教育は遺伝に勝てるか? (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.55
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本棚登録 : 575
感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022952165

作品紹介・あらすじ

遺伝が学力に強く影響することは、もはや周知の事実だが、誤解も多い。本書は遺伝学の最新知見を平易に紹介し、理想論でも奇麗事でもない「その人にとっての成功」(=自分で稼げる能力を見つけ伸ばす)はいかにして可能かを詳説。教育の可能性を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 生きるとはなんだろうか。
    自分とはなんだろうか。

    これまでいろいろ考えてきたような気もするけれど、整理すると、上記のようなことに収斂させることができるのかもしれない。

    最近気になっていることの一つは、遺伝。

    自由意志を想定しようとしても、その基礎となる自己を確定しようにも、たどり着くのは受精卵となることを考えると、そんものはない。
    という結論に至らざるをえない。

    だとすると、残るのは、遺伝、環境・偶然、ということになるのではないか。

    だとしても、意志、自由みたいなものをなんらかの形で信じることなく、この人生を歩み続けることはできない。
    ように思う。

    そうした、疑問にも一定程度、考える手がかりをくれたという意味で、よい本だったように思う。

    高校生の頃、理解したつもりの、生物学としての遺伝に関する話。
    なんだか理解が面倒で、ほぼ読み飛ばしてしまったのは、怠惰のせいか、退化なのか。
    退化でないことを願いたい。


    すばらしい新世界が生む格差
    本章では育つ社会によって遺伝と環境のあらわれ方が異なるという事例を数多く紹介してきました。そこで見えてきたのは、環境が自由になればなるほど、遺伝的な差がはっきりとあらわれる社会になる可能性があるということです。
    え?社会が自由で平等になれば、人々の差がなくなることになるんじゃないの?
    そうではなくて、そのときこそ一人ひとりの遺伝的な素質が自由に表現できるようになり、その結果、そこにあらわれるあらゆる差は、遺伝的な個人差が生み出したものになるというわけです。
    (中略)
    誰にも目由が与えられた「すばらしい新世界」では、とりもなおさず、遺伝的なその人自身があらわされ、個人差が広がることになるのです。それをいま民主的な国で起こっているような分断に陥らせることなく、異なる人々が互いに協力しあう社会をつくるにはどうすればよいのか。子育てについても政治制度についても、環境のあり方を考えるとき、同時に遺伝についてもきちんと理解をする必要があるのです。
    P210-212

    そもそも個性的であること、何らかの才能を発揮すること、志をもって人生を貫くことをよかれと考えること自体が、一時の流行にすぎません。ボトムラインは、まず生き抜くことです。それすら大事業です。個性や才能や志は、その人の時代と環境で見つかる人もいれば見つからない人もいる。それは遺伝と環境の条件の偶然が生み出す必然です。あなた自身の人生をふり返ってみても、そうだったのではないでしょうか。あなたのお子さんも、きっとその子なりに、その必然を生きていくはずです。
    P240

  • 一卵性双生児の研究を中心に、人間の遺伝の仕組みやを解説してくれる行動遺伝学の入門書。遺伝について、なんとなく親に子が似ることでしょ、くらいの認識でいた人間としては、目からうろこの知識が多く、すごくためになった。

    異なる人生を歩みながらも、どこか似た経験をする双子のライフストーリーも面白かった。が、個人的に、印象に残ったのは、一番最初に説明される「遺伝は遺伝せず」の話だった。
    中学だったか、高校だったかで学んだ記憶のある「メンデルの法則」について説明している部分である。遺伝子には、優生のものと、劣性のものがあり、純血の緑色と黄色のエンドウマメを掛け合わせても、黄色のものしか生まれない。改めて緑色のマメが生まれるのは、さらにその次の世代で、そもそも、遺伝というのは、親に似るわけではないということになる。
    人間の場合、見た目や能力などの遺伝に関わる遺伝子は、数億個もある。その組み合わせは、エンドウマメの色なんかよりもはるかに複雑で、どんな親であっても、どんな子どもが生まれるかは、ほぼランダムだという。

