「利他」とは何か (集英社新書)

  • 集英社 (2021年3月17日発売)
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荒木博之のbook cafeで紹介されたものを偶然拝聴し、「利他」の在り方を本書で触れてみたいなと思い、手に取ってみた。総じて、利己的な利他へ陥ることへの警鐘と。「うつわ」としての自己からさらに上位へと昇華したものとの関わりからの達観した感覚を受け取りました。

第一章 「うつわ」的利他 - ケアの現場から
「共感からの利他が生まれる」という発想は、「共感を得られないと助けてもらえない」というプレッシャーにつながる。これでは助けられる側は常にこびへつらってなければならない。
→この指摘は、日常でも常に感じてることを言語化してくれてる。
相手のために何かしているときにでも、計画から外れることをむしろ楽しみ、相手が入り込める余白を持っていること。
→最適化をデータで測定された対象にしか貢献しないという主張もあるが、限定的な思考ではなくどこかゆとりのある相手との相関性を感じながらの利他。何かを一義的に一方的に与えることがそのまま利他ではないという感覚が大切だな。

第二章 利他はどこからやってくるのか
贈与は一見利他的な行いの代表ではあるが、その裏には同時にもらった側に負債の感覚を与えてしまうという問題が孕んでいる。
→ほんとに良く苛まれる感覚。プレゼントや何かを奢ってもらうこと自体は非常に良いことなんだけど、その代わりに見返りをせねばと心が落ち着かなくなることは多々ある。さらに、返礼を前提での施しもまれにあるので、そういった利他は精神的に辛いものがある。

利他とはオートマチックなもの。私たちの中には、真の利他はなく、何か私を突き動かすものが外に感じられるのだろう。その感覚に身を任せることで、何か苦々しい思いから脱却することができるのでしょう。
→かなり自分なりの意訳です。でも、実感覚として躊躇する利他はどこか突っかかってるイヤーな気持ちが沸き上がります。

第三章 美と奉仕と利他
「民藝」という概念。日常使いされる手作りの調度品などにこそ美が顕現するいう。しっかりと触れたのは初めてだったので、理解が薄くなってしまって残念。

第四章 中動態から考える利他 - 責任と帰責性
現代人は能動と受動の関係で物事を判断しているが、そこには個人の意思が介在している。過去からの連綿と受け継がれる道程に未来があるという考えは、未来を過去からの継続出ないものとする意思による過去との切断があるのだ。意志の力によって因果関係が浮き彫りになり、責任を個人に起因される態度が表れている。
中動態はある人の心を場として発生するものであるから、責任は神的因果性によって個人から免責されその現象を客観的に捉えることで、最終的に人間的因果性に回帰し、頭ごなしではない責任について向き合えるのだろう。
→中動態について初見。これは個人的に新しい視座を与えてくれそうな予感。そんな気がします。

第五章 作家、作品に先行する、小説の歴史
アプローチの展開が他とは一線を画すものではあるが、小説家の作品を生み出す真髄のようなコアな部分に触れることができた気がする。単純に読み物として引き込まれる章だったな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学
感想投稿日 : 2022年2月26日
読了日 : 2022年2月26日
本棚登録日 : 2021年12月14日

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