- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101122021
感想・レビュー・書評
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新田次郎といえば、八甲田山死の彷徨。
この短編集は、1995年直木賞を受賞した「強力伝」
他、初期の6編が収録されています。
「八甲田山」は、明治35年の青森歩兵隊の雪中訓練の悲劇。冬の山、雪の恐怖、風の凄まじさ。雪の際限ない恐ろしさの臨場感があります。
これが、後の八甲田山死の彷徨に繋がるんですね。
「強力伝」は、ほぼデビュー作とのこと。
新田次郎さんは、気象学者で気象庁の技官だったそうです。
富士山頂観測所に勤務していた時の体験で、モデルになった人物も紹介されていました。
当時、山へ荷物を運び案内を仕事としていたのが強力。彼らの仕事に対する真摯な態度や信頼していた様子が伺われます。
ただ、この小説は、それだけでなく、強力という仕事に責任と自尊心を持ち過ぎた一人の男性が、無理な仕事で身体を痛める様子が辛い。
他の作品も 雪山を経験して風の計測を仕事として 現場に携わってきた作者の臨場感ある短編集です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1955年の直木賞受賞作品ほか5篇。デビュー作で直木賞受賞は今では珍しいかも。
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引き締り緊張感のある文体。まるで目の前で事が展開されているような緊迫感。
まさしくこれはよく出来た短編ハードボイルド小説集。
直木賞を取った「強力伝」も良いが、思わぬ事で落とし穴に落ち、狼と相対する事になった男を描いた「おとし穴」が秀逸。二進も三進も行かない状況でも、お金の事を考える人間の性と狼との対決の緊迫感はただものではない。また、そのラストにも衝撃を受ける。
今まで新田次郎の長編作品は何作か読んできたが、短編集は初めて。もしかしたら氏の本分は短編にあるかもしれないと感じさせる作品集であった。氏の気象官としての経験も存分に発揮されている。 -
6つの短編集で多くが山に関係する小説です。
実話が題材のものが多く、日本の山の歴史を勉強できる。伝記と小説が合わさった感じがしました。
無数にある山々に登山道が整備されていることに、山に行くたび先人達の仕事に感心していましたが、この作品を読んで改めて感謝の念が強くなった。
山好きに是非読んでもらいたい。
少し昔の作品ですが、昭和の純文学と違って物凄く読みやすいです。
「強力伝」、「凍傷」が特に好きでした。
「強力伝」は、180キロもの石の風景指示盤を、富士山の強力が白馬山頂まで担ぎ上げる話
「凍傷」は、富士山頂観測所を設立するまでの困難を描いた作品です。 -
八甲田山を読んだついでに…というと語弊があるが、その昔マンガ化されたものを読んだことのある「強力伝」を読んでみたくなり、購入。
マンガはとにかく非常に力強く、そして何ともやりきれないような結末だった、ような記憶があった。そういう思い出的な記憶は、読み返してみると「な~んだこんなもんだったか」と思ってしまうことも多いのだが、この本に関しては、迫力ある筆致に印象を新たにした。50貫(約187kg)を背負って白馬岳に登る…だなんてなぁ。これも怖い怖い小説である(とは言え実在のモデルがいる)。
ちなみに、今調べてみたらマンガは池上遼一の手になるものだったようだ。懐かしいな。 -
短編6作どれも大自然の摂理に抗う人の生き様と孤独が描かれており、ともすれば生死の生臭さすら漂わせる描写に五感が刺激され、読み進めるにつけ引き込まれます。
