため、ちょっと会っただけでもいろんな刺激を取り入れてしまっているのかもしれません。
    対策:他人の気持ちを汲み取りすぎないようにしていきたいですね。他人が言ってないことは他人は何も言ってないと合言葉に。人に会うことも大事ですが、同時に自閉することもとても大事です。疲れたなと思ったら、さっとお家に帰って、誰とも会わずにヤドカリ状態で、しばらくゆっくりさせて身を守っていきましょう。

    会社で人間関係に困っている人の相談も多いですが、多くの人が、こちらを向いてヒソヒソ話しているとか、目線が嫌っているような気がする、とか、全部むちゃくちゃ汲み取って感じているんですね。気がする、という感覚。もちろん、これは気がするんですから、実際は気にしているんです。でも、その気がしたら、それがそのまま事実だと思ってしまうので、傷ついてしまうわけですね。
    気がする、のはたしか。しかし、それが他人が実際に思っていることとは違うということを、理解する必要があると思います。それには誰かにそう感じていることを一度、吐き出す必要があると思います。気がするんだから、もちろんそうかもしれないんですけど、実際にその気持ちが当たっていることも多いんですけど、でも、それでも、実は違う可能性もゼロではないということが頭に入るようになってくるといいですね。他人のことは永遠にわからないんです。

    汲み取ることを否定的なことではなく、楽しいこと、人の長所を汲み取るとか、人にこうしたら嬉しいと思うんじゃないかと汲み取るとか、優しいことに使おうと心がけるといいですね。優しさが活用できる場所を自分に提供してあげるとうまくいくでしょう。老人介護施設でマッサージしてあげるとか、家の近所を掃除道具を持って丁寧に掃除するとか、友人に何か手伝うことがあったら言ってねと一声かけるとか、仕事場で疲れてそうな人にお茶を淹れてあげるとか。活用できる場所は無限大にあると思いますよ。

    私自身も汲み取りやすい体質だと思ってます。だからこそ、いのっちの電話みたいな仕事ができているんだと思っているのですが、つまりそれは適切に使えば能力なんですが、やはり入ってくる情報量が多いんですね。だから、私はいのっちの電話だけやってます。声だけであれば、情報量が限定されてますから、制御しやすいんですね。実際に人に会うと、声だけでなくて、目や手の動きや、内心考えていることなんかをどんどん自然と読みとってしまって、すぐに疲れてしまいます。
    そうやって疲れているときはどうするか?それには自閉をうまく利用しましょう。自閉というと、家に閉じこもって、誰とも会わないってことですから、悪く言われてますが、汲み取りやすい人にとってはとても有益な方法だと思います。疲れたら、私は人と会う用事が入っていても、疲れていることを伝えて、その日に会うことはキャンセルさせてもらって延期するから、断れない場合でも30分くらい会ってすぐに帰らせてもらいます。さらに仕事も締め切りを遅らせられるものはすべて遅らせてもらって、3日くらい一人で誰とも会わずに、自分のペースで、活動します。
    そうすると、少しずつ体が楽になっていきます。疲れてもいつもと同じようにして、人に会っているとすぐに鬱になってしまうんです。この自閉という方法は意外とみんな気づいていないので、ぜひ試してみてください。文句を言うような人に対しては、疲れていなくても、どんどん自閉した方がいいです。汲み取りやすい人は、だからこそなのか、ついつい人のところに近づいていって、文句も取り入れてしまいがちですので。

    症状:人間関係がうまくいかない。すぐ気まずくなってしまう。
    理由:その相手にあんまり興味がないから。でも仕事だと思って飲み会なども断れないだけ。
    対策:はじめた大変かもしれないが、断る練習をしてみる。これも自閉の方法。もし飲み会に行ったとしても、何時になったら帰ると決めておいて、その時間になったら「とても満足したので、帰ります。みなさんありがとうございました」と言って帰るのを繰り返していたら、そういう人だと認識される。

