(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314301

感想・レビュー・書評

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  • 同著者のアメリカシリーズの読み終えていなかった最後を読破。
    他の本と同様、すごく細かいところまでよく書かれている。登場人物が一人称で語る時も自然に書かれているので、物語も書けそう・・などと関係ないことを思ってしまった。綿密に調べた上で書いているかと思われ、政策が色々と骨抜きになってしまったり、献金をしている企業の都合の良い政策になってしまったり、その結果弱者がババを引くという状況になってしまっていることは多々あるのだろうと思う。ただ企業って本当にそこまで冷徹に利益を吸い上げようとするのだろうか。。それらの企業の内部から反発や自浄作用は起きないのだろうか。。という疑問も無きにしも非ず。

    あとは他の作品でも思ったが、財源が有限な以上、何かを変えざるを得ず、変えてしまうと誰かが損をかぶるという状況は避けられないと思う。それは出来るだけ悪影響が少なく、余裕のある層に被ってもらうのが最適だと思うが、どうもそうはならずに弱者に追い討ちをかけるようになってしまっている。これは著者が言うように資本を持つ者たちが政策に影響を与えるようになったからと言うことになるのだが、どこかにストッパーは無いのだろうか。

    また政策が企業に有利になったおかげで抗生物質の利用が増え、その結果として新種の病気が増えたという表現も恐ろしい。

    P.128
    カナダの調査ジャーナリストであるナオミ・クラインは、イラク戦争後の自由化政策を、恐怖をあおり新自由主義政策を強行する「ショック・ドクトリン(ショックな事件が起きた時、人々が思考停止している間に過激な経済を実行する手法)」だと批判している。
    イラク戦争は政府が従軍記者制度によって完全報道規制をしいたため、アメリカ国民の大半が「あの戦争開始は間違いだった」と認識したのは、多大な人的・経済的犠牲を払った後だった。この間アメリカで上映されたイラク戦争関連の映画も、戦争開始理由などの政治的側面よりも、米兵の目線からかららの苦悩に商店をあてて作られたものがほとんどだ。
    ニューヨークの非営利団体「インターナショナル・アクションセンター」の職員、サラ・ホラウンダーは、これを危険な兆候だと指摘する。
    「これは湾岸戦争以降に始まった戦争の特徴ですが、イラク戦争も情報戦争でした。アメリカ国民の大半は、経済を圧迫した推定三兆ドルの戦争費用と死傷者数をみて、イラク戦争を批判するようになりましたが、断片的な情報だけを見ているため、あくまでも一般的な括りでの戦争被害に対する怒りが大きい。オバマ大統領の撤退宣言で彼らのなかのイラクは、教科書に出てくるベトナム戦争と同列の、過去の戦争になったのです。
    イラク戦争への批判は出てきても、イラクの今は語られない。アメリカではテレビから消えることは存在しないことと同じになってしまう。これはアメリカ国民にとって、本当に危険な兆候です」

    P.136
    「イラクに民主主義の種を植えるというのは、壮大な茶番でした」
    そう語るのはニューデリー在住の金融ジャーナリスト、ラーザ・ジシュヌだ。
    「ブッシュ元大統領は、アメリカがイラクに民主主義の種を植えたと言い、オバマ大統領は米軍がイラクを主権国家にしたと言う。けれども実際は、合法的な略奪でした。イラク市民の食糧安全保障における自立を支援すると言いながら、81令のような「非常に有害な新法」でイラクの農地をアグリビジネスの国外生産地にし、誇り高いイラク農民を現地の雇われ労働者にしてしまった。そここで大量生産される製品は、イラク国民の口には入りません。すべてグローバル市場に輸出されるのです」
    「イラク農民に選択肢はありましたか」
    「選択肢など実質ないも同然でした。経済制裁と干魃、そして米軍のイラク侵攻によって離農寸前だったイラク農民に、CPAは再び農業を始めるように呼びかけました。スローガンは「イラクに強い農業を」。やっと農業を再開できると期待したイラク農民が再開申請をUSDAに出すと、暫定政府は彼らに、途上国開発支援のUSAIDから送られてきた種子と農薬を、補助金付きで無料提供したのです。これは見事な連携でした。ご存知のようにGM種子は、一度使えば毎年使うことになるからです」
    「イラク農民はそれがGM種子だと知っていたのでしょうか」
    「いいえ。彼らには無償で提供される、「スタートキット」の中身を知る術はありませんでした。USAIDが判別データの公開を拒否したからです。後になってそれらがすべてのGM種子だったと農民たちが気づいたときにはすでに遅く、彼らは毎年の特許使用料を永遠に支払わされるサイクルに飲み込まれました」
    「世界的に有名だった、イラクの在来種はどうなったのでしょうか」
    「イラク人の種子バンクは米軍に爆撃されました。フセインの時代の農務大臣が、緊急用にシリアの都市アレッポにあるICARDA(国際乾燥地農業研究センター)に預けていた一部の種子以外、種子バンクに保存されていたイラクの貴重な種子はすべて破壊されたのです。イラク人にとって屈辱的なことに、世界に誇る種子バンクがあった場所は、今ではまったく別の理由で、世界的に有名にされてしまいました」
    「それはどこですか」
    「アブグレイプですよ」

