リラと戦禍の風

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (488ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041074138

作品紹介・あらすじ

愚かで愛おしい人類の歴史を見守る不死の「伯爵」と少女リラ。彼らの旅路に巻き込まれた兵士は、やがて世界を変える夢を見る。ル・グィンの衣鉢を継ぐ著者が壮大なスケールでおくる歴史ファンタジー!

感想・レビュー・書評

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  • 第一次世界大戦中の欧州を舞台に、魔物が自由自在に動き回る物語。世の中の動きは史実に基づいていて、人間の愚かさを学びながらも、ファンタジーならではの軽やかさがある。
    特に諜報活動は魔物の特性を活かして簡単にことが進む。ファンタジーなんだから別にいいはずなのに、どうしても戦時中という背景とのちぐはぐさを感じてしまった。
    イェルクも戦場と自分の周りの小さな世界しか知らない若者だったのに、すぐに世の中の仕組みを理解して行動できちゃうし。

    魔物が世界を俯瞰して人間が現実を生きているという二つの視点は、面白く感じたけどあっさりと駆け足な印象で、もっと深く読ませて欲しかった。
    それか、現実の大戦ではなく架空の世界で読んでみたかったな。

  • オーシャンクロニクル・シリーズなどが有名な上田早夕里先生の新作。
    本書は上田先生得意のSFではなく、ジャンルで言えば歴史ファンタジー・アドベンチャーということになるのかな。

    第一次大戦の西部戦線で瀕死の重傷を負った若きドイツ兵イェルクの前に、身なりの良い初老の紳士が突然現れ、イェルクは見知らぬ土地に連れて行かれます。そこでイェルクはその紳士からリラという女の子の護衛をして欲しいと頼まれます。
    それを了承したイェルクは、魂の姿になり、虚体と呼ばれる仮の肉体を用いて数々の試練に立ち向かっていきます。

    ああ、もう!惜しい!
    この本1冊で、この物語を終わらせてしまうのはもったいない!

    少なくとも3部作にはできる。人気が出ればあの『ハリーポッター』シリーズを凌駕できるような大作になる可能性があったかもしれないのに・・・。

    《以下はネタバレ&壮大な妄想有り・!未読者も既読者も注意!》
    舞台は第一次大戦中のドイツとフランス。
    登場人物は、両親を亡くした10代前半の人間の女の子リラ、リラを保護する人間の姿をした不死の魔物であるシルヴェストリ伯爵、そして、本書の主人公であり戦場で瀕死の状態のところをシルヴェストリ伯爵に助けられたドイツ軍の若き兵士・イェルク・ヒューバー。
    この3人が主人公的キャラクターとなりますね。

    さらに人狼でセルビア軍の兵士であるミロシュ、シルヴェストリ伯爵の同居人で旅籠と病院を営む謎の女性・サンドラ、そして彼らに立ちはだかる無の魔物であるニルなどが物語を形作っていきます。

    どうです?もう、この登場人物と舞台を聞いただけで、壮大な物語が始まる予感がするじゃありませんか?

    伯爵に助けられたドイツ人のイェルクは伯爵からポーランド人の女の子リラの護衛をするように依頼されます。しかし、当時のポーランドはロシア、ドイツ、オーストリアに併合され、国が無くなった状態でした。ですからリラは祖国を奪ったドイツ人達を嫌っていたのです。

    このあたりのヨーロッパの歴史描写は、上田先生に深緑野分先生が乗り移ったか!?というレベルで詳細に描かれています。

    イェルクは伯爵から与えられた虚体と呼ばれる仮の肉体を使って、同じように虚体を使って精神世界を浮遊するリラの護衛をリラに嫌がられながらも続けます。そこへ無の魔物ニルが襲ってくるのです。
    ニルとの戦いなどを経て、徐々にリラはイェルクに心を開いていきます。

