出口のない海 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062754620

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  • 人間魚雷「回天」。
    これに乗ってった若者は何を想ったのだろう。
    爽やかな青年達が特効兵器に乗り込み、敵の戦艦に突入する。。。同じことは二度と起こしてはいけない。

  • 主人公は元甲子園優勝投手で野球に励む大学生。
    ただ、肘を壊しており、昔のような球は戻ってこない。
    直球で勝負できないなら、魔球を開発する。
    主人公はそう宣言する。
    そんな中、学徒出陣により主人公も徴兵されることに。

    軍国主義への抵抗感と、自分よりも若い人間が徴兵猶予の間に先に戦地に駆り出されていっていることへの罪悪感に苛まられながら、辿り着いたのは神潮特攻隊。
    人間魚雷「回天」の搭乗員である。

    「回天」は一度搭乗すると自力での脱出は不可能。
    即ち、出撃=戦果=死を意味する。
    人間が兵器の一部と化する。

    迫り来る出撃=死に向けて日々訓練、生活を送る隊員たち。
    そんな中でも主人公は魔球を投げるいう夢を何度も諦めそうになりながらも、生きる希望にして日々を過ごす。

    神風特攻隊は聞いたことがあったけど、
    神潮特攻隊は初めて。
    一度出撃すると決して生きて戻れない人間魚雷「回天」。
    故障により出撃できず生きて基地に生還すると、生きていることを後ろめたく感じさせる空気。
    死ぬことよりも生きることが辛いという空気。

    個人的には出撃前の最後の帰省で、
    両親に最後の挨拶をする場面が切なかった。
    「回天」は機密情報のため、やんわりとしか伝えることができない。

    本書はフィクションだけど、こういうシーンは実際に過去数えきれないほどあったんだと思うと、
    考え込まずにはいられない。

    たまたま読んだタイミングが終戦の時期と重なり、テレビや記事などで当時の関連情報を得ながら読み進めることになった。

    たくさんの人に読んでほしい、知ってほしい作品です。

  •  警察小説の雄である著者の思いがけない戦争青春小説。人間魚雷回天に乗り組んだ若者の物語。甲子園の優勝投手で大学野球でもエースだった並木が苦心の末編み出した魔球。それを誰一人に見せることも叶わず戦地へ送りだされる。狭い潜水艦に乗り、生きて帰ることのない出撃に向かうところから終章までの息苦しいまでの緊迫した描写、そして好漢並木を美しく散らせてやりたいとの著者の願いと葛藤が凝縮された思わぬ結末。大きな歴史の流れに翻弄されるちっぽけな人間の生き方が、こんなにも大きく読み手の胸に迫る。戦争とはいかに愚かな営為か。なぜ人は数多くの歴史から何も学ぼうとしないのだろうか。人間魚雷、神風特攻隊、平時なら信じられない作戦を編み出すのも人間なら、無辜の非戦闘民に原子爆弾を投下する狂気も同じ人間によるものだ。戦争は何人をも狂わせる。だから金輪際繰り返してはならない。

  • 戦争のために、夢を持つことさえ許されなかった時代。
    ただ、仲間たちと野球をしたい。
    そんな些細な夢さえも、同じ年頃の若者が戦地で次々死んでいく中で野球を続けることの罪悪感や、自分も早く後に続かなければという焦燥から、ぽろぽろと仲間が抜けていく。

    そんな中、並木浩二だけは、壊れてしまった肘で投げられる魔球を作り出すために、日々の練習を続けていたのに。
    学生であることが兵役免除の理由にならなくなったのは、そうでもしなければもう兵士の調達ができないくらい、日本軍が追いつめられたころ。

    熟練の兵士がほとんど失われた日本で、学士(大学生)だったら理解力も高いので、少し教えただけで前線で活躍できるだろう。
    そんな目論見で軍に組み込まれた、数多くの大学生。

    並木はそれでも、辛い軍隊生活のなかで、魔球をつくる夢を持ち続ける。
    しかし体力の限界まで毎日訓練は行われ、少しの休憩も許されず、その後は修正という名のリンチを受け、徐々に思考力は失われ、言われたことをいかに早く行動できるかだけが日々の目標となったとき、気がつくと並木は後戻りのできないところにいたのだった。

    若者らしく夢を持ち、友と語り、好きな音楽を聞き、互いに想いを寄せ合う相手がいる。
    たった一年前のそんな生活から、あっという間に、流れに巻き込まれたかのように後戻りのできないところにいた。

    死にたくない。
    大切なものを守るために死なねばならない。
    自分が死んだからといって、守りきれるわけではない。
    自分が死なねばならない理由は、なんだ?

    生と死の間を、何度も揺れ動く並木。
    最終的に死地に赴くことに覚悟を決めた並木の真意は?

