ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 (中公新書 2257)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022578

感想・レビュー・書評

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  • アーレントの人生をざっと知るによいテキスト。20世紀前半の困難な時代を生たベンヤミンたちとの交流に強く共感した。

  • 全体主義と対決し、「悪の陳腐さ」を問い、公共性を追求した政治哲学者ハンナ・アーレント。ユダヤ人としての出自をはじめ、幾多のドラマに彩られた生涯と、強靱でラディカルな思考の軌跡を、繊細な筆致で克明に描き出す。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40204873

  • 人物伝がメインなので人生を辿るには有益だが、思想・哲学に関しては多少触れる程度なので物足りなさはある。人物研究と思想研究の関係をどのように考えるのかによってこの種の本の評価も変わるのかと。

  • ハンナアーレント の生涯、思想、著作をまとめた本。「全体主義の起原」の論述は わかりやすい。印象に残ったアレントの言葉は「思考し、自由を求め、判断を行使する人々が生み出す力こそが世界の存続を支える」

    「全体主義の起原」に対するアーレントのスタンス
    *ガス室、全体主義など人間の無用性をつきつけた出来事に対して出来事の諸要素を分析→因果性を排除→諸要素の結晶=出来事
    *起こるべくして起こったのではなく、人間の行為の結果としての出来事
    *反ユダヤ主義、帝国主義の諸要素は 必然的に 全体主義に直結したのではない
    *人間の選択を描いた→他の選択肢もありえたのになぜ それを選択したのか
    *官僚制という誰でもない支配が 個人の判断と責任に与えた影響を検証
    *全体主義は 政治の消滅である

  • 2021年12月
    その人の生涯を知ると、哲学の本棚にずらりと並ぶ著作の背景やテーマがわかる。
    ユダヤ人として第二次世界大戦を生き抜いた強さ、その後多くの人から批判され古い友人から絶縁されても思考し発信し続けた強さ。
    読みやすくてよかった。この本を手がかりにハンナ・アーレントの著作を読み始めている。

  • ハンナ・アーレントの本は、何がきっかけだったかはっきりと覚えていないけれども、読んでみたいと思っていた。難解であるということは聞き知っていたので、最初に「100分de名著」で読んだ記憶がある。
    そこで思想の全体像はなんとなくわかった気になり、図書館に出向いたところ、アーレントの著作がずらっと並んでいるのを見つけた。嬉しくなって『活動的生』『全体主義の起源1』『エルサレムのアイヒマン』を調子に乗ってまとめて借りた。
    題名からして、『活動的生』が今の興味に一番近いように思って手に取ってみたところ、わかるようなわからないような…とにかく聞いていた通り、気軽に読み通せるものではないことがよくわかった。

    そんなことをつぶやいてみたら、知人にこの本を教えてもらい、手にとった。経験が思考を促し、思想、そして著作として生み出されていったということが、アーレントの生涯と共に語られることで伝わってくる内容。
    アーレントの言葉というよりも、この本の著者の矢野久美子自身の解釈による言葉が、今の私にはしっくりくることが多かった。本書を片手に、あるいはまた別の本も携えながら、アーレント自身の思考の跡を辿るというのは、とても面白い経験となりそう。

    今の私にとって最も共感する言葉を以下に引用する。

    p.222
    「アーレントは、『思考の営み』はけっして職業的思想家のものではなく、すべての人びとが日々必要とするものだと断言している。それは、抽象的に思考したり、神や不死や自由といった究極的な問いに答えたりすることではない。『半時間前に自分に起こったことについてストーリーを語る者はみな、このストーリーを形にしなければなりません。このストーリーを形にすることは思考の一つの形態です』とアーレントは言った。 」

  • ユダヤ人彼女がユダヤ人虐殺アイヒマン裁判を傍聴し思い描いていた悪の人物像とあまりにかけ離れていた凡人だったことにショックを受け。邪悪な行為は個人の問題ではなくシステム的に行動し考えることをやめた人間の愚かなさが原因悪の陳腐さとホロコーストにはユダヤコミュニティも加担していたと雑誌し発表するとユダヤ人総反発を受け孤立それでも信念を貫く彼女は凄い。

  • アーレントの生い立ちから始まる生涯と代表作の内容の平易な説明を通して彼女の難解な思想を読み解く入門となる素晴らしい本だった。さらに深く知る上でアーレントの著作をこれから読む必要はもちろんあるが、友人との交流を大切にし、多くの影響を受けた彼女の思想を知るには著作のみでは限界があるのでそういう意味でも伝記色の強い本書はそこまでカバーできているので読む意義があったと思う。
    彼女の政治哲学には難しい部分ももちろん多いが、根底にあるのは''現実を理解し事実を語ること''ということだった。また彼女の人柄としては友人思いで、とても誠実な人物なのだと感じた。そんな彼女がアイヒマン論争で友人たちと絶縁することになってしまったのはとても残念に感じた。