    「やりたくないことをしない」
    この方の場合は、人間関係がうまくいかない、ではなくて、やりたくないことをしてしまう、から、体の調子がおかしくなっていたようです。別に私と話しているかぎりではなんの問題も感じませんでした。みなさんもそう思っていることでしょう。でも本人は人間関係がうまくいかないと感じています。「いのっちの電話」をしていると、こういう局面が本当に多いです。とにかく皆さん「やりたくないこと」をやりすぎているんですね、おそらく。
    しかも、それで自分が困っていることに気づいていません。やりたくないと思っていることをしている時に楽しいはずはありません。そんな場所で出会った人と、なかなか踏み込んだ話ができるはずがありません。全体的に心の中では退屈だなと思ってしまっているはずです。だから、楽しいはずはないし、人との付き合いも遠慮がちになります。だから、人間関係がうまくいかないのではなく、そもそもそこで気持ちのいい人間関係を築こうなどとは少しも考えていない可能性の方が大きいです。
    人間関係がうまくいかない、と言っている人の多くが、はっきり言いますと、ほぼ全員が、やりたくないことをやっています。やりたくないことをやるくらいなら、家で一人でこもって、ゆっくりしていた方が体は落ち着くのに、なぜかその人たちは、どんな人たちとでも人間関係をうまくするのが、普通の人間ってものだ、と勘違いしているのか、必死にその輪にもなっていない、人間の塊の中に突撃しようとします。
    当然のように砕け散ります。これは当然の結果です。少しも疑いの余地はありません。うまくいかないところに出向いて、ただちゃんとうまくいかなかったというだけのことです。つまり、ほぼ100パーセントうまくいきません。
    人間関係というものは、常に同じではありません。だって、彼も私と話している時は楽しそうに、リラックスして話せていたんだえす。それを伝えると、みんな「それは恭平さんだからですよ」と言います。つまり、こういうことです。人によって変わるわけです。あなたと不特定多数の人間との関係の問題ではないんです。だから、あなたが一人落ち込む必要はない。あなたにも心を許して話せる人がいるはずです。その人とはきっと疲れもせず、心地いい人間関係が築けていけるはずです。誰もいない人ですら、私と話す時は楽しそうに話すんですから。人間関係が問題ではないんです。
    つまり、やりたくないことをしていることが、辛いってことです。それをやめてみましょう。別に一生の仕事を見つける、みたいに、絵に描いたような「やりたいこと」をする必要なんかありません。そんなものが見つかっている人は幸せに生きていけるでしょうが、そんなものを見つけて生きている人には私はなかなかお会いしたことはありません。私自身やりたいことをやっているのかどうかわかりません。ただ、私は「やりたくないこと」を徹底して排除してます。
    やりたくないことをしない。
    やっていることはそれだけです。
    私は、打ち上げが好きじゃありません。疲れるからです。ただでさえ人前で話して歌って疲れているのです。そのあと関係者たちと何か話してももう何も出てきません。労いの言葉を貰えば、それで満足です。お疲れ様でしたと言って、一人で家に帰って、一人でハイボールを作って飲めばもう幸福です。余韻を楽しむのが好きなんです。
    それから、知らない人に会うことが好きじゃありません。だから、本を読んでくれた方で会いたいというメールや電話を送ってくる方がいるのですが、丁寧にお断りさせてもらってます。あとは依頼が好きじゃありません。何日までにこの仕事をしてくれと言われると、どうしても味気のなさを感じてしまい、それでその人の都合で動かないといけなくなるので、わがままだとは思いますが、依頼は基本的に信頼している人以外はお断りさせてもらってます。私は内側からただ自分が書いてみたいと思うことだけを書いてみたいんです。
    あと、人の気配がすると疲れるので、朝書いています。邪魔されることが好きじゃありません。別に書斎の家を借りる必要はないんです。早朝であれば、たいていの人は寝坊助ですから、朝の4時に起きて邪魔してくる人はいません。
    「いのっちの電話」に関してもそうです。私は直接人に会うことが好きじゃありません。だから声だけにさせてもらってます。声だけであれば、体に関して無関心でいられます。そうすると、私の体が楽なんです。おかげで8年も「いのっちの電話」が続いてます。電話で声だけ聞いて人を助けるのはよだれが出るほど好きなんです。
    このように私がやっていることは、実はやりたいことをやっている、のではなくて、やりたくないことを一切しない、ということなんです。おかげでストレスが一切ありません。それは当然です。やりたくないことをしていないのですから。人に文句もありません。なぜなら気持ちの余裕があるからです。自分のことをまず丁寧に守る。自分がやりたくないことであれば、考えるのは簡単です。だって嫌なんですから。
    夢を抱くのは私も苦手です。夢を叶えるために努力するのも苦手です。できるだけ楽して、楽しく、適当に生きていたい。人にも関心をそんなに持たずに、できるだけ一人でいたい、もちろんそのままでいると寂しい時もありますが、人に会うのは30分間だけでいい。そのまま飲みに行く、ということが苦手なので、一切しません。
    私が普段酒を飲む人は一人だけです。かずちゃんという女性です。かずちゃんはとても気配りのできる人で、一緒にいて疲れたことがありません。文句を言われたことがありません。いつも「いのっちの電話」もやって本も書いて、すごいです、と尊敬してくれます。そして、鬱になったのを察知すると、すぐに個室のあるお好み焼き屋を予約してくれて、家に引きこもりすぎないようにと私を外に出してくれます。そして、ずっと褒めてくれます。そんな人と飲みたくない人はいないと思います。そんな自慢の人です。だからその人とは三ケ月に一度くらい飲みます。あとは飲みません。
    男ですから、強引に誘われることもあるんです。でも、そこはきっぱり笑顔で断り、さっと家に帰ります。方法は簡単です。夜9時に寝る人であることを周知させただけです。それで誰も帰るなと言う人はいません。いや、もともとそんな人は誰もいなかったわけです。なんとなく帰るタイミングがわからないだけでした。最近では満足した瞬間に「満足したので帰ります」と言って、すぐ席を立ちます。席を立って、その場から離れるととても気が楽になります。
    家にいるのが好きです。外にいると落ち着きません。そして、そんな自分をダメだなと思うことも、今ではまったくしなくなりました。心地いいことだけをすると、文句もなく怒りもなく、人に優しくできるようになります。なんだか新興宗教の教祖がいうようなことですが、方法は簡単です。
    【やりたくないことをすべてしないでいる】
    ただそれだけのこと。そんな宗教なら入っても問題ないでしょう(笑)。

