AI vs. 教科書が読めない子どもたち [Kindle]

著者 :
  • 東洋経済新報社
4.13
  • (127)
  • (123)
  • (55)
  • (9)
  • (4)
本棚登録 : 1166
感想 : 142
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (243ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 数年前に話題になった本。Kindle Unlimited で見つけたので読んでみた。

    著者は、数学者として東大合格を目指す「東ロボくん」プロジェクトを率いるとともに、日本数学会の教育委員長として「大学生数学基本調査」を実施、その後「リーディングスキルテスト(RST)を自力で開発し」て中高校生対象に「基礎的読解力」調査を精力的に行っている。

    本書に書いてあるのは、主に以下の二つ。

    1つ目は、AIは自らの得意分野では人間を凌駕し、確実に仕事を奪っていくだろうが、「AIやAIを搭載したロボットが人間の仕事をすべて肩代わりするという未来はやって来」ない、ということ。

    何故なら、コンピューターは数学の言葉で使って動いていおり,「コンピューターができるのは基本的には四則演算だけ」。そして、人間が認識し思考し判断していることのうち、「数学で数式に置き換えることができるのは、論理的に言えること、統計的に言えること、確率的に言えることの3つ」しかなく、しかも数学には「意味」を記述する方法がない(「「私はあなたが好きだ」と「私はカレーライスが好きだ」との本質的な意味の違いも、数学で表現するには非常に高いハードルがあ」る)。なので、「私たちの脳が、意識無意識を問わず認識していることをすべて計算可能な数式に置き換えることができ」るようにでもならない限り、シンギュラリティは起こらない、とのこと。

    この点については、(専門家じゃないので偉そうなことは言えないが)全くその通りだと思う。

    意味を理解しない「AIの弱点は、万個教えられてようやく一を学ぶこと、応用が利かないこと、柔軟性がないこと、決められた(限定された)フレーム(枠組み)の中でしか計算処理ができないことなど」。この裏返しがAIに奪われない仕事だ。

    ナルホドと思ったのは、AIが得意な画像認識・音声認識の分野の抱えるリスク。「画像認識や音声認識など、入力系にカメラやマイクを利用する A Iの導入を検討する際には、ハードが変わるたびに教師データを作り直さなければならない、つまり、ハードの買い替えだけではなく、教師データの再作成にも費用がかかることを念頭に入れておかなければな」らないとのこと。システム刷新やハードウェアの更改でも、既存ソフトウェア資産の手直しが大変だが、これはもっと厄介だな。

    2つ目は、日本の中高校生の読解力が危機的と言ってよい状況にあるということ。「大学生数学基本調査」でまともな正解率だったのはトップクラスの国公立の学生だけ(正解率の低さは読解力の問題)、そして中高生向けに実施した「RST」でまともな正解率が得られたのは一流進学校だけだったという。学力(=偏差値)と読解力に強い正の相関がある一方、「中学生の半数以上がサイコロ並み」だったというから酷い。なのに、読解力を高めるための処方箋は今のところ見つかっていないのだとか。ちなみに、読書習慣や学習習慣は読解力の高さと関係しないらしい(「多読ではなくて、精読、深読に、なんらかのヒントがあるのかも」との推測はあるが…)。

    著者は、多くの読解力の低い人材の仕事がAIに奪われる結果、「AI恐慌」とでも呼ぶべき、世界的な大恐慌がくるのではないか、と危機感を募らせる。一方、「小さくても、需要が供給を上回るビジネスを見つけることができたら、AI時代を生き残ることができます」とも言っている。あれ、 これって、著者が批判してるAI楽観論者と同じじゃね?

    AIに出来ること出来ないことと、読解力低下の問題、それぞれに興味深かった。それにしても両者、敢えて一緒に論じなくても良かったんじゃないかなあ。読解力って、AI云々以前の問題だと思う。

    著者は、自らのプロジェクトの成果を誇らしく(自慢気に)語っていて、それがちょっと鼻についた。教育に関しての批判も辛辣だし、ジェンダーに関しても一家言持っているようだ。一言でいうと、ちょっとクセが強いな。

  • どのようにAIに学習させたかという話が面白いですね。
    AIは何を得意とし、何を苦手とするのか?
    というのが よく理解できます。
    今の子供たちとAIは
    同じことが苦手なわけで
    これでは AIに出来る仕事は
    人間からどんどん奪われ
    AIに出来ない仕事をできる人間がいない
    という 最悪のシナリオになるじゃないですか・・・

  • 大変興味深い話ばかりでした。
    近い将来AIが人間の頭脳を超えると実は私も思っていたひとりでした。しかしAIは数学であって数値化でしか判断できない事。人間が持っている常識や感情などは持たない事。そしてAIが不得意とする読解力は、現代の人間も実は苦手としているというのはあまりにも衝撃でした。
    日本の中高生に基礎的読解力を調査した結果に驚き、これをもとに教育現場に反映される事を強く願うと共に、今の子どもたちに良い未来があるよう願うばかりです。

  • AIが人間を超えることがあるのか?
    AIが人間の作業を全て置き換えてしまうことができるのか?

