流星ひとつ

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103275169

感想・レビュー・書評

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  • 大好きな沢木耕太郎の最新作。あからさまないやらしい発言などないのに、作者の沢木とインタビューを受ける藤圭子の緊張関係にドキドキしてしまう。

  • 本年8月22日、藤圭子が亡くなった。
    家族も含め、人はそれを、精神を病んだうえでの投身自殺だと認識した。

    北海道生まれの18歳、京人形のように美しい顔をしながら、微笑むこともなく、かすれた歌声で唄ったデビュー曲「新宿の女」。
    多くの人の心に衝撃を与えた彼女は、5年後声が出なくなった。
    声帯ポリープ切除後、戻ってきた彼女の声は澄みわたり、もう昔の歌声ではなくなっていた。
    人の心の琴線を打つ。それができなくたった現在。たった10年の歌手生活を経て、女性は自分自身の誇りの為に、28歳で引退した。

    当時、引退する彼女との対談により執筆された原稿があった。
    そこには赤裸々な芸能界の真実があった。
    著者は彼女を護るために、その発表を控えた。
    しかし、彼女の死により、33年の月日を経て、著者はこの封印を解いた。

    なぜ歌を唄ったのか。唄わねばならなかったのか。
    無表情の顔の下にある、一つの真実。

    頂上を知った者だけが持つ、孤独とプライド。
    そこには容姿ではなく、純粋でまっすぐな心と、透明な激しさを持って生きていた女性の、圧倒するような魂の叫びが描かれていた。

  •  沢木耕太郎は、引退を前にした藤圭子にインタビューをしていた。1979年の秋、東京のバーで交わされた二人の会話は305ページに及ぶ。
     火酒(ウォッカ)のせいか、藤圭子は聞き手の沢木に信頼を寄せ、次第にそれは好感へと変わり、心を開いて思いの丈を語っている。引退を決意したのは、1974年に行った喉の手術により、それまで出ていた声が出せなくなったためだと明かしている。自らの生い立ちや、両親のこと、芸能界の裏話など、内容は多岐にわたり、沢木の切り込みにも、時にはうまい比喩も交えながら切り返していて楽しめる。
     しかし、何故か読後に感動がやってこない。沢木が採用した純粋な「インタビュー」という形式(地の文はなく、二人の会話だけからなっている)が、読む者に、二人の会話を盗み聞きしたように感じさせるからなのかもしれない。沢木が藤圭子を口説いているように感じられる場面もある。 
     しかし、一番の要因は、やはり、藤圭子が歌うことに喜びを感じられなくなっていることから来ている。自分で自分を追い詰める性格なのだろうか。語っているのは、あの輝いていた藤圭子ではもはやなく、安部純子でしかない。1969年に彗星のごとく現れた藤圭子は、1974年の喉の手術によりひとつの流星となって、すでにこの世から消えていたのだった。
     やはり、藤圭子の魅力は、身体の芯から絞り出すような、あのドスの利いた掠れた歌声にしかない。デビューから手術までの5年の間のLPを改めて聴いてみた。藤圭子のベストアルバムは『歌いつがれて25年 藤圭子 演歌を歌う』であることを確認できた。戦後の演歌を渋谷公会堂で歌った1970年のライブ録音である。
     30年以上もお蔵入りになっていたこの著書は、藤圭子の娘宇多田ヒカルに読んでもらいたいという思いもあって出版に至ったと後記にはある。私は宇多田ヒカルに、『歌いつがれて25年 藤圭子 演歌を歌う』もぜひ聴いてもらいたいと願わずにはいられない。「あなたのお母さんは、デビュー当時、こんなに光り輝く声で、歌を歌っていたのだよ」と。

  • 感想
    言語の強みと限界。あまりに強い輝きはそのまま受け止められない。だから言語という枠に押し込み理解しようとする。だが失われるものは多い。

  • 藤圭子と沢木耕太郎の会話のみで完結する新しいノンフィクション。
    それまで私は藤圭子という歌手の名前は知りながらも、世代の違いからか曲を聞いたことがなかった。
    しかし、流星ひとつで描かれてるナマの藤圭子の声が、あまりにも魅力的で興味を持つようになる。
    スターであれど、1人の人間であることを強く感じさせられた。