    人はすぐ他人に興味を持ちます。本当に興味を持ってくれているのか、忠告したいだけなのか、悩むところですが、ついつい人は人に突っ込んでしまいます。色々あるのでしょう。自分と違うところをいいなと思って、その反対につい文句を言ってしまうとか、ただイライラしていたりとか、狭い世界で自分が一番だと思っている人が他の人を威圧したり、社会ではいろんな人間関係があるようですが-もちろんこれは私の意見ですがーどれもが、不要です。
    そういう人と関わらないようにする、ということを選ぶと、結論は人とできるだけ関わらないようにする、遠くにいる、その代わり、こちらはその人たちを優しい心で見守る、ということになります。なぜなら私は安全安心な場所にいますから、それができるわけです。
    これはかなり極端な考え方に思われる方もいるかもしれません。「なんと言っても人が大事だろう」と。私はあんまりそう思ってません。私が心地いいのは、私に文句を言わずに、時々会って話すと褒めてくれて、基本的に無関心な人です。あんまりこちらの世界に入ってこようとしない人。そういう人は私にとってとてつもなく大事なので、大切にします。今、付き合っている人は基本的にみんなそんなタイプの人です。こちからから連絡しない限り、連絡してこない人。でも、ちょっと体調が悪いかもと察知したら声をかけてくれる人。こちらから連絡すると、いつもリラックスして心地よく開いてくれる人。でも、基本的に会わなくてもいいと思ってくれてる人。繋がっているよね、とか、無駄なことを言わない人。そういう人がいるだけで、私はホッとします。寂しくもありません。基本は一人でいたいんです。
    そして、一人でいることができて、ホッとしてます。
    皆さんもそうやってちゃんと一人で一人を味わってみるのはどうでしょうか。知り合いは一人いれば十分です。興味ない人と酒を飲むなんて、私からしたら、交通事故に自ら進んで遭いに行っているようなものに見えます。でも、人と仲良くするのが当たり前だという社会では私は少数派でしょう。でもそう思われても平気なのです。なぜならおかげで平静を保てて、私自身リラックスできているからです。
    むしろ、私には人は他人に興味なんかほとんどないのに、それをやろうとしなくちゃいけない、流行を追わなくちゃいけない、ニュースは見なくちゃいけない、と思い込みすぎているから、疲れてるんじゃないか。そう思えます。飲み会には参加しなくちゃいけない。町内会には参加しなくちゃいけない。子供の運動会には参加しなくちゃいけない。会社ではみんなと仲良くしなくちゃいけないと思い込みすぎているんじゃないか。
    興味がないことをしない。やりたくないことをしない。人とそんなに長く一緒にいない。疲れている人はまずこれを実践してみましょうね。自分の生きる道を見つける、なんて疲れるだけだからやめましょう。
    もっと適当でいいんです。みんな真剣に嫌なことを乗り越えようとしすぎです。やりたくないことには、真剣に適当になってみましょう。そんなこと一切しないでいいんです。怒りも減るはずです。自信もゆっくり取り戻せるようになるでしょう。

