独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 日米戦については多くの書籍があり特に開戦時と終戦時のものについては読んできたのですが、独ソ戦についてはほとんど知らんなあということで新書大賞記念に購入してみました。
    独ソ戦の開戦時からベルリン陥落までの約5年間を新書の長さにまとめたものです。戦争体験といえば戦場では飢えと内地では空襲で語られることの多い日本において想像を絶する世界でした。
    雰囲気はつかめたが、おそらくソ連側の情報が不足しているせいか、全貌はよくわからなかった。少し出てくる日本が関係するところの話が知っている話と異なっているのでどこまで信用してよいかもわからない。

  • 絶滅戦争であった。

  • 第2次世界大戦で、ドイツは四方八方に戦線を拡大。フランスにイギリス、アメリカと手当たりしだいに交戦、その中で最大の規模と犠牲を生み出したのが対ソ連戦だ。

    フランス、イギリス相手に連戦連勝のドイツ軍はその勢いでソ連に侵攻。ソ連指導者スターリンの判断ミスもあり、ドイツ軍はモスクワの目前に迫る。が、伸び切ってしまった戦線に補給が追いつかず、過酷な冬を迎え、快調なドイツの進撃は停滞。独ソ戦は膠着状態に陥る。

    本来、国同士の戦争は自国の戦力を温存しながら、相手を疲弊させ、有利な条件を勝ち取るのが目的のはず。しかし、独ソ戦は相手の戦力がゼロになるまで戦い続ける「絶滅戦争」と化した。

    なぜ、独ソ戦はそうなったのか。ヒトラーとスターリンというカリスマがいたからか?ドイツ民族は優性民族であるという意識のせいか?それとも、戦争の本質は絶滅戦争なのか?

    本書は、この独ソ戦の分析を通して、やられたらやり返す人類の戦争に対する意識に迫る。

  • 面白かった。冒頭で日本地図に置き換えた説明をしてもらえて具体的なイメージを掴めたけど,その後に出てくる数字はあまりに大きすぎてイメージ不可能だった。「戦略」と「作戦」とか,そりゃそうだろうなと思うことが説明されるのも面白かった。
    「1941 決意なき開戦」を読んだ時も同じこと思ったけど,戦争のことは幼い頃から習ってるので,頭の良い偉い人たちが賢い分析をして進んでいったことと思いながら生きてきた。が実際にはどれだけ浅薄な判断により進められていたのか。そんな浅薄な判断の下で亡くならなければならなかった人は何を思うのか。というのを思うと,心が重い。