    物語の4分3までは本当に面白かった。
    まさに☆の数で言えば5つ、この物語は実写でもアニメでも映像化したら非常に映えるし、絶対に売れるだろうなと感じましたよ。
    若くてイケメンのイェルクに、スーパー美少女のリラ、そして超渋くてダンディーなシルヴェストリ伯爵に、年齢不詳の美女・サンドラ医師、敵役には憎々しい無の魔物ニル。
    さらに可愛いヤツから凶暴ヤツまで多種多様な魔物達が所狭しと活躍するとなれば、これはもう老若男女、全員のハートを鷲掴みですよ(笑)。

    しかし、なぜか上田先生は第一次大戦が終わったところで、この壮大な物語をいきなり収束させてしまいます。

    もう!なんで!意味が分からない!

    本書のなかでそれぞれの登場人物の出自や背景を細かく描写していて、特にシルヴェストリ伯爵がドラキュラ伯爵のモデルとなったワラキア公国のウラド串刺公の血を引き継いで魔物になった経緯とか最高に面白かったし、魔物になる決心をしたイェルクのこれからの成長とか凄く期待していたのに。

    もし僕がカドカワの担当編集者だったら、本書は絶対に3部作にしますね。

    第1巻はリラ(十代前半編)を主人公にして第一次大戦終了までにし、当然本書と同じようにドイツ国内の労働者運動も描きます。
    次作はリラ(十代後半編)、リラとイェルクの成長を若干の恋愛を絡ませて描き、ドイツ国内の労働者運動からナチスが台頭する第二次大戦前夜まで描写します。
    最終巻はリラ(二〇代編)、リラが一人前になり、ナチスの崩壊と第二次大戦終了のきっかけを作るところまでを描くという感じにします。

    そうするとリラの年齢と歴史の流れが合ってないだろと突っ込みがきそうですが、シュヴェストリ伯爵の能力で実際の時間の流れとリラの成長のスピードはズレているのでOKです(適当)。

    この3部作のテーマは、「リラとイェルクの成長」、「善の魔物と悪の魔物との戦い」です。さらに「民衆労働運動とファシスト政権の成立と没落の過程」を描き物語に重厚感を持たせます。
    そこにはもちろんリラとイェルクの恋愛要素も取り入れます。
    リラを守る為に不死の魔物となったイェルクを想いながら、自らも魔物なるか、なるまいかに思い悩むリラの揺れ動く気持ちを情緒豊かに描き出します。

    そして、主人公たちと悪の魔物との対決、最終的には無の魔物ニルとの最終決戦。人間のままでいるか、魔物になることを選ぶのか、リラが下した最終決断は・・・。

    こんな感じの話を本書と同じように詳細な歴史描写を絡ませながら上田先生の筆力で描いていけば、歴史ファンタジー・アドベンチャーシリーズとして、オーシャンクロニクル・シリーズに匹敵する人気シリーズにできたはず・・・。

    魅力的なキャラクター、虚体という実態のない肉体、魔方陣を使っての瞬間移動、実体と魂を分けた人間の分離性、詳細な時代設定、みんな良かったのになあ。
    ああ、もったいない(ジタバタ、ジタバタ)。

    やっぱり、上田先生は壮大なSFファンタジーじゃなきゃ満足できないのかなぁ~。

    と言う訳で、くやしくて仕方ないので次に生まれ変わるときはカドカワの文芸書編集者を目指しますね。「小説家を目指す」とは言わないところが「身の程をわきまえていてGOOD」と自分を褒めてあげたいです☆

  • 人と人、国と国は何故、戦わなくてはいけないのか。
    今現在、世界で起こっている争いも同様、こういった無辜の人の人生が失われ続けているのに何もする術がない。
    上田さんの本はいつもSFめいているのでこの第一次世界大戦最中のひとりの兵士から始まる戦争のストーリーも多分違う印象で~との予感通り、魔物やら不死身の伯爵やらで内容が深い。それでも当時のヨーロッパ情勢、国と国の諍い、国境など、社会主義思想まで細やかに私の貧弱な頭に知識を注入させて下さる。第一次世界大戦の後は第二次世界大戦もあったという紙の上での知識はあったので、登場人物たちのこれから出会うであろう未来に辛い思いを抱いてしまうけれど、その当時の精一杯の生活に共感を覚える。

