「問う」を学ぶ 答えなき時代の学問

  • アルタープレス/トイビト
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910080055

作品紹介・あらすじ

われわれは、いま何が「わからない」のか? 学問することの意義をラディカルに問い直す。生命、宇宙、宗教、社会、ジェンダー、他者――12人の研究者を訪ね歩いた、超横断的ロング・インタビュー集!
[本書に登場する研究者]中村桂子、島薗進、辻信一、中村寛、奥村隆、吉澤夏子、江原由美子、広井良典、池内了、内田樹、小川隆、野矢茂樹

感想・レビュー・書評

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  • このメンバーを見たら、読まずにいられない。
    インタビュー形式なので、内容は読みやすい。
    こういう形の聞き手って、良くも悪くも無色透明な存在のように思うんだけど。
    トイビト、加藤さんの聞き手は、時に鋭い返しをするものだから、話す側が「おっ」てなったり、流れがピタッと止まったり、ノイズを発生させる。
    インタビューとあるけど、ある意味の対談だな。

    以下、印象的な言葉と感想。

    中村桂子/生きものとして生きるということ
    「じゃあ、わからないのになんで科学なんてやっているんだといわれたら、私はわからないことが増えるのが楽しいからと答えます。だって、全部わかってしまったら怖いでしょう? もしも自分が生まれてから死ぬときのことまで全部書いてある本があったとしたら、お読みになります?」

    中村さんの話は、「ふつう」の難しさや、アンドロイドで偉人に話をさせることの冒涜など、なるほどと思うことが多くて、その一つだけを。

    最後の一文の質問。私は、読めない気がする。
    変な虚無主義に陥ってしまう人もいると思う。
    でも、読む人、読まなきゃ始まらないでしょ、という人もいる気がする。
    人は、その知の使い方を間違える時もあるけれど、わかることを繋いで切り拓いていく。

    辻信一/デカルトとナマケモノ
    「現代の日本の教育っていうのは、子どもを空っぽの容器に見立てて、その中にどれくらい詰め込めるかを競争してるみたいなところがあるでしょ。でも本来、教育はそういうものじゃなくて、もともと自分の中にある可能性を引き出していくものです。」

    辻さんの話も、デカルトとナマケモノというタイトルからワクワクする(笑)
    私は利他が先にあることには懐疑的だったけど、ナマケモノのような、システムとしての利他を考えてみるのは面白い。
    エデュケーションはラテン語の「引き出す/エドゥカトーレ」が語源らしい。子どもを種子に例えるイメージは、最近聞いた「教科は栄養ですから」という言葉に結び付いて、印象に残った。

    奥村隆/自由と距離の社会学
    「コミュニケーションというと多くの場合は、近づけば近づくほど、結びつけば結びつくほどいいんだっていう感じを持つと思うんですけど、ジンメルのいうように、結びつくことによって逆に決定的な亀裂が生じてしまうということもあると思うんです。反対に、分離しているからこそ、結合することができる場合もある」

    貨幣や都市の、相手の見えなさや希薄さをポジティブ捉えると、こういう意味があるのか!と。
    一方で、だからといって、生の結びつきが断たれてしまうことのはダメとも述べている。
    私たちはどんどん分断されて、一人で生きることに近づいている。だから家族なんかも、お互いの見えなさや希薄さを許容できる関係くらいだと、うまくいく場合があるのもしれない。

    小川隆/禅は「自己」をどう見てきたか
    「『悟りおわらば、いまだ悟らざるに同じ』という禅語があります。悟ってしまったら、悟る前と同じだったというような意味です。
    少し前に『人生が360度変わるな』という新聞のコマーシャルがありましたけど、禅ってあれなんですよ。0度の『ありのまま』を突破して一切は空だと悟る。『ありのまま』を超えて、世界観を180度反転する。しかし、それをさらに打破し、さらに180度反転する。すると、結局『ありのまま』に戻る。つまり、世界観を360度転換するんです」

    ここまでの話に、仏は自分だと気づくことに触れられていて。それなら、何もしなくていいや、になるのでは?と。でも、そこに対する上の言葉が、良かった。
    よく言われる、自分を大切にすることもまた、0度のままでいることではなく、360度の転換を何度も繰り返していくことなんだろう。

