- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151200915
感想・レビュー・書評
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今更ながらカズオ・イシグロ作品を初めて読みました!
ファンタジーな世界観が意外でしたが、先が気になってぐんぐん読めました。登場人物などが昔ながらのイギリスファンタジー!という感じで、普段日本の小説しかほとんど読まないので新鮮でした。
最後まで読み終えて、「記憶」について考えさせられます。日々生きていて忘れることや捻じ曲げることで救われている部分は大いにあり、すべてを明確に記憶できてしまったら生きていけないでしょう。また大人になればなるほど記憶の弊害を感じることも増えました。怒りや憎しみの感情はなかなか昇華しないのだなぁと感じます。小説内でも、そのネガティヴな感情・記憶が一個人にとどまらず、引き継がれようとする様子が描かれていました。
しかしだからといって すべてが薄れ忘れられていくことが必ずしも幸せではなく、二度と繰り返したくない歴史、記憶を伝承し繋いでいくことの必要性も感じます。(もちろん素晴らしい幸福な記憶も。)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
靄に包まれる記憶。
旅に出る夫婦。
不穏な記憶、出来事の断片、物語はどんどん進んで行く。
読んで行くと不思議な感覚に包まれ、そこに潜む意味に触れつつ、また物語に引き込まれて行く。
読み進むに連れてどんどん引き込まれて行く。
他の方も書いていたけど、記憶こそアイデンティティそのものなのだと気がつく。
でもそこにとらわれ続けることの哀しさも。
着地点は、最後はどこに行き着くのか。
カズオ・イシグロの作品を続けて読もう。 -
何かについての隠喩を含んでるかもしれないとかそういうことを置いといて、物語として楽しく読んだ。「パン屋の本屋」で買ったのをずっとコートのポケットに突っ込んで移動中に読んでて、読み進むほどに止まらなくなっていった。
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ずっと気になっていた作家カズオ・イシグロさん。ノーベル文学賞受賞を機会に読んでみることにしました。この作品はファンタジーではあるけれど夢や冒険などといったお決まりのパターンなどではなくてあくまで静かで内省的。テーマは深くて重厚。謎の霧によって人々の記憶が欠落していく現象の中で生きる老夫婦が、昔離れ離れになった息子の所へ行こうと旅に出る。旅の途中で傷を負った少年、サクソン人の戦士、アーサー王に仕えた老いたかつての円卓の騎士に出会う。忘却は人に大きな喪失や混乱や不安を与えるが、時に癒しと再生の効力ももたらす。霧が晴れた時、そこにあるのは希望なのか絶望なのか…。旅を通して老夫婦の絆がどのように深まっていくのか…。彼らのたどり着くところは何処なのか…。はるか昔のブリテン島が舞台ではあるけど、現代にいきる私たちの人生航路に似ているような気もする。
アクセルが妻ベアトリスを始終お姫様と呼ぶところが好き。
読みにくくはないのだけれどなぜか時間がかかってしまった。 -
カズオイシグロの会話文?が好きだ。「私を離さないで」がとても好きだが、これもなかなか良かった。
ファンタジーのようでミステリのようで哲学書のようだ。
大きな出来事がなくても、どんでん返しやトリックがなくても、とにかく読ませる。 -
カズオ・イシグロの一番新しい小説かな?ノーベル賞受賞というのことで、読んでみた。
話は、なんと6〜7世紀のイギリス。アーサー王亡き後、と言っても、まだその甥は生きている、みたいな世界。そんな中で、竜退治にいくファンタジー小説?
ある朝、起きてふと昔の記憶の断片が甦り、旅に出ることにした老夫婦に戦士と子供が加わり、途中から、アーサー王の円卓の騎士のガウェイン卿も関係しながら、少しづつ竜のいる穴に近づいていく、みたいな典型的な「英雄の旅」に乗っ取っている。
途中の戦いの描写などの細かさなど、手に汗握る。誰が敵で、誰が味方なのか、見事なエンターティメント。
が、当然、いわゆるファンタジーで終わるわけもなく、なんだか心の襞に染み入っていく切なさ。自分の人生の記憶(=アイデンティティ)をなんとか取り戻そうとする心の働きの複雑さ。
そして、民族間の対立の絶望的なまでの根の深さ。そうした中での、生命の儚さ。
ストーリーは比較的単純なのだが、色々なものが複雑に織り込まれている感じ。 -
憎しみの気持ちを忘れることによって結び連れられる絆もある。ということか。
曖昧な記憶によって紡がれたアーサー王の伝説と世界的に普遍的な竜と鬼の存在する世界を舞台にしているが、
憎しみの代償的存在があってこそ、人は許すことを受け入れられるのかもしれない。 -
カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞した直後に文庫化されるっていうので話題になっていたので読んでみた。
舞台は6、7世紀のブリテン島で、アーサー王伝説が下敷きになっているので、そこら辺の知識に疎いのでちょっととっつきにくさは否めなかった。
章ごとに視点が変わり、時間も進んだり戻ったりする書き方に、引き込まれるものを感じた。
「忘れられた巨人」という何か違うものを想像しながら読んでいたけど、ちょっと、終わりがあっけない気もする。 -
もっと一気に読みたかったが通勤電車の中だけで読んでいたので読了までに1週間以上かかった。ときには電車を降りたあと、ホームで続きを読むこともあった。いまからおそらく1000年以上も前の、イギリスの風景が頭に思い描けた。後半で戦士が少年に向けたことばがとても重たく心に響く。サクソン人である戦士はどうしてそこまでブリトン人を憎むのか。民族の紛争は今も絶えない。記憶がなくなれば、うらみも消えるであろうか。忘れることで平和がもたらされるのであろうか。高校生くらいのとき、宗教の時間だったかで被差別部落の問題が取り上げられた。当時は、寝た子を起こすようなことをしなければ、次第に差別の意識がなくなるのではないかと思えた。そのような発言もしたように思う。しかし、担当の教員は、起こったことをなかったことにはできないし、きちんと知るということが大切で、そのうえで差別がなくなるよう意識を持つべきである、というようなことを言っていた。同意する部分もあるし、でもな・・・と思う部分もある。騎士も言っていたではないか。記憶がなくなることで平和が続いてきたと。雌竜を倒すことは本当に正しかったのだろうか。しかし、歴史が繰り返すことを思えば、やはり記憶にはとどめておくべきなのだろう。ところで、つれあいを「お姫様」と呼ぶのはどうなんだろう。もとの英語は、“LADY”か? なんか、ずっとしっくりいかないまま読んだ。それで、ネットでいくつか調べているうち、最後の船に乗るシーンの話に出くわした。「死」、なるほど。すっきりした。「お姫様」のことはどうでもよくなった。