アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150102296

感想・レビュー・書評

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  • フィリップ・K・ディックの長編SF小説。
    1968年刊行。(原作)
    映画版は日本では「ブレード・ランナー」として知られている。

    舞台は核戦争によって荒廃した地球。放射能の死の灰から逃れるべく、人類は高性能なアンドロイドを連れて他の惑星を開拓・移住しはじめていた。
    主人公であるリック・デッカードは植民地惑星から地球に逃亡してくるアンドロイドを処理して報奨金を稼ぐバウンティ・ハンターとして日銭を稼ぎ、妻と生活していた。

    荒廃した地球では、生きた動物が貴重な財産として扱われる。馬や牛にはとてつもない高額がつけられ、人々のステータスとしても機能していた。
    デッカードも羊を一頭飼っていたが、それは電気羊(精巧な電気機械)だった。彼はここに負い目を感じており、報奨金を得て本物の羊を買うことを望んでいた。

    そんな中、8人のアンドロイドが集団脱走し、地球に向かったという情報が入った。
    デッカードは、アンドロイドとの戦いで負傷を負った先輩ハンターの任務を引き継ぐ形で、アンドロイドとの戦いに臨むことになる。

    というのが序盤のあらすじ。

    その後、デッカードはアンドロイドとの死闘に身を投じる過程で、「アンドロイドとはなにか?」「人間とはなにか?」という疑問を持つようになる。

    デッカードのこの疑問は本作を大きく貫く軸となる。高性能で限りなく人間に近づいた(特定の能力では人間よりも優れてさえいる)アンドロイドには、感情もあり仲間を想う気持ちもある。

    またデッカードが遭遇したレイチェルという最新型の女性アンドロイドは、人工の記憶を埋め込まれることで自分自身が人間だと信じ込んでいた。それがデッカードによって、自身がアンドロイドであると暴かれた際にはひどく動揺し、茫然自失となっていた。

    デッカードも読者も、アンドロイドたちのそうした姿を目撃することで、「なにをもってアンドロイドなのか?」という疑問に必然的に突き当たることになる。

    作者のディックは、この疑問に対して「どれほど親切であるかで、人間かそうでないかが決まる」と言っている(訳者あとがきより)。
    つまり、親切にできるかどうかが、人間を人間たらしめていると言う。

    これはある種本質的な答えではあるが、それ以外の解釈もできると個人的に考える。

    人間か、アンドロイドか。この分類というのは結局人間目線の恣意的なものであり、大した意味をもたないと考える。
    つまり、人間とアンドロイドでアクチュエータやコントローラが異なるのは当然で、その境界線はそうした機能的な話よりも、自分自身をどう捉えるかの自意識に依ると思う。極端な話、自身を人間だと捉えるアンドロイドが出現すればそれはもう人間だと言って差し支えない。というより、それを否定することはできなくなる。

    ロボットのメカ的な深化が飽和点を迎える一方で、頭脳にあたるANI、AGIの進化は近年めざましい。本作に登場するレベルのアンドロイドが社会に実装される日は近いだろう。
    そのとき、我々の社会が深刻なモラルハザードを迎えることは間違いなく、それに対して人間たちはどのような結論を出すのか(或いは結論が出ないのか)、非常に興味深い。
    本作はSFでありながら、現代の社会課題とリンクし、ある種の未来予知として機能している。やはり、良質なフィクションは現実のシミュレーション足り得る。

    古い小説であり、設定もありふれたものでありながら、人間の在り方を見直すヒントとなる作品。全体的に陰鬱で、ラストもスカッとしたものではないが、展開が速く読み飽きしない。SFの古典的名作と呼べるだろう。

  • Do Androids Dream of Electric Sheep?
    単純な疑問文のタイトルだが、反語表現だろう。アンドロイドはそんな夢は見やしないと。眠れないときに羊を数える人間。眠れないときがないアンドロイド。人間に見紛うアンドロイドを、アンドロイドだからという理由で人間は躊躇なく永遠の眠りへと送れるのか。

    人間は、羊を数えやっと眠れたと思ったらこんな悪夢をみてしまう。
    人間とアンドロイドの違いはそこにある。

    再読必至のSF物語。
    人間とは、存在とは。哲学の根源にぶつかる(気がする)。

  • 海外の小説は毎回のめり込めず時間がかかってしまう…SFあまり読まないから?…
    他ジャンルにもちょくちょく挑戦中
    ブレードランナー有名だし映画も見てみよう

    ■アンドロイド
    見た目は人間と判別がつかないけどやっぱり感情の機微は再現することは科学の技術があがってもできないことなんだろう
    アンドロイドか否か判別するテストの仕方が古い感じだけど1977年の小説だからしょうがない
    むしろその時代にアンドロイドと人間の共存をテーマにしてることがすごすぎる
    小説家の頭の中はどうなってるんだ??