    P.196
    歴史のなか、数々の国が証明してきたように、借金でつぶれかけている自治体や国がさらに財政削減をすれば、公共部門が形骸化し、土台から崩れてくる。だが、「財政危機」をあおり「立て直し」をスローガンにすることで、公共部門売却が一気に可能になることは、ミシガン州を始めとするアメリカ国内の例を見れば一目瞭然だ。こうした一連の公共事業解体による民営化政策は、大企業の株価上昇に貢献し、二〇〇六年にはアメリカの不景気は終わったという報道さえされている。

    P.206
    「アメリカという国を好きなようにしたければ、働きかけるべきは大統領でも上下院でもない。最短の道は、州議会だ」
    『ネイション』誌のワシントン特派員で、メディア改革推進団体「フリープレス」創始者のジョン・ニコラスは断言する。
    五〇州からなる合衆国は、それぞれの州に独自の法律と自治権が与えられている。日本のように大きな財源と権限を持つ中央政府とは違い、アメリカの連邦政府は外交や軍といった業務を中心にした、究極の地域主権だ。
    憲法も、共通のアメリカ合衆国憲法と、隔週で適用される独自の州憲法の二つがある。州は州法の制定と施行、課税権を狙い、教育や労働、環境や暮らし、公衆衛生に医療福祉など州民の日常生活にもっとも影響する分野での、強い権限と責任を手にしている。
    「うまり」とニコラスは言う。
    「州を制する者は、国民生活の隅々まで及ぶ影響力を手にできると言うことです」

    P.231
    かつて政治投資理論をといた政治学者のトーマス・ファーガソンは、米国の選挙制度についてこのような名言を残している。
    「選挙とは、国の支配権をかけた、効率の良い投資である」
    企業の意思表示が無制限に保護された結果、選挙は有力企業と、その意向を代表するコンサルタント、広告代理店、世論調査会社が演出する巨大な劇場となっていった。

    P.233(ローリングストーン誌の編集委員、ティム・ディッケンソン)
    「有権者のほとんどは、選挙資金がどこからきてどのように処理されるかすら知りません。問題は、テレビCMがターゲットに植えつけているものが、「知識」ではなく「イメージ」だということです。大量に流れてくるネガティブCMは有権者に、広告会社が映像と音で作り出した候補者像を皮膚感覚ですりこんでゆく。普通の人はテレビのCMを見るとき、これは誰からどこにお金が出て、どんあふうに作られた広告だろう、といったことには関心を持たないのです」

    P.266
    「『99%』の代表を正解に送らなければなりません」
    そう言うのは、カリフォルニア州オークランド在住の元州議会議員候補ローラ・ウェルズだ。(中略)
    ローラは現在、自らが住むオークランド市を中心に、「企業献金拒否候補を支援する運動」を広げている。彼女はカリフォルニア州で同じく拡大中の、GM表示義務に関する住民投票もまた、終わりではなく始まりだと言う。
    「あの住民投票を見てください。四〇億ドルも投じた企業側によって否決されたけれど、ホーフフーズを筆頭に、GM食品を扱う企業も変わり初めています。選挙も住民投票も、一度負けたらそこで終わりじゃない。地道な努力は目に見えない形で、私たちをちゃんと先へと引っ張ってくれている。あきらめず何度でも繰り返すことで、無関心な人々の意識を少しづつ変えてゆくことは、目に見えない未来への投資なのです」
    選挙や投票結果は、終わりではなく通過点なのだ。

