ローマ人の物語 (13) ユリウス・カエサル ルビコン以後(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.00
  • (188)
  • (155)
  • (182)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 1573
感想 : 122
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181639

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 紀元前44年3月15日 カエサル暗殺。「ブルータス、お前もか。」
    後継者オクタヴィアヌスとアント二ウスの抗争。
    キケロの死。
    オクタヴィアヌスv.s.アントニウス=クレオパトラ連合軍によるアクティウムの海戦。
    そしてオクタヴィアヌスの勝利。
    ローマの共和政から帝政への移行。

    カエサルの時代は終わったわけだけれども、それとは全然関係なく、作者のクレオパトラへの言及が楽しい。彼女を客観情勢が認識できない「浅はかな女」と断じていて、これは歴史家としての意見だろうけれど、それ以外に、女性の立場から感想を述べているところがあって、これはもちろん世の大部分の男性歴史家からは出てくるはずがない意見である。

    クレオパトラとアントニウス
    「クレオパトラは早くも、アントニウスの性質と才能をよく理解したにちがいない。そして、(以前愛人関係にあった)カエサルと比較したに違いないから、ひとかどの女ならば生涯に一度は直面する問題に、彼女も直面したのかもしれない。つまり、優れた男は女の意のままにならず、意のままになるのはその次に位置する男でしかない、という問題に直面したのではないか。この問題にどう対処するかで、女の以後の生き方が決まってくる。意のままにならなくてもそれでよしとするか、または、器量才能では第一級とはいかなくても、意のままになる男を採るか。クレオパトラは、後者を選んだ。」(p153)

    敗れたクレオパトラと勝者オクタヴィアヌス。
    「王宮内で一度、三十九歳の女王と三十三歳の勝者は会ったといわれている。どのような話が交わされたかは知られていない。この二人以外に、列席した者はいなかったからだ。古代の史家の幾人かは、そのときにクレオパトラはオクタヴィアヌスに対し、カエサルやアントニウス相手に成功したと同じ手を試みたと書いている。試みはしたが、失敗したのだ、と。四十に手のとどくようになっては、有名なクレオパトラの魅力もさすがに効力を失っていたというわけだろう。
    しかし、私は、彼女は試みもしなかったと思う。猫は可愛いがってくれる人間を鋭くも見抜くが、女も猫と同じである。なびきそうな男は、視線を交わした瞬間に見抜く。
    クレオパトラも、整った美貌のオクタヴィアヌスの冷たく醒めた視線を受けたとたんに、この種の戦術の無駄を悟ったのではないか。不可能と分かっていても試みるのは、一流と自負する勝負師のやることではない。」(p226-227)

    むむ。ナルホドと思ってしまう。こういう文章を読めるのが塩野七生作品を読む楽しみの一つである。女性から観て、男性がどう映っているのかを言われると非常に説得力があって、オジサンたちはウウムと唸ってしまうのである。

    英独仏伊にラテン語ギリシャ語を操り、女性心理も分かる歴史著述家となれば、これはもう無敵としかいいようがない。「なびきそうな男は、視線を交わした瞬間に見抜く。」とか、おっかないなあ。でも、ほんとかしらという気もしないではないが。

    本体の「ローマ人の物語」全15巻は、ついさきごろ完結したばかり。
    文庫版は、ここまでで5巻に相当する。つまりまだ1/3に到達したばかり。
    まだこの先たくさん読むことができるというのは、実に嬉しい。

