アフターダーク

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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062125369

感想・レビュー・書評

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  • 街は夜も眠らない、と知ったのはいつ頃だろう‥この作品を読んでふと思った。村上春樹の円熟した筆致が、都会の夜のダークな部分を静かに呼吸するように伝えている。空を飛ぶ鳥の目を通して。

    実体をあとに残し、質量をもたない観念的な視点となって、鏡やTV画面を通り抜け、登場人物を、あちら側とこちら側の世界に自在に行き来させながら、サラサラと小説は進んでいきます。

    副音声的な描写が、読み手の感情移入をあえてかわすよう施されています。宇宙船の内部を見ているような錯覚にとらわれる不思議な作品。不可解さといくつかの暗示の中で、作中に出てくる映画『ある愛の詩』を「ハッピーエンド」としていることが、春樹さん独特の伏線なのだろか?
    数ある村上春樹作品の中でも、個人的にはとても落ち着いて読めた作品。作家としての熟成を感じます。

  • この作品において「私たち」という主語の導入は確実に有効だったと思う。ある意味で小説世界に存在しない視点ではあるが、読書体験においてはいかなる場合にも存在する視点である。これを明示し、かつ劇中の人物と対比させる(ように感じる)ことで、読者は自らに隣接する世界の認識の限界と可能性を容易に感じることができる。単に「物語」を追うよりも、受容される量はずっと大きくなる。
    そして単純に、おもしろかった。事件は起こらないのだけれどそれがまたいい。

  • 恐ろしく難しかった笑

  • 一夜に起きた出来事を淡々と語る、最後までそうやって進んでいく話。新境地と言われても村上さんの本はノルウェイの森しか読んだことないから分からん!そういうことは置いといて、私はこれ好きだな。楽しめた。

  • 村上春樹の小説。これも長編だと思うのだが他の大長編、『ねじまき鳥…』『1Q84』などに比べるとコンパクトで、中編という感じもする。
    ***
    深夜から早朝にかけて、都会の片隅で織りなされる、同時進行の群像劇。
    しかも、各章冒頭に時計の表示が掲げてあり、時間経過と同時性がかっちり示されてゆく。
    深夜のファミレス。大学生のマリは、アマチュアミュージシャン高橋と出会う。
    舞台は、渋谷あるいは新宿かな…と思われる都会の街。 
    髙橋のきっかけで、マリは、近くのラブホテル『アルファヴィル』で発生したトラブル救援に呼ばれることに。
    中国娘の宅配娼婦が、強盗されたので通訳してくれ、という依頼。
    そんな事件の顛末展開を縦軸にした、一夜の人間模様とストーリー。

    一方で、別の場所で眠り続けるマリの姉・エリの様子を伝える章が、時折インサートされる。
    まるでコーマ(昏睡)のように、だが、自分の意思で何日も眠り続けているエリ。
    その姿が描かれるが、とても謎めいている。はじめは寝室の様子を伝えているのだが、後には、謎のテレビ画面の中の寝台に眠る様子として描かれ、その後、視点は、その画面の中へと越境してゆく。
     オーソドックスな文学の技法で「神の視座」というのがあるのだが、それを最大限駆使した描写、文章になっている。この繰り返し挿入されるエリの場面は、観念的で幻想的。そして、いつもの村上春樹の例にもれず、予想にたがわず、明快な解説も解題もなされない。(それはそれでよし)

    読書慣れしていないひと、村上春樹慣れしていないひとが、"運悪く"この小説を読んでしまったら、この謎めいた書きように途方に暮れるのではあるまいか。

    上述のエリの場面はわかりづらいのだが、一方 他の場面の多くは、内容もタッチも概ね軽妙でライトなのですこぶる読み易く、すらすら読み進んだ。
    (このライトな感触、伊坂幸太郎な感じも…)

