巡礼

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 63
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104061112

感想・レビュー・書評

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  • 色の変化に着目して読むと面白いんではないかと

  • よくわからない小説なんだ、これが。いや、本当いうとわかりやすすぎるくらいなんだけど、作者の意図みたいのを考えるとよくわからない。作者の視点というか、何を大事に思っているのかとか。

    ゴミ屋敷をとりまく住人たちの不満、なにもしない行政、興味本位のテレビのリポーター。まず思ったのは、フィクションの質感があまり感じられないということ。ここで言うフィクションとは「現実にはありえなかったり、多少大袈裟かもしれないけど、こう書いたほうが本当っぽく見える」もののこと。
    ここには在るものをありのまま書いてる、「ウソをついてない」質感があって、派手ではないけど、かえって実にしっかりと細部まで描かれている。読みながらに不毛さを感じるくらい…それは徹底している。

    ゴミ屋敷の主、下山忠市がなぜゴミを集めるようになったのか? その「なぜ」には確たる答えが出されない。忠市が家を出て住み込みで働き、嫁をもらったが出て行ってしまい……
    「確たる答え」がないのは、そもそも人生に「確たる答え」など見いだせないからだ。なんとなく各々が各々の理由づけで満足するほかない。

    でもってなんで「巡礼」なのか? このラストだけはちょっと気にいらなかった。ただ忠市の弟によってゴミ屋敷の二階の大戸が開かれて、それを見ていた吉田家の母と娘が固唾をのむところは、なんでかびっくりするくらい感動的だった。吉田娘の「普通の人だ――」「ママ、あれ、普通の人だよ」という嘆息はなんなんだろう? ここに何かある気がするんだが。

    ゴミを捨てられて「ここはゴミ捨て場じゃねェぞ!」と言いながら、ゴミを家へ持ち帰ってしまう忠市の姿があなおかし。

  • 異物のような存在で理解できそうにない人でも、その人には歴史があって、同じ人間なんだよね、ということを読んで思った。なぜゴミ屋敷の話が巡礼?と疑問だったが短めの第3章を読んでなるほど、そういう終わらせ方か、と思った。

  • 劇的な不幸より幸せのない空しさが鬱になる。

  • 現代のなぜ?を物語の力で解きほぐそうとする、橋本治の意欲作。
    「ごみ屋敷」の主と、その近所に住む主婦の話から、物語は「ごみ屋敷」の主の人生にフォーカスする。
    現代に潜む世の中の不合理を、一人の主人公に商店をあてることで、解きほぐす悲しいドラマです。
    我々は、ニュースを断片的に捉えがちですが、この小説では、一人の人生を丹念に描くことで、現代におけるひとつの答えを提示していると思いました。
    絶望的な人間関係の溝を、我々がどう対峙するかを客観的な語り口で描ききる構成は見事。
    淡々とした日常の中に、驚きや悲しみをむき出しにさせることで、ひとことでは語れない人生の深さを感じさせてくれる一冊です。
    読後感も、ジーンと余韻がのこる、思い出深い作品でした。

  • 戦後の日本人たちの内側を、まるで『全てを見透かしたように』描いた小説。

    戦後、激流のように変化する価値観や社会の中で、するすると(良く言えばとても素直に)時代を流れるように生きた男たち、女たち。何人もの登場人物は、戦後~現代までの『サンプル的日本の家族たち』だと思う。みんなそれぞれに一生懸命生きてきて、だけど激しい時代に呑まれて、男も女も子供もどこかその歪みに足をとられてる。

    その登場人物たちの内面が、リアルで的を得すぎていてこわいくらいで「橋本さん…なんで(そんなことまで、わかるんですか)!?」って思う。誰かが橋本さんのことを「雲の上から社会と人を見ている」(←多分かなり間違ってる)みたいな表現で言っていたけど、本当にそう。今までどういう人生でどういう経験してどういう頭で、人を理解し想像し文章を書かれているのか想像の糸さえ掴めないって感じ…。本当、びっくりな人です。

  • ただ生きているだけなのに人はすれちがい、溝を深めてしまう。我が家をゴミ屋敷にせざるを得なかった男の姿に、哀れとか可哀想とかは感じないのに、なぜか涙が流れた。後半、物語全体のタイムスパンの割に残り少なくなるページ数を見て、この話ちゃんと着地させられるのかな、と心配になったが、33ページしかないのに濃密で腑に落ちる最終章に圧倒された。

  • 著者の描きたかった世界。それは、意外に単純だったのかもしれない、というのが、読後感。最終章、それは、感動的な場面である。遡って第1章、醜悪な世界、そしてTVクルー。周辺住民が主体。そうして、第2章、家族の歴史が描かれ、時代と乖離した一家、主人公の姿が浮き彫りにされる。いささか、順序をバラバラにして書いたが、私の印象では、この順序になる。惜しむらくは、更に、推敲を重ね、純文学としての特質を備えさせることが出来たならば、この小説は、更に輝いたのでは、と思うのは、私の欲目であろうか。

  • ゴミ屋敷と住民の闘いの話と思いきや、後半はゴミ屋敷の住人となった男の一生が綴られている。

    ゴミ屋敷の主人になった男の側からみれば、うなづける点もあり視点をかえるとこう見方が変わるのかと気付かされた。

    片づけられない男・女の話があるが人生に対する虚無感がそうさせているのかもしれないな。

  • ゴミを自宅敷地内に溢れんばかりに溜め込み、つみあげていく男。
    前半ではご近所の視点でその想像を絶する汚さ、悪臭、腐敗の様子が描かれていて目を覆いたくなる・・。
    そのゴミ屋敷の住人の男はどうしてそうなるべくなったのか。

    戦争中に少年時代を過ごし、戦後勢いをつけて変わりゆく世の中の流れの中で、まじめに平凡に生きてきた男の失っていったもの。
    家族、人とのかかわり、心・・。
    もしかしたら誰でもゴミ屋敷の住人になりうるのではないかと、読後、そんなふうに思った。
    後半、このゴミの山はある人によって片付けられる。そこからラストにかけて、この長編をぐっと人間的なものにしている。(Y)

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著者プロフィール

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文科卒。小説、戯曲、舞台演出、評論、古典の現代語訳ほか、ジャンルを越えて活躍。著書に『桃尻娘』(小説現代新人賞佳作)、『宗教なんかこわくない!』(新潮学芸賞)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『蝶のゆくえ』(柴田錬三郎賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)、『窯変源氏物語』、『巡礼』、『リア家の人々』、『BAcBAHその他』『あなたの苦手な彼女について』『人はなぜ「美しい」がわかるのか』『ちゃんと話すための敬語の本』他多数。

「2019年 『思いつきで世界は進む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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