    “国のために死ぬことに迷いはない。自ら志願したのだ、回天特攻を死に場所にすることに悔いも恐れもない。ただ……。
     自分は特攻という美名と功名心の虜になってはいなかったか。国家とか軍隊とかの見えざる巨大な意志に同調し、引きずられ、流されてきた。そうではないと言い切れるか。お仕着せの男の生きざまに飛びつき、そこから外れてしまうのが恐くて、生きていたいという本能を無理やり捻じ伏せ、封じ込めてきた。他の誰よりも勇敢たらんと虚勢を張ってきた―。”

    並木はかなり意識的に「絶対生きて戻る」と思って入隊するのに、たった一年で特攻とは知らなかったとはいえ、特殊兵器部隊へ志願してしまうのである。
    それが本当に怖い。

    一か所に人を集めて、ヒステリックに購買欲を高めて、高額商品を買わせる詐欺があるけれど、軍の洗脳ってそんな感じだ。
    冷静に考えたら絶対そんなことしないのに、冷静に考えさせてもらえない。
    ヒステリックな熱にあおられて、流されて、命を差し出すことになる。

    差し出すことになってしまった後も、並木は夢をあきらめず、考え続けた。
    自分が死ぬ意味を。
    それはどれほどの精神力かと。

  • 好きな作家で、この方の本はほとんど読んでいる。再読。

    第二次世界大戦時、回天という特攻兵器に乗る兵隊の物語。野球部学生だった主人公が「生きたい」と思う気持ちを持ちながらも回天という特攻兵器に乗ることになる、心情が読んでいて苦しい。戦時の厳しいその様な時代でも希望を胸にし、葛藤し、己の生に意味を見つけようとする姿に心打たれる。
    あまり知られていない回天という兵器と共に、その時代の流れ、雰囲気を知ることができた。

  • 戦争のお話。
    特攻隊と聞くと飛行機の方を思い浮かべる方が多いと思いますが、どちらかと言うと海に潜り特攻を仕掛ける人間魚雷のお話です。

    人間魚雷「回天」は、すなわち人が魚雷の中に乗り込み捨て身で敵の輸送船や戦艦に体当たりするという本当にあった戦時中日本の作戦です。
    戦争を体験したことない私ですら読んでいて恐ろしさがよく染み渡りました。
    特に回天隊の人たちは「早くお国の為に死にたい(敵の機体に当てて見事に戦果を上げたい)。」と口々に言っていますが、もうここまで来ると人間じゃないような気がして…もう相当当時の人たちは頭がある意味洗脳されていたのだなと思います。
    それと同時に、上官から「回天」に乗り込めと命令が下ったのならそれは自ら死にに行くことが決定したようなもので…なので、こうでも思わないと自分の身も精神もなにもかも持たない状態だと思いました。

    主人公の並木は最後まで人間らしさが残っていました。
    行方不明となった時はまだどこかで生き残ってるのではないかと私自身希望を持っていましたが、現実はそう甘くなく泣きました。

    今後もこの物語が後世に残りますように…

  • 人間魚雷という恐ろしい兵器と知りながら、「忠義」を尽くして戦死を望む若者もいるなか、主人公の国のために死ぬことを最大の美徳として戦うことへの疑問や死に向かう恐怖、生きたいとう願い、様々な心の葛藤に悩む姿は、読んでいて胸が痛む。過去の侵略戦争は、未来ある若者に平気で死へ向かうことを決断させ、道具としたのだと思うと、とても悔しい。このようなことを知ると、過去の侵略戦争を肯定・美化することはできなくなります。中高生にぜひ読んでもらいたい作品。

  • 「人間魚雷回天」、こんな恐ろしいものがあったのか。
    それも、ついこの間である。

    神風特攻隊は聞いたことがあったが、こちらは
    「人間魚雷回天」に乗り込む青年の話を書いたもの。


    戦争とは悲惨なものである。誰もがわかっていることであるが、
    実際に体験していない我々若者世代にとっては少し現実離れしたことである。

    その恐怖を追体験することは、私たちにとって必要なことではないだろうか。

    「二度と繰り返してはならない、あの過ちを」という言葉の重さが変わる。


    あなたも、この小説を読んで、戦争を体験してほしい。

  • 神風特攻隊はよくテレビで観たり聞いたりしていたから知っているけど、神潮特攻隊という回天に乗り込んで特攻した人たちがいたという事実はどれだけの人が知っているのだろう?今はあたりまえのように平和な世の中で暮らしていて、戦争があった事なんて日々感じることが無くて、終戦の日にちょっと戦争ものの話がテレビで放送されるくらいで、時代の流れとともに戦争していた当時の状況や記憶がどんどん風化されていってしまいそうで怖い。今の私たちは戦争がどんなに悲惨なものか実際分かっているようで、イメージし難い部分があるのも事実。だけどだからこそ、やっぱりちゃんと後世に伝えていかないといけないなっと改めて思った。

  • 本当に人間の所業なのか。

    回天にまつわる史実と言っていいほどのストーリー。
    戦争を題材にした小説は読み進めるのが辛い。

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著者プロフィール

1957年東京生まれ。新聞記者、フリーライターを経て、1998年「陰の季節」で松本清張賞を受賞し、デビュー。2000年、第2作「動機」で、日本推理作家協会賞を受賞。2002年、『半落ち』が各ベストテンの1位を獲得、ベストセラーとなる。その後、『顔』、『クライマーズ・ハイ』、『看守眼』『臨場』『深追い』など、立て続けに話題作を刊行。7年の空白を経て、2012年『64』を刊行し、「このミステリーがすごい!」「週刊文春」などミステリーベストテンの1位に。そして、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞(翻訳部門)の最終候補5作に選出される。また、ドイツ・ミステリー大賞海外部門第1位にも選ばれ、国際的な評価も高い。他の著書に、『真相』『影踏み』『震度ゼロ』『ルパンの消息』『ノースライト』など多数。

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