    ところで、
    「アフターダーク」というのは、ジャズの名曲「ファイブスポット・アフターダーク」でもあるのだった。
     久々に自宅の棚からCurtis Fuller のCD「BLUES ette 」を探しだして同曲を聴いたりした。
    深夜のコンビニ。髙橋が「ファイブスポット・アフターダーク」のメロディを口笛しながら店内を進んでゆく場面がある。映画のワンシーンのようである。絵コンテが頭に浮かんだ。
     ♪「ファイブスポット…」の軽妙な口笛。同じく軽快な足取りで歩む足元。パンアップして、髙橋のBSへ。あるいは、店内を歩く髙橋の背中からカメラが追う。同曲の軽妙な口笛。横顔。
     
    思えば、初めて村上春樹の小説を読んだ高校生の時以来、小説のなかに出てくるジャズの曲名をメモっておいて、レコードやCDを探したりしたものだ。(思えば当時はネットが無かったので、すぐには見つけられなかった。その頃♪「ジャンピング・ウィズ・シンフォニーシッズ」という曲をメモして、探したが見つからずそのままになっている。あれは、なんの小説だったのか…)
    その後私もいつしか自身の趣味趣向でジャズを聴くようになり幾年月。いまではこうやってCurtis Fullerのあの曲ね…なんて、分かるようになってしまった。なんだか感慨深いかんじもする。

  • ある夜〜夜明けまでの不思議な話
    それぞれがその後どうなったんだろう…と気になるみんなそれぞれそんな夜もある。生き急ぐ必要はないんだなぁ

  • 夜中から朝までのお話
    登場人物は少ない
    面白さがよくわからなかった

  • 【あらすじ】
    心に闇を抱える姉妹、マリとエリ。ある深夜、マリはひとりファミレスに、エリは自室でずっと眠り続けている。ふたりのそれぞれの情景を読者が俯瞰するかのように描かれる。
    マリは、その深夜に出会った人々との会話によって、姉との間の心の深淵に向き合うこととなる。

    【感想】
    それぞれの登場人物の同時刻の様子を俯瞰する描き方に、不思議な感覚を抱いた。まさに、「真夜中から空が白むまでのあいだ、ひっそりと深淵が口を開ける。」情景を見せられたような。自分の視点が何なのか終始考えながら読み進む感覚もおもしろかった。

  • エリとマリという姉妹を中心に広げられる物語。


    エリはマリを、マリはエリを、お互いの人生を羨ましいと思っているところが、印象に残った!誰しも羨ましいと思ってることでも、逆に羨ましいと思われているんだなぁと感じた!

    また、高橋とマリの今後に期待したい。
    白川もどうなるのか、、気になる!!

    24時以降、みんなが寝静まった夜から始まる物語はエモかった。

  • それまでに読んでいた小説が面白くなかったので読むのを止めて、河合隼雄さんもおすすめしていたことだし、こちらを読もうと思ってびっくり。久しぶりの村上春樹だったけれど、文章が滑らかというか、まるで美しい音楽を聴いているかのように心に響くことに驚いた。彼は書きたい物語の世界をちゃんと知覚しながら書いていて、それを抽象度を上げ下げしながら巧みに言語化している。村上春樹の文章を読んでいると、今まで使ってこなかった脳の部分を使いながら、私もまた彼の世界を感じようとしていることを感じた。でもその作業に疲れることもなく、読者に与える情報の度合いがとてもバランスがとれているのだと思った。はぁ…美しい…。



    この本を読む何冊か前に桐野夏生の『グロテスク』を読み終えていた(面白かった!)けれど、偶然こちらも2人姉妹の話で、美人とそうではない方の組み合わせだった。

    『グロテスク』では、お互いがお互いを心理的に排除することによって生きようとしていて、それが破滅的に感じられたけれど、こちらはそれとは別の方向を歩もうとする話だったのだと思う。

    外側の何かを排除することは、自分の一部を排除することと等しい。

    高橋は、マリにそれを伝える役割を持っていて、彼のセリフにはそうしたメッセージが含まれていたように思った。マリは暗い夜の街で過ごすことによって、姉の心の暗闇に間接的に触れたかったのかもしれないと思った。それが彼女が自分を生きるうえでとても大切なことだから。



    この物語は、何度読んでも違う視点で味わえそうな本だからまた読んでみたい。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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