    ・「自閉」という方法
    高島さんは僕と同じ躁鬱病であるとのことで、なかなか人付き合いが難しいようです。それは僕にも思い当たるところがたくさんあるので理解できます。予定を立てても、その日調子が悪かったりすると、断ってしまったりするので、良好な関係を結ぶことが難しいんですね。
    僕の場合は、嫌われる人にはいつか必ず嫌われてしまうのだから仕方がない。だから早めに嫌われても大丈夫。あんまり気にするなと自分で声をかけてます。自分で声をかけるのは大事ですね。ここで自分を否定するようになってしまうとどんどんこじらせてしまいます。
    もちろん、人は大事です。人間は孤独では生きていけませんから。でもですね、なかなかに人間というものは厄介な存在でもありまして、家族だからと言って、みんな優しいわけではありません。ついつい向こうがイライラしていると、こちらに八つ当たりしてくることもあります。そうやって、知らずに傷ついてしまうのも避けたいところです。そこで私は「自閉」という方法をうまく利用してます。今回、何度も出てきました、この自閉という方法について、もう少し考えてみることにしましょう。

    自閉というと、悪い言葉に聞こえます。誰からも避けて、人付き合いをしないことは、この社会で生きていくには悪いことだという既成概念があるからです。しかし、調子が悪いとき、もしくは調子が良すぎるとき、むやみに人に会うことが本当にいいのかというと私は疑問に思ってます。それよりも一人でゆっくり時間を過ごした方がいい時もあるんです。人間関係のことを気にするあまり、調子が悪い時ですらついつい人に会おうとしてしまいます。しかし、こういうと何ですが、本当に大事な人、理解してくれる人でなければ、人間は有害なものにもなりうるんですね。なぜなら、あなたのことを考えて、接してくれる人ばかりじゃないですから。調子が悪い時に、そんな人に会ってしまうと文句を言われてしまいます。そうすると、こちらもイライラしてしまいます。イライラした時は、人目を避けてくれるとありがたいのですが、イライラすると、人は一人になるより、さらに人に会って八つ当たりをしてしまいがちです。
    ということで、自閉という方法はとても大事なサバイバル技術だと私は思うんです。ずっと自閉するわけではありません。調子が悪いとき、もしくはとても調子が良い、良すぎるときに自閉するんです。人に会うだけで、実は相当なエネルギーを使ってますし、必然的に気も使います。できるだけそういう力を使わないようにすると、楽です。