    生まれてきた子どもは、成長するに従って、進路や就職など、自分自身で決められることが増えていく。そして、そうした選択には、遺伝的な影響がある。面白いのは、大人になるにつれて、人生の選択や能力に、元々本人が持っていた遺伝的な影響や、偶然の環境の影響の方が、家庭環境よりも大きくなっていくことだ。
    つまり、どのように育てても、子どもは育つようにしか育たないのだという。

    では、周りの大人の働きかけは、無意味なのだろうか。著者が出す例が分かりやすい。
    たとえ、数学の才能があったとしても、その子に誰かが数学の教科書を与えてあげなければ、その子が数学の才能を発揮することはない。
    著者が、行動遺伝学から考える大人にできることは、子どもたちの人生にとっての一人の選択肢になることだという。遺伝を全てを決定するものではなく、大人の在り方にも「こうあるべきこと」はないのだということ。
    大人もまた、自分らしくあることの意義を教えてくれる本だった。

  • 「教育は遺伝に勝てるか?」
    親や家庭の環境が関わるとされている学力、知能、非行、飲酒喫煙などの例外を除き、多くの側面で共有環境の影響はほとんどないのが事実である。その効果量は数%だけで圧倒的に遺伝や非共有環境の影響が大きい。
    しかしその数%でも自分が見える世界に少なからず変化を与える。親として、他者として、関わりを持つとき変化を与える可能性があるのであれば、少しでも良い影響を与えられる素敵な人でいたいと思った。

  • タイトルに対する答えは、「勝てる人もいるし勝てない人もいる」しかない。興味があるのは、どの程度影響する可能性があるかということ。その知見を知るために読みたい

    #教育は遺伝に勝てるか?
    #安藤寿康
    23/7/13出版

    #読書好きな人と繋がりたい
    #読書
    #本好き
    #読みたい本

    https://amzn.to/3XQWavD

  • 全てを理解できてないけどすごく面白い内容だった一卵性双生児の比較研究など興味深いものが多かった。遺伝はすごい。

  • 非常に面白かったです。
    特にアルコール中毒の例は面白かったです。
    反面教師だと思っていたことなども、結局親のある部分が嫌だなぁと思うのって、その遺伝を受け継いでいないからだと。
    もしくは、その遺伝(お酒好き)を発揮できる環境にいないとのことでした。
    私たちは遺伝子でできている、こんなこと知っていたはずなのに、本書を読んでから自分は遺伝子に支配されている気分になりましたね。
    遺伝が自分そのもの。しかし、じゃあ教育も何も関係ないじゃないか、頑張ったって親の頭が悪ければダメじゃないかと言ったらそういうわけではないということです。
    自分の持つ遺伝子を発揮するには、それなりの環境や教育によって発揮されるということでした。
    大変面白かったです。

    • maiさん
      つぶあんたいやきさん
      初めまして(o^^o)いつも拝見しております!コメントありがとうございます。
      星5にできなかったのは、この本は双子の実...
      つぶあんたいやきさん
      初めまして(o^^o)いつも拝見しております!コメントありがとうございます。
      星5にできなかったのは、この本は双子の実験に基づいて話が進んでいくのですが、少々事例が多く感じたため星4にしました。
      というのも私は事例が多すぎるのが本を読むのが少々苦手でして…(~_~;)笑
      個人的な理由で申し訳ないのですが星4にさせていただきました。ですが、内容としては、事実と筆者の見解も含めて納得できるものでしたのでとても良かったと思います(o^^o)
      2024/01/31
    • つぶあんたいやきさん
      maiさん丁寧な返信ありがとうございます。事例が多いとどうしても冗長に感じてしまいますよね。読んでみます!!
      maiさん丁寧な返信ありがとうございます。事例が多いとどうしても冗長に感じてしまいますよね。読んでみます!!
      2024/01/31
    • maiさん
      つぶあんたいやきさん
      こちらこそ、ありがとうございます(*^^*)
      そうなんですよね、もう少しちゃんと読み込めるようになれたらなと思いますが...
      つぶあんたいやきさん
      こちらこそ、ありがとうございます(*^^*)
      そうなんですよね、もう少しちゃんと読み込めるようになれたらなと思いますが…笑(ー ー;)
      コメントありがとうございました(o^^o)
      2024/01/31
  • さまざまな事例を交えながら、「子育ては遺伝or環境」論争に、一定の答えを得られた。私自身教員の端くれとして、また親として、子どもたちへの働きかけに限界があるのではないかと考えていたので、ある程度すっきりした気分ではある。難しい内容が非常に平易で書かれているので、ストレスなく読み終えることができた。



