言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • ヒトがどのように言語を習得していくのか。
    一つの鍵はオノマトペ。音と意味が直結するオノマトペにより、単語に意味があるという概念そのものだけでなく、音や韻律の特徴を理解し、組み合わせには規則があることなどを赤ちゃんは学んでいく。その意味で赤ちゃんに対して「車」ではなく「ブーブー」と語りかけるのは非常に理にかなっているようである。
    もう一つの鍵はアブダクション推論。例えばチンパンジーに対して、黄色い積み木なら△、赤の積み木なら◇と教えると非常に早く学習するが、△を示しても黄色い積み木を選ぶことができないという。「AならばX」と「XならばA」は同値ではないことからこれは論理的に正しいのだが、人間はこのような逆向きの推論、知識の過剰な一般化も可能であるとのこと。このような意味の拡張も、言語の習得には必要とのことだった。
    様々な研究結果もわかりやすく紹介されており、読みやすく勉強になる本だった。

  • 今井むつみ/秋田喜美「言語の本質:ことばはどう生まれ、進化したか」https://www.chuko.co.jp/shinsho/2023/05/102756.html ゆる言語学ラジオ経由。オノマトペの話が8割(なので言語といっても日本語メインの内容)でそれがめちゃくちゃおもしろかった。あとアブダクションすごい。ヒトと動物の違いは想像力だというのが持論なんだけどこのアブダクションの話でさらに持論が強まったわ

  • タイトルなどこかにオノマトペを入れておくべきだと思った。

  • ■趣旨や概要、
     この本の主張はオノマトペは正式な言語ではないと考える言語学者に異を唱えるもので、本書は大御所の主張した言語の恣意性、この大原則 を覆す挑戦だそうだ。
    オノマトペから言語が発達したのでは?という考察。
     よってオノマトペの体系化の話が3割強。
    具体的には言語の本質であるコミュニケーション機能、意味性、超越性、継承性、習得可能性、生産性、経済性、離散制、恣意性、2重性の観点からいかにオノマトペがか言語的か推論考察していくのが主。以降もオノマトペを主軸として、言語の進化や人間のもつ特性が展開される。
    概要を掴むのに終章から先に読んでも良いと思う。

    ■自身の重要な箇所メモ
     第4章以降は、タイトルから欲する情報と近いかな。
    オノマトペは言語習得の足がかりであり、感覚モダリティ(感覚器で感知する固有の経験の種類)や身体性の言語との親和性があることを再度説く。
     5章以降、感覚的言語から離れた認知記号であるその他の言語についても考察される。
    手話の公用語ニカラグア手話のリアルタイムに言語の発展を見ることができる。
    その現状と歴史と合わせ、言語が恣意的に発展するまでのプロセスの仮説を説く。

    6章では
    オノマトペから離れ
    言語習得における、推論のメカニズムから記号設置問題や論理的思考、思考バイアスにも話が及んでいく。
    子供の言語の一般化を学ぶ意味づけプロセスが、論理的に合ってたり間違ってたりするのが、国によって慣習的な違いからによるのが非常に興味深い。
    感覚的に関連性を分析して新たに創造していく力が元々備わっているというのだ。

    7章では
    人類と動物をわかつもの。
    対称性推論。構造や関係類似性による意味づけからくる認知範囲内による推論。過剰推論である。

    終章は
    本書の概要と言語本質の定義。

    ■感想
    言語の慣習を守る力と新たな創造的逸脱の力との戦い、この辺に興味があって読んだ。
     いわゆる若者言葉やネットスラングの生まれ方と継承性に興味があった。
    前世代にはつながりが見えないほどの隔たりが生じる非継承型。そのへんは「経済性」や「意味の派生によってアイコン性を失う」の中で少し触れられているが、大まかに言えば、同音異義語でしかない。
    幼児性を帯びる響き、ぴえん、ぱおんに代表される造語の意味づけの過程は音の類似性ということだけ記してあった。
    声や音はオノマトペの中でも下等レベルのものだ。
     5章以降、特に6章の言語の習得の過程が面白かったが、所々難しく混沌としてしまった。特にアイコン性の輪の図で、1次と2次の意味づけがわからなかった。フープーブーであれば2次に時系列で派生したって言う事であればわかりますが。
     動物について思う事。
    カラスは方言や基本的言語はあると聞きますし、動物は過剰推論は動物は弱いというが
    盲導犬の利口な不服従はここの範囲では?とは思うのですが…。危機的生命維持の本能の方かな?
    AIについて思う事。Wikipediaの言葉を引用すると「AIはこれまで人間にしかできなかった知的な行為(認識、推論、言語運用、創造など)を、どのような手順(アルゴリズム)とどのようなデータ(事前情報や知識)を準備すれば、それを機械的に実行できるか」を研究する分野である[1]という。
    五感知覚経験がなくとも、物語や、理解していなくても感想を書けたりすることは、現在のAIにもできつつある。
    ただアルゴリズムを与えるのは有識者の人間だ。これを忘れそうになるから漠然とした不安はつきない。SF映画の見すぎか。
    なにせAIは疲労や老いや病気がないからなぁ。