    AIによる東大合格プロジェクト「東ロボくん」を開発することで、その謎に迫った数学者・新井紀子さんの本。すごく話題になっていましたよね。KindleUnlimitedにラインナップされていたのでやっと読んでみました。

    この本を読んでびっくりしたのは2点。

    ・AIが行っていることの裏側が「理解」ではないのだということ(なのに素晴らしい結果を出したりしていること!)

    ・そして、子供たちが文章を読んだときに「理解」している率が結構低いこと!

    面白い!と思った反面、なんだかゾッとしました。



    「東ロボくん」については、なんとなくニュースで見た、気がする…、程度の知識しかなかったのですが、今回、ちゃんと知ることができました。

    AIが「設問に答える」とき、どのような処理を行って答えを導き出しているのか、全く知りませんでしたが、これを読んだことで、大体のところが掴めました。

    コンピューターは、検索やビッグデータを元にして「一番確からしい答え」を選び出すことはできるけれど、「理解」したり「考え」たりしている訳ではないということに。「理解していない」のに「答えを出すことができる」こともすごいのだけれど、これは人間が「考えて答えを出す」のとは、全く違う方法。機械が人間の脳の働きと同じことをするのではなくて、一番「当たりそうな答えを探してくる」だけ。

    色々なパターンの設問に対して、AIが得意なこと、不得意なことを、色々な例を出して説明。


    そして、後半では、AIにしたのと同様の数パターンの設問を、子供たち(中学〜高校、さらには大学生や社会人にも)を対象にした試験をすることで、AIと子供たちの比較を行っていました。

    AIの開発だけにとどまらず、人間の能力の評価にまで研究対象が広がっているのが面白い。

    AI技術の発展や、コンピューター能力の向上によって、一部の仕事はAIにとって変わられるだろう。けれど、AIが不得意である分野では、まだまだ人間が行わなければならないこともたくさんあるはず。それを裏付けたい、という研究だと思うのだけれど、結果は、AIが不得意な分野は、最近の子供たちも不得意であると分かったというものでした。

    書いてある文章をきちんと読み解けない。


    ちょっとびっくりしました。
    実際に試験に使った設問がいくつも書かれていたのだけれど、そんなに難しいものじゃないはず。なのに、子供たちは、文章が理解できてない。設問の中に出てくる数字や単語だけを抜き取って、「答えっぽいもの」を見つけているフシがある。これはAIがやっている処理と同じ…。

    ゾッとしました。


    このような研究を行ってくれている研究者がいることに感謝したい。今後、どのようになっていくのかわからないけれど、もう少し多くの人がこの事実を知って考えていかなくてはならないのではないだろうか…。

  • 「人工知能は人間を超えるか」に続くAI本2冊目。AIに関する本は技術そのものを知ることよりも、AIを通して人間を見ることができるというところがよい。

    前半2章は主にAIができないことについて書かれている。センター試験を題材に、AIが、何ができて、何ができないのかが書かれているので、実際に試験を受けたことがあると頭に入ってきやすそうである。

    問題を読んで、答えるという行為がここまで細分化されるということ、また人間の様々な能力が使われていることにAIを通して気づかされる。人間の知能はすごいな!と思うと同時に、AIが人間とは全く異なる解き方をしているというところが面白い。圧倒的な計算量と記憶量で英語の問題を解いていくのはAIらしからぬ「力技」のように見えるが、この「力技」こそAIの特徴なのだろう。

    後半2章はRSTによる中高生の読解力について書かれている。
    「実は〜さんは文章が読めていないのでは…?」というのは皆薄々感じていたのかもしれないが、それを裏付ける驚愕的な調査結果が記載されている。そして、人間の得て不得手とAIのそれががほぼ一致しているというところも驚きである。個人的には上位国立大の「文章が読めない人」の集団も気になるところである。