  • 第2次世界大戦のなかでも最も多くの犠牲を出した独ソ戦。東欧全域を巻き込む5年におよぶ戦役によって、ソ連側だけでも2700万人もの犠牲を出したという。
    本書執筆の動機は、パウル・カレルをはじめとする独軍視点からの戦記ものが日本でなおミリオタに根強い人気を誇っていることへの憂慮からとのことで、巷間の俗説を正そうとする本書自体が、相当に軍事面に重点をおいた記述になっている。
    新書では異例の大ヒットになったのも、まるで軍略を競う戦争ゲームをプレイするかのように独軍とソ連軍の対決を「楽しむ」読者が多かったからではと思われるが、著者も書いているように、軍事とは戦争の一側面に過ぎないことは肝に銘じておくべきだろう。一方で軍事面に明るくないわたしのような読者にとっても、学説の変化に関する解説など、ずいぶん勉強になった。
    ヒトラーは政治的キャリアの初期から一貫して豊かな資源をもつ東欧・ソ連を征服して非アーリア人を絶滅・追放し、アーリア人が支配する東方植民地帝国を築くという計画を追求していた(このヒトラー個人の政治的計画を重視するのが「プログラム」学派)。
    そのソ連と手を結んでまで抑制したかったイギリスとの戦争がなかなか有利に展開せず、また国民の支持をつなぎとめるために必要な海外資源を断たれそうになったことから、ヒトラーはついに不可侵条約を破棄してソ連の自然資源および労働力資源を収奪するための戦争に打って出ることを決断する。
    一方で、全世界に優秀なスパイ網をはりめぐらせていたにもかかわらず、粛清と独裁によって自軍を弱体化させていたスターリンは警告に耳を貸さず独軍の不意打ちと初期の進撃を許してしまうが、独軍も決定打を放てないまま、両軍は多大な損害を出しながら長い消耗戦を強いられることになる。
    互いに相手を倒す力もないままようやく立っている2人のふらふらのボクサーのような独ソの戦争に決着をつけることになった要因として、著者はソ連軍の優秀な「作戦術」を強調するが、これはどうなんだろう。純粋に軍事的な側面では重要な要因だったかもしれないが、アメリカの参戦が第二次世界大戦全体の帰趨にもたらした決定的な意味について十分に記述されているようには見えず、それこそ独軍の優秀さを強調する俗説にひきずられてしまっているのではないかという気がしなくもないのだが。
    本書は、ナチスの対ソ戦を、純軍事的な「通常戦争」と、資源を奪い自らのものとするための収奪戦争、そして人種主義という非合理的イデオロギーにもとづく絶滅戦争という3つの性格をもっていたと論じる。だが、「通常の」純粋に軍事的な戦争、という理念はいったいどの程度まで「通常」といえるものなのだろうか。その「通常」という語には、国家が目標の達成のために合理的に軍事を手段として利用するという「正常な」合理的国家観が前提としてあるのではないか。作戦術や戦略論はそうした前提のうえで発展してきたものだろう。
    戦争を歴史なき国家間の軍事ゲームのように見る見方は近年のミリオタの病理ではなく、ずっと根深いものなのだと、あらためて考えもする。

  • 『絶滅戦争の惨禍』とするサブタイトルから、その被害の甚大さでもつとに知られる第二次世界大戦の主戦場・独ソ戦で払われた犠牲に焦点を当てた書籍と期待し、また帯にある「2020新書大賞 第1位」の呼び込みにも惹かれて購読しました。

    本書は基本的に時系列に沿って、独ソ戦が辿った経緯を綴るとともに、節々で日本において定説とされている詳細についての理解を挙げたうえで今日の研究成果を参照することで、それらを訂正しながら論を進める形をとっています。

    通読して、「独ソ戦の実態に迫る、定説を覆す通史!」との謳い文句にもあるとおり、ドイツの侵攻がけっしてヒトラー独断のみによるものではなく国防軍や収奪政策による利益を得た国民もそれに加担する要素だったこと、ソ連側としてはスターリンの大粛清による軍部弱体化と不愉快な事実を認めない倒錯した態度が緒戦の大敗に大きく影響したこと、全体としてヒトラーの誤った判断がなければドイツの勝利の可能性も低くなかったという理解に対しての批判など、興味深い箇所が多くありました。

    ただし、軍事史研究家でもある筆者が『戦争論』で著名なグラゼヴィッツの言葉もたびたび引用する本書は、中盤はとくに戦略や戦術についての軍事学的側面からのアプローチに比重を置いて構成された著書であり、被害そのものついてはどちらかといえば副次的な要素のように見受けられました。世界最大の戦争とも言われる独ソ戦を扱っているとはいえ、戦略・戦術論を交えて戦闘の経過を綴った本書が多数の読者を獲得したことについては、やや意外の感をもちました。

  • NDC / 391.2074

  • ナチス・ドイツとソ連との泥沼の闘いは、1941年6月、ナチス軍が独ソ不可侵条約を破ってソヴィエト連邦に侵攻したことに始まる。
    フィンランドからコーカサスに及ぶ、数千キロの戦線で数百万の大軍が激突した。規模だけでなく、その戦闘様態も歩兵、装甲部隊、空挺、上陸、要塞攻略など、陸戦のほぼすべてのパターンが展開するという異例の闘いだった。
    両軍とも多くの戦闘員を失ったが、軍事行動やジェノサイド、さらには戦災が影響した疫病や飢餓でソ連側だけで2700万人の民間人が命を落としたとされている。
    史上最大の惨禍である。