    魔物となり、姿は変わって不死の世界を今現在も眺めているであろう、イェルクという若者にある意味同情してしまうのは、世界のため、人間のため、まだまだ働いて頂かなくてはいけないから。本当にそんな神のような存在あればいいけれど。
    SF、フィクションとして普通に読み終えてしまうには勿体ない程の素晴らしい一冊でした。

  • 第一次世界大戦のさなか、悲惨な戦場の只中にいたイェルクは「伯爵」と呼ばれる不死者に出会い、救われる代わりにリラという少女の護衛を依頼される。

    救いのない戦争と抗えずにもがく人間たち、そしてそれらを俯瞰する「魔物」の姿を描いた、歴史ファンタジー小説、です。戦争フィクションにファンタジー要素が介在することで、戦争をより第三者目線で捉えられ、その愚かしさと虚しさをよりじっくりと感じられるように思いました。

    「魔物」という、下手したら浮き上がってしまいかねない存在を全面的に「あるもの」として描いていることで、広く視界を取った話になっているように感じます。兵士の一目線ではたどりきれない戦の流れや、過去の情景も描かれることで、より繰り返されている戦というものに秘められた人間の業、というのを知れたような気にもなれたのです。

    そのやりきれなさや辛さを抱えた中、毅然とまっすぐに風を起こして生きていくリラの姿がすがすがしく、頼もしくも思えました。

  • 3.5。雰囲気はよく出てるのに、話を小さくまとめてしまっている印象で残念。もっと膨らませてもいいのに。書ける筆力あるのに。この作者、似た印象をもつ本が幾つかある。勿体無いなぁ(まあ、膨らませて書くなら違う話の世界観で優先してほしいのがあるけど)

  • 21:第一次大戦時のドイツ。イェルクはフランス軍との戦闘中に重症を負い、伯爵と名乗る不死の魔物に救われて実体と虚体の二つの存在に分かたれる。ヒトとヒトでないものが入り交じる欧州で、ヒトでないものの視線を交えて語られるからこそ重みを持つ暴力と希求の歴史。
    装画が素敵で、読み終えてから改めて見直したら涙出た。いつの時代、どこの国でも変わらない普遍的な愚かさが描かれていて、落胆すると同時に「エッフェル塔」の希望は失われてほしくないなと。容赦のない重厚さと、清涼な軽やかさで紡がれる歴史ファンタジー。めちゃ面白かった……!

    「破滅の王」に比べ、ファンタジー要素が強めのぶん読みやすかったのですが、もしかしてえぐさはこちらの方が勝っているのでは……。

  • 第一次世界大戦の時代を舞台にしたファンタジー。魔物が暗躍する世界を描いているが、魔物が主役ではないと思った。戦争が人を破壊して人間ではなくなっていく、一方で魔物は魔物の欲求を満たすべく暗躍するが、その方がよほど人間らしいという逆転現象が起こる。ドイツの兵士だったイェルクは不老不死の魔物になる。人間を救うためだ。魔物のニルは戦争の“無”を表現していると感じた。リラはポーランドの少女。吸血鬼をモチーフにした伯爵と住んでいる。両親はいない。イェルクはリラの護衛として伯爵に雇われている。改めて作品名を見て、戦争でもっとも被害を被るのはリラのような子供なのだなと再認識させられる。

  • たまたま第一次世界大戦について大枠を理解できてる状態だったので面白く読めたが、全く知識が無い状態だと、理解できない細部も多いと思う。

  • 第二次世界大戦を舞台にしたファンタジー小説ですが
    なるほど、こういうのもアリなのか…

  • 上田さんは
    日本SFの宝だなぁと、何時も思う。
    作品が読めてありがたい

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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