エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (479ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102169360

感想・レビュー・書評

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  •  トム・ロブ・スミスは、すごい。『チャイルド44』『グラーグ57』に続いて本書『エージェント6』の三作だけで世界を席巻した作家である。冷戦下のソヴィエト、主人公は秘密警察捜査官レオ・デミトフ。一作、一作を完結して読むことができる。全部接続して読めば、冒険小説界において他の追随を許さない波乱万丈な生涯を読み取ることができる。三作を通して通ずるメインテーマは、妻ライーサとの出会い・恋愛・結婚であり、二人の間にできた子供たちとの家族作りである。

     家族を営むのに、彼のような職業であれば、それは命懸けということを意味する。裏切りと政変により、命がいくつあっても足りないような粛清の嵐のさなかにありながら、国の運命を決するような最前線で仕事を続けねばならぬ彼の毎日は、自己矛盾に苛まれつつも組織の中で生き残るための死闘と言ってもいい非日常性でしかなかった。すべての作品を通じて通底するテーマは、家族への愛に尽きる物語だった。

     本書はその三部作の完結編である。実は上巻だけでも、一冊の大作のようにまたもスケールの大きな物語である。捜査官時代に知人となったジェシー・オースティンという左派であり黒人である歌手の暗殺の気配がする中、友好使節団の団員として参加する妻子たちの身に待ち受ける波乱の運命。背景に見え隠れする国家間の謀略。

     上巻で起こった事件の解決をすることだけを望むレオだったが、渡米を禁じられるばかりか、下巻では、アフガニスタン紛争の渦中、アフガン秘密警察教官として、過去の経験を買われ出動。FBIの思惑とソヴィエトの参入により、揺れ動く世界を背景にして、最大のクライマックスに突入する物語のスケールたるや、もはや新人作家とも言えぬ巨匠の顔さえ見せるトム・ロブ・スミスの豪腕と、恵まれた感受性、繊細さが奏でる協奏曲が乾いた台地に響き渡る。

     ネタに触れたくないので、その苛烈な下巻の内容を語ることはしたくないが、ラストのラストまで裏切りとどんでん返しに満ちた謀略の深さと、時代の影を暗躍する悪の論理に、愛と生存を賭けたレオという個がどこまで立ち向かえるか、手に汗握る展開はこれまで通り。絶体絶命のピンチをスコールのように浴びながら生き延び、勝ち残ってゆく彼の最後のサバイバル魂にまさに乾杯と言いたい巨篇がここに幕を閉じる。

  • 1304 どこまでも報われないレオの話もついに完結。歴史背景に合わせて最後まで暗い暗い暗い。。

  • レオ三部作、やっと読了。3作目は何だか大河ドラマ的だった。チャイルド44は圧巻で、グラーグ57はライーサもっとレオを分かってやって…!!とひたすら思っていた記憶。本作を読んで、レオ一家にも心穏やかな幸せな時があったのだな…と分かってほっとした。だから余計にレオが痛々しかったなぁ。どうか娘たちと幸せな人生を送れますように、と思わずにいられなかった。

  • ソ連という国家の記憶がない。
    国家思想が個人を弾圧する当時を想像しながら読んだ。

    前作までそれは、小説の舞台で、面白さをかき立てる設定でしかなかった。いわば娯楽物語の味付けのように考えていた。例えば、許されない仇敵同士の恋愛とか、地球外生命体が支配される世界とか。

    しかし、完結まで読み終えた時、ようやく管理社会の恐ろしさ、救いのなさを感じることができた。まったくおそ過ぎる実感だけれど、とても意味のある感覚だと思う。娘のために、裏切ったロシアに帰国したレオが希望を持つ自分を戒める様子は読んでいて辛かった。ほんの少しの希望すら自由に思えないこと。それが本当に辛かった。

    家族への、妻への、切実な愛をかかえて慟哭し、転げ回った主人公がどうしても幸せになれるところが想像できない。定番の決して死なないタフな主人公にここまで希望を持たせない世界を書き上げたこの3部作。
    傑作だ。

  • レオ、怒りのアフガン

  • レオ・ドミドフ3部作をこれにて読了、読み応え抜群の壮大な物語であった。
    今作では、過去2作に比べ物語の時間が長大となっている。愛妻ライーサに起こる悲劇を描くのが前半、後半はレオの失墜と、そこからの脱出、そしてライーサをめぐる真実の探求へと繋がる。

    それにしても国家、体制、イデオロギーといったモノにこれほど振り回されながらも、己の真実を追い求めるレオの姿は壮絶であり、もうやめてくれ!と思わずにいられない。そしてほとんどを失いつつもたどり着いた真実は、彼を救うモノでもないのだ。しかしながら最後の最後はホっとさせてくれた、熱いモノがこみ上げてくる読後感であった。

    ソヴィエトのアフガニスタン侵攻が背景に描かれている、いまは存在しない巨大国家を朽ち果てさせる一因となった出来事であり、リアルタイムでその出来事に接した年代であったが、ほとんどのことは知らずにいた。そのあたりも興味をそそられるものがあった。

    作者トム・ロブ・スミス氏の次回作は、非常にハードルの高い内容を求められることだろう、それほどまでに完成されていたと思う。鶴首して次作を待ちたい。

  • レオ・デミトフ三部作の最終作。
    いやー、面白かった。
    トムロブ・スミス、やっぱすごい。
    ソ連のアフガニスタン侵略と冷戦の関わりがよくわかった。
    この人の小説、映画化したら面白いだろうに。

    エージェント6が、イェーツFBI捜査官とはね。いつもタイトルの意味がわかるまで時間がかかるんだけど、読みやすいから、気にならない。早くタイトルにたどりつきたくて、続きが気になって、サクサクいける。
    最後の終わり方が、ちょっと悲しくて、救われはしたけど、やっぱりなんか悲しくて、★4つ。

    チャイルド44とグラーグ57をもう一度読みたくなった。

  • 今回はあまりに救いがない。
    ソ連のアフガニスタン侵攻って、記憶の彼方かつ、政治的な背景とか全然理解していなかったけど、同時多発テロに至る民族紛争の火種はここにあったのかと再認識。
    シリーズも80年代まできているので、レオにはソ連崩壊まで何とか生き残って幸せになってもらいたい。。

  • いったいどこまで行くんだ、デミトフ?と思うほど舞台はソビエトからアフガニスタン、米国へ。イデオロギーの元翻弄される人々が描かれる。
    謎は解けても何も取り戻せない主人公の空虚。自分の正義をとりもどしたところに救いが見える。

  • レオ・デミドフ三部作ラスト。多少盛り返した。『惜しみない愛』を家族にそそぐ主人公にして、1部のチャイルド44の姪たちや生母への無関心さに違和感。
     読みやすいし、いいのに、何か物足りない。ただし、この三部作の表紙デザインは好み。

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著者プロフィール

1979年、ロンドン生れ。2001年、ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学当時から映画・TVドラマの脚本を手がける。処女小説『チャイルド44』は刊行1年前から世界的注目を浴びたのち、2008年度CWA賞最優秀スパイ・冒険・スリラー賞をはじめ数々の賞を受ける。

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