笑い三年、泣き三月。

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163808505

感想・レビュー・書評

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  • お笑いって何だろう?
    人を笑わせることを仕事にしている人を「お笑い芸人」と呼んでいるが、この作品では、浅草で「お笑い芸人」をめざす男性が主人公になっていた。

    昭和21年、終戦間際の東京で、金澤から上京してきたお人よしの岡部善造と活字中毒の戦争孤児の田川武雄、それに映画会社を解雇されて戦争に行った、ひねくれ者の復員兵の鹿内光秀が、知り合い、同じストリップ小屋で勤務することになった。岡部はもともとが漫才師。自分のネタと芸で浅草を渡り歩けると自負していたが、すぐに現実の厳しさに気がつくことになる・・・。しかし、自分の感性で生み出すまったりとしたお笑いネタを堂々とふりまく岡部は、だんだんと人気を集めて行った。

    「お笑い」って確かに、面白いネタとそうでないものがある。ただこれはあくまで聞いた人の感性で決まる。若者に受けるネタも少し年配者には受けない。その辺が難しいところだろう。岡部のネタは明らかに年配者向きであったのだ。

    作品の中でよく描かれているのが、終戦後の庶民の生活だ。
    戦争中も食糧事情は悪く辛い毎日だったろうが、終戦後の方がもっと厳しい食糧事情だったようだ。焼け野原となった東京にバラック小屋がたち、闇市が繁盛し、配給の食糧に人々は群がっている。戦後の食糧事情はなんと大変だったことだろう。
    そんな中でも、人々は「笑い」や「癒し」を求めて、芸の中心地浅草の芝居小屋にやってきた。この人々のしたたかさが、日本の復興の底力となっていたのだろう。
    戦後の一般庶民の生の生活までもが、とてもよくわかる作品だった。

    タイトルの『笑い三年、泣き三月』は、
    義太夫節の修業で使われる言葉で、
    「人を泣かせる芸は3ヶ月で完成するが、笑わせる芸には3年かかる」
    ということだそうだ。

    なるほど。
    軽く「お笑い、か」では済まされないほど、重みのあるタイトルだと思う。

  • こうなったら、しょうがない!
    木内さんの作品を追いかけるしか、しょうがない!

  • 戦後すぐの浅草のお話。
    流れ万歳芸人のオジサンが、浅草で戦災孤児の子を拾うところから始まります。
    子供は何とかオジサンを利用して生き延びようとしますが、オジサンは純粋に子供を育てようとします。
    そんなオジサンに段々と心を開いていく子供……

    如何にも「泣けますよ~」的な設定なんですが、ボクはあんまりでした。
    理由のひとつはオジサンの芸がチョッと……
    「誰も傷つけない、ホッコリとする芸」として売っているのですが、何だかなぁと。
    そのホッコリとする笑いに固執する姿勢が小説の大半を占めていて「別に誰かを傷つける笑いじゃなくても良いから、別のことを考えてみろよ!」と思ってしまうところが多かったです。
    しかも、小説の書き方としてはオジサン擁護だったので、その辺が合わなかったのだと思います。
    一緒に暮らす映画監督志望の口の悪いアンちゃんを主人公にして、彼と子供の成長記録みたいにしたほうが泣けたのかなぁと。

    まぁ泣けはしませんが、戦後の活気のある浅草ってこんな感じだったのかぁと読んでいて面白かったです。
    エロの力も凄いなぁと。

  • 「私には笑いが分かりません」と嘆く
    あなたは善の塊ですか?と言いたくなるような善造さん、
    復員兵のある意味素晴らしいくらいの単純王なみっちゃんと、
    生き抜く才能をしっかり開化させ、エレガントに踊る風子さんと、
    上野であの人と出会った事は確実に幸せなはず、の坊ちゃんが、
    戦後浅草で身を寄せ合い生き抜いていく、
    楽しく悲しく幸せな物語でした。

    戦前戦後の笑いのパワーや娯楽のパワーは、
    目を見はるくらいだったんだろうな。
    人を笑わせる力はどの時代でも大切で、
    全てが同じ方向ではダメなんだろうなあ、
    違う笑いがあるから前を向いて笑ってられるんだろうな。

  • 日本が戦後の混乱期から、立ち直っていく時代の小説やドラマは、数多くあれど、これほどまでに分かりやすく目線をさげて描いてあるのは、珍しいと思う・・。登場人物誰もが、キャラは違うものの、ピュアで穢れていない。生き抜くことに対して一生懸命さが伝わってくる。とくに善ちゃんの言葉は、深みを感じた。久々の星4つ。作者が若いのにもビックリww他の作品も読んでみたい☆

  • じわっを心が温かくなる作品。思ったより笑えるところはなかったが、なんとなく読後は晴れ晴れとした気分になった。

  • 岡部善造の方言が最初は胡散臭く、途中からはとても気持ちよく響く。
    そのころにはすっかり善さんに感情移入だ。
    戦後の焼け野原、食べ物もない、笑いもない中、徐々に町も人々も復興していく様に今を重ねてみた。
    笑って生きる。善造、ふう子。そして武雄もこれからはきっと笑う。光秀の胸にも笑いの灯がともったように。

  • とてもいいお話だった。

    戦後すぐの厳しい時代を逞しく生きる4人の姿に元気を貰いました。

    まさに「こうなっちゃ、しょうがない!」でしたね。

  • よかった。とてもよかった。言いたいことや心に浸みたことがいっぱいあって、こんな単純な言葉でしか言い表せない。

  • 戦後の浅草はこんなだったのか。

    現在、弊社東京事業所の周りのことが
    いろいろ書かれていて、興味深かったです。

    今度、ぶらぶらしてみたいです。

    そして”おなら”はやっぱり笑いの王道だと再認識^^;
    (うちの息子も大笑いします)

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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