チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006032258

感想・レビュー・書評

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  • チェルノブイリ。その地名はあまりにも有名になりましたが、実際にそこで何があったのかはよく分かっていませんでした。本書は、そこに居た人、今も住んでいる人にインタビューすることで、その現実に目を向けさせられる内容になっています。そこには現実があり、その現実は物語よりもよほどドラマティックに感情を揺さぶります。究極の状況で、人は何を最優先にするのか。
    本書を読んで、そこで起こったことを知るにつけて、その恐ろしさが、ゆっくりと染み込んできています。また一歩間違えれば福島原発の事故も同じようなことになったのかと思うと。いやひょっとしたらとも考えてしまいます。我々はすでに取り返しのつかないところにいるのかもしれないと。
    有限の人生の中で、何が一番大切なのか。その答えが、そこに不幸にも巻き込まれた人々から教えられます。

  • 図書館で。
    東日本大震災後、福島原発の事件が起こった後、NHKはまずその道の専門家なる人物を招いて「問題ない」との報道を繰り返した事を思いだしました。いやでも、普通に考えればあんな厳重な建屋で囲われた中でないと稼働してはならないはずの核融合炉の天井が爆発で吹っ飛んだんだから問題ない訳ないじゃないか、と思いますが人間は信じたい情報を信じたんだろうか。自分も含めて。
    でもやはり放射能は怖いから風向きを気にしたり、原発からの距離を測って自分は大丈夫と思いこもうとする。福島からの移住者を避けたり虐めたりした事はあってはならないことだし、無知の悲劇だと思うけれども結局皆何をもって大丈夫と言える根拠が無いから臭いものには蓋をするように対応したのかもしれない。まるで福島とか原発と自分は無関係ですよ、と証明したいがためだけに。今も完全に収束したとは言えない原発にどう対処したらいい?ヨードを飲むのか?海藻を食べるのか?逃げればいいのか?でも逃げるってどこへ?

    原発再稼働を望む従業者の気持ちもわからないではないのですがその前にきちんと有事の際に自分がどう動くのか、会社は、国はどういう対策を取っているのかをきちんと知った上で地域住民の理解を得る事が必要だと思う。日本なんて断層だらけの国で事故が起こった際どれだけ素早く地域住民を避難させることが出来るのか?放射線物質に対する対応は?その対策だけでも知っておく必要があると思う。何かが起こった後、会社や国に騙された、なんて言ったって取り返しがつかないのだし。

    読んでいてなんだ、日本はチェルノブイリの事故から何も学んでなかったのか、と臍を噛む思いです。唯一の被爆国とか言っている割にこの対応の甘さはなんだろう?今の与党は当時の政権を批判していますが、どんな政権だろうともきちんと対処できるマニュアルさえしっかりしていれば問題なかったはず。でも、今の段階で建屋が爆発した後の完璧なマニュアルが作れるのか?今何か問題が起きたらなんの問題もなく対処できるのか?と考えたら首を傾げるばかりだし。

    最初の消防士の奥さんの話は痛ましいけれどもウェットすぎる気がするのは国民性の違いなのかなぁ。自身を顧みず、自己犠牲を尊ぶのはロシア人気質なのかも知れないけれども愛が深いんだなぁなんて思いました。

  • 2018.02.04 図書館

  • ちょっと読んで折れた。

  • ノーベル賞受賞作家の近著ってことで入手。たまには世界的な文学作品も読んどかないと。で本作は、アレクシエービッチ”著”ってより”編”とするのが正しいと思えるくらい、徹頭徹尾インタビュー記事。正直本作から、文筆家としての力量はあまりよく分からない。でも国家の犠牲になったというしかない人たちの、建前じゃなく本音の部分が、余すことなく赤裸々に綴られている。多分に人災的側面を持つかの事件の全容が、名もない人たちの声を通して、だんだんと鮮明になってくる。衝撃のルポでした。

  • 貴重なナラティブ集。
    ただ苦海浄土ほどの衝撃はなかった。

    ・われわれと言っていたソ連が、チェルノブイリ以降、「私」はと言い始めた。

  • ここに集められたのは、チェルノブイリ原発事故で何が起きたのか、ということではない。あの事故に巻き込まれた人々が何を経験したのか、それをその人自身の言葉で語ったものが集められている。それは、主観の世界であり、数字より気持ちや感覚の話だ。
    ここにあるのは無明だ。無明からくる苦しみの数々。2000年前に仏陀が看破し、その後も決して克服されたことのない人の性分。それは、未来に続くものかもしれないけれど、決して新しくはない。もし新しいところ(仏陀の時代には無かったもの)があるとすれば、それは修行もしない人がそれを無明だと気づくことができる道具を手に入れたことだと思う。著者はこの苦しみをなんと見ているのだろうか。

  • 1986年4月26日1時23分、ソビエト連邦(現:ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所4号炉で起きた原子力事故。

    見落とされた歴史であるチェルノブイリをどう理解すべきか。
    「私たちが解き明かさねばならない謎です。もしかしたら、二一世紀への課題、二一世紀への挑戦なのかもしれません。人は、あそこで、自分自身の内になにを知り、なにを見抜き、なにを発見したのでしょうか?自らの世界観に?この本は人々の気持ちを再現したものです。事故の再現ではありません。

    「私が見たことや体験したことを伝えることばがみつからない」「こんなことはどんな本でも読んだことがない、映画でもみたことがない」「こんなことは前にだれからも聞いたことがない」同じ告白がくりかえされますが、私は意識的にこれらを本から削除しませんでした。~手を加えられていない真実のほうが起こりつつあることのいい上さをよく映しだすように思えたからです。すべてはじめて明らかにされ、声にだして語られたことです。なにかが起きた。でも私たちはそのことを考える方法も、よく似たできごとも、体験も持たない。私たちの視力も聴力もそれについていけない、私たちの語彙ですら役に立たない。私たちの内なる器官すべて、それは観たり聞いたりふれたりするようにできている。、、、、、、、、


    P181
    なぜ、私たちは知っていながら沈黙していたのか、なぜ広場にでてさけばなかったのか?私たちは報告し、説明書を作成しましたが、命令はぜったい服従し、沈黙していました。なぜなら、党規があり、私は共産党員でしたから。~~~信念があったからです。

    P182私は環境保護監督局で働いていました。そこでは上からの支指示を待っていたしたが、指示はありませんでした。

    P186
    汚染された土壌を埋葬するための政令がつくられました。土の中に土を葬る、なんとも不可解な人間のなせる業。通達に定められていたのは、地質調査を行い、地下水脈からすくなくとも四メートルから六メートルはなして埋めること。深く埋めないこと。

    P190ひとりひとりが自分を正当化し、なにかしらいいわけを思いつく。私も経験しました。そもそも、私はわかってたんです。実生活のなかで、恐ろしいことは静かにさりげなく起きるということが。

  • ルポルタージュなのに、まさにロシア文学を読んでいる味わい。福島の今日の状況を思うと、当時のソビエトも今の日本もあまり変わらないように思えるのが寒々しい。

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