    問題がどこにあるか明らかになったこと、またこの結果を受けた教員たちが教育を変えていこうとしていることはポジティブな側面である。ただ、AIの活用がいたるところで始まっているタイミングで、この状況だとやはりそれなりの犠牲が発生しそうではある。

  • AIの限界と、それを乗り越えるために必要な日本人の読解力の問題点について書いた本。
    前者については歴史的な意義がある。後者についてはある一方の端的な意見としては一考の価値はある。

    AIの限界については筆者が数学者として論理的に詰めて書いたことは感じられるが、出版後「ありえない」と言った技術が次々生まれたことに意味があると思う。筆者が項を立ててまで不可能性を解いた「AIの限界」が、DeepL、MidJourney、そしてChatGPTによって破られたことは、技術の進歩が必ずしも線的ではなく「今の技術の延長では無理」なものが明日の技術なら可能になりうることを示していると思う。筆者の主張の核心であった「AIは意味を理解できない」という主張すら、IPAが発行するAI白書で次に解決すべき課題として挙げられてることは示唆にとむと思う。

    後者については筆者が読解力診断テスト(RST)を自信をもって世に出し、それを広めようと思っていることは賞賛すべきだがそれ以外の論理が飛躍している。おそらく筆者は、少なくとも教育学の専門家を共著者に加えて読解力と教育の果たす役割を論じるべきだったのだと思う。また統計とその限界を前に述べておきながら、RSTの結果のみをもって高等教育や大学入試等の選抜試験を論じるのも専門家らしい態度とは言い難いのではないか。何より読解力の差異が生まれた生活習慣などのアンケートで何の有意差も見られなかったことを持って「そもそも読解力がないのだからアンケートの質問も理解できなかったのでは」といい、アクティブラーニングをして「調べ物をしてもその内容を理解できない」というのなら、なぜこの本の読者はこの本の内容を正確に読解し人口に膾炙してくれると期待できるのかという疑問にも答えなければ出版の前提を崩すのではなかったのか。いずれにせよ、数学という論理のみに依拠する学問を修めた筆者の「極論という醍醐味」には一考の価値もあろう。

    上記2点を踏まえて、筆者はAIの発達で未だかつてない大恐慌が起こる危険性を指摘するが、前と同様、これも経済学の専門家を共著者に入れるべきだったのだろう。「経済学のどの教科書にも書かれている」概念を扱いつつ、それに関する議論を深掘りせずに用いるのは、後の主張の広範さに比して誠意に欠けると見えかねない。世界恐慌より広範な職が短期間でAIに奪われるとしながら、世界恐慌でどれくらいの職が、どのくらいの期間で失われ、その間にどれくらいの新しい職が生まれたのかを検討しないのでは、筆者が批判する「巷のAI本」と大差ない。また、読解力が無いため新たに生まれる職に失業者が就けないとするなら、筆者が例示したオックスフォード大の「AIに代替されない仕事」の就業者がどのような職業訓練を必要としたのかを検討しなければならなかったはずである。
    これらの議論は前提にあったAIの限界が崩れたため、もはやそれ自体を深掘りする価値は下がったが、本書出版時点では「このような議論も説得力があった」と考える上で有意義だろう。情報技術はそれに深くコミットする人でさえ5年先を予測出来ないどころかロジカルに全否定してしまう性質があることは、現在の2030年問題等を考える上で参考になると思う。

  • 「AIはコンピューターであり、コンピューターは計算機であり、計算機は計算しかできない。」だから人間の仕事を全て引き受けたり、意思を持つことはない。シンギュラリティも来ない。
    が、人間の強力なライバルになる実力は十分に培ってきている。
    AIが代替できない新たな仕事は、多くの人間にとっても苦手である可能性が高い。
    AIが人間を超えるためには「常識の壁」がある。「常識」を教え込むためには膨大なデータが必要で現実的ではない。

    AIは意味を理解できない。計算しているだけ。
    AIに対抗するためには読解力が必要だが、それがない子供が増えている。
    テストの問題文がいくつか掲載されているが、本当に簡単な文なのに、中学生の正答率が「ランダム並み」なのに慄然とした。
    「中学生の半数は、中学校の教科書が読めていない状況」
    読書習慣と基礎読解力の間に相関がなかった、という調査結果はショック。
    貧困は読解能力値にマイナスの影響を与えている。