    野谷茂樹/この世界は他者にどう現れているか
    ーその眺望論の基本は、同じ場所に立ちさえすれば、誰であれ同じ眺望が現れるということですね。
    「そういうことです。なんで『誰であれ』といえるのというと、世界の現れというのは空間的な位置関係と身体の関数として秩序立てられているのであり、そこには私が、あなたが、彼が、彼女がっていう人称的な要素は入り込んでいない。
    私とあなたがなぜ違うものを見ているのかというと、私とあなたが違う場所にいるからだという、非常にもう、能天気といっていいような答えを与えるわけです」

    認識主観での「私」を考えると、「私とあなたで同じものが見えるわけはない」になる。
    でも、行為主観での「私」?を考えると、対象とどんな距離にいるか、身体と位置関係で表される。
    そうすると、「他人の考えていることが分かるわけがない」という他我問題が解消される。(簡略した説明になっちゃったけど)
    これ、今の私には少しピンとくる。
    同じモノを介して、私とあなたではどう見えているのか。あなたの位置に移るから、見えるもの、わかるものがある。
    もちろん、認識をどう考えるかはもっと深めないといけないんだけども。眺望論、もっと知りたい。

    以上。めちゃくちゃ長くなってしまった……。
    ここまで読んでくださった方がもしいたら、ありがとうございました……。

  • 正解のない世界は学び続けなければならないと、深く感じました、答えが簡単に手に入り解ったつもりが一番危険な状況である事に改めて気づかされた!

  • 短い文章で一つの出来事について考えを述べる必要があるので、一節ごとの内容が濃い。

  • 良書。

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00628582

    生命、宇宙、宗教、社会、ジェンダー、他者――
    12 人の研究者を訪ね歩いた、超横断的ロング・インタビュー集!
    さまざまな学問領域における一線の研究者に、ずぶの素人の元コピーライターが一般読者の目線で
    素朴な質問を投げかけ、「いま、学問することの意義」を引き出す―。
    日常で生まれる小さな疑問とアカデミックな問いを架橋する、ありそうでなかったインタビュー集。
    (出版社HPより)

  • 2021 ~答えなき時代の学問~

    1 人間とは何か
    中村桂子
    島薗進
    辻信一
    中村寛

    2社会とは何か
    奥村隆
    吉澤夏子
    江原由美子
    広井良典

    3真理とは何か
    池内了
    内田樹
    小川隆
    野矢茂樹

    はじめに
    「わかる」とは分ける
    対象を分割し、一つひとつ分析し、同じ特徴や性質を持つものに分類する
    言葉にできるということが、時に「わかる」と同じ意味で使われるのは、言語がまさにそのようにして、事物や世界を捉えているからでしょう
    大切なのはわかり方がどのような理路に基づいているのか、ほかのわかり方はないのか、とかんがえてみることである
    「わかる」を相対化し、場合によってはその前の状態、すなわち「わからない」に立ち戻るといってもいいかもしれません。

    膨大な先行研究を知悉(ちしつ)し、観察と議論を重ねてもなお、わからないことがなくならない。それどころか、研究を進めるほど増えていく。その状況と向き合い、不断に問い続けているのが、どうやら、研究者という人たちのようです。もうそうであれば、学問とは、知識を溜め込むことではなく、「わからない」と向き合う姿勢を身につけること、すなわち「問うことを学ぶ」ことなのではないでしょうか。検索でなんでも「わかる」今、その大切さが忘れられているように思えてなりません。
    「わからない」に立ち戻り、踏みとどまり、問い続ける力を養う。この本が、そんな「学問」のきっかけになることを願っています。 加藤哲彦(トイビト)
    https://www.toibito.com/

    東京自由大学

    単純生物のことを思えば、うちの子どもたちが存在してくれていることで、私の仕事は完了した
    でもDNAとして残さないにしても、言葉で誰かの心に何かの変化を残せていたら~そちらの方がうれしいかも

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著者プロフィール

1936年東京生まれ。JT生命誌研究館名誉館長。理学博士。東京大学大学院生物化学科修了。ゲノムを基本に生きものの歴史と関係を読み解く「生命誌」を提唱。JT生命誌研究館を開設し、2002年より同館館長。『生命誌の扉をひらく』『自己創出する生命』(毎日出版文化賞)、『ゲノムが語る生命』ほか著書多数。

「2022年 『科学はこのままでいいのかな』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中村桂子の作品

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