チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181028

感想・レビュー・書評

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  • なぜ人間の中には、どうしようもなく悪に引き寄せられる部分があるのだろうか。
    欲望のままに生きる姿を心の底ではうらやましく思うから?
    目的のために手段を選ばぬ強さに憧れるから?

    大抵の人間は当為の声に従って生きていくが、稀にそうでない人物も現れる。
    チェーザレの所業はお世辞にも褒められたものではなかったが、それでもどこか惹かれる部分がある。
    悪の美学という言葉がよく似合う男だ。
    そもそも悪とは何なのか、どう定義づければ良いものか、考え始めたら自分でもわけがわからなくなった。

    彼の理想とした王国を見てみたかった気がする。
    彼は政治のうえでは冷酷にして残虐な面もあったが、無意味に民衆を傷つけることはしなかった。

  • 塩野七生さんの初期作品、最近でこそボルジア家の研究が進んでいるが、発表当時「中世のイタリア史」に興味を持つ読者は少なかったはず。

    内容は「ローマ人の物語」より濃い。塩野七生さんの才気爆発の一冊。

    ダ・ヴィンチとの出会いも、さもありそうな設定。



    チョーザレ・ボルジアというより父親であるローマ法王アレクサンドル6世の海外ドラマシリーズを「ボルジア欲望の系譜」「ボルジア家 愛と欲望の教皇一族」2シリーズ続けて観た、観てしまった。

    今日のバチカンやカトリック教徒はこのドラマの描く酒池肉林のローマ法王庁世界をどう評しているのだろうか、嫌悪と否定というよりあきれかえって言葉もないのではなかろうか。

    キリスト教に縁のない日本人視聴者としてはあまり知ることのない15,6世紀のイタリア情勢をなるほどと関心しながら興味本位に観てしまった。

    日本人がチョーザレ・ボルジアを知るのはマキャベリが君主論で理想の君主としてあつかわれていることの意外性、あるいは塩野七生の「チョーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」でのチョーザレである。

    15,6世紀の日本といえば応仁の乱後の室町、安土桃山の戦国時代、織田信長をチョーザレ・ボルジアに見立ててもそう違わない。

    マキャベリが君主論で「君主が臣下に忠誠させるためには残酷であっていいし、君主は恐れられるべき」といえば「君主論」はまさに秀吉、家康の方法論である。

    超人的な武将チョーザレもアレクサンドル6世が亡くなると力を失いスペインに亡命を余儀なくされる。

    マキャベリが「イタリア統一と安定」期待の君主はわがままな坊ちゃまにすぎなかったが、はるか彼方の島国で「君主論」と同じ方法論が実践され3世紀も統一と安定が図られた、とは皮肉である。

  • チェーザレ・ボルジアの生涯を描いた塩野作品。惣領漫画「チェーザレ」とあわせて、チェーザレという人物、また中世イタリア自体に興味を持った。冷静な意思決定と大胆な実行。現代を生きる自分の中で、殊更響いた教訓。

  • 塩野七生初期の作品。

    チェーザレ・ボルジア。
    あまり名が知れていない歴史上の人物。
    僕も読むまで知らなかった。


    時代はルネサンス期イタリア。
    法王アレッサンドロ6世の息子として生まれる。しかし枢機卿という地位を脱ぎ捨て剣をもち、父の教会勢力を背景に弟、妹、妻を政略に使いロマーニャ地方を征服する。そこに自分の王国建設を目論むんだ。イタリア統一という野望。


    この野望に塩野七生の筆は寄り添う。読み進めていくうちに自己に忠実に生きようとするチェーザレの姿に爽快感を感ずるようになる。


    チェーザレと同時代を生きたマキャヴェッリはこう書いていたそうで。



    - 政治とはいかに目的を達成するのかという手段の裡にある。そして政治の目的は支配権の確立であり、手に入れたならばそれをいかに強固にするかというアルテ(手段・技能)である -



    マキャヴェッリの理想の君主像を地でいくチェーザレの政治はまさに「政治とは可能性のアルテ」そのままだ。チェーザレの王国建設の過程を読むと支配権の拡大と確立をいかに効果的に行うかというアルテ=政治を見出すことができる。



    しかし、デビュー当時から塩野さんはこういった男性が好きなんだなぁ。冷徹で合理的。価値や倫理道徳に捉われず真に自由な精神をもった、苛烈な生を送る官能的な男性。
    こんな政治家、いまの日本に欲しいと。って馬鹿な妄想をしてはダメかね。。。