    AIに代替されないのは、意味を理解する能力を持つ人。
    「AIにより仕事を失った人のうち、人間にしかできないタイプの知的労働に従事する能力を備えている人は、全体の20%に満たない可能性がある」
    読解力を付けるためにどうすればいいかは続巻に書かれているようだが、Unlimitedから外れてしまった。いつか読みたい。

  • 2018年出版の本だが、有益な内容だった。今となってはchatGPTや生成AIも出ており、この本が出版された時と比べたら格段に進化しているが、AIが人間の脳を超えることはかなり難しいということがわかる。
    第二章まではAIについての内容なのでやや難しく感じられたが、タイトルの『教科書が読めない子供たち』に触れるのは本題は第三章から。読解力の低い子供がこんなにも多いのかという現実を突きつけられるし、自分の読解力も怪しいと痛感した。
    そもそも教科書が読めなければどうにもならない。ただドリルを解いて暗記するだけの型にはまった勉強ではAIには到底勝てない。プログラミング教育するにも生徒の読解力(論理的思考)が必要だ。教育について考えさせられる本だった。

  • AIが人類の仕事のほとんどを引き受ける、AIが人類を滅ぼすというのは妄想に過ぎない。AIがコンピューターである以上、人間の知的活動の全てが数式で表現できなければ、AIが人間に取って代わることはないと、AI研究者である著者は指摘する。
    それなら、AIを恐れることはないのでは?という意見もあるが、それは違う。
    AIは人間の知的活動の全ては担えないが、膨大なインプットとアウトプット、計算は人間より得意である。

    現在の詰め込み教育の実態は、意味も分からないまま、ただ暗記させて答えを吐き出させること。これではAIとやっていることが一緒である。
    AIが苦手な分野、問題文の意味を考えて答えを導き出すことの教育が全くなされていないと著者は警鐘を鳴らす。

    特に現在の子供達の能力で劣っているのは読解力。
    問題文で何を聞かれているのか分からなければ、当然答えも分からない。
    現在、こういった子供達が増えているそう。
    そして、これは子供達に限らず、大人にも言える。読解力は中高生ぐらいで基礎力を取得して、その後特別な訓練をしない限り伸びることはない。

    基礎読解力さえ身に付いていれば、授業中に居眠りしても後で教科書と問題集をやれば理解できる。しかし、読解力がないといくら勉強時間を費やしても学力が伸びることはない。
    基礎読解力は、その後の進学に影響する、ひいては人生に影響するといえる。

    では、どうすれば基礎読解力が向上するのか。明確な答えは出ていないが、まずは国語力を身に付けること。残念ながら読書習慣が読解力向上に役立つという相関結果は出ていない。
    ただし、貧困と読解力の低さは相関関係がある。

    また、読書については忙しいビジネスマンにおいてはさておき、子供においては速く沢山読むことよりもじっくり意味を理解して読むことが大切といえる。

    AIに代替されない仕事とは読解力と常識、人間らしい柔軟な判断が求められる仕事。

    数学は論理的、統計的、確率的に言えることは実に美しく表現することができるが、それ以外のことは表現できない。つまりAIも同じくこれらのアウトプットができない。

    喫緊の課題は、中学を卒業するまでに中学校の教科書を読めるようにすること。
    文科省のお偉いさんは、まさか子供達が教科書を読めていないとは思っていない。

  • prime readingの自分にハマる良書。
    前半はAI技術で東大を目指した実験の解説。具体的に何ができて何ができないかの線引きを明示してくれる。シンギュラリティはくるのか?、人間を凌駕するディストピアはやってくるのか?に対する専門家の冷静な見解に触れることができた。巷で喧伝されているよりもだいぶ冷静だな。
    あくまで圧倒的な量に依存した統計的な判断で、曖昧さをある程度目をつぶっている部分があり、推論や論理的な意味を解析できない。そこにAI技術の限界がある。

    後半は翻って現代の10代の読解力にフォーカスし、警鐘を鳴らしている。正直、これ本当の話かって訝しくなるような内容だった。他人事でなく、AIに取って代わられる仕事からはみ出した時に果たして自分は何か価値を創造できる人間だろうか、焦燥感。やはり、ここでもキーワードは「意味」なんだろう。最終章の具体的な仕事の創造性、人間としての本質を追求、細分化しているのだ。

    示唆に富んですぎる、今後の調査の報告を熱望しまする。

全142件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

国立情報学研究所情報社会相関研究系・教授

「2021年 『増補新版 生き抜くための数学入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

新井紀子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
岸見 一郎
アンジェラ・ダッ...
ジェームス W....
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×