帳簿の世界史

  • 文藝春秋
3.83
  • (39)
  • (61)
  • (44)
  • (9)
  • (1)
本棚登録 : 887
感想 : 64
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902463

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  「世界史」と標榜できるほど網羅的ではないので、星4つとしたが、内容の充実ぶり、文化や哲学、芸術も含めた深い考察と、それを裏付けるデータの提示が適切なので、星5つでも良いほど。
     『帳簿』という単語で無味乾燥な書物を想像して、敬遠することなかれ、と言いたい。
     小難しい用語や計算式は一切出てこないからご安心あれ。青色申告している人にはおなじみの、『減価償却』といった単語が出る程度である。

     古代・中世からルネッサンスへ至る西欧と、近現代アメリカの歴史を、『会計文化』という切り口から書いた本。東欧やイスラム諸国、東洋は触れられていないが、巻末の翻訳者による付録『日本の帳簿・会計略史』も面白く読めた。

     どのくらい面白いかを述べると、例えば親類の高校生に、
    「フェリペ二世のころのスペインは、このように3つの省庁が互いに重複した業務を、連絡なしでやっていて、しかもほとんど帳簿が運用できてなかったんだよ」
     ととある一節を読ませたところ、いたく面白がっていた。世界史の授業内容が、さらに面白くなること請け合いである。
     なにしろ、

    「綿密に歳入歳出を把握してから、国家の計画は立てられている」

     というイメージが根本から崩れるのだから。

     知識がなくても読める、丁寧な語り口である。だが西洋美術史(図象学)や複式簿記、エンロン倒産からの混乱ぶりを思い返しながら読むと、知的興奮がいや増してくる。
     くり返すが、『帳簿』という単語で無味乾燥な書物を想像して、敬遠することなかれ、と言いたい。

     巻末の資料(元が英語の本で、内容もイタリアやスペイン、フランスなので大半は英語ほかの外国語である)がしっかりしていることも好印象である。
     文中に出てきたカスティリオーネの『宮廷人』が読みたくなったら、(日本語で読むのは絶望的なので)巻末を参照し、インターネットアーカイブスを検索して、無料でPDFなり電子書籍をダウンロードできる。
     全ての資料が同様に参照可能かどうかは別問題だが、資料の適格性、根拠を確認できた。
     この意味で、本書は学術研究にも資する良著であるといえよう。

  • 欧米諸国の繁栄には産業と商業の発展があり、それを支えたのは会計技術の進歩であった。権力の横には必ず帳簿があった。欧米では会計士は単調でつまらない仕事の代表格で捉えられているがエキサイティングな仕事の代表格である事業投資も金融工学もEntryから全ては始まる。数字を掌握するものは優位性を得ることができる。

    中国やムスリム商人には一切触れられておらず欧米の歴史のみのため題名に難ありだが、歴史上の人物や事柄と帳簿の関係が非常に面白い。例えばパチョーリの「スムマ」より数百年前にフィレンツェ商人は簿記を活用していたことやルイ16世が登用したネッケル氏の会計報告がフランス革命の一因になったこと、ウェッジウッド氏の孫がダーウィンだったり。欧米諸国で相互に影響を及ぼしあう様が興味深い。

    会計の世界史を網羅するような本ではないものの、帳簿という切り口で欧米史を概観する本として楽しめる一冊である。

  • レビュー省略

  • 歴史における会計の役割を多少過大評価している気はする。会計とは冷徹で機械的なものというイメージがあったが、多分に倫理観が要求され人間臭いものでもあるというのは新鮮な発見であった。

  • 古代から現代まで続く会計の歴史を概説してくれる。馬鹿な経営者が会計を軽んじるのも歴史的に当然のことと思えてくる。正しい会計を実行するのはより良く会社を運営することに他ならない。会計のとっつきにくさ、馬鹿な経営者とのバカの壁、日々活動する人たちへの優しく噛み砕いたコトバ。全てが難しい。

  • そうなんだよなー。エゴとプライドが入ると数字って操作できるんだよね。合理的に職業意識高く活用すべしだね。

  • 確かに帳簿を正しくつけることは資本主義社会の根底にある。ただそれだけを追究した完全に間違いなく記録を残してゆく社会をつくれないのも人間であることも事実。

    ブッデンブローク家やメディチ家しかり。人を出し抜きたいというアニマルスピリッツもそうだ。

  • 「ああ、やっぱり帳簿って大事なんだね」で終わるのかと思いきや、とんでもない。現代の会計システムへの警鐘本だった。企業のグローバル化と金融工学の発展により、企業会計は複雑化する一方。にも関わらずそれを管理、監督する側の仕組みはまったく追いついていない。当然、不正、汚職がはびこり、エンロン事件のような汚点を作りだす。あれから10年以上がたち、何かが変わったか?答えはノー。むしろ乖離はひどくなっている。でなければカネボウや東芝のような粉飾事件は起きない。またゴールドマンサックスのように規模が大きすぎて監査しても一生終わらないだろうなどと言われるのも、それはそれで問題。じゃあどうするか?理想論うんぬんは抜きにしてやることは一つ。帳簿と正面から向き合うこと。事件を起こす企業は帳簿をつけても都合の悪い数字から目をそらす。その結果どうなるか?破たんする以外の道がないことは、歴史が証明している。

  • 2015.08.09読了

    帳簿の世界史というタイトルではあるが、大半が欧米、特にヨーロッパ史であった。
    政治・統治・事業等にとって、会計の重要性を説いており、繁栄と没落の様子を複数の時代や国家を用いて説明した興味深い一冊だった。
    ただ、歴史や登場人物に対する基礎知識があれば、もっと楽しめたであろう作品で、自分の知識の乏しさが残念ポイント。

  • 帳簿の歴史で、なぜイタリアで複式簿記が発達したのか?(共同出資する事業が多くなり、負債を含め管理する必要が出来たため)
    フランス革命やアメリカの独立戦争などの歴史的事件についての背景を、統治者が簿記の管理をどうとらえていたのか?という視点で書いている。
    また最近の会計事件についても書かれている。

全64件中 41 - 50件を表示

ジェイコブ・ソールの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×