  • タイトルに惹かれ購入。
    中高で学習したメンデルの法則についてはじめに述べられており、遺伝と環境が成長に与える部分について分かりやすく読み進めることができた。

    やはり、遺伝の影響は環境よりも大きい。圧倒的である。また、何がどのように遺伝するかは完全にランダムであり予測できないが、環境と遺伝の影響率について、以下のような事項が数字で示してある。
    身長…遺伝80-90% 環境10-20%
    知能(児童期)…遺伝41% 環境33%非環26%
    知能(青年期)…遺伝55%環境18%非環24%
    知能(成人期)…遺伝66%環境16%非環18%
    成績…遺伝(小)25-55%→(中)14-40%
    *理数系の科目の方が遺伝率は低い。
    パーソナリティ…遺伝35-50%環境0%非環50-65%
    *精神疾患・発達障害も環境0%

    遺伝子の組み合わせは無限にあり、それゆえに一人ひとりの個性が生まれる。中には珍しい遺伝子の組み合わせにより、いわゆる「どちらの親にも似ていない子ども」も生まれ得る。

    子育てする身として、諦念を持った上で子どもに関わるのが大切だと気づいた。楽観的に。
    遺伝とは直接的には関係ないかもしれないが、この本を読んで、自分の心に突き刺さったのは「そもそも個性的であること、何らかの才能を発揮すること、志をもって人生を貫くことをよかれと考えること自体が、一時の流行にすぎません。」という一文。自分は改めて出来もしないのに完璧を求めるエセ完璧主義者だと気付かされた。
    先日読んだ思考の整理学と通ずる部分がある。
    肩肘張らず生きていきたい。前向きに。

  •  本書で遺伝とは、生まれ持った素質を指す。
     教育は遺伝に勝てない。言い換えると、遺伝は教育に負けるほど弱くはない。しかし、遺伝の開花には、それが芽吹くための環境が必要である。
     子を育む環境は、親をはじめとした周囲の保護者、隣人によって作られる。特に親は、その子が持って生まれた素質が健やかに花開くよう機会を作ること、興味を持ったことを応援することに努めることが望ましいと思った。
     反対に親が子をこうしたい、と熱心に努めても、子は与えた環境の幾分かを、子の持つ遺伝の範囲でのみ受け取る。よって教育による上積みはあるものの子が親の思う通りに育つことはない。
     教育とはその程度と割り切り、棍を詰めすぎることなく、親子共々、日々を機嫌良く過ごすのが良いと思いました。

  • 双生児の研究という分野が興味深く、東大教育学部附属に双生児、三つ子の募集枠があることを知りました。「遺伝をこの世界で形にしてくれるのが教育だ」「教育なしに遺伝は姿をあらわさない」というメッセージが伝わったとすれば大成功です。(241頁)」とあるように、ふたごのエピソードに出てくる同じ体験が、その後を形作ることもあるようでした。遺伝を引き出す体験が何になるか子どものうちには見極めることは難しいとも感じました。

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著者プロフィール

慶應義塾大学文学部教授
主要著作・論文:『生まれが9割の世界をどう生きるか―遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(SBクリエイティブ,2022年),『なぜヒトは学ぶのか―教育を生物学的に考える』(講談社,2018年),『遺伝と環境の心理学―人間行動遺伝学入門』(培風館,2014年)など

「2023年 『教育の起源を探る 進化と文化の視点から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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