大自然vs人の信念。大自然は山海や自然現象、時には野獣となって抗う人間と対峙し、命のやり取りに転じます。自然の懐に抱かれずして人はどんな未来が待っているのだろうなどと思いながらの完読でした。私が生まれる以前の作品ばかりですが、ストレスフリーで読めました。
『強力伝』力み過ぎて肩が凝りました。
『八甲田山』『凍傷』皮膚がチリチリとします。
『おとし穴』まんが日本昔ばなしに出てきそうな話で結末がなんともイタイ。
『山犬物語』『孤島』山と海、背景は違えど生臭さが鼻をつきます。
五感で味わっていただきたい作品です。 -
「新田次郎」の短篇集『強力伝・孤島』を読みました。
『アイガー北壁・気象遭難』に続き「新田次郎」作品です。
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それは人の域を超えた業だった。
名峰・白馬岳の山頂まで50貫(約187キロ)もの大岩を背負い上げた男の物語。
【著者の処女作にして直木賞受賞作(昭和30年下期)】
五十貫もの巨石を背負って白馬岳山頂に挑む山男を描いた処女作『強力伝』。
富士山頂観測所の建設に生涯を捧げた一技師の物語『凍傷』。
太平洋上の離島で孤独に耐えながら気象観測に励む人びとを描く『孤島』。
明治35年1月、青森歩兵第五連隊の210名の兵が遭難した悲劇的雪中行軍を描く『八甲田山』。
ほかに『おとし穴』 『山犬物語』。
“山”を知り“雪”を“風”を知っている著者の傑作短編集。
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「新田次郎」の処女作を含め、昭和26年(1951年)から昭和30年(1955年)に発表された初期の作品を収録した短篇集です。
■強力伝
■八甲田山
■凍傷
■おとし穴
■山犬物語
■孤島
■解説 小松伸六
『強力伝(ごうりきでん)』は、「新田次郎」の処女作で昭和30年(1955年)第34回直木賞受賞作品… 著者が昭和7年(1932年)から昭和12年(1937年)まで富士山頂観測所に勤務していたときの体験を題材とした物語、、、
当時、富士山頂への荷揚げは馬と人に頼らざる得ず、強力(ごうりき)と呼ばれる荷揚げをする人たちがいた… その一人で三十貫(約112キロ)のエンジンを担ぎ上げた、御殿場口の「小宮山正」をモデルした作品… 強力の「小宮正作」は自らを「金時(きんとき)さん」の再現だと信じる素朴な男だが、新聞に掲載されることを尊いものだと信じており、新聞社に名前が出ることに誘惑され、五十貫(約187キロ)もの花崗岩の風景指示板を背負って白馬山頂に向かうことになる。
同業者である白馬の強力「鹿野」は、当初、よそ者の「正作」に敵愾心を持つが、徐々にその人柄に惹かれアイゼンや背負子を貸す等して応援、、、
道中の岩雪崩等のトラブルから大きなケガを負った「正作」だが、「鹿野」の協力もあり、なんとか風景指示板を担ぎ上げる… この風景指示板って、実際に白馬岳山頂に現存するそうです。
『八甲田山』は、明治35年(1902年)1月、青森歩兵5聯隊の八甲田山中での悲劇的な雪中行軍を描き、後の傑作長篇『八甲田山死の彷徨』を生むことになった物語、、、
『八甲田山死の彷徨』を読んでいるので、少し物足りない感じはありましたが… その悲劇が端的に描かれ、『八甲田山死の彷徨』のエッセンスは既に織り込まれており、短篇ながらも読み応えがありました。
『凍傷』は、昭和7年(1932年)に富士山頂観測所設立に成功する「佐藤順一技師」の富士山頂への観測所設立に向けた執念(妄執)を描いた物語、、、
このプロジェクトを推し進めるため、冬季富士山頂滞在の実績を何としてでも作りたかった「佐藤」は、昭和5年(1930年)に強力「梶房吉」、「長田輝雄」等の協力により、荒天の富士山に登り、1カ月の滞頂後、無事に下山する… 「佐藤」は、道中で遭難しそうになり、足に凍傷を負い右足の指を失ったものの、この成功で安全性が証明されたことにより、これまで三十年来予算化が妨げられていた予算案が遂に成立し、昭和7年(1932年)に富士山頂観測所が設立される。