  • すんなり読み下せない日本語が多くて読みづらい。この修飾語はどこにかかっているのか?主語はどっちなのか?指示語はどれを指しているのか?もちろん、注意深く読めばわかるのだけど、つまり注意深く読まないと何行か戻って読み直すはめに。文の組み立てを工夫すれば読みやすくなるのになー?
    エピソードは盛りだくさん。イタリアはさほど大きな土地ではないけれど、小国がひしめき、チェーザレは謀略をめぐらせ軍隊を率いて駆け回る。しかし中盤あたりは似たような繰り返しのように思えて、何度も読むのを挫折しそうになった。
    歴史書のような体をなし、小説ではないので内面描写はでてこない。それゆえ登場人物の行動にいまいち合点がいかぬまま、「よくわからないけど、でも史実ではそうなっているのね?」といったところも多数。
    織田信長を連想してしまうのはわたしだけか。親に大事にされ、親の威光の下で躍進していた点では違っているが。そばにいて欲しくはないが、遠くから見ている分には魅力的な人物だと思う。

    そういえばチェーザレに関する話を読むのは3つめ。最初に川原泉の「バビロンまで何マイル?」でチェーザレのエピソードを読み、連載中の惣領冬実の「チェーザレ」も読んでいる。それぞれチェーザレのイメージが似ていたり、違っていたりするのが面白い。惣領さんの描くチェーザレは文句なくかっこよく、良心も持ち合わせているように思えるけど、この先どうなるかな…。

  • 中盤までは、チェーザレ・ボルジアのことを
    「なんて傲慢、勝手ではた迷惑な人物だろう。この人には幸福でない、志半ばで夢破れるような死が望ましい。」と本気で思っていた。

    それが、終盤に近づけば近づくほど、最終的には完全に彼に惚れてしまっていた。
    彼はまだやれた。もっと大きな物を作れるだけの、魅力も才覚もあった。ならば彼の作る世界が見てみたかった。という気持ちになっていた。

    塩野七生のチェーザレ・ボルジアへの愛を、思い切りそのまま私も吸収しちゃったなぁ。

    イタリアの実現に向けて物凄い熱量で駆け抜けた彼の原動力、根底にあるものってなんなんだろう。
    名誉や支配欲?彼が思い描く素晴らしい世界実現のため?
    色々考えたけれど、そこがいまいちわからない。
    あそこまでの熱量を注ぐ原動力たるものってなんなの??理由なんてないの?

    魅力的なチェーザレ・ボルジアが描かれた、とても面白い作品でした。

    巻末の沢木耕太郎の解説もとてもよいです。

  • p.48まで。
    もう少し物語的に楽しく読めるかと思ったが、違ったので断念。

  • これほど美しいタイトルがあるでしょうか。そのくらい惹き付けられる題名です。
    イタリア史に名高いチェーザレ・ボルジアの生涯を描いた叙述詩。悲劇と策略に彩られた華麗な人生を冷徹な筆致で描くのは塩野さんのお家芸といいますか、初期の頃から見事としか言いようがありません。

  • 中世ヨーロッパ(イタリア)の織田信長みたいな人。領主の家系でもないのにかかわらず、父であるローマ法王の後ろ盾を最大限活かして中部イタリアを制覇するも、イタリア統一という志半ばにして不幸にもマラリア(?)に罹患し、そのために父法王が死去するとともに自分もしばらく病床に伏したために抵抗勢力の激しい反撃を受けて無念のうちに短い一生を終わることになるチェーザレ・ボルジア。日本で知っている人はほとんどいないと思われるが、西欧ではどうなのだろう?カトリック的にはカトリックの敵(父が法王だが、法王が死去した後は反ボルジアが法王となったためカトリックの敵になった)として扱われているようなので、否定的な評価が多いようだが、塩野七生は肯定的に描いている。時代と地域によって人の評価は変わるので、一面的な判断はできないが、中世ヨーロッパの信長と言うのが最も適していると感じた。

  • ひと昔前にありがちな表題ですが、付けてやったぜ感満載で作家は酔ったなという気がする。
    さておきこの作家のトーンにはやっぱり最初から合ってないんですな、当方は。それがはっきり分かりました。
    歴史書でもなく、小説でもなく、塩野噺だということで、独自路線を築き上げたのは凄いことだけれども、個人的には惹かれない。
    そんなに好きではないけれども、司馬遼の方がずっと面白いなぁ、このお方より。まぁ好みの話です。
    しかしマンガの「チェーザレ」、その後どうなってんでしょ?この本を読んでしまったので、色んな意味で気になってますわ。

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塩野七生の作品

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