ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 (中公新書 2257)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022578

感想・レビュー・書評

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  • 映画化で話題になったハンナ・アーレントの事績。特にアイヒマン論争に焦点を当てているわけではない。哲学(者)にまつわる知識がある程度無ければ、楽しく読める類の本ではないが、彼女の生い立ちから交友関係、時代背景等よく纏まっており、評伝という本来の目的は達せられている良書と思う。

  • 映画を観れば良かったと後悔。ハンナ・アーレントの生涯を知るにはコンパクトで良かった。アイヒマン裁判を通した発言など映画の予告編で気になったシーンと思われる彼女の考え方などを知ることが出来た本でした。

  • (2014/06/21購入)(2014/06/22読了)

  • それはまさに、あたかも奈落の底が開いたような経験でした。……これはけっして怒ってはならないことだったのです。犠牲者の数のことをいっているのではありません。死体の製造やその他のことを申し上げているのです。(p.89)

    工業的な大量殺戮はまさに「死体の製造」とも形容される事態であった。(中略)人間による人間の無用化。人間の尊厳の崩壊。それは理解を絶する「けっして怒ってはならなかった」ことであり、その事態を直視することは地獄を見るようなものだった。(p.90)

    人権の喪失が起るのは通常人権として数えられる権利のどれかを失ったときではなく、人間世界における足場を失ったときのみである。この足場によってのみ人間はそもそも諸権利を持ち得るのであり、この足場こそ人間の意見が重みを持ち、その行為が意味を持つための条件をなしている。自分が生れ落ちた共同体への帰属がもはや自明ではなく絶縁がもはや選択の問題ではなくなったとき、あるいは、犯罪者になる覚悟をしない限り自分の行為もしくは怠慢とは全く関わりなく絶えず危難に襲われるという状況に置かれたとき、そのような人々にとっては市民権において保証される自由とか法の前での平等とかよりも遥かに根本的なものが危くされているのである。(『全体主義の起源2 帝国主義』)(p.111)

    政治は、市民たちが法律に守られながら公の場で語り行為するということでもあり、人びとが複数で共存するということを意味する。アーレントは全体主義下で遂行された「人類に対する犯罪」を人間の複数性にたいする犯罪であると見なした。(中略)それは、「複数である人間によって複数である人間について語られた物語のなかで真実性をもって記憶される権利、歴史から消されない権利」にも結びつく。(p.115)

    問題は、ただ、私たちが自分の新しい科学的・技術的地市区を、この方向に用いることを望むかどうかということであるが、これは科学的手段によっては解決されない。それは、第一級の政治的問題であり、したがって職業的科学者や職業的政治屋の決定に委ねることはできない。(p.142)

    疑いをいれない一つの政治観にのっとって自動的に進む思考停止の精神状態を、アーレントはのちに「思考の欠如」と呼び、全体主義の特徴と見なしたのである。
    「思考の動き」のためには、予期せざる事態や他の人びとの思考の存在が不可欠となる。そこで対話や論争を想定できるからこそ、あるいは一つの立脚点に固執しない柔軟性があって初めて、思考の自由な運動は可能になる。(p.174)

  • 思考こそが世界を救う 『ハンナ・アーレント』 - HONZ
    URL : http://honz.jp/articles/-/40479

  • ドイツ系ユダヤ人として生まれ、全体主義と対決した政治哲学者。アウトラインは掴めたのでまずはその著書「全体主義の起源」「人間の条件」を読まなくては。

  • 非常に陳腐な表現であるが、何て強い人なんだろうというのが本書を読んで先ず思ったこと。
    そして、もっとアーレントの生きた時代、彼女が考え理解しようとしたことについて知りたいという欲求に取りつかれている。

  • “アーレントは別の論稿では「何もしないという可能性」,不参加という可能性」という言葉を使っている。彼女は,こうした力のなさを認識するためには現実と直面するための「善き意志と善き信念」を必要とする指摘し,絶望的な状況においては「自分の無能力を認めること」が強さと力を残すのだ,と語った"
    綺麗なアーレント本って感じ。

  • 2012年にはフランス・ルクセンブルク・ドイツの合作で映画も作られたハンナ・アーレントの、数奇な生涯とその思想をコンパクトにまとめた良書。(院生アルバイトスタッフ)

  • 勉強になりました。

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著者プロフィール

(やの・くみこ)
1964年に生まれる。東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了。現在 フェリス女学院大学教授。著書『ハンナ・アーレント——「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』(中公新書)、訳書『アーレント政治思想集成』全2巻(共訳)、アーレント『反ユダヤ主義——ユダヤ論集 1』『アイヒマン論争——ユダヤ論集 2』(共訳)、ヤング=ブルーエル『なぜアーレントが重要なのか』『ハンナ・アーレント——〈世界への愛〉の物語』(共訳、以上みすず書房)他。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

「2023年 『ハンナ・アーレント、あるいは政治的思考の場所 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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