  • 藤圭子と沢木耕太郎の会話で、全てが成り立っています。

    藤圭子のリアルが伝わってきて、好感が持てたし、
    前川清さんの株が上がりに上がりました。


    それと、曲の歌詞が良いです。

    ♪前を見るよな 柄じゃない
    うしろ向くよな 柄じゃない
    よそ見してたら 泣きを見た
    夢は夜ひらく

    【本文より】
    「とにかくあなたは10年もやってきたんだから、すごいよ。藤圭子というスタートをひとりで運営してきた、いわば藤圭子産業の社長をやってきたんだからね。たったひとりの会社だとしても、藤圭子産業は巨大会社だったからね。大変な業務だったと思うよ。」

  • 藤圭子さん。今ではもう同世代以上の方しか知らないでしょうけれど、宇多田ヒカルさんのお母さんで、70年代に一世風靡した天才歌手です。浪曲師だった両親とともに極貧の少女時代を過ごし、18歳でデビューすると、一躍スターに上り詰めます。そして28歳で突然の引退。

    本書は、沢木耕太郎さんが引退直前の彼女と1対1で語り合った内容を収録しています。文章はすべて会話になっていて、あたかも二人が話しているのを傍で聞いているようです。語られている半生はちょっと一般人の想像を超えるような厳しさ、激しさに満ちています。貧困、歌、仕事、恋愛、結婚、両親、喜び、悲しみなどを淡々と語る彼女ですが、そのなんと純粋で真っすぐなことか。話し相手の沢木さんの反応はプロらしく鋭いのですが、同時に実に優しさにも溢れている。

    沢木さんは、彼女の引退後の人生の邪魔になってはいけないと考え、本書の出版を中止したのだそうです。しかし、30数年後、彼女が自ら命を絶ったとき、世間がその死をあまりにも簡単に理解しようとしていることに違和感を感じ、あのとき28歳の藤圭子さんの姿を世に紹介することも意味があると考え、出版することにしたのだとか。

    激動の人生を送った一人の若い女性の強さ、美しさを感じさせるノンフィクションです。

  • 自分は彼女をリアルタイムでは知らない世代だが、宇多田ヒカルが彗星のように現れたとき、母が藤圭子と聞いて驚くと同時に血は争えないなと思ったのを覚えている。あれほど歌唱力のある女性歌手はそうそう出てこない。自殺したとき憶測であれこれ書かれたけれど、今も昔もマスコミと芸能界のデタラメさは変わらないんだろうなと(昔の方がさらに悪い)このインタビューを読んで理解した。
    あまりにも真っ直ぐな彼女は、虚飾な汚い世界に身を置いたことでだんだんと人間不信に陥ってしまったのではなかろうか。
    沢木耕太郎もインタビュー時はまだ若く、風変わりな若きスターに体当たりしながら、なんとか本音を引き出そうとしてる姿が微笑ましい。後日出版を思いとどまることになったのは、ある意味正解であったわけであるが、まさか30数年を経てこんな形で世に出ることになろうとは。。




  • 最近になって、やたらと気になる「藤圭子さん」。歌唱力・美貌・知性に恵まれ、「宇多田ヒカル」という才能をこの世に生み出した方。その生活歴からは当然あったであろう、愛着障害がギャンブル依存・アルコール依存・関係依存を形成し、精神障害、自死 という結末に至ったのかもしれない。
     彼女の デビュー、結婚、離婚、失恋、再婚、出産、子のデビュー、自死、子の結婚、離婚、再婚、、、etc これだけの人生を、メディアを通して多数の人間が垣間見ていることの不思議さも感じ、あらためて彼女の歌を聞くと、歌のうまさに今更ながら感服してしまった。
     この本はインタビューをまとめたものでありながら、それだけでは終わらない、何か胸にズシンとくるものがあった。これを書いた沢木耕太郎氏にも非常に興味を持った。

  • ☆夢は夜ひらく

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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