    そんなわけで、私は基本的に毎日あまり人には会いません。でも誰にも会わないわけではありません。安心できる人にだけ会います。私の場合で言うと、近所に住んでいて、私が仕事できる唯一の家以外の場所でもある橙書店の店主田尻久子ちゃんにはどんな時でも会えます。彼女は私に文句を言いません。だから安心して会うことができます。そして、私が自閉という方法を使っていることをよく察知してくれてます。だから会うと言っても数十分だけです。5分だけ話して帰る時もあります。それも理解してもらってます。調子が悪い時、私はそれで満足します。あとは外を散歩して、誰にも会わずに家に帰ってきます。これだけで、自閉しつつも、できるだけ開放した気持ちで生活を送ることができます。
    なので、自閉するときは、同時に、信頼する仲間を見つけることが重要になってきます。誰もいない人は、いつものように私に電話してみてください。電話だけでもいいんです。私もよくこの方法は使います。体と体が会うということが疲れるのです。人間にとって栄養にもなりますが、疲れる原因にもなります。だからこそ、自閉という方法を積極的に使って、時折休みを入れることで、完全に引きこもってしまい、人々と連絡を取らない毎日を送るみたいなことを避けてみてはどうでしょうか。
    さらに、これは躁鬱病の人に当てはまることだと思うのですが、できるだけ静かな生活をしたいと思って、人里離れたところに引っ越しするのはあんまり良い方法とは言えないと思います。できるだけ刺激は入れておいた方が脳みそが楽になります。
    もちろん人に会いすぎると疲れるのですが、そうではなく、一人ただ街を歩くという方法がよく効くのです。多様な刺激を脳に送り込むこと、と精神科医の神田橋修治先生は言います。本当に何でもいいです。むしろ無駄なことの方が役に立つんです。ちょっと寄れるお店があること。ざわざわしているところにちょっとだけ寄ること。何か一つのことに集中するよりも、あっちに行っては何か少し見て、こっちに行ってはまた別のものを物色する、みたいな行為が効きます。何かに集中したいと思って、田舎に引っ越したり、役に立たないと思って人付き合いや不要な散歩などを減らしたりすると、逆に刺激が少なすぎて、元気が無くなっていくようです。
    自閉しつつ、多様な刺激を脳みそに送り込む。
    この一見、矛盾している行為を同時に実践すると、私の場合はですが、不思議なことに体はとても楽になります。自分だったらどうやってみたらいいのかって考えるのを楽しんでみてはどうでしょうか。

    まず私がやったのが、病名をつけないということですね。もちろんすでに診断はされていましたが、それでも医師からの命名で完全に自分を決めていくのではなく、自分からも「声」を出すということなんです。

    「その日の気分で興味関心がうつろっていく」
    「一点集中するよりも、ながら作業をしながらあれこれやっていた方が進む」
    「大勢で飲むのは苦手だけど、一対一で喫茶店などでゆっくり話すのはとても好きだし、気持ちが落ち着く」
    「人前に出て、舞台に上がって一人で話すのは好きだけど、実は普段は一人でいる方が楽」
    「やりたくないのに、付き合いとかでやらないといけないものがあると、数日前から体調を崩すので、そういうものははじめから行かないと決めていた方がめちゃくちゃ楽」
    「飲み会によく行っていたが、実は飲み会そのものに関心がなく、早めに家に帰ってきて9時に寝るようになると、穏やかに過ごせる」
    家族といえども人のペースに合わせるのが苦手なので、とにかくまずは自分のペースで動くようにした方がとにかく楽。だから朝型生活に切り替えて、家族が起きてくる頃に仕事を終わらせるようになった。終わらせたらストレスを感じないので、今度は人のペースに合わせることができる。ご飯を食べる時間なども、他の人がダラダラしていて時間が遅れてしまうと落ち着かなくなるので、時間を決めて、他の人がダラダラしていても、一人で食卓で食べた方がとても楽。他の人も気にしないでいいことを知ったらとても楽そうに見えた。寝るときも川の字でみんなで寝ていたが、寝る時間が他の人は遅いので、自分の部屋で夜9時に寝るようにすると、ストレスがなくなった」
    「人に会うのが好きだと思っていたが、実は人に会わずに電話で対話するくらいがちょうどいい」
    「午後3時から午後6時までの光を浴びると、なぜか落ち込んでしまうので、まったく光を浴びないようにアトリエにカーテンを閉めてこもって絵を描くようにしたら、一切落ち込まなくなった」
    「土日は子供たちが休みだから、スケジュールを変えていたが、それだと自分が疲れてしまっていた。そこで、毎日の日課を土日も変わらず続けてみたら調子がよくなった。朝10時からお昼3時までは土日でもフリータイムにしているので、その時間に子供と遊べば、子供達も満足してくれて、両者ともストレスがなくなった」
    このような細かいことを、一つ一つ声にするようになっていったんですね。自分に対して声をかけるような感じです。そして、そのことが体に入っていったら、まわりの人に伝えるようになった。すると、まわりの人も、あ、そうなんだ、わかったよ、と受け入れてくれた。躁鬱病と診断されてから、色々本などを読んで、自分の病気を研究しようと思ったんですけど、なかなか自分に合っているものが見つからなかったんですね。でも渡される薬はみんな同じ。それがとても不思議で、どういうことなんだろうかなとずっと考えていたんです。
    私は、言葉にするのが仕事ですから、それが良かったんだと思うんですけど、なかなかうまく伝えられない、言葉にしようとしてもしにくい、みたいな私が感じている違和感とか、やってみたいことを少しずつ声にしてきました。本当に細かいことですが、私にとってはとても重要なことで、それをするだけで、調子がよくなっていきました。他の人に聞いてみたら、妻だって「なんだー、それなら言ってくれたら良かったのに~」って言われました。みんなと一緒の時間帯、スケジュールで過ごすと疲れてしまうことも、嫌じゃなかったみたいです。というか、はじめから知ってた、と。でも、私は実はあんまりわかってなかったんですね。声にしてはじめて理解したという感じでした。
    声にすればするほど、私は自分が病気というよりも、少しだけ特徴のある体であるというくらいに思えるようになっていきました。かつ、自由に動かしてあげたら、いい動くをするんじゃないかと思えるようにもなっていきました。病気というマイナスなものを薬で戻すってよりも、快活に動いていた自分が動けなくなっている時に、うまく声をかけてより動けるようにしてあげるという感じです。元に戻すのではなく、また別のいい道を見つけてそこを歩きはじめるみたいな。