    本書は、この独ソ戦の通史である。
    時代を追って、何が起きたか、その背景に何があったかを述べていく。
    戦線に関してはもちろんだが、ヒトラーの思惑、スターリンの姿勢も含めて描いていくことで、全体の流れが捉えやすくなっている。

    著者によれば、ドイツによる対ソ戦は当初、「通常戦争」、「収奪戦争」、「世界観戦争(絶滅戦争)」の3つが並行する形で進んでいた。収奪戦争とは物資や人員を奪うことを目的とし、世界観戦争とは人種主義に基づいて相手方の社会秩序を改変し、植民地化することを指す。これが徐々に「収奪戦争」や「世界観戦争」が優位となっていき、空前の殺戮と惨禍をもたらすことになる。
    対するソ連の原動力は、イデオロギーとナショナリズムの融合で、共産主義を守る戦いと位置付けることであった。それは敵に対する無制限の暴力を許すことにもなった。
    両者、引くに引けない戦いは暴力と憎しみの連鎖を生んでゆく。

    独ソ戦そのものの解釈に加え、歴史学が不動不変のものではない点も本書から学べることだろう。
    史料の調査、その解釈、さまざまな視点の検討。新たな史料や証言が見つかれば、別の解釈が生まれうる。
    特に、ソ連側の史料は、ペレストロイカやソ連崩壊まで封印され、1991年以降、ようやく機密文書の解析や歴史議論の自由化がなされたところである。
    こうしたものの精査により、個々の作戦の内容により深い理解が進み、さらには独ソ戦全体の解釈もまた変わってくることもあるのかもしれない。
    歴史学は生きている学問なのだ。

    いずれにしろ、広域に渡り、膨大な被害をもたらした戦争から、後世の我々が学ぶべき点は多い。
    巻末の参考文献を含め、学ぶ手引きとなる1冊である。

  • 独ソ戦はナチスのイデオロギーを背景に敵に対する情け容赦ない扱いと味方の降伏を認めない絶滅戦争といえる凄惨な事態をもたらした。本書は比較的最近の研究成果に依拠して、ドイツ国防軍無謬論やヒトラーのミクロ介入による失敗という戦後の神話を否定する。
    戦局の全てを理解することは難しい。簡単にまとめると、ソ連への過小評価に基づくバルバロッサ作戦がスターリンによる敵が攻めてこないという願望・盲信によりたまたま成功したがドイツ軍はすぐに作戦遂行能力を失った。ソ連側の粘り強い抵抗は功を奏し、最後はバグラチオン作戦による攻勢で情勢は完全に決したという流れ。

  • 第二次世界大戦の大きな舞台の一つである独ソ戦を、その始まりから終わりまで通史として書かれています。日本人にとっては、自国の太平洋戦争が主眼となりますし、戦後の情報の少なさなどもあって、多くがあまりよく知らない戦争になってしまっている部分もあると思います。実際、太平洋戦争については大衆向けの本も多くあり、割と詳細に知られていますが、独ソ戦について同様のものがなかったように思います。戦争がどのように発生し、どのような経緯をたどり、また実際の戦場はどうだったのか、個々の戦いの結果、捕虜や一般人の運命など、本書ではその要求に応えるかのようにリアルに書かれています。それを通して、この独ソ戦の悲惨さを知ることができる内容になっています。

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著者プロフィール

現代史家。1961年東京生まれ。立教大学大学院博士後期課程単位取得退学。DAAD(ドイツ学術交流会)奨学生としてボン大学に留学。千葉大学その他の非常勤講師、防衛省防衛研究所講師、国立昭和館運営専門委員等を経て、著述業。『独ソ戦』(岩波新書)で新書大賞2020大賞を受賞。主な著書に『「砂漠の狐」ロンメル』『戦車将軍グデーリアン』『「太平洋の巨鷲」山本五十六』『日独伊三国同盟』(角川新書)、『ドイツ軍攻防史』(作品社)、訳書に『「砂漠の狐」回想録』『マンシュタイン元帥自伝』(以上、作品社)など多数。

「2023年 『歴史・戦史・現代史 実証主義に依拠して』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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