言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 人はどのようにして言語を得るのだろうか、なぜ人だけが言語を話すのだろうか。言語に関するそういった謎について、新たな視点から解き明かされた内容が書かれています。言語を話す初期段階で頻繁に使用されるオノマトペについて、その種類や使われ方について詳しく分析をされています。そこから分かってきたもの、言語とオノマトペの違っているところ、互いを橋渡しするもの、言語というものの仕組みについて幼児期の子供が学ぶヒントになるものがあることなど。なぜ人は教えられずに話せるようになるのかについて理解が深まりました。またそこから人間という種が、他の動物とどう違っていて、そこから言語にも含まれる学ぶという習性についても新たな知見を知ることが出来ました。人間についてより深く知ることのできる内容となっています。

  • 終盤、人間独自の非論理的な推論こそが言語習得に重要な役割を果たしている、という主張が展開される。数学や物理の定理の演繹的導出、そしてそれが科学の発展をもたらした後の時代に生きる私たちにとって、非論理的な推論が人間の強みだという主張は意外ではないだろうか。(私が電気屋で、物理のおかげで生活しているから感じるだけか?)
    筆者が最後に強調していた対称性推論に絞り、何とか紹介を試みたい。

    まず対称性推論とは、記号と指示対象との一方向の対応付け(ある記号aはある対象bである)が成り立つとしたときに、その逆(対象bは記号aでもある)も成り立つという想定だ。ある命題が正しくともその逆は正しいとは限らないから、これはあくまで不確実な推論だ。よく挙がる例として、「人間は哺乳類である」が正しくとも、その逆である「哺乳類は人間である」が正しくない、というものがある。
    そして「モノには名前がある」という言語習得の前提であり自明にも思える洞察が、対称性推論によるものだという。モノは記号であり、なおかつ記号はモノであるという双方向の関係(モノと記号は論理的に同値)の成立を想定している、ということだ。もし、モノ⇒記号が成り立っても記号⇒モノは成り立たないとすれば、その記号を使ってモノを特定することはできないからだ。
    つまり、対称性推論が無ければモノと名前が対応するという洞察が生まれず、言語を習得しようという動機も生まれないことになる。
    しかし、人間以外の動物のほとんどは対象性推論を行わないらしい。色⇒記号の対応関係をチンパンジーが覚えても、記号から色を選べなかった、といった実験結果が示されている。
    これらのことから、人間固有の対称性推論へのバイアスが、人間独自の言語習得を可能にしていたのではないか、という仮説を導いているわけだ。

    最後に素人目線からの疑問点もひとつ。どこで聞いたか忘れたが、他の動物にも名詞を覚えて使う例があるらしい。これは対称性推論の必要性の反例になるのだろうか。例えば、「バナナがあるぞ」という意味の発話するサルがいたとして、彼は”黄色くて甘いくだもの”⇒"バナナを意味する音”、という対応付けを、これを理解するサルはその音⇒”黄色くて甘い果物”という逆方向の対応付けをしているのではないだろうか。彼らにその両方ができているから、意味が通じているという気もする。

  • オノマトペから言語は進化したというのはそれはそうなのだと思う。印象的だったのが、人間が言語を発展できたのは他の動物にはない「過剰一般化」ができたからだというところ。あまり考えたことはなかったが、確かに人間は論理的には証明できないことを「過剰一般化」によって勝手に解釈して一般化しているところがある。なるほどと思った。

  • オノマトペの研究にとどまらず、言葉はどう進化してきたのか、人はどうして言葉を習得したのか、日本語はどういう特性があるのか、その特性はなぜそう特性づいたのか。
    奥深い研究で、これまでオノマトペの存在すらも認識していない自分にとっては驚くことの多いインプット。

  • 「ゆる言語学ラジオ」を聞いて赤ちゃんの言語習得に関心を持ち、この本を読了。言語習得は人間を人間たらしめているような気がした。あと、自分の子どもの言い間違いを聞くのが楽しみ!!

  • ヒトをヒトたらしめる言語とは。
    赤ちゃんはオノマトペから始まり言語を習得していく。
    もう一つはアブダクション推論。
    仮説検証やなぁ。

  • 大変面白かった。オノマトペは言葉なのか、言葉の接地をどう考えるか(中国語の辞書だけ渡されて中国語を学ぶことはできない)から始まって、人と動物の違いとは何か??に迫る流れが壮大で納得感もある。

    人を人たらしめているのはアブダクション推論だと。(演繹的・帰納的とは異なる第3の論理。強いていうなら帰納的に近くはある)
    因果関係を逆転したり、ものごとを過度に一般化したり…はよくやる過ちだが、それが赤子の頃から備わった人特有の思考だと知れた。

    仮説検証って大事だなあとか思った。

  • ・子どもが自分の気持ちや考えをうまく表現できないことに寛容になれる
    ・寛容になれるだけでなく、どうして表現できないのかな?と寄り添うマインドを持てるようになる
    ・言語の習得は難しくもあり、興味深くもある
    ・オノマトペから言語の本質をさぐっていくワクワクがある
    (研究者の苦悩を垣間見ることができる)

  • ヒトがどのように言語を習得していくのか。
    一つの鍵はオノマトペ。音と意味が直結するオノマトペにより、単語に意味があるという概念そのものだけでなく、音や韻律の特徴を理解し、組み合わせには規則があることなどを赤ちゃんは学んでいく。その意味で赤ちゃんに対して「車」ではなく「ブーブー」と語りかけるのは非常に理にかなっているようである。
    もう一つの鍵はアブダクション推論。例えばチンパンジーに対して、黄色い積み木なら△、赤の積み木なら◇と教えると非常に早く学習するが、△を示しても黄色い積み木を選ぶことができないという。「AならばX」と「XならばA」は同値ではないことからこれは論理的に正しいのだが、人間はこのような逆向きの推論、知識の過剰な一般化も可能であるとのこと。このような意味の拡張も、言語の習得には必要とのことだった。
    様々な研究結果もわかりやすく紹介されており、読みやすく勉強になる本だった。

  • 今井むつみ/秋田喜美「言語の本質:ことばはどう生まれ、進化したか」https://www.chuko.co.jp/shinsho/2023/05/102756.html ゆる言語学ラジオ経由。オノマトペの話が8割(なので言語といっても日本語メインの内容)でそれがめちゃくちゃおもしろかった。あとアブダクションすごい。ヒトと動物の違いは想像力だというのが持論なんだけどこのアブダクションの話でさらに持論が強まったわ

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著者プロフィール

今井 むつみ(いまい・むつみ):1989年慶應義塾大学社会学研究科後期博士課程修了。1994年ノースウエスタン大学心理学博士。慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。著書に、『親子で育てる ことば力と思考力』(筑摩書房)、『言葉をおぼえるしくみ』(共著、ちくま学芸文庫)、『ことばと思考』『英語独習法』(ともに岩波新書)、『言語の本質』(共著、中公新書)などがある。

「2024年 『ことばの学習のパラドックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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