    P.269
    果たして国民は、株式会社化した国家から、主権を取り戻せるだろうか。
    オハイオ州のオキュパイ運動で出会ったアノニマスの一人が、一一月の寒空の下私に言った言葉を思い出す。
    「アノニマスは顔がないと思われているけれど、俺たちは羊じゃない。「1%」の価値観の中で意思を持たない奴隷として生きる気はまったくないよ。あきらめて流れに身を任せたら負けだ。まず自分の意思で生き方を選ぶと決めなくちゃ。連中は国境を超えて団結しているけど、ならばこっちもITという武器を使って、どんどん連携すればいい。教えてやろうぜ。グローバリゼーションは彼らだけのものじゃないってことを」

  • 先日映画「フードインク」をちょうど見たので、内容がリンクしてて食への恐怖感強くなった。資本主義国と読んで良いのかな、今のアメリカを。

  • 『アメリカから自由が消える』はつまらないとか言って、なら読まなきゃいいじゃん!って話なのだがw、そうは言っても一緒に買っちゃったもんでー(笑)

    読み終わっての感想…、というより、読んですぐ思った。「この人はつくづく合わないんだなー」とw
    いや、この『貧困大国アメリカ』のこの3冊目の頭に“㈱”をつけたセンスなんかスゴイと思うの。
    現在のアメリカ(というより世界)が抱える問題の根源を一文字で表せているから。
    『ルポ トランプ王国』を読んでいて、そういえば、「今のアメリカの貧困について書いた新書があったな」とアマゾンで見た時、その“㈱”を見た瞬間、「これ買う!」って思ったくらいだもん。

    なのに、読みだすと、なぁ~んかイヤになってきちゃうのがこの著者の本の特徴なんだなぁー。
    1つは、ある問題点を追及する中で、途中からその問題点にからむ別の要素の問題も含めちゃうことで、論点に微妙なズレが生じさせちゃう論理展開のクセにあるんだと思う。
    主題は『㈱貧困大陸アメリカ』なのだから、種子ビジネス(企業)が貧困を生み出しているというのはいい視点だと思う。
    その種子ビジネスによってつくられた農産品の安全性を確認することが出来ないという問題があり、さらには、種子ビジネス企業による農家への強制が連作障害と農薬耐性害虫と生み出している問題があるということ、それもわかる。
    でも、そっちの問題点を『㈱貧困大陸アメリカ』の中で延々語るのは、ちょっと趣旨が違うように感じる。
    だって、主題は『㈱貧困大陸アメリカ』なのだ。
    著者が言いたのは、種子ビジネス企業がその企業からGM種子と農薬をずっと買わなきゃならなくしてしまうため、農家は貧困に陥っていく現状がある。それは、連作障害と農薬耐性害虫が発生するため、年々収穫量が落ちていくのにもかかわらず、企業から種と農薬を買い続けなければならないからだ。
    だから、種子ビジネス企業はよくない。貧困を生み出す原因になっている、だと思うのだ。
    なのに、種子ビジネス企業によるGM種子(遺伝子組み換え種子/作物)は安全性を確認することが現状では出来ない。さらに連作障害と農薬耐性害虫を生み出している。だから、種子ビジネス企業はよくない、という風に読めちゃう展開では著者の論点から外れてしまうと思うのだ。

    それは前に読んだ『アメリカから自由が消える』でも同じで。
    ミリ波スキャナーによるプライバシーの侵害を語るのに、健康被害や同性カップルの体にシリコンが入っているのがわかったことで別れ話に発展した等々、外堀を埋めるようなエピソードを延々語りだしちゃうので、読んでいてウンザリしてくるのだw

    もう一つ、著者のわるいところは、文中に出てくる「」付の会話!
    著者としては、インタビューした時の再現のつもりなのか、もしくは(著者の)合いの手をいれることでわかりやすくしているつもりなのか、その意図はわからないのだけれど。
    でも、読んでいる方からすると、その「」付の会話の文章を読んでいると、アルバイトライターがテキトーに書いたネット記事を彷彿させるというか、週刊誌の記事広告をつい読んじゃった後のあのなんとも言えない損した感を思い出すというか…w

    インタビューの再現なら再現でいい。専門家の説明をわかりやすくするためならそれでもいい。
    でも、なら、もっとそんな陳腐じゃなく書いてくれよ!
    これじゃまるでインタビューされている相手は、著者が言わせたいようにしゃべってるみたいじゃん!
    と、思わず叫び出したくなっちゃうのよ、もぉ~(笑)