  • ドイツにユダヤ人として性を受けたハンナ・アーレントの生涯を綴った書籍です。
    ナチス台頭の時代、同時代の軍国日本との対比でアーレントの生き方を考える。

  • 自分の身にふりかかる不合理な現実を必死で理解し、思想という形で昇華させて世界に還元するとハンナ・アーレントの、恐るべき知的自力再生産能力、とでもいうべきものに感嘆してしまう。少しでも吸収したく、付箋をはりまくる、メモをとりまくる。

    こんなに分かりやすく本をまとめてくれた著者にも感謝したい。

    ーーーーーーーーーーーーーーー
    〇子供の頃の経験(学校で教師に侮辱されたら即帰って良い、という母の教え)
     ・相互の尊敬
     ・無条件の信頼
     ・社会的・人種的差別に対する純粋でほとんど素朴と言ってよいほどの軽蔑の念

    〇人は、攻撃されるものとしてのみ自分を守ることができる
    (ユダヤ人として攻撃されるなら、ユダヤ人として身を守る)

    〇絶望-それはまるで奈落の底が開いたような経験

    〇因果性はすべて忘れること。その代わりに、出来事の諸要素を分析すること。重要なのは、諸要素が急に結晶した出来事である。(全体主義の起源、ではなく、全体主義の諸要素とすべきであった。。)

    〇官僚制=誰でもない者による支配、が個人の責任と判断に与えた影響

    〇全体的支配は、人間の人格の徹底的破壊を実現する。(被害者にとって)自分がおこなったことと、自分の身にふりかかることの間には何の関係もない。すべての行為は無意味になる。

    〇ホッファー「大衆運動」

    〇リアリティ:「物のまわりに集まった人びとが、自分たちが同一のものをまったく多様に見ているということを知っている場合にのみ」世界のリアリティが現れる

    〇ホルクハイマーとアドルノ「権威主義的パーソナリティ」:匿名の権威としてのマスコミに服従・同調する傾向(→ファシズムへの潜在的傾向)

    〇科学的知識は「破壊力」に関わるものであれ「創造力」に関わるものであれ、所与の人間のリアリティ、地上に複数の人々が生きる現実とは疎遠なもの。

    〇あたかも私たちは(科学的知識によって)自分自身の人間的存在から離れてしまったよう

    〇行きたいところへ出発することができることは、自由であることの最も根源的な身振り

    〇思考の欠如=思考に動きがなくなり、疑いを入れないひとつの世界観に則って自動的に進む、思考停止の精神状態

    〇同胞愛はOK:人々が直接結びつく同胞愛や親交の温かさの中では、人々は論争を避け、可能な限りの対立を避ける。..(が、これが)政治的領域を支配するとき、複数の視点から見ると言う世界の特徴が失われ、奇妙な非現実性が生まれる。

    〇アイヒマン=思考が欠如した凡庸な男=紋切り型の文句の官僚用語を繰り返す

    〇考える能力=誰か他の人の立場に立って考える能力

    〇自分の感情的な反応に注意を向ける代わりに、自らの義務として、割り当てられた仕事を遂行しようとした

    〇「必然または義務」として遂行されるとき、悪は悪として感じられなくなる

    〇アイヒマンはヒトラーの命令を遂行することを自分の価値を証明する意義のある貢献だとみなした

    〇全体主義ー加害者だけでなく、被害者においても道徳が混乱(ユダヤ人によるユダヤ人のリスト提供)

    〇服従することは、組織や権威や法律を支持すること

    =================

    〇全体主義は、技術志向の大衆社会の中で起こりうる

    〇すべきこと=自分の価値観に従う、自分の経験に則する、自分の確信や感情を重視する

    〇(彼女の正論は)嘘に立てこもっている生きているあれほど多くの人のいちばん痛いところを衝いた

    〇自分は自分自身以外の何者でもない(民族の娘ではない、特定の民族を愛さない、自分が愛するのは友人だけ)

    〇物語が重要(理路整然とした論証よりも)
     =個々の事件や物語へ脱線し、多くの解釈が混在する

    〇判断力が機能するためには、社交性が条件―複数で生きる人々が共通感覚を持つためには、相互の仲間を必要とする

    〇理解することへの欲求、「私は理解しなければならない」という内的な必要性

    〇言葉や行為や出来事を理解しなければならないという内的な必要性

    〇思考だけが「和解」をもたらす。

    〇自分自身であろうとする絶対的な決意、非常に傷つきやすいにも関わらず、耐え忍んでそれを成し遂げる力を持つ

    △?(ローザ・ルクセンブルク)はげしく世界とかかわり、自分自身にはまったく関心を持たなかった

    〇公的に発言するときは、自分ではなく世界を賭ける

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著者プロフィール

(やの・くみこ)
1964年に生まれる。東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了。現在 フェリス女学院大学教授。著書『ハンナ・アーレント——「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』(中公新書)、訳書『アーレント政治思想集成』全2巻(共訳)、アーレント『反ユダヤ主義——ユダヤ論集 1』『アイヒマン論争——ユダヤ論集 2』(共訳)、ヤング=ブルーエル『なぜアーレントが重要なのか』『ハンナ・アーレント——〈世界への愛〉の物語』(共訳、以上みすず書房)他。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

「2023年 『ハンナ・アーレント、あるいは政治的思考の場所 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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