(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314301

感想・レビュー・書評

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  • アメリカがいかに多国籍企業群の思い通りになり、1%の富裕層と99%の貧困層に分けられて行くかを描いたルポ。
    それはアメリカを越えてカナダ/メキシコ/韓国/アルゼンチン/ハイチなどに侵食しており、TPPを通じて日本も食われる。そして僕は当然貧困層に入るわけだ。
    日本で富裕層になるのは武田薬品/ダイキン工業などの多国籍企業と、多額の金が流入し国民を欺くことになるマスコミと、汚い政治家か。
    オバマも安部シンゾウもイカンゾウ。
    ヨハネパウロ二世も言っていた気がするけど、そろそろ資本主義の限界が近づいているのか。あるいは99%の貧困層がソーシャルネットワークや自分達のメディアを通じて政治的に有効な力を持てるのか。
    未来は僕等の手の中。とブルーハーツは歌っていたけど、このままじゃマズイぞ。大企業はあなたのことなんか考えてないぞ。きっと。どうすりゃ金を巻き上げられるかだけを考えているんだ。全国的に合法で持続的な巻き上げが始まる。いや、既に始まっているのかも・・・。
    全ての人にオススメです。

  • アメリカ社会の今を素晴らしい、取材力と分析力でまとめ上げた本。
    非常に読みやすい。

    作者の堤未果は9.11同時多発テロを間近で見てからアメリカについての取材を始めたらしい。
    そのため、ブッシュ政権以降のアメリカの新自由主義的な政策を取り上げ、それをオバマも確実に踏襲しているという指摘がある。
    本書で取り上げられるコーポラティズムや新自由主義は1980年代から始まっている、ということが重要だと私は思う。さらにいえば、それ以前の古き良きアメリカ像は大戦後の50年代から70年代だけだ。
    資本主義が国民に対してしっかりと分配し、中流層が拡大したのは1950年代から70年代にかけての限定的な時代だったということを考えなければならない。
    つまり資本主義の本質は、今のアメリカが抱えており、本書が指摘していることだと思う。
    これは本質を指摘し、問題提起した本であり、アメリカが特殊な国だからということではないように思う。
    なので資本主義が「強欲」になったからとか「悪い資本家」が登場したからという見方には疑問を持っている。

    ブッシュのイラク戦争について疑問を持った著者は「ルポ貧困大国アメリカ」では、「経済的徴兵制」という言葉を用い、学資ローンの返済のために軍隊へ入る若者の話を取り上げていた。
    今作では、最初に「食」の問題を取り上げる。
    農業の工業化が引き起こす様々な問題を取り上げ、その影響がTPPを通して日本に侵攻してくる危険性を指摘している。
    特にひどいのはイラクだ。これはナオミクラインの「ショック・ドクトリン」でも指摘されていた部分だが、イラクの豊かな農業を単一のGM種子で駆逐してしまう。それもイラクの農業の近代化、未来化のためにというフレーズとともにそうしてしまうのだ。
    GM種子の問題は、単に人体への健康被害という問題だけではない。それを栽培している農家は永続的にモンサント社からその種子を購入し続けなければならないからだ。なぜならその種子はモンサントが知的財産権を保有し、その権利を保護するためにアメリカという国家権力は実力行使するのだ。
    また、政治ショーと化している既存のマスコミ報道についても取り上げている。今や「リベラル」対「保守」なんて言う対立軸は存在しない。
    その対立軸に隠されているのは「1%」対「99%」であり、持つものと持たざる者の、決定的な格差なのだ。
    本書でしばし取り上げられるこの「1%」は多国籍企業であったり、政府高官であったりする。しかし共通するのは国家という枠組みを利用しながら利益を得ているのだ。
    それは自国だけではない。他国の「1%」ととも結託しているのだ。その象徴がウォールストリートだったり、ロンドンの「シティ」だったり、タックスヘイブンだったりするのではないだろうか。
    しかし、グローバルに活動することによって利益を上げ、国家の枠組みを緩和していくからといって、国家がなくなるわけではないと思う。
    国家は必要なのだ。「1%」にとっても国家という枠組みとそれに付随する様々な力は必要だ。知的財産権を守らせるためには、つまり「1%」の利益を守るためには何らかの実力の行使ができなければならないからだ。
    こうした実力の行使には莫大なコストがかかる。だからそれは既存の国民国家に背負わせておきたいのだ。
    そうした点で見ると、アメリカがシリアに介入しなかったのは当然である。
    シリアにはアメリカにとって守るべき「1%」がいなかったのだ。
    今後もアメリカは民主主義や自由に対して主張をするのかもしれない、しかしそれ以上に忠実なのは持てる「1%」がさらなる利益を上げることに対してだろう。

  • これが完結編。評価は三部作を通してのもの。
    経済に対しては色んな考え方があると思うが、個人的には、自然科学の領域には達してないと思う。

    それは、人間の営みの複雑さに由来すると思う。
    その経済の営みを、恣意的に操ろうとするところに、歪みが出てくるのだろう。

    一部の大企業が、自社の利益のために行う活動は、度を過ぎればバランスを崩し、世界の秩序を乱す。

    強欲な人の欲望は限りない。事実を知る尊さと、考え行動する力を失わず生きていきたい。

  • アメリカを知ることは近未来の日本を知ること。この新書は著者の「貧困大国アメリカ」三部作の完結編で、「1%対99%」のアメリカ社会に対する告発の書。例えば、「政治とマスコミを買ってしまえ」という章題からもわかるように、多国籍巨大企業の策略と欺瞞に満ちた戦略を暴きだす。同時にそれは私たちへの警鐘に他ならない。