    ていうかさ、P165の写真のコメント。
    “EU・インドFTAに反対する子供たち”って、どう見たって小学校上がる前くらいの子供、FTAなんてわかるわけないじゃん。
    正しくは、“EU・インドFTA反対運動に参加した親に連れられている子供たち”だろ! ←ほとんど重箱の隅つつき(爆)

    前にも書いたけど、この本のタイトルに“㈱”とつけた、世の中の観察眼はスゴイと思うのだ。
    それは、(いい意味で)社会を斜めに見ているからで、それはたぶんジャーナリストとしての大事な資質なんだろう。
    それを見ても、この本で描かれていること一つ一つは本当のことなんだと思う。
    いろいろイチャモンをつけたけど、語られている問題点の一つ一つは、今までニュース等を見ていて漠然と想像していたことを具体的にさせてくれる。それは、とっても興味深いし、またいろいろ考えさせられる。
    でもさ、この著者ってさ、ちょっとクソ真面目すぎるんだよね(笑)
    これは『アメリカから自由が消える』でも書いたことだけど、そのクソ真面目さが朝日新聞(あるいは戦後の進歩的文化人と称する連中)を彷彿させて、やたらと反発したくなってきちゃうのよ(爆)
    ていうか、(この本で書かれている一つ一つの要素を疑う気はないが)著者のインタビューの内容を自分の都合のいいようにつぎはぎして構成し直して語るやり方は、NHKお得意の、取材した内容を何でもかんでもNHK色に染め変えずにはいられない、あのやり方みたいで無性に嫌だ。

  • 格差の拡大がこんなにもすごいのか、かなり驚き。未来を取り戻すにはどうすれば良いんだろうか。。。

  • 読みやすかった

  • GM食品、大企業にコントロールされるアメリカの政治
    前作ほどの衝撃はなかった。

  • 確かFBで誰かが読んでいて、興味を持った本。
    読んでよかった。
    これからの日本の進んでしまいそうな道について。

    ・多国籍企業による、大統領の買い取り。議会の買い取り。メディアの買い取り。
    ・GM種子の広がり。(こんなに途上国に出回っているなんて、私の認識を越えていた。)
    ・1%の富裕層と、99%の生活。
    ・犯罪者は労働力
    ・教育の市場化と、公教育の解体。(アメリカ国民は、もっともっと頭悪くなっちゃうんだろうな・・・。)
    ・食料を支配することで、準植民地化していく多国籍企業。
    ・警察まで民営化…。デトロイトの実態。(デトロイトって言ったら、昔、自動車産業の主要地だと中学校の頃教えられたけど。そんなに危ない都市になっちゃったなんて。)


    とりあえず、アメリカ産の肉は、やっぱり、もう2度と買わない…。

    札幌市の図書館で借りた本。

  • 相変わらず、ゾッとする内容。
    今回はオーガニックスーパーに関する話もあり、興味深かった。

  • アメリカでは企業が力を持ちすぎていて、食品業界を筆頭に企業の意のままに政治が動かされていて不健全だ、という内容でした。

    アメリカ的資本主義の危うさを知るという意味で非常に興味深いですが、食品の話の割合が非常に高く、タイトルに対して内容が偏っているように感じました。

  •  『貧困大国アメリカ』シリーズ3作目、多国籍企業の1%の資産が残りの99%を上回ると言う恐るべき格差社会となっているという。あまり関心のなかった遺伝子組み換え作物は絶対によくないと思ったのだが、加工食品の原料にはとっくに使われているかもしれない。BSE対策とか日本は水際でがんばって食い止めてくれている。農協も無駄が多いかもしれないけど、見直した方がいいと思う。なんでも変化すればいいというもではないようだ。変化や目新しさの裏に自分の懐に金を納めている人がいると疑って掛かったほうがよさそうだ。『女神の見えざる手』という映画でロビー活動について生々しく描かれていて、この本の理解がしやすかった。

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著者プロフィール

堤 未果(つつみ・みか)/国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学院国際関係論学科修士号。国連、米国野村證券を経て現職。米国の政治、経済、医療、福祉、教育、エネルギー、農政など、徹底した現場取材と公文書分析による調査報道を続ける。

「2021年 『格差の自動化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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