    • シャルたん@読書さん
      例えば身近な例でいうと、名刺代わりの〇〇。〇〇には映画、小説、音楽などが入るだろう。私世代から言うと、名刺の役割における経験的設置が違うので...
      例えば身近な例でいうと、名刺代わりの〇〇。〇〇には映画、小説、音楽などが入るだろう。私世代から言うと、名刺の役割における経験的設置が違うので「好きな、愛する、影響を受けた」のプロフィール帳の中のような意味で使うのは私にはできない。https://www.ibos.jp/aibosu61.html
      2023/12/04
    • シャルたん@読書さん
      お客様に粗茶です。と言ったのを聞いた子供がどうして粗をつけるの?の疑問に「お客様には粗をつけるものなのよ」返答したゆえに、その子は自分の猫を...
      お客様に粗茶です。と言ったのを聞いた子供がどうして粗をつけるの?の疑問に「お客様には粗をつけるものなのよ」返答したゆえに、その子は自分の猫を「これはうちのソ猫です」と言って猫をお客様に紹介したっていう話とか思い出してしまう。
      かわいそうな猫
      2023/12/04
    • シャルたん@読書さん
      私の中の名刺の定義は
      どんな活動をしているか社会的に認められた情報。それ故個人情報の価値も上がる。

      手土産でいうところの慣用の使われ方はも...
      私の中の名刺の定義は
      どんな活動をしているか社会的に認められた情報。それ故個人情報の価値も上がる。

      手土産でいうところの慣用の使われ方はもっと意味がライトになってしまっている。
      https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%89%8B%E6%9C%AD%E4%BB%A3%E3%82%8A/
      2023/12/05
  • なぜ人間だけが言語を用いるのか、それは他の動物にない推論エンジンを使えているからというのは面白かった。想像し抽象概念を扱える能力ゆえ、言語を使い進化してきた。逆に言えば言語の習得に必要なのは、無いものを想像する力とも言える気がした。

  • 面白すぎる。専門家が一般向けに本を書く際のお手本になるような本だ。若い頃にこんな本があれば、この道に進んでいただろうと思わせてくれる。

  • 面白かった!
    身近なはずなのに、いままで意識してこなかった不思議な世界。
    最近興味のある分野なのでこの機会にもう少し深堀りしていきたい。

  • 面白かった。言語を通して発達を考え、発達を通して言語を考える本。

  • 第104回アワヒニビブリオバトル 出張!アワヒニビブリオバトル テーマ「秋におすすめの1冊」第2ゲームで紹介された本です。ハイブリッド開催。チャンプ本。
    2023.10.14

  • 初めて知る様々な概念が面白かった。

    「記号接地」
    言葉が表す対象を身体的に経験すること。これがないと、記号から記号へのメリーゴーランドになる。AIにはこれがない。感覚を中心に据えた言葉であるオノマトペは記号接地を助ける。人間は記号接地したいくつかの言葉から、抽象的な他の言葉を理解していく。「身体性」は最近様々なところで言われており、流行っている感がある。個人的には論理性を放棄した胡散臭い印象も持っていたが、本書では身体性について理論的に説明し、かつ、後述の「恣意性」などでは身体性が全てではないとも言っており納得感があった。

    「擬情語」
    内的な感覚・感情を表す語。「わくわく」など。

    「換喩」
    ある概念を、それと近い関係にある別の概念で捉えること。「鍋を食べる」「ホワイトハウス」(アメリカ大統領とその周辺を指して)など。

    「隠喩(メタファー)」
    抽象的な概念を具体的な概念で捉えること。目に見えない物価の変動を空間的な上下方向で表す、濃いコーヒーをstrongと表現するなど。

    「音象徴」
    言葉の音が特定の様子を表すこと。発音時の口の形や波形が表すイメージに影響する。清音より濁音が大きく荒いイメージ、nは遅い動きや粘り気のイメージ、母音の「あ」は大きいイメージで「い」は小さいイメージ、rは回転や落下のイメージ、kやtは硬いイメージでyやwやrは柔らかいイメージなど。

