- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006020019
感想・レビュー・書評
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唯野教授個人は饒舌な小男、モラルも低くて女子生徒に手を出したりする俗っぽさ。周りのキャラクターも小便を漏らしたり、小狡い性格だったり、全然立派な人物はいない。
大学教授たちの世界は政治根回し、足の引っ張り合いばかりで期待ほど勉強していない。
でも講義はとても面白い。欄外に及ぶ知識の深さ、紹介される本は膨大で、文学理論は全てはわからないけど、読みやすく砕けた表現になっている。難しいから参考文献をもっと読んでもう少し知識が増えてから読んだらまた面白いかもな。
毎章唯野をめぐるドタバタしたエピソードで始まり、講義で終わる話の型も決まっている。
斉木が蟇目と衣服を調えながら研究室から出てきたあたりから特に面白かった。 -
講義の部分は「文学ってこういうことなのかぁ」などと感心したが、全体的にはあまり楽しめなかった。登場人物の日常が殺風景で、普段何を考えてるのかわからない、というか、そもそも何かを理解したり整理したりすることが習慣として全く身についていない人たちの恨み言とか、泣き言が並んでいるだけだったからだ。(文学部の)大学教員はこういうつまらない人間の集まりなんだよ、という点では優れた著作といえるのだが、どこが笑いどころなのか私にはわかならない。
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濃厚な文学批評論の講義と軽快な大学教授のコメディーが合体している。コメディーの方は語り口が軽いのでとても読み易い。講義の方はある程度文学や哲学の知識がないと全部理解できないであろうと思った。メタ的な描写が入ってくるのが面白い。
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早治大学文学部の弱小教授、唯野仁は、魑魅魍魎が跋扈する学部内政治に翻弄されながらも、ペンネーム野田耽二で密かに小説を書いている。しかしてその志は、「新たな文学理論の確立」。
本書では、唯野教授が立智大学で非常勤で受け持つ「文芸批評論」の第1回から第9回までの小難しい講義の進行と共に、嫉妬が渦巻く幼稚でドロドロした学内政治ドラマが展開していく。
学内政治のパロディはリアリティがあって面白かった。残念ながら、現象学、解釈学、記号論、構造主義、ポスト構造主義など、唯野教授の講義は難解でちんぷんかんぷん。フムフムと分かればカッコいいんだろうけどなあ。 -
もうこんな大学ないと思うのだが、それでも少しあってほしいと思うし、
こんな教授いはしないと思うのだが、それでもいてほしいと思う。
惜しむらくは、読者には前期の聴講しか許されていないことだ。 -
主人公の唯野仁は、早治大学英米文学科教授であり、「野田耽二」というペンネームで小説を執筆しています。本作は、彼を中心にアカデミズムに生息する者たちの生態をアイロニカルにえがき出している小説ですが、同時に現代文学理論について学ぶことができる内容になっています。
ユーモア・センスは著者の従前の作品と同様で、とくに現代の若い読者に響くのかという点では、やや疑問もあります。井上ひさしの作品についての同様のことがいえるように思うのですが、この方面の感性はもっとも賞味期限が短いので、しかたがないのかもしれません。それ以外にも、アカデミズムの置かれている状況はますます厳しさを増しており、ここにえがかれているような大学人たちの愚かしさは、いまとなっては牧歌的にすら感じてしまいます。
唯野の後期の授業や、野田耽二の作品『海霧』などについて、もっと知りたいと思わずにはいられません。著者に続編を書いてほしいという声はすくなくないと思うのですが、現在までのところ正式な続編は執筆されていないようです。ただし、『文学部唯野教授のサブ・テキスト』(文春文庫)、『文学部唯野教授の女性問答』(中公文庫)、『誰にもわかるハイデガー―文学部唯野教授・最終講義』(河出文庫)などの関連作品は観光されています。 -
本気の実験的な小説って好きなんです。
作家の教養がビンビンに伝わってきて、それでいて知識のひけらかしになってないから、作品に緊張感が保たれています。
「もっと勉強しましょうね」
唯野教授の学生に向けたこの言葉は、作家、批評家、ひいては我々のような読者にも向けられた言葉なのだと思います。 -
文芸批評の話と大学内部の話ってんで難しいのかなと若干不安視してたらさすがというか当然というかむしろ難しい話をコメディにエンタメに仕上げることこそが筒井康隆の魅力だと改めて感動させられる傑作だった。構成が凄い。講義が先かドラマが先か講義の流れとドラマの流れがリンクしながら展開してる部分があったりして凄い。ガンガン読めるし面白い。後半へ行くに連れ講義内容が難しくなる。こんだけ噛み砕いて易しく説明してこの難しさだから元の理論は相当ヤバいんだろうな。私の頭が悪いんだけども。ドラマの方は尻上がりに面白い。
文学賞についてや夢の中だけどもドタバタの血なまぐさい展開など「大いなる助走」ぽさもあるので順に読むと面白いかも。目を覆うほどの差別描写があるが時代を反映しているというか、それも含めての批判というか必要悪な印象だった。凄く凄く面白かった。読み応え満点の傑作。