「利他」とは何か (集英社新書)

  • 集英社 (2021年3月17日発売)
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伊藤亜紗さんの本が読みたくて、國分功一郎さんの名もあったのでお取り寄せ

コロナ禍でどう他者と関わるかということを「利他」というキーワードを通して、東京工業大学人文社会系の研究拠点「未来の人類研究センター」のメンバーである五名の共著

第一章「うつわ」的利他ーケアの立場から 伊藤亜紗
オーギュスト・コントの示す、利他というと自己犠牲というイメージで利己主義と対極だと思った。
ジャック・アタリの合理的利他主義は、自分にとっての利益を行為の動機にしている。
ピーター・シンガーの効率的利他主義は、自分にできるいちばんたくさんのいいこと、功利主義、幸福を徹底的に数値化する、共感に支配されないようにする、ということは偏った思い入れに振り回されない基準になりうると思った。
ジョハリ・ハリファックスの、『コンパッション本当に必要な変容を導くともにいる力』、真の利他性は魚の釣り方を教えることとは、支援のあり方として重要と思う。
サミュエル・ボウルズによると、インセンティブや罰が、利他という個人内面の問題を数字にすり替えて利他から離れる方向となりうる報告で、行動変容の方法として考えさせられた。
コロナ禍なので無意味で不必要で有害なブルシット・ジョブの見直しと整理をしていきたい。
障害者を演じなきゃいけない窮屈さ、支援を受ける側になった被災者の時に痛烈に感じた。あの善意の押し付けという形に違和感を感じた。
安心はこちらが行動のコントロール下にいて信頼していない、信頼は社会的不確実性が存在し相手に任せるという合理性は目から鱗だった(山岸俊男)。
相手が入り込める余白のあるうつわのようなもの、自分も変わる余地という余白というぼんやりとしたケアの享けるかたちが限りない可能性を感じた。

第二章 利他はどこからやってくるのか 中島岳志
わらしべ長者を例として、贈与と利他との差異について、間接互恵システムのなかで必ずしも見返りを求めない関係、不確かな未来によって規定される
親鸞の悪人正機 煩悩具足の凡夫、自分の無力を認識した人間であれば人間の限界という無力に立つことができ、無力を知ることができた人間にやってくるのが「他力」
阿弥陀如来の大願業力 衆生救済してしまう業
利他は所有できず不確かな未来で規定されるという

第三章 美と奉仕と利他 若松英輔
『柳宗悦』白樺派の中心的人物で宗教哲学者、民藝運動からみる美という利他を考察。民藝とは美しいものを見るという行為を通じた哲学的営為、個々の心の中に内なる平和を実現しようとした。「工藝の美は、奉仕の美である」
知識とは物の本質を見極める営為や神仏に対する利行という仏教の言葉だった
美は人を沈黙させ、融和に導く、沈黙を経た彼方での対話ということを考えたのではないか
人間の争いを食い止めるのが美ではないか

第四章 中動態から考える利他ー責任と帰責性 國分巧一郎
能動と受動の対立そのものから脱却、古代の言語に存在する中動態の紹介
そもそも能動態と受動態の対立ではなく能動態と中動態が対立
中道では主語は過程の内部で、動詞は主語がその座となるような過程を表す
意志の概念と密接に関係、責任の概念と切り離せない結びつき、行為を帰属する
意志と結びついた責任の概念は一種の堕落した責任概念で、責任と帰責性は区別すべき 応答としての責任
刑務所での厳罰主義とはちがう新しいプログラム導入を取材した、映画『プリズン・サークル』を見てみようと思った

第五章 作家、作品に先行する、小説の歴史 磯﨑憲一郎
『まず作家ありき、作品ありきではなく、先行して存在する小説の歴史や系譜の中に、あとから作家が入り込む、もしくは投げ込まれる。作家の意図を超えたところに、系譜のようなものが現れてくる』
『完成した作品の連なりが、結果として連綿と続く小説の歴史に奉仕するための仕事』
北杜夫『羽蟻のいる丘』『楡家の人びと』、小島信夫『アメリカン・スクール』『抱擁家族』

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年9月16日
読了日 : 2022年9月16日
本棚登録日 : 2022年9月16日

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コメント 2件

まことさんのコメント
2022/09/20

ベルガモットさん♪

この本、私、ずっと積んでます。
若松英輔さんが載ってらしたので。
なんか凄く難しそうですね。
読めないかも(^^;

☆ベルガモット☆さんのコメント
2022/09/20

まことさん コメントありがとうございます♪

まとまらない拙いレビュー読んでくださりありがとうございます
民藝運動や宗教など利他との考察は難しくて何度か前に戻りながら
読みました
若松さんの著書『はじめての利他学』もまだ読んでませんが気になります
そちらが読みやすいかもしれません

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