斜陽 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 13002
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006024

感想・レビュー・書評

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  • この小説の最大のキーワードは「革命」だろう。革命とは、現状を壊して、全く新しいものにしていくことだが、「私」ことかず子は、一体なにを壊して新しくしたかったのか。かず子は二つのことに縛られている。一つは、その母である。かず子の母は貴族としての誇 りと善良さを豊かに備えていて、それが言葉や振る舞いに現れる。かず子は彼女を尊敬を越 え崇拝しているといってよい。かず子はその母の子でありながら、そのような姿に近づくことができない、そう考えている。もう一つは、世間が貼る 「貴族」というレッテル。下々にかしずかれて、世俗から離れ、悠々と暮らす人たち、というレッテル。これにつぶされたのがかず子の弟の直治だろう。かず子は、一家が落ちぶれていく中、母を助け暮らしをやりくりするため、それなりに生活力を身につけていく。そんな中で出会った上原に、かず子は母 /貴族と真逆のものを見たのだと思う。血統に裏付けられたステイタスとそれがそれを持つ人に要求する好ましい姿。上原にはそのような血統やステイタスはなく、世間から誹謗されながらも、この才能、能力だけで生きている。かず子は、母/貴族の継承者としての自分に上原の血を入れ、血統を汚し、ステイタスを捨て、代わりに己の才だけで生きていく力を得、 自分や自分が生み出す子孫を全く別のものにしたかったのではないか。かず子が、貴族から普通の人に変わっていく過程は、「私」の語り口の変化として、太宰が分かりやすく示してくれている。

  • すらすら読めてしまう。
    おもしろすぎる。
    ダメ男のはずなのに女性を次々と虜にしてしまう主人公の魅力がすごい。
    これが実話なのも興味深い。
    彼は天才だ!

  • 今の人たちは「死」という言葉をいろんな意味で日常的に使うけど、100年前を生きた彼らはなんというか…文字通りの意味をサラッと本気で言う感じというか…ふと「死のうかな」と思ったら死ねるような地獄を生きてたのかな〜と。直治の手紙を読んでいたら、別に勝手に死んでもよくね?スタンスになった(私は自分からはしないと思うけど!)

    特に凄いなと思ったのは、かず子が上原さんに送った3通のクソ重い手紙。「貴方の赤ちゃんが欲しいのです」って……これを男性である太宰治が書いてるところがヤバい(語彙力)女性の気持ちを理解しているというか、女性の重めな感情がリアルに表現されていて、凄く好き…でした。さらに後半の「今でも、僕をすきなのかい」「僕の赤ちゃんが欲しいのかい」「しくじった。惚れちゃった」の3コンボは…えっちですね…(動揺)とびきり官能的でした。

    お母様が弱くなり始めてから亡くなるまでの長い描写がジワジワ悲しさを引き出してる。お母様がもう長くはないことを理解してずっとそばに居たかず子と、ママが弱っている姿を見たくなくて2階に篭ってた直治、私は直治タイプかな…お母さんがだんだん弱っていく姿なんて多分まともに見れんし、手が浮腫み始めた時点でもう無理でした(涙)

    統一感がなさそうだけど実はあの4人は共通して太宰治という人物の投影だった、というのがまた深いですね。難しかったけど他の作品にも触れてみたいと思いました。

  • 後書きで知ったけど晩年の集大成という位置付けを踏まえて読むと登場人物四人それぞれに太宰治の姿が投影されているのが分かる

    最後の手紙の文面や、それまでの主にかず子の語りの、言葉の威力、入り込んでしまう


    .
     恋、と書いたら、あと、書けなくなった。

  • どんなに表面上は庶民の皮を被って、貴族を恨んでいても最終的に貴族にしかなれなかった直治の苦悩。
    上原に恋していたのではなく、恋に恋していたかず子が正に恋と革命のために生きていく力強い姿に心が動いた。
    ただただ美しかった。

  • 「日本で最後の貴婦人だった美しい」母親と、「人間は恋と革命のために生まれて来た」と確信し実行する娘。
    太宰治の物語に出てくる女性達は賢くたくましい。
    それに引き換え男性達は……。
    それにしても、上原が笑いながらかず子に言った「しくじった。惚れちゃった」には参った。
    太宰もこう言って女性に言い寄ったのかな。


  • 「黄昏だ」
    「朝ですわ」

    って会話お洒落すぎ。

    からの次の文の驚きの絶望。

    後半畳み掛けるように面白い。
    走るように落ちていく様がみえる。

    まさに斜陽。

  • "直治の話を聞いていると、私の恋しているひとの身のまわりの雰囲気に、私の匂いがみじんも滲み込んでいないらしく、私は恥ずかしいという思いよりも、この世の中というものが、私の考えている世の中とは、まるでちがった別な奇妙な生き物みたいな気がして来て、自分ひとりだけ置き去りにされ、呼んでも叫んでも、何の手応えのないたそがれの秋の曠野に立たされているような、これまで味わったことのない悽愴の思いに襲われた。"

  • 登場人物それぞれがそれぞれの考えや方法で、時代の転換期を生きていたのだろう。ある意味、自己中心的な生き方でもあると思うけれども。

  • 直治とかず子のそれぞれの葛藤が表現され、その文章だけでありありと情景や心情を理解出来るのは、紛れもなく著者 太宰治の技量の凄さなのだろうと思った。
    暗い雰囲気の題材の作品ではあったが、序盤は娘と本物の貴族であった母のやり取りの会話など、興味深かった。
    息子、直治の突然の自殺という展開には驚かされた。直治の遺書はなかなか心に響くものだった。「人はなぜ生きないといけないのか?」という遺書は深いテーマだった。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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