  • めちゃ良い本だった。読む人を選ぶとは思うけど、これを読んで楽になれる人もいると思う。辛いときは「アウトプット期」、声を出すのが大事、上手ででいい、わけがわからないものであっても、声になろうとしているなにか、声になる前の何かを外に出すこと。というのはストンと胸に落ちた。

  • いのっちの電話の坂口恭平氏が精神科受診を模したワークショップをする中で人の悩みに対する位置づけや対処方法を提案する。じっさいにワークショップをしているのかは分からないけど,その演劇ワークショップに参加する文脈(医者役である坂口氏と受診する患者役の各人,密室ではなくパーティションで診察室が作られていて,その外に音が丸聞こえの状況で待合室がある)では,自分の悩みを語り,他者の悩みと医者役の対話を聞くことで自分の悩みを相対化していく。
    坂口氏のいのっちの電話経験に基づく「人の悩みは大体同じ」というのが大切。多くは感じやすい人や感じやすい時期にいわゆる病というものが発症しているが,病のほとんどは便宜的にカテゴリーに分けられている感がある。感じやすいなら自閉する,入りすぎている状態が多いからアウトプットしていく,これらが共通する薬。

  • [出典]
    「現代思想入門」 千葉雅也
    P.73 「ひどい抑うつ病になったときには、(中略)こうしたっドゥルーズ+ガタリ的な、自分を多様な形に開いていくという思想は役に立つのではないでしょうか。」

  • 「死にたい時は作りたい時、何かが生まれるアウトプットの時」という言葉で、そういえば出産の時って母親は(死にたくはないが)死と隣り合わせというか、死にそうになることも珍しくないよなと思い当たった。
    身体がアウトプットしようとする時は普段と精神状態も違うのも無理はないか。

    今度から好奇心が無くなったりもうダメだと感じる時こそ、何か手を動かして声を出してみよう。

全85件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

1978年、熊本県生まれ。料理家、作家、建築家、音楽家、画家。2001年、
早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年、路上生活者の住居を収めた写真
集『0円ハウス』を刊行。2008年、それを元にした『TOKYO 0円ハウス 0円生
活』で文筆家デビュー。2014年『徘徊タクシー』で三島由紀夫賞候補、『幻
年時代』で第35回熊日出版文化賞、2016年『家族の哲学』で第57回熊日文学
賞を受賞。著書に『cook』『自分の薬をつくる』『お金の学校』『ゼロから
始める都市型狩猟採集生活』『現実宿り』『よみぐすり』など。

「2022年 『中学生のためのテストの段取り講座』 で使われていた紹介文から引用しています。」

坂口恭平の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×