    ■マーサ教
    思想?宗教?的な側面が強くてあまり理解できなかった…海外だから余計に?
    ただ荒廃した地球では何かすがるものや支えてくれるものがないと生きて行けないのだろうと感じた
    日本に無神論者が多いのは平和だから?海外の思想を取り入れなかったから?
    ※関係ないけどスコセッシの映画『沈黙-サイレンス-』おすすめです。



    海外小説の苦手意識がぬぐえないー
    読むのにめっちゃ時間かかる
    気になるものは色々あるのに躊躇ってしまう
    翻訳の人のクセもあるのかなぁ?
    でも暗殺者クレイマンはめっちゃおもろかった
    やっぱ作品の相性かも

  • 星空さえ消えた核戦争後のアメリカ。犯罪者のアンドロイドを処置する賞金稼ぎリック。
    機械であるはずのアンドロイドと退廃的世界に病む人間の境界に揺れる世界観に気分が高まる。

    また久しぶりに映画を観たくなった…
    そう言えばお寿司のおじさん出てきませんでした。

  • 読み始めは今どきのSFと比べると古い感じや設定の甘さが目立ったけど、読んでいくとどんどん主人公の葛藤に巻き込まれていって目が離せなくなる
    人間性を共感、アンドロイド性を合理性としてその対立を描くが、それをまがい物の宗教もどきと、永延と続くバラエティーで対比するセンスは素晴らしい
    ある意味最近の(特にアメリカの)リベラルの限界を暗示していると思う
    共感力は理屈を超えるし、だれも宗教の背景が書割かどうかなんて聞きたくはないのだろう
    またサピエンス全史より半世紀も前に人間性を共感や集団幻想にあると喝破して先見性も見事

    タイトルについていえば、ラストシーンから考えると電気動物に共感(夢をみる)のはアンドロイドではなく人間ということだろう

    あと本筋とはあまり関係ないけどジョン・ダンの引用はちょっと笑えた

  • 第三次世界大戦後、放射能灰に汚染された地球。その世界は生きている動物を飼育することがステータスの社会だった。人工の電気羊しか持たないリックが本物の動物を手に入れるため、逃亡した奴隷アンドロイドの懸賞金を狙い、彼らを追い詰めていく。
    序盤は登場人物の多さと横文字、マーサー教の現実と非現実が交わるような独特の世界観に戸惑ったけど、スリリングなアクション描写が読みやすさになっていてそこがよかった。

    そして、人間と見分けがつかないほどのアンドロイドと関わっていく中で、リックが狩るべきアンドロイドへと感情移入していく描写が生々しい。自分自身が本当に人間なのかと疑問を抱くシーンも印象深い。

    人間とアンドロイドの違いを何かへ感情移入できるかどうかで測っているのが興味深かった。そして、あとがきにもある通り、単純な対立の構図ではないところも考えさせられる。狩るべきアンドロイドに感情移入していくのも人間、知性のあるアンドロイドを火星で奴隷のように扱っていたのもまた人間。アンドロイドという存在によって、人間性への問いが生まれているのが面白い。

    現実と非現実、人間とアンドロイドの境界を夢のように行き交いながら、その本質に迫っていく作品。

  • SFは読み慣れていないけれど、名作を読んでいる。おもしろい、哲学だった。映画も観たいな。
    わたしもそうなのかも、とおもった。

  • 映画「ブレードランナー」の原作。
    映画自体は見たことなし。
    核戦争後の世界で、生き物は死に絶え人類の多くは火星に移住した設定。地球に残った少しの人類と移住時に国から無償で提供されるアンドロイドの話。
    まずエンターテイメントとして面白い、冒頭に能書きがないからすっと物語に入り込める。

  • ハリソン・フォード主演の名作「ブレード・ランナー」原作。1968年の作品。

    時は1992年、核戦争によってすっかり荒廃し、放射性降下物が充満した灰色の地球。火星から脱走してきた8人の有機的アンドロイドの処分を、警官で賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)のリック・デッカードが命じられる、というお話。アンドロイドかどうかを見分けるのは、フォークト=カンプフ感情移入度検査法(アンドロイドは生き物の死に心を動かさないことから識別する)。アンドロイドを追いつめるにしたがって、リックの心も病んでいく。

    全編退廃した雰囲気に包まれていて、主人公からは疲弊感や息苦しさが強烈に発せられている。独特の世界観を持った作品。

    「ブレード・ランナー」のDVD持ってたはず。もう一回見てみなきゃ。

  • フィリップ・K・ディックの著書は初めて読みます。

    タイトル自体は知っていたけれど、じっくりと読む機会がなかなかなく、今回やっと読了することが出来ました。

    【あらすじ】
    舞台は第三次世界大戦後、放射能の灰が一面に撒き散らされ、多くの生物が死に絶えた後の地球。放射能の影響で子孫を残せない人間は特殊(スペシャル)の烙印を押され、多くの人間が叶えた火星への移住は制限される。
    地球に残った人々の間で絶対的な価値でありステータスとされているのは「生きている動物を飼うこと」であり、人工羊しか持たない主人公・リックは火星から逃亡してきた8人のアンドロイドを“処理”し、その賞金で本物の動物を手に入れようと奔走する……

    1ページ目を開いた瞬間、その時からSFの世界観が本当に緻密に広がっており、人口動物の動きやリックたちの生活はもちろん、共感ボックスやマーサー教、電話ならぬ映話やキップル、ホバーカーといったありとあらゆる物体、宗教、道具が真実味を帯びてわらわらと押し寄せてくる感じがしました。
    物語の本筋はもちろんのこと、それらの道具類を眺めていくだけでも十二分に面白く、本題を忘れそうになってしまいますが、(あとがきにわかりやすく示されているように)命題は「どこがアンドロイドと人間の境目なのか?」という点です。
    他のSFでも良く示されているSF永遠のテーマとも呼べるものですが、「人間とアンドロイドの対立」という単純な構造ではなく、もっと情動的に語られるのが本著者の作品であり、持ち味なのだそう。

    逆に、上記の単純対立構造の映画や小説ばかり見てきた私にとっては新鮮で楽しく、また考えさせられる作品でした。

    個人的にはこの世界観の奥にある、火星へ移住した人たちの物語も覗いてみたいと感じました。

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