    「超越性」
    言語の十大原則の一つ。目の前の物事だけでなく、過去や未来のことも表せること。

    「経済性」
    言語の十大原則の一つ。一つの言葉が複数の意味を持つ多義性も経済性の一側面。

    「離散性」
    言語の十大原則の一つ。表現の仕方が連続的でないこと。アナログではなくデジタル。色、可算名詞か不可算名詞かの振り分け、加算名詞は一つか複数かのみを区別し複数のうちいくつかを区別しない、過去形はどれくらい過去かを表現しないなど。

    「恣意性」
    言語の十大原則の一つ。言語の形式と意味には必然的な関係はないということ。ただし、上記音象徴のようなこともあるため、恣意性は言語の絶対的条件ではないとされるようになってきた。全ての言葉がオノマトペのような恣意性のないものだと似た言葉ばかりになり識別が困難になる。恣意性のある言葉の方が情報処理には有利なこともある。

    「名付けの洞察」
    対象それぞれに名前があると気づくこと。ヘレン・ケラー、赤ちゃん。

    「語彙爆発」
    急速な語彙の成長。名付けの洞察により引き起こされる。

    「カヴァガーイ問題」
    対象の情報が多いため、対象を指して発せられた言葉が対象のどの特徴を意味するのかを特定することが論理的に不可能という問題。全く知らない言語で野原を飛び跳ねるウサギを指して「ガヴァガーイ」と言われても、それが野原を指すのか、ウサギを指すのか、飛び跳ねる動作を指すのか分からない。特に動詞は、示される対象に動作と動作主体の情報がセットで含まれるので特定が困難。オノマトペは音象徴によりこの特定を助ける。

    「隠れたオノマトペ」
    「たたく」「ふく」「すう」「はたらく」「ヒヨコ」「ネコ」「カラス」などもオノマトペから派生した言葉。

    「動詞枠づけ言語/衛星枠づけ言語」
    前者は移動の方向を述語動詞で表す。「横切る」など。日本語、ロマンス諸語(フランス語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語など)、アルタイ諸語(トルコ語、モンゴル語など)。後者は移動の方向を述語以外で表す。「stroll across the park」など。ゲルマン諸語(英語、ドイツ語、オランダ語、デンマーク語、スウェーデン語など)、スラブ諸語(ロシア語、チェコ語など)。前者では動きの様子は動詞外に出て、オノマトペとなる。「トボトボ歩く」など。後者では動きの様子は動詞内で表される。英語には歩く、走るを表す動作が140以上ある。英語にオノマトぺが少ない理由。

    「演繹推論/帰納推論/アブダクション推論」
    演繹推論は規則の正しさを前提として個々の事例の正しさを導き出す(規則→事例)。帰納推論は個々の事例の観察から規則を導き出す(事例→規則)。アブダクション推論は個々の事例の観察から仮説(規則の説明)を導き出す(事例→仮説)。3つの推論のうち新しい知識を生むのは帰納とアブダクション。帰納とアブダクションの違いは規則を導くか仮説(説明)を導くか。リンゴが木から落ちるという事実から、全ての物体は支えがないと落ちるという規則を導くのは帰納。「重力」という概念を導くのはアブダクション。アブダクションと帰納は連続する。まず仮説がなければ帰納推論のための事実を集めることはできないから。

    「後件肯定の誤謬/対称性推論/相互排他性推論」
    論理的には間違いである過剰一般化の例。演繹推論は論理的に間違うことはないが、帰納推論とアブダクション推論は論理的に間違う可能性がある。後件肯定の誤謬/対称性推論は、X→AならA→Xだと判断する間違い。「道が濡れている(A)から雨が降った(X)に違いない」など。相互排他性推論は、名前を知っている対象と知らない対象を見せられて新奇な名前を聞いたら、新奇な名前は名前を知らない対象の名前だと推論すること。人間だけがこのような論理的間違いを犯す可能性のある推論をする。しかしそれが知識を創発し、言語という巨大なシステムを作り学習することを可能にする。

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著者プロフィール

今井 むつみ(いまい・むつみ):1989年慶應義塾大学社会学研究科後期博士課程修了。1994年ノースウエスタン大学心理学博士。慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。著書に、『親子で育てる ことば力と思考力』(筑摩書房)、『言葉をおぼえるしくみ』(共著、ちくま学芸文庫)、『ことばと思考』『英語独習法』(ともに岩波新書)、『言語の本質』(共著、中公新書)などがある。

「2024年 『ことばの学習のパラドックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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