    *推薦者(教教)H.H
    *所蔵情報
    https://opac.lib.utsunomiya-u.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=BB00330602&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB

  •  本書は、著者の『ルポ貧困大国アメリカ』シリーズの完結編にあたる。今回は、食の世界や公共サービスに自由主義経済の考えが入ることで起こる様々な問題を取り上げている。

     食に関する問題では、1986年のレーガン政権の頃から政府によって行われた「規制緩和」により食品の安全基準が崩壊し、さらに大企業による「株主至上主義」の下で行われた大規模農業によって、アメリカの家族経営農家は追い込まれていった。

     さらに大企業は遺伝子操作をしたGM作物や農薬を使用したより効率的な大規模農業を行い、さらに知的財産権を利用し、有機農業を駆逐していく姿を描いている。また、近年登場した狂牛病や鳥インフルエンザなどの感染病は、遺伝子操作された作物や農薬により通常の免疫を超えた新しい病気として紹介されている。

     公共サービスの問題では、政府や州は「小さな政府」に向けて公共サービスを民営化していき、結果として市場原理を持ち込み、豊かな人と貧しい人の格差が広がり、貧しい人は通常のサービスが受けられなくなった。
     そして市場原理が広がる背景には、規制緩和があり、その政策案を出す州議会議員も大企業に買収されているという。こうした事実を多くのアメリカ人が知らないことについても、マスコミがこうした大企業に握られているため報道されないからとしている。
     以上のようなアメリカの現状が、同じように「小さな政府」へと向かう日本の将来的な青写真として警鐘をならすことに筆者の意図がある。
     ルポされている人物の多くが、いわゆる被害者として意識しているため、発言内容も感情的なものが多いように思われるが、そうしたことを差し引いても迫り来る危機に目を向けるためには、アメリカの現状を知る必要があるだろう。

  • 知らないことが、知らなければいけないことが書かれていました。

  • 報道にありましたが、世界人口の1%で世界の富の50%を握っているそうです。本書では、アメリカで進行している、その実態とメカニズムを多方面から取材しています。資本主義は、その限界を迎えたのでしょうか?巨大企業は政府を支配し、市場化(民営化)させることで、収奪を進め、そのターゲットは今やワールドワイドになっています。相変わらずの繰り返しやデータの間違いもあるようですが、三部作の完結編にきて、なるほどと思える説得力がありました。

  • 貧困大国アメリカの第三部。これで完結らしい。
    今回のメインテーマは大規模化される農業。GM種子と特許、SANP法。そしてイラン、アフガン戦争。。相変わらず筆者の取材力と分析力が冴えて、読んでて荒廃した気持ちになります。

    自由民主主義、資本主義のアメリカのバランスが資本主義、それも巨大資本にかなり寄ってきており、議会もマスコミも巨大資本に包摂されつつある、、アメリカはその世界最先端でもっともグロテスクにそれが現れてしまっているのだが、日本にも多かれ少なかれその要素はあるのでは!?

    とにかく、この3部作は、毎回楽しみでした。
    筆者の方、本当にありがとうございます!

  • 今回は1%と99%の対立を描く
    企業の利益優先の社会
    個人は収奪されるのみ

    農業では大規模設備投資をさせられ
    借金漬けで生産コスト低減を迫られる
    生産者同士で競わせる仕組みも

    自治体でも財政立て直しのために
    教育予算カットや学校閉校

    影響力はテレビが絶大

    大統領候補者の討論番組は双方の約束事ばかり。
    企業に買われた政治家の主張に大差なし
    ALECが法案の模範文章を議員に持ち帰らせる

    2 SNAP、元フードスタンプ。嗜好品は買えない
    4 8大低賃金サービス。
    ウェイター・ウェイトレス、レジ係、小売店店員
    メイド、運転手、調理人、用務員、介護士

    9 貧困層の子供、肥満・糖尿病
    10 小売の24%支配、ウォルマート
    35 工場式養鶏場

    42 成長促進剤を鶏に。病気や死亡率28%
    45 囚人労働者は大人気
    80 牛に注射すると牛乳3倍

    143 インド、人口の0.1%がGDPの25%所有
    151 ハイチへの農業支援でGM種子
    159 食・GM作物・薬

    173 チャータースクール(営利学校)
    178 危機管理人

    200 サンディ・スプリングス、民間経営自治体。警察と消防以外は自前。
    アトランタ周辺の富裕層に人気。
    税金を低所得者層の福祉などに取られない

    208 正当防衛法
    251 ボケ老人が国の金を食いつぶす
    262 預金移動日

  • 基本的に民営化には賛成していたが、この本を読んでから民営化をすれば必ずよくなるというわけでもないんだなと思った。結局金持ってる企業がマスコミや政治家を味方につけて、国民としてはよくない方向に農業が進んだり、まったくその状況を知らせていなくて、ほんとおそろしいなと思う。「道徳なき経済は犯罪である」という言葉があるが、まさにこの本に書かれている内容なんだと思う。
    かと言って国が全面的に保護したり、運営するやり方もそれはそれであまりよいとは思えないのだが。。。
    とりあえずアメリカ産の農作物食べたくない(笑)
    TPPが恐くなってきた(笑)
    この作者はすごくちゃんと調査しているのがわかる。
    この本読んでたら、少し陰謀論者の気持ちがわかった気がする(笑)

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著者プロフィール

堤 未果(つつみ・みか)/国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学院国際関係論学科修士号。国連、米国野村證券を経て現職。米国の政治、経済、医療、福祉、教育、エネルギー、農政など、徹底した現場取材と公文書分析による調査報道を続ける。

「2021年 『格差の自動化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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