富士山頂観測所設立に憑かれた人物の執念を描いた作品ですね… 宗教的なまでの執着でした。
『おとし穴』は、山犬(ニホンオオカミ)用のおとし穴に落ちた金貸しの「万作」が、おとし穴の中で遭遇した山犬との一夜の攻防を描いた物語、、、
狭いおとし穴の中で「万作」と山犬が駆け引きをしながら対峙するスリリングな展開と、生死に関わる極限の状況の中で愛する妻子のことを考えながら、妻の不貞について疑心暗鬼を生ずるという複雑な精神状況の生々しさに引き込まれる作品… 死を覚悟した「万作」は、自分しか知らない土蔵の白壁の中に隠した五十両の小判のことを、遺言としておとし穴の土壁に"くら かべ かね"と書き残しますが、そのことが原因となって悲惨な結末を迎えます。
これが無ければ助かっていたのに と思わせる、金銭欲に絡んだ意外なクライマックスが印象的でした… もちろん、そこに至るまでの一人と一匹の息詰まるような対決の生々しい描写が素晴らしいので、クライマックスが生きてくるんだと思います、、、
なかなか見事な展開をみせる傑作… 冒険小説的な作品ですが、一方で風刺的な意味を持った作品でもありましたね。面白かった!
『山犬物語』は、山犬(ニホンオオカミ)によって愛娘を失った「太郎八」、「おしん」夫婦の復讐の物語、、、
山犬様を殺すと村に祟りがあると信じている村人からの反対にあいながら、「太郎八」は復讐のために山犬を殺す… しかし、その後、病犬(狂犬病にかかった山犬)に噛まれて「おしん」が命を落とし、村人の先頭に立ち病犬を駆除していた「太郎八」も病犬に噛まれ半年後に発症して命を落とすのであった。
地方色豊かな伝記、昔話… ですかね。
『孤島』は、「笹山所長」を中心に鳥島の測候所員たちの生活をリアルに描いた物語、、、
離島という極限状態の中で半年も1年も所員の男たちだけで過ごし、本土との通信手段もないという異様な状況の中で、当時絶滅寸前だったアホウドリや島に住む山猫の話、台風襲来に伴う自然との闘い… 地味な作品ですが、鳥島での生活がリアルに感じられる作品でした。
個性のある6作品を愉しめましたが、、、
最も印象に残ったのは『おとし穴』ですね… スリリングな展開と絶妙な心理描写が秀逸でした。 -
藤原正彦のエッセイで父新田次郎の「おとし穴」という作品が面白いと何度も書かれていて、気になって読了。
ゴツゴツした感じの短編集で、どれも、描写がすごい。土地の持つあるがままの厳しさと、そんな厳しさを克服せんと立ち上がる人間の気概に感動してしまった。
「強力伝」「凍傷」には、どちらにも強力の者が出てくる。彼らの存在感。
冬山を舞台にして、まるで仁王のような力強さ。
踏ん張って肛門から腸が出る、と読むだけでひぇーっとなってしまうくらい。
「八甲田山」も、冬山の静かなる脅威を描く。
期間にして長い話ではない、なのに、人が人を見失ってゆく様子があまり早くて、そのことが怖かった。
「おとし穴」もストーリーのよく出来た話。
山犬との対峙だけでなく、なぜ自分がおとし穴に落ちることになったのか、というミステリーもあって、楽しい。
同じく「山犬物語」は、狂犬病の話。
これも「八甲田山」のように、人が人を見失っていく一つのカタチで、震えてしまう。
恐水症というのは実際症状としても書かれているのだが、「青い眼」がどのような状況を表しているのか。人が人でないという獣の目付きなのか、なんらかの比喩なのか。
なんにせよ、こういった描写が本当に迫ってくるようで、怖かったし、そんな体験が面白く感じる。 -
短編集
それぞれの立場の内心を描写しているところが好きです