(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314301

感想・レビュー・書評

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  • 著者の一方的な見方かなと思う部分もあるが、アメリカにおける大企業支配の実態がよく書かれていると思う。大企業の陰謀論に組する気持ちはないが、例えばTPP交渉における日本の立場は大丈夫なのかと心配にもなる。
    しかし、アメリカという国は、自分の欲望に素直な国だなと思う。建前がうるさい日本などよりも中国の方が相性がいいのかもしれない。あるいは族議員などが、こそこそ活動するよりも、ロビイストの様に堂々と活動するほうがオープンでいいのかもしれない。

  • アメリカ政府が低所得層などに支給する食糧支援プログラムであるSNAP(旧フードスタンプ)の実態をプロローグに、大企業の進出により食料の生産現場が家畜工場、遺伝子組み換え作物などへと様変わりしているとしてその実態を暴き、多国籍企業の横暴と政府との癒着に怒りの鉄拳を下す。農業は言うに及ばず、地方自治体の破綻や刑務所にまで政府を抱き込んだ投資とリターンの収益モデルを作る強欲なイノベーション力には驚かされます。1%の多国籍企業(資本家)に対抗する99%の多国籍生活者連合のような組織(団結)での抑止が必要な気がしてきました。

  • アメリカで進む企業による支配の実態について、農業・食料、公共サービス、政府・マスコミの分野を報告している。

    石油価格高騰と異常気象によって70年代に世界食糧危機が起きた際、世界の穀物貯蔵の95%はアメリカの民間企業6社が保有していた。アメリカ政府は、食料を外交上の武器として農業政策を自由貿易仕様に変えていった。

    1950年には、養鶏場の95%は個人農家が経営していた。70年代の終わりに農業政策が変更されて株式会社による経営が急増した。今では、4社がアメリカ国内の養鶏の60%を支配し、生産者の98%が親会社の条件のもとで働く契約養鶏者になっている。

    モンサント社が販売する除草剤のラウンドアップは、発がん性があり、奇形、喘息を誘発するなどの問題があるとしてヨーロッパでは禁止されている。ラウンドアップが土壌内で分解されるというラベル表示をめぐって争われた裁判では、虚偽であるとの判決が下されている。

    1990年末までに、アメリカ国内で販売される抗生物質の7割が家畜に使用されるようになった。

    モンサント社は、1999年にインドの大手種子会社マヒコを買収し、遺伝子操作によって殺虫性毒素をを導入したGM綿の販売許可を取得して生産量を倍増させるキャンペーンを展開した。インド政府も指揮して市場ではGM綿の種子しか売られなったため、在来種の4倍の価格のGM綿種子を買うために農家は借金をした。しかし、収穫は逆に低下し、農薬への耐性が進んだために農薬の使用量は増え、さらに綿の国際市場価格が急落したため、農民たちは借金の返済ができなくなり、27万人が自殺に追い込まれた。2011年現在、インド国内の綿花の88%がGM綿が占めている。

    70年代の石油危機の際にドル建て債務の金利が4倍に引き上げられたため、アルゼンチンはIMFの緊急融資を受けて国内の民営化と規制緩和が進められた。多国籍企業と海外投資家によって安い土地が買い占められ、モンサント社のGM大豆栽培が進んだ。農薬の使用量低下と増収につられてGM大豆に切り替えた中小企業は、特許使用料と高い農薬代の支払いによって倒産していき、手放された土地は大地主が手にして農地の寡占化が進んだ。GM大豆は機械化が可能なため、数十万人の農民が失業した。アルゼンチンは世界第2位のGM作物輸出国となっている。

    NAFTA締結後、カナダでは農家の7割がアメリカの資本に買収され、メキシコではアメリカ製の安い農産物に市場を奪われた三百万人の農家が次々に廃業した。メキシコは食料の4割を輸入に頼るようになり、農民は経済難民としてアメリカに入国して最低賃金労働者となり、アメリカ人の職を奪った。

    実力を持った支配者がすべてを支配し搾取していく様子は、まるで映画に描かれる暗黒世界のようだ。この本に書かれているアメリカの実態は、TPPをはじめとした自由貿易政策によって世界に広がっていくと考えると、対岸の火事では済まされない。