  • カエサルの暗殺は歴史上有名な話ですが、その時代の国の背景がわかっていなければ単なる出来事に過ぎません。
    このローマ人の物語を読むまでは私もその一人でしたが、ユリウス・カエサルの巻を読み通して俄然面白くなりました。カエサルについてのこの最後の巻では暗殺直後の関係者の様子が時間を追って詳しく載っています。
    カエサルの遺言状も公開されました。まだ18歳のオクタヴィアヌスがカエサルの後継者に指名されていたのです。
    「オクタヴィアヌス、WHO?」と言われた若者は、その後、14年間の内戦を経て、見事その役割を果たし皇帝の地位に就くことになります。その間、暗殺者側を支援したキケロが殺されたり、カエサルと同じ執政官だったアントニウスがクレオパトラと一緒になり、オクタヴィアヌス側と闘い敗北する経過が述べられています。(クレオパトラの人柄の分析が面白い)シェークスピアのジュリアス・シーザーもアントニーとクレオパトラも読んだことがなかったのですが、これを読むと読んでみなくては…という思いに駆られます。
    カエサルの名言、作者はこの言葉を度々引用しています。
    「人間ならば誰にでも、すべてが見えるわけではない。多くの人は自分が見たいと欲する現実しか見ていない」

  • 絶対的権力を手にしたユリウス・カエサルが暗殺された後の権力闘争を書く。最終的に勝ち残ったのはカエサルが殺害されたときはまだ18歳だったオクタウ"ィアヌス。「この若造が」と見られがちなところを逆手に取って、したたかにライバルを蹴落としていく。自らに力がないうちはカエサルの番頭(?)のアントニウスと手を組んで親の仇を討つ。あてがわれた辺境の地で兵力を増強して、やがてアントニウスと決戦に挑む。臥薪嘗胆というほどとんでもない苦労が描かれているわけではないが、感情に走らず機が熟すまでじっくり待つ忍耐を描く。

  • カエサルの暗殺、アントニウスとオクタヴィアヌスの権力争い、ローマ帝国の始まり

  • クレオパトラ、知っているようで知らなかった。エジプト側から書いたら、ローマどううつるのかな。

  • 共和主義者はもういない、という所でスターウオーズが思い浮かんだ。作者さんのテンションだだ下がりなのか盛り上がらない巻だった。キケロもあっけなく死んで寂しい。やっぱりカエサルは偉大だったんだな、とそればかり。

  • 副題の通り、Caesar暗殺後のローマの歴史についてである。
    世界史の教科書ならば、「Caesar暗殺後は第二回三頭政治が始まり、その内乱に勝利したOctavianusが、帝政ローマ創始した」という短い文で集約されている部分である。
    第二回三頭政治は実質、OctavianusとAntoniusの二人による政治および内乱である。
    Antoniusはご存知、Cleopatraと協力しローマを掌握しようとしたがアクティウムの海戦でOctavianusに敗北し、THE END。
    武将としての才能はあったようであるが、政治事となるとその才能は武将のそれにはるかに及ばなかったようである。

  • カエサルの章の最終話。まさに「カエサル・ロス」で、彼がいなくなったローマはかくも寂しい世界なのか…。しばらくカエサルの活躍に夢中だったので、次の章「パクスロマーナ」の巻を開くのに時間がかかりそう。

  • 冒頭からユリウス・カエサルの暗殺で始まる13巻。
    激震の走るローマから、アクティウムの海戦を経てオクタヴィアヌスによる帝政が始まるまでを物語る1冊です。

    死してなお、カエサルがどれだけの影響力を持っていたのかを、まざまざと思い知らされました。
    そして遺言状の内容から感じられる、カエサルの先を見通す目の確かさも。
    若干18歳のオクタヴィアヌスを自身の後継者として指名したカエサルは、その先に新たなるローマ帝国の姿を見ていたのでしょう。

    そして、カエサルに託された使命を背負うオクタヴィアヌスの世渡りの上手さにも驚きました。
    カエサルに後継者とされつつも、カエサルの方法を踏襲するだけのやり方をとらなかったところが凄いと思います。

    著者のカエサルの暗殺者たちとクレオパトラへの言及が手厳しいです。
    終盤のアントニウスとクレオパトラの関係には、結末を知っているがゆえの憐れみが沸いてきました。
    ローマの将軍として名を馳せたアントニウスが、最終的にはクレオパトラ無しではいられなくなる…あらわになった脆さに、時を超えても変わらない人間の一面を感じつつ読了。

    次巻からはパクス・ロマーナです!

全122件中 31 - 40件を表示

塩野七生の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×