  • 三部作の第三作。GM食品やGM種子をはじめとする産業界・政治・マスメディアの複合体的な動き、1%対99%の対立など、豊富な事例で解説しており興味深い。もう少し1%側の主張もあると、よりバランスがとれた感がある。掲載されている写真が小さ過ぎたり、意図の読めない写真がある点も難。

    本作を読んで感じたのは、”結果の平等”と”機会の平等”のバランス、”市場経済の有効性”と”政府の関与の合理性”のバランスなど。社会経済システムの基本的デザインの在り方の問題ではないだろうか。

  • 「貧困大国アメリカ」シリーズの最終版.アメリカは今どんな政策で,何を目指しているのか?…が普段世界情勢に無関心な私でも良く分かるように書かれている.政治と経済が強く結び付き,大きな利益をあげる多国籍企業に支配されていくアメリカ.確実に格差が広がり,利益が1%の人々に流れて行く.本当にこのままでいいのだろうか?自分に何が出来るのか考えさせられる一冊.

  • イラク戦争の後にもえげつない行為が…
    農業の件については戦争より酷い。良心的な業者は駆逐され大金持ちの懐を潤す大企業が今日も我々貧乏人のために安い食料を供給してくださる。

  • アメリカにおける貧困の構造に迫ったシリーズ3作目。
    本作では農業、食品、地方自治体を扱います。

    リバタリアン的理想の具現化として一時持てはやされた自治体民営化について、興味深い記述がありました。

    その背景にあるのは自由主義と民主主義(平等主義)の対立と思われます。

    社会主義的な組織では、弱者の救済を絶対正義として、これへの批判を許さない風潮がありますが、自由主義に基づく「公平」の立場に立つとその前提が覆ります。


    【引用】
    ○民営化された夢の町
    2005年8月、ハリケーン・カトリーナによって大きな水害に見舞われたジョージア州では、水没した地域住民のほとんどがアフリカ系アメリカ人の低所得者層だったことから、アトランタ近郊に住む富裕層の不満が拡大していた。

    共和党の彼らは、「小さな政府」を信奉している層だ。

    なぜ自分たちの税金が、貧しい人たちの公共サービスに吸い取られなければいけないのか?…政府の介入の仕方はまるで社会主義だ。

    ……どうしても納得いかない彼らはこの件について住民投票を行い、やっとベストな解決策を打ち出した。郡を離れ、自分たちだけの自治体を好きなように作って独立すればいいのだ。

    …かくして2005年11月。人口10万人、全米初の「完全民間経営自治体サンディ・スプリングス」が誕生する。政府ではなく民間企業が運営する自治体。…雇われ市長1人、議員7人、市職員7人。余分な税金を低所得層の福祉その他に取られずに、最も効率よく自分たちのためだけに使えるのだ。


    ◆今年4月には著者をゲストにNHKで特集が組まれています。

    【引用】
    ○住民グループ代表 オリバー・ポーターさん「政府による所得の再分配には反対です。人のお金を盗む行為だと思います。」

    ○サンディ・スプリングス市を手本に誕生した自治体は、ジョージア州ですでに5つ。現在、フロリダ州、テキサス州カリフォルニア州などで30余りの自治体が、新たに誕生しようとしています。

    http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3488_all.html

  • アメリカって怖い国だなーとつくづく再認識。遺伝子組み換え作物がフツーに流通しているとは知らなかった。
    日本でも消費者に知らせない問題とか社会問題になるけど、アメリカはもうそういうレベルではない。むしろアメリカ製のものとか食べられなくなった。
    GM作物の仕組みがTPPで日本にも入ってくるかと思うと空恐ろしい。
    国内法、憲法を超える条約って

  • 三部作の最終巻。前2作に勝るとも劣らないルポ。市場主義の到達点は価格の適正化などではなく、人の顔が見えない欲望の暴走を引き起こす。陰謀論に陥ることなく、身の回りにおこっていることを理解しなくてはならない。

  • 近未来SFの小説を読んでいるようなルポに、ぞっとした。
    アメリカを支配する1%による新自由主義の論理に、食糧や公共サービスがずたずたにされている。

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著者プロフィール

堤 未果(つつみ・みか)/国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学院国際関係論学科修士号。国連、米国野村證券を経て現職。米国の政治、経済、医療、福祉、教育、エネルギー、農政など、徹底した現場取材と公文書分析による調査報道を続ける